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第六話 夢だと思っていた時期が私にもありました

 俺は、鍋やらを片付けて店に帰る。風除室に入ると、ハチが気がついたのか近寄ってくる。ご飯も見ると、空になっていたので安心だ。


「ヌァーオ、ヌァァーオ」

「どうしたんだハチ」


 何か訴えかけるようにハチが鳴いている。なにやら落ち着きがない。ご飯も上げたし、水も残っている。……トイレか。

 思い当たるのはそれしかなかった。俺は急いでペット用品売り場に向かう。


「これだな。猫砂」


 紙で出来た猫砂を取ると、段ボールとゴミ袋を取りに向かう。そこで段ボールをガムテープで補強し、風除室に戻る。


「トイレの場所は、トイレの前で良いか」


 風除室の横の通路を進めばトイレがある。男子トイレの前に段ボールを置く。そしてゴミ袋、四五リットルのポリ袋を段ボールに被せ、その中に猫砂を半分位入れた。これで準備はバッチリだ。後はハチが理解してくれれば良い。

 ハチを連れて段ボールの前まで行く。


「ハチ、ここがトイレだよ」


 ハチを猫砂の上に座らせると、臭いを嗅いで何かを確認している。すると、ガリガリと砂を掘り出した。どうやらトイレと