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『神秘の天空、幻想の大地 地球を鮮やかに彩る奇跡の絶景100』


 表紙はウユニ塩湖らしい。天と大地の境があやふやになったその鏡面上に、一台のジープと小指の爪ほどの女性らしき人影。縦A4サイズのその写真の上半分は、濃いピンク色で右のようなタイトルが印刷してある。風景写真集らしい表紙と題名は、ことさら人の目を引くようなものではなかった。だから、どうして手を伸ばしたのかは説明しがたいのだ。しかし、私の目を強く引きつけた一枚の写真が、この本にはあった。

 蛇が這ったように。あるいはナメクジの輝く足跡。曲がりくねった河は見開きの左端から始まって、右頁の隅に抜けていくまでに一度中洲にぶつかって分かれる。そうしてすぐに出会うと、紙面から立ち退く寸前で新しい流れを生み出していた。そんな穏やかな水辺は、その数万倍の奥行の中に、ただ目前であるから、その存在を訴えることができている。

すこし高いところから撮られたのだろう。そこは草原だった。時の頃は早朝か、あるいは暮れか、陽のあたる場所と影を被ったところで大いにその色を変え、金色と緑がつぶし合うことなく佇んでいる。そのなかに小さく映り込む馬と思しき影は米粒大で、一本走る轍はそれに並んで薄っすら引かれている。草の大地はふっと途切れるようになるまで奥に広がるかと思えば、中途で岩が見え隠れし、間も無くなだらかな凹凸。そして一段高い土地からは頭頂部を岩肌にした丘が現れ、そこからより詳細に望むことができるだろう遥か先の空を支える峻険な岩山は、世界の広がりの標だった。

バインブルク草原、というのがこの土地の名前だという。写真の隅にはその名のほかに、簡単な説明書きが添えられていた。所は中国、新疆ウイグル自治区。中国国内北西の地域で、国内最大の面積を誇る自治区である。

なんの根拠もなしに私は、ここへ行かなければならない、と。そう強く感じるのと同時に、丈の短い草に包まれたその世界に、否応なく惹かれたのだった。


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