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皇帝

 グライザル達との別れは早急なものとなった。ガザル帝国は冒険者という職を認めていない。グライザル達も街を出ることになるが、ソウザブ達はそのガザルに行くのだから行き先は当然異なった。



「ロウタカとは比較的近い街で活動する……顛末が気になるのだ」



 あるいは末路となるかも知れない。グライザル達自身は白剣……帝国反乱軍と関わらないだろう。造反した彼らが近くの街全てを抑えることはできない。仮にジュリオスがそれほど常軌を逸したとしても、一党程度の人数ならば逃げるのは容易い。

 再会を疑っていないようで、別れはごく淡白に終わった。



 そして……ガザル帝国、首都ガリレウス。その皇城の中にソウザブ達はいた。城の色は調和が取れ、清潔感と無骨さを見事に融合させていた。しかし、外観は美しくとも、内部に怨恨じみたものを感じさせ、背筋を寒くさせる。

 それは眼前の皇帝の雰囲気が伝染したようだった。外見年齢は意外と若く、ホレスと同世代で少なくとも老人ではない。一代で強国を打ち立てたとはとても思えないほどだ。


 謁見の間に入るとソウザブとエルミーヌは膝を折り、残りのポリカ達は平伏した。ホレスだけが立ったまま、不遜な態度を隠そうともしていない。



「久しいな、ホレス。息災だったか?」

「ああ、おかげさまでな」



 返した言葉は皮肉に満ちていた。ホレスと皇帝の間にあった確執は、どうやら皇帝の側に非があるようだった。しかし、その皮肉を高僧のような悟り顔で流した皇帝は玉座の肘掛けにもたれかかりながら淡々としていた。



「ジュリオスが造反したか。あるいはそのようなこともあるだろうと、思っておった……的中して欲しくは無かったがな。やはり“先祖返り”が組織に属することは難しい」



 足手まといではなく、そもそも別の生物として考えたほうが良い。無感情な瞳にその言葉が浮かんでいるようだ。

 ガザル帝国皇帝は4騎士団の一つに裏切られた身としてはあまりにも達観……いや諦観していた。



「集を圧倒する個の存在が現れることは当然かもしれんが、条件が不確定に過ぎる。特に生まれつきでは人間としての帰属意識すら危うい。やはり、集を底上げするほうが正しいのだろう。それが分かっただけの成果はあがった」



 まるで次はうまくやろうというように、感情の伴わない反省と改善はある意味で“先祖返り”以上に人間味が無い。そんな精神的怪物を相手に、“竜殺し”は皮肉げに頬を曲げている。



「お前のようなやつをマシにするのか?」

「貴様ぁっ! 陛下に向かって!」



 そばに控えていた騎士……炎弓騎士団長エスレインが、ホレスの不敬さに耐えかねて激発しようとしたその瞬間、ソウザブは既にエスレインの頭と顎を後ろから掴んでいた。



「静かに。ソレ以上動けば首の骨を折りもうす」



 ソウザブとて礼儀はわきまえているが、ホレスの感情を優先している。良くも悪くも親代わりのような相棒のため。

 たまらないのはエスレインの方である。“先祖返り”でありながら、あっさりと後ろに回り込まれた屈辱は果てしない。ソレに加えて彼女は騎士団長なのだ。それを一瞬で殺せる人物がいるという事実は謁見の間の騎士たちに大きな動揺を与えた。

 動じていないのは相変わらず皇帝一人である。



「お前の今の相棒か。一瞬で“先祖返り”であるエスレインの後ろを取るとは余程の者。そのような存在とばかり連れ立っているから、お前には帝国の意義がわからんのだホレス」

「だからお前は冒険者じゃいられなくなったんだろう?」



 彼らの会話は余人には意味がわからない。しかし、皇帝には確固たる信念があることだけは確かだった。



「それもあるのは認める。しかし……つい先日、冒険者という称号は意味を無くした。帝国の版図の前についに屈した……確かに国境を超えた組織である組合を作った初代冒険者は偉大だが、それだけであったな。お前たちの腕輪も今やただの飾りに過ぎぬ」



 衝撃的な発現が一同の耳朶をうった。それは冒険者としての特権が失われることを意味する。迅速な活動は不可能となり、まだ実力をつけていないヒナ鳥達の生活が成り立たなくなる。

 優秀な者たちも、皆がどこかの国に腰を落ち着けることになる……そして絶望的なのがそれが決して悪いことだけではないからだ。民から見れば得体の知れない風来坊などを頼りにする必要もなくなる。

 上手くやれば冒険者組合の良い部分だけを抽出することが可能にもなった。


 もちろん、脛に傷持つ冒険者にとっては最悪である。賊徒と化してしまう可能性は大きく、冒険者の価値をさらに貶めるだろう。

 そして、膨大な戦力を持つガザル帝国はそれを平らげ、地位をますます盤石にしていく。ソウザブ達ですらも行く道が分かれることにもなるだろう。



「そこで貴様たちに名誉ある帝国の兵となってもらおう。さすれば……属国ではない初の同盟国としてそこな姫の生国たるアークラの復興を約束しよう」



 どこまで調べていたのか。ソウザブの一党に大きな釘が打ち込まれた。

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