第12話
それから数日の間、僕らはアヤとチームクエストをやったりして過ごした。
突然、アヤはあることを言い出した。進化アイテムを取りに行くなら、自分に気を使わないで行ってきて欲しいと。
タカが言うには、まだユニコーンのレベルでは進化アイテムを取りに行くのは厳しいらしい。
翌日、僕たちは『進化の塔』へと向かった。数日振りに、僕とタカの二人だけだった。急に静かになった気がする。
進化の塔へはかなりの距離があった。途中、新たな街セカンドを見つけ、そこを拠点に情報を集めた。
進化の塔へたどり着くまでの間、タカは属性について詳しく説明してくれた。
属性には、それぞれ特徴がある。火の属性だと、攻撃重視の神獣へと進化する。水だと、水系の技と回復などサポート技重視の進化をする。風は、風系の技と素早さ重視。木は、木の技と、毒や麻痺などの攻撃補助の技。雷は、雷の技と敵の状態異常を引き起こす技。土は、土系の技と防御重視。闇は、闇系の技と悪魔を召喚する技。光は、光系の技と運を重視する。
タカの話を聞き、僕は火の属性に決めた。元の神獣がベースに、属性進化するらしい。ファイヤーグリフォンは想像がつくが、他のはあまりイメージが湧かない。闇でダークグリフォンもかっこいいのが、やはり攻撃重視だ。
周りが山で囲まれた盆地のような場所。まるで、山がなにかを隠しているかのようだった。そこに進化の塔はあった。それは奇妙な塔だった。
外観がほぼ同じような塔が八本、規則正しく並んでいた。違うのは塔のてっぺんに、炎が燃えていたり、水が流れていたりすることだ。
「やっと着いたな。じゃ、行ってこい!」
塔の前で、唐突にタカが言い出した。
「えっ、一人で?」
「そうだよ。……言ってなかったっけ?進化の塔は一人でなきゃ、入れないんだよ」
「じゃ、別々か。タカはどの属性に進化するの?」
「人面魚は始めから、水属性なんだよ」
「始めから?じゃ、進化しないの?」
「別に進化できる場所があるんだよ。塔の左に池があるだろ?あれが人面魚の進化アイテムがある場所なんだ」
やっぱり人面魚は変わっている。それを相棒にしたタカも、相当変わり者だと思うが。タカは説明を続ける。
「他にも、火属性のフェニックスとか、雷属性の雲龍とか」
「雲龍って聞いたことないけど」
「雲の中に住んでいると言われている龍らしい。俺もよく知らないけどね」
「じゃ、なんでそんなに詳しいの」
「セブンディズゲームに載ってた」
セブンディズゲームは、タカが毎週購読しているゲーム雑誌だ。よくビースト・オブ・ザ・ゴッドの情報が載ってるらしい。もちろん、他のゲームの攻略法や、新作情報もあるのだが。今度から、僕も読もうかな。
「進化の塔は、自動生成になってるらしい」
「自動生成?」
「毎回、塔の造りが変わるんだ。それに、モンスターもレベルによって変わるらしい。だから、少し進んで、いったん外に出て――は意味がないからな」
「そんな、ちまちまやるつもりはないよ。じゃ、行こう!」
「頑張れよ!」
僕は迷わず、炎が噴き出している塔へと足を踏み入れた。塔の中は真っ赤だった。壁が燃えている。どういう造りになっているのか、不思議と崩れる気配はなかった。
塔の中は迷路のようになっていた。迷路の中を慎重に進む。塔の中には、いろいろなアイテムが落ちているようだ。しかし、アイテムの側にはモンスターが歩いている。まるでアイテムを守ることが、自分の仕事であるかのように。
僕はアイテムに目もくれず、ひたすら上を目指した。アイテムは惜しいのだが、今回の目的は、進化アイテムの入手なのだ。余計な戦闘で、命を落とすのは避けたい。
それでも、上へ登る階段の側にいたモンスターとは何度か戦闘になった。モンスターにHPを減らされたら、その場で回復するのを待った。慎重に慎重を重ねて、上の階へと移動する。
十階へ上がると、そこは今までの階とは違っていた。広い一つの部屋のようになっている。部屋の中央には、炎が焚かれている。その奥に、一体のモンスターがたたずんでいた。
モンスターの後ろに、宝箱のようなものが見える。あれの中に進化アイテムがあるのだろうか。
僕はゆっくりとモンスターへと近づく。モンスターはグリフィンに気付いている。モンスターの視線の先に、グリフィンがいるのだ。やはり、このモンスターを倒さないことには宝箱には触れられそうもない。
そのモンスターは頭が三つある、巨大な犬だった。中央の炎の側を通ると、巨大な犬が威嚇を始めた。三つの口から鋭い牙を剥き出し、唸りを上げている。いつ、飛び掛られてもおかしくない。
巨大な犬の尻尾は、普通ではなかった。どうやら蛇のようだ。尻尾の先が、蛇の頭になっている。蛇も顔をこちらに向けて、警戒していた。
グリフィンはゆっくりと、だが確実に巨大な犬との距離を縮めていた。あと数歩で、巨大な犬に触れられるんじゃないか。
