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そのあまりに間の抜けた少年の声に乃威は、思わず笑みを浮かべた。
「なんだやっぱり人間か」
「人間に決まってるだろ!!」
そのとき乃威は初めて少年の透き通るような緑の瞳を目にする。その美しさはどこかで見たことのあるような既視感を覚えるものだ。初めは魔物か、と警戒したがすでに全くそう思っていない自分を自覚する。
「オレの目から見れば、お前は確かに子ども。でもなぁ、ここはめったに人の通らない辺境の地の、しかも険しい山の中だ。そんなところに人間の子どもが1人でいるわけない、と考えてもおかしくないだろ?」
少年はハッとして、しばし考えて納得がいったのか、でも、悔しいのだろう、もしくは先ほどの獣に襲われた恐怖がよみがえったのだろうか、俯いて押し黙ってしまう。
「まぁ、直感的に人間だと思ったんだよなぁ。オレの勘が外れるわけないし。ま、それでも一応警戒してみたんだけど」
「……もっと、自分の勘を信じろよ…」
「それよりさ、お前をあの危なさそうな獣から守ってやったのもオレなんだけど?」
少年は再び顔を上げ、そして、乃威があごでしゃくって示したピクリとも動かない獣を見て、そしてバツが悪そうに乃威を見た。
「……助けていただき、感謝する。お礼が遅くなった非礼をおわびする」
少年に似つかわしくない丁寧な言葉。その割に不満げな口調だが、乃威に助けられた自覚もあるのだろう。乃威ははっきりと少年の謝意を感じる。随分育ちの良さそうな印象を受けた。
「僕は流風。留々風から来た」
「想像はしてたけど、驚いた!本当に留々風から来たのか!ここまで5日はかかる。その行程を1人で?あー、名乗られたのに名乗らないのは失礼だな。オレは乃威という」
「乃威は留々風に行くのか?」
「そのつもりだったけど、急用ができて引き返すところだ」
自分に対しても臆しない流風に対してすでに乃威は好意的である。ついつい正直に話してしまう。初対面で、しかも怪しい人間には特に警戒するが、流風にはそれを解いてしまう不思議さがあった。
「どこへ行くの?」
「風都だ」
「王都に行くの!?じゃあ僕も連れていってよ!」
「流風は1人か?親は?」
目を輝かせる流風に乃威は問うた。
そして、流風は答えた。
「親には内緒で来た」と。