エピローグ
ジュリオスの身柄はソウザブによって炎弓騎士団へと引き渡された。最後の戦いを共にした男を、斬り殺す決断をソウザブは下せなかった。
捕縛されたジュリオスをエスレインは憎悪の目で見ていたが、彼の扱いは彼らに任せるべきだろう。
様々な任務を終えて、反乱分子を抑えたソウザブはガザル帝国の首都ガリレウスへと帰還した。
「まさか、本当に全て成し遂げるとはな。ホレスには最後まで負かされてばかりよ……約定通り、アークラを復興させよう。無論、帝国とのつながりは保ったままだがな」
「御意」
「時に、このまま白剣騎士団を復活させる気は無いか? 小国の王より余程実入りがあろうよ」
「残念ながら、それがしにはこの服は似合わぬようです。ソレに加えて先祖返りに集を任せることの危険性……これも無視できないでしょう」
ガザル皇帝は苦笑した。眼前の青年には欲がない。そして、欲がないことは美徳とは限らない。それが王ともなれば尚更だ。
しかしまぁ、そんな国が一つあってもよかろう。このことに皇帝は囚われないようにした。
この後、ガザル帝国は大陸中を支配し続けることになる。一国を除いて。
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「ホレス殿、グライザル殿は南へ?」
「ああ、サクも合流する。冒険者らしい冒険者を集めながら新天地を探す」
「命を拾ってもらった恩は、いずれ返す」
アデルウ大陸には冒険者の居場所はほとんど残っていない。少なくとも、本部が無くなった時点で職業としてはもう成り立ってはいない。
だが、だからこそホレス達の冒険は真なる冒険。危険な地にあえて踏み出る挑戦者達だった。
「最後まで世話になり通しでござった……ホレス殿、またいつか」
恐らく、アークラ復興の条件にガザル帝国領内から、ホレスが立ち入らないことも含まれていたのだろう。今も語られる“竜殺し”にはそれだけの影響力があった。
「間違っても泣くなよ。お前はもう一人前なんだからよ。姫さん達にもよく言っておいてくれ」
ソウザブにとっても、ホレスにとっても、二人は親子のような絆で結ばれていた。だが、ここからは男の友情だ。偉大な冒険者に敬意を、居場所を手に入れた者に祈りを、それぞれ送った。その後は互いにあっさりと別れた。
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それにしても幸運だったのは、アークラの王城が残っていたことだ。内乱と外乱で城壁はいい状態とは言えなかったが、中はそれなりに整ったままだった。
父が座っていた玉座の間や、かつて住んでいた居住区画を見てもエルミーヌは涙を零さなかった。彼女は元から強い女性だったとソウザブはあらためて知った。
「さて、では女王陛下の下、皆で力を合わせると行きましょう。エツィオ、サフィラは町や村の治安を確保。あわせてポリカは見どころのありそうな兵を集めてくれ。サライネとそれがしは近衛……といっても大きな不穏分子はそれがしが早々に片付けるが……」
「ええっ!? あの、ソウ様が王では?」
「それでは人が集まりませんからなぁ。正統アークラの血筋が物を言うという現実があり申す」
恐らくは旧アークラの者たちもまだ残っているはずだ。得体のしれない人物より血統書付きの方が楽に進むのは目に見えていた。
「……で、なぜ貴方がいるのだイチヒメ殿」
「こっちの方がおもしろそうだから」
「……左様で」
もう放っておくしか無い、とソウザブはため息をつく。
「師匠とはしばらく会えないのかぁ。落ち着くのも大変だ。そういえばエツィオの剣って結局どういう剣だったの」
「ホレスさんと同じ。電が出せる」
「うわ、微妙」
良き伴侶に恵まれ、国という財貨も得た。そして、この城は随分と賑やかになりそうである。かつて相棒に言われた幸福は全て手に入った。
東方から流れ着いた男の冒険はここで終わる。だがこの幸福は簡単には終わらないだろう……




