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雨模様の空に


 三叉路を右に逸れてしばらく進んで、車はやがて黒い舗装路から身を投げた。車体は波を受けた船のように浮き沈みある垂直の不安定を繰り返し、時々腹をこすりつけながら進む。草原に一路の轍が走っている。そしてそれを縫うように進んでいる。紫外線遮断のための薄膜が張られた車窓から、世界の本当の色は見えなかった。その代り、期待が彩を加えていた。五棟のゲルを横切り、捨て去られた錆びまみれの一斗缶を横目に過ぎると、やがて三棟のゲルがフロントガラスに映った。一番奥の一棟からは、白い煙が上がっていた。車は速度を緩やかにして、やがて手前のゲルの真横に停まった。

「大事な一歩だぞ」

 小森が隣で茶化すようなことを、真剣みのある口調で言った。大げさな、と、いつもなら返すところだったけれど。「そうだな」と、特に面白みのない言葉を返して、ドアを開けた。

 

視界が百倍に広がった。

 世界の変貌に脳が機能を停止し、見えるものはすべて白に塗りつぶされた。

間も無くこめかみの傍を斬りつけるようにして色が通り過ぎ、遅れて肌寒い空気が撫で付ける。

突風を諸に食らったような衝撃が登頂からつま先、体の末端まで波及する。シャツの襟がそれとは関係ないところで少し暴れて、下草の呼びかけが耳に入った時初めて、世界は私のものになった。

 惜しむらくの曇天は広がりにささやかな限りを付与したが、果てぬ遠景では名の知らぬ山々が薄く灰を被りながら光の柱に照らされて、神々しく輝いている。煌めきは空の移り変わりとともに点と滅、静と動とを繰り返し、流れを作り出していた。

緑の絨毯は所々でうねりを示し、空と平行な直線を忘れたり思い出したりしながら、小さな坂を作っては延びて行って、最後には山脈とつながっていた。

そうして草原は、ひとまとまりの世界になっていた。


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