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重力

 連中が入れたのなら、自分でも入ることができる。そう結論づけても、内部に足を踏み入れるのにはかなりの勇気を要した。入り口と外で明確に何かの違いがあったからだ。それがどんな違いかは説明できないが、明らかに外界と隔絶しているように感じたのだ。


 なるほど“神の城塞”とはよく言ったものだった。開け放たれた扉も、どうやって火が灯っているか分からない燭台も、全てが規格外の大きさだった。古き神々の中には巨大な者もいたのだろう、新しい神であるソウザブはここでは矮小な存在に過ぎないような気分になっていた。

 しかし、魔人の大きさや力量からしてさほどの差は無かったはずだ。そう己を鼓舞しつつソウザブは思案した。


 ホレス達を待つか否か。白剣騎士団が全員眷属と考えると、こちらのほうが良い。全身を串刺しにされたはずのソウザブが生きていることからして、眷属というのは数が増えるほど力が分散するようだ。

 誰かが眷属の相手をして、その間にジュリオスを討ち果たす方が勝つ公算は高い。


 ただしグライザルのこともある。最後の魔人アイレスがいる以上、先に入った者達も戦いは避けられないだろう。魔人は先祖返りに異常な殺意を燃やす傾向がある。アイレスが消極的といっても、そこは譲れないだろう。


 仕方なく、ソウザブは先に行くことを決めた。隙を見てグライザルを連れ出し、アイレスの相手を白剣騎士団にさせればいい。



「うぉっ!?」



 廊下の扉を開けた途端、そこは灼熱地獄だった。ソウザブは己が焼け死んだように感じたが、痛みも無ければ火傷の一つもない。



「我々しか入れない、というのはこういうことか……」



 仮に先祖返りとその眷属、魔人以外が足を踏み入れば、部屋を覆う神火によって焼き尽くされる。普通の炎とは違い、精神的な現象なのかもしれない。

 それでも火炎の中を歩いていくというのは、実に奇妙な体験だった。死ぬはずという常識が崩れていくと同時に、自分が人ではないような気さえしてきた。ここでの体験は元の世界へと戻る前に捨てていかなければおかしくなるだろう。


 火炎の部屋に巨大な扉と小さな扉があった。小さな扉の前には、魔人と思しき偉業が2体倒れ伏していた。恐らくはここを守り続けていた者達であり、ジュリオスが通った際に倒されたのだろう。

 後を追うために小さな扉を開けば、今度は極寒の吊橋であった。外から見た時にはそんなものは無かったはずなのに……その先も同じように天変地異のような領域が続いた。


 そして低位魔人の死骸を追った先、ようやくたどり着いたのは既に開かれた巨大な扉。中にあるのは会議場にも似た長椅子と机。そして一面の赤色の液体。

 そこでは膝を付くジュリオスとグライザル。それを見下ろすように魔人の長、アイレスが立っていた。となれば赤い液体は白剣騎士団の眷属達であろうか、何があったかは分かるが理解したくは無かった。

 騎士団全員がアイレスによって潰されたのだ。



「グライザル殿!」

「ソウ……ザブ……逃げろ……」



 とっさに感じた悪寒。それに従って顕神による離脱を行った。グライザルが倒れていた位置の床はひび割れている。まるで何かに押しつぶされたかのように。



「また小神か。まったく騒がしい」



 それはソウザブが魔術の類も習得していからこその回避行動だった。アイレスが手を向けた瞬間に、そこから全力で離脱する。

 だが、避けたはずが背中に恐ろしいほどの重圧が乗る。先祖返りの肉体でようやく耐えられるという、突然岩を載せられたような重さだった。たまらず顕神で再度離脱する。



「そこのやつらよりは厄介な能力を持っているな、貴様」

「重さの操作……? そんなことが可能なのか……」



 冷静に考えれば一人一人潰す程度の能力なら、騎士団は全滅していない。あの手振りは集中するための仕草に過ぎず、その気になれば広範囲をカバーできるようだった。

 対象一帯を潰すような魔術はソウザブの知識にもない。ならばあの男……アイレスが持つ能力なのだろう。最後の魔人に相応しい能力だった。

 幸い、アイレスは警戒をソウザブに向けたため、グライザルを助け続ける必要は薄くなる。アイレスから見ればソウザブの顕神は最悪の相性に見えるためだった。


 ソウザブの権能は二点間の瞬時移動。空気の抵抗などを無視するのと同様にアイレスの能力で、地に縫い付けられている最中にも動ける。

 言ってしまえば、現在生存している3人の中で、ソウザブだけがアイレスを倒せる可能性があるのだ。



「お前たちを倒せば、静寂は再び訪れるのか? 私にはそう思えん。次の連中がすぐにやってくるだろう。一刻も早く鎮めるために……お前を倒して、外の連中も潰しておこう。ここに騒音は似合わない」



 ソウザブを追ってホレス達も来ている。ロウタカの街を通過すれば炎弓騎士団も来るだろう。ソウザブにとって炎弓騎士団は他人だが、ホレスは仲間で相棒で兄貴分だ。



「ならば、それがしもさっさと貴殿を片付けよう。やはり軍服は似合わない」

「やってみろ」



 最後の魔人と最速の若神の戦いが始まる。

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