突然、巨大な犬は襲い掛かってきた。二つの口で、同時に噛み付かれた。グリフィンはそれを振りほどく。それだけで、HPの三分の一を持っていかれた。
部屋の中でグリフィンのスキルが使えるのだろうか。一度、上空へ舞い上がってからの攻撃が多い。天井が邪魔で、攻撃できないことがあるのだろうか。
グリフィンが反撃を開始する。スキルは、問題なく使用できるようだ。
グリフィンは上空へと舞い上がると、体をきりもみさせながら急降下する。まるで竜巻のような姿になると、巨大な犬へと突っ込んだ。そのまま、再び上空へと姿を消す。再度、急降下し巨大な犬に前足を振り下ろす。
巨大な犬には、鋭い爪あとが残された。巨大な犬の体に、数値が浮かび上がる。今できる、グリフィンの最大の攻撃で三百台のダメージ。かなり手ごわい相手だ。
それからは、一進一退の攻防が続いた。HPを回復させるアイテムと、SPを回復させるアイテムを使いながらで互角の勝負だ。まだ、戦いを挑むのは早すぎたのかもしれない。
グリフィンが攻撃を放つ。先ほどHPを回復させたばかりだ。HPは、ほぼ最大に近かった。巨大な犬の攻撃を受けても、まだ耐え切れるはずだ。
突然、巨大な犬は攻撃方法を変えた。巨大な犬の上に、『地獄の業火』の文字が現れる。すると、三つの口から炎が吐き出された。三つの口から吐き出された炎は、巨大な犬の顔の前で一つの塊となる。その炎の塊が、グリフィンへと降りそそいだ。一瞬、グリフィンの姿が見えなくなるほど、巨大だった。その炎をもろに受けたグリフィンのHPは、激減した。
HPが最大に近かったおかげで、命拾いした。しかし、首の皮一枚残っている状態だ。今なら、人間に殴られただけでも命を落としかねない。
残っているアイテムは、HP回復薬二つ、SP回復薬一つ。そして、あるクエストで手に入れたアイテム『守りの宝珠』だけだった。守りの宝珠は、敵の攻撃を三回まで無効化することができる。
できれば、守りの宝珠は使いたくない。もしもの時のためにとっておきたい。これは僕の切り札だった。しかし、巨大な犬に地獄の業火を連発されたら――。
「よしっ!」
僕はそうつぶやくと、守りの宝珠を使用した。もしもの時は今かもしれないのだ。
宝珠が輝きだす。グリフィンの頭上まで浮かび上がると、砕け散った。まるで、宝珠の中から溢れた光が、宝珠を打ち砕いたかのようだった。宝珠の中から現れた光の玉は、徐々に大きさを増していった。
グリフィンの体が、光の玉に飲み込まれていく。光の玉が完全にグリフィンを飲み込んでしまうと、光が弱まった。玉の中にグリフィンを確認することができる。まるで、ガラスの玉の中にでも入れられたかのようだ。
直後、巨大な犬が炎を吐き出す。またもや、炎の塊はグリフィンを覆い隠した。しかし、宝珠の力のおかげで、グリフィンにダメージはない。
グリフィンも反撃する。きりもみしながらの急降下体当たり、そして、急降下から前足を振り下ろす連続攻撃。しかし、巨大な犬はまだ倒れない。
突如、巨大な犬が咆哮する。頭の上に『ヘル・フレイム・スタンピード』の文字。そして、口から巨大な炎を吐き出した。炎は巨大な犬の前に玉のような形で留まった。小さな太陽のようだ。炎は巨大な犬よりも大きかった。炎に隠れて、グリフィンからは巨大な犬が見えなくなった。
なにをしようというのだ?僕が心の中で、そう思った次の瞬間だった。突然、炎の玉から巨大な犬が姿を現した。
巨大な犬は、全身に炎をまとっている。先ほどの炎を体に宿らせているようだ。そのまま、グリフィンへと突進する。
捨て身の攻撃にも見えた。まともに食らったら、地獄の業火よりもダメージが大きいことだろう。巨大な犬も、切り札を隠し持っていたというわけだ。
しかし、こちらの切り札であった、守りの宝珠の力は絶大だった。その突進でさえ、無効化してしまった。
グリフィンが反撃する。最大の攻撃である、急降下爆雷を放った。持てる力を出し切るつもりでいた。あれだけの攻撃をしてきた巨大な犬に対する、敬意のような気持ちが僕の中にはあった。敵ながらあっぱれってやつだ。
巨大な犬は、いまだに体に炎を宿していた。グリフィンの攻撃を受け、断末魔を上げる。そして、足元からゆっくりと消え始めた。
巨大な犬に勝利することができたのだ。だが、僕は嬉しさと同時に、もう戦えないんだという寂しさが込み上げてきた。強敵だったからこその感情だろうか。
巨大な犬が姿を消すと、その場には宝箱とグリフィンだけになった。宝箱の中には『進化の書(火)』が入っていた。
どうやらこれが進化アイテムらしい。進化の書を手に入れ、グリフィンは塔から脱出した。
塔の最上階には、壁がない部分があった。そこから地上へと飛び降りる。神獣でないとできない芸当だった。




