その2「運命の日」
「ハロー、深淵団のみんな。今回は重大な知らせがある」
だが、そんな思いもむなしく『あの日』が来てしまった。
11月某日。1本の動画が動画サイトに投稿された。趣旨は『大型スポンサーとの提携』だ。
大きな屋敷の前から始まった動画は、投稿者の語りから始まる。
「次回からもっと派手に、そして恐れを知らないぐらいに活躍できるようになる。深淵団に入ればそれが保証される。もう鬼や騎士、ふざけた超能力者におびえる必要もない」
「僕らには大きなスポンサーがつくこととなった。今から挨拶してこようと思う。今後君たちも知ることになるかもしれないから、要チェックだ」
屋敷の門が開き、投稿者が入ると、誰もいない広間、そしてフードをまとった人影。場違いな投稿者とはいえ、何かを感じ取ったのかもしれないが…この時には遅かった。
「じょ、じょうだんじゃない。おれはこんな、あ、ああ、うわ」
どんどんと屋敷の奥に進むにつれ、あたりが暗くなっていく。悲鳴交じりの声も度を増していく。
「あ、足が勝手に! たすけて、いやだ、こんなことでしにたく」
「あなたは、しなない」
カメラが、落ちる。何かが咀嚼する音が響く。
くぐもったような、穏やかで、恐ろしい声が、投稿者に代わって、音を紡ぎ始めた。
「わたしは、わたし。彼の『咎』は、私のもの」
「そして、望みも、わたしのもの。しんえんだん……」
顔が見えない、暗がりで声だけが聞こえる。カメラは何かを探るように動いているが、誰が持っているのかすらわからない。
「しんえんをあがめ、しんえんをなのる」
「わたしは、しんえんのいっかくとして、あなたたちをむかえいれる」
「ありがとう、
さようなら、
こんにちは。
あなたの『咎』は、わたしがすべてうけいれますよう」
動画はそこで電池が切れたのか、止まってしまった。
そもそも、この動画は生放送ではない、録画されたものだ。なぜこれが投稿されたのか。投稿者を招き入れた声は何者か。
すべてが謎だらけの動画だったが、そこにさらなる謎が叩き込まれることとなる。
この動画が投稿されてから、深淵団を名乗っていたものが、動きを見せなくなった。SNSで大手を振っていた深淵団がいなくなったことに人々は安堵ではなく恐怖を覚え、謎の動画と合わせてこうつぶやき始めた。
「深淵団は、本当に深淵に食われたのだ」と。