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白き剣を討て

 オークの軍勢は主君の不在に、それぞれの主を立てて散っていった。もう国家となれるだけの勢力にはならないだろう。


 ソウザブはホレスと彼に預けていた二人を相手に今後の相談に入った。オークの神器が彼らの遺してしまった負の遺産だというなら、ソウザブにはもう一つソレがある。

 白剣騎士ジュリオスである。もっとも、現在の白剣騎士はソウザブだが、仮の座に過ぎなかった。



「やっこさん、何で辺境域なんぞで反乱を起こしたのかね?」

「さて、いささか正気を失っていたようでもありますし……考えられるとしたら、あそこには神の城があるということですが」



 神々の城塞とイチヒメは言っていたが、もし手に入れることができたなら鉄壁の城であろう。先祖返りしか入れないということが事実なら尚更だ。

 しかし、食料や水の補給をどうするのかなどはさっぱり分からない。そして、それらの流通が整う前にガザル帝国が攻めるであろう。恐らくはソウザブの次の任務に含まれている。



「大体、最後の魔人アイレスがいるという話。まず彼を倒さねば話にならないのでは……」

「おいおい、めっちゃくちゃ戦って見てぇじゃねぇか。しかも、魔王だろう? 帝国野郎にくれてやるには惜しいってもんだ」

「三体は我々で討ち取りましたが、アイレスはこちらから仕掛けない限り何もしてこないという人物らしく、放置しておりました」



 分かってねぇなぁ、とぼやくホレス。竜にも挑んだホレスだが、ソウザブの方針からすれば悪事を働くでもなく、敵対もしていない存在相手はどうにも気が進まない。

 一方のホレスは魔王という称号を持った存在と戦ってみたいようだが、ソウザブには全くその気は無かった。



「そういや俺っちの鎧でも入れるかもって、あの嬢ちゃんが言ってましたね旦那」

「そういう鎧なのだろうが……試すのか? 失敗したら目も当てられんぞ……と言っても我々“先祖返り”も同じだが」



 神々の城塞とアイレスについてはイチヒメからの聞きかじりだ。嘘をつくより真実で弄ぶ人柄ではあるが、掛け金が自分や仲間の命では割りに合わない。



「ともあれ、それがしは一旦エル殿達のところに戻ります。そちらはやはり辺境域に?」

「ああ。魔人とか聞いて黙ってられねぇ。大体3体お前たちが倒しちまったんだ。俺も一体ぐらい倒してぇよ」

「……エツィオ、ポリカ。無理だと思うが、できるだけ無茶はさせないようにな……」

「あはは……僕たちにつけた修行も無茶苦茶でしたしね……」

「死の淵で先祖返りする説が本当なら、とっくになってるな俺っち達……」



 深く哀れに思いながら、ソウザブは顕神の力で早々にガザル帝国へと戻っていった。それを見ていたポリカ達はソウザブを大概なバケモノだと思うのだった。


 そうして戻った先、ソウザブを花の姫が出迎えた。



「ソウ様! お怪我は? 調子の悪いところなどは?」

「大丈夫にござるから、安心なされよ。エル殿より先に逝くなどあり申さぬ」



 亜麻色の花と抱き合いながら、くるくると回る様子を貴族たちが羨ましそうに……あるいは憎らしく見つめていた。

 そうしていると横からサフィラがぶつかってきて、サライネが頭を抱えている。なぜかまだいるイチヒメは意地悪そうに笑っていた。両手に花どころか、一面の花畑だ。


 周囲の男たちの悋気はますますひどくなっていくが、ソウザブもエルミーヌもそうした感情には鈍い。散々甘ったるい光景を展開してから、玉座の間へと向かった。



「戻ったか。休暇はどうだったかね」

「多少、後味は悪かったですが無事片付きました。ホレス殿もおサク殿も同様に」

「そうか……では後回しにしていた件を片付けなければな。エスレインの炎弓騎士団と共に、辺境域へと赴き、離反者ジュリオスを討伐せよ」

「……御意」



 なぜジュリオスは反旗を翻してまで辺境域にこだわったのか。そこが不気味であったが、帝国の版図は広くなりすぎた。軍は各国の維持に回されるため、予定外の事態には4騎士団で対応する必要があった。

 それにしてもエスレインとの任務というのはいささか意外であった。なにせソウザブは初対面で彼女を殺していてもおかしくなかった。

 上手くいかない人物と同行というのは勝手に動けということだろうか?


 ともあれ、白剣騎士団が全員眷属化している以上、こちらも頭数が必要だ。眷属の数次第でどんな影響が出るのか、未だ判然とはしないが……少なくとも単身で挑むよりは勝ちの目が大きい。


 相手がジュリオスだけならば良いが……もっともホレスと合流することになっている。仮に魔王と戦うことになろうとも、相棒と一緒ならば勝ちが見えるようにソウザブには思えた。


 再び外に出たソウザブは仲間たちに事情を説明した。また辺境域に行くと聞いて、先の大敗が思い浮かんだのか、エルミーヌが取り乱したものの何とかなだめた。

 そしてサフィラにも残るよう指示する。



「ちょっと、今回は流石にオレが必要でしょ」

「確かにそうなんだが、恐らくそれがしはこれでお役御免だろう。そのときに逃げ出すなりなんなりする道を年の為、整えていて欲しい。まぁ杞憂だとは思うが……」



 ガザル皇帝が約束を反故にするとは思えないが、ホレスとガザルが取り交わした約束というのも気になる。サフィラとサライネにエルミーヌを託して、ソウザブは再び死地に向かった。


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