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パンタレイ


 夜の幕開け、それはとてつもない濃霧だった。

 午後八時、まだほんの少しだけ明るい空をバックにして浮かび上がった最も近い別峰の丘の後ろから、雪崩のように速く、すべてを呑み込まんとする霧が、入道雲のように沸き立ってキャンプに襲い掛かった。その場にいた全員が驚愕を禁じ得ず、しばらくの間呆気に取られていた。やがて空の雲と同じように、霧は北へ北へと流されていった。そして透明になった視界には、まだ私がこの地で目の当たりにすることがなかった光景が広がっていた。

 

東の地平線から中天へと、淡くとも厚い光の帯が噴き上がっていた。

それはよく見ると端からほつれ、ばらばらになって全天へと散らばっている。

その飛沫はごく稀に動きを止めず、短い軌道を描きながら刹那の瞬きとともに夜空を横切り、蒸発して見えなくなった。

無数の光は煌めかず、ただ一定の光量を保ってそこにあり続けた。

風にあおられた雲が時折それらを隠すことがあったが、やがて晴れると当たり前のように再び現れて、時間によってその位置をわずかに変え続けた。

それはきっと夜明けまで続き、そして時代を違えても変わらずそうして、回帰を繰り返すだろうし、繰り返してきたのだろう。

光の軌跡は幾星霜の時代を経て同じものを描いたとしても、決して空に残されることは無く、ただその小さな夜を眺める人に曖昧な記憶として記され、星よりもはるかに短い寿命の中で無に還る。

 きっとそれを、ずっとそれを繰り返してきたのだった。


小森と私は、これを心待ちにしていた。そしてそれを目の当たりにして、つまらない感想を言って、当たり前のように同意した。それから持ってきていた音楽プレイヤーでいくつか曲を流して、寝袋に入りながら、夢のような光景にただぼんやりと、ぷかぷか浮かんで漂うようにして、そしていつの間にか眠っていた。テントの出入り口を閉め忘れていたので、例えば明けた日の朝露とか、テント内の温度とかそういったのはまあ想像できるだろう。

私たちが大口を開けて、なかなか(永久に)温まらないテントの中で毛布にくるまっているうちにも、別に興味ないよという態度で星空は徐々に徐々に沈み、一方ではまた昇る。

そうしてそのうち、もっと強い光にかき消されていく。

それが夜の終わり。

 そしてそれが、新たな世界のはじまりとなる。


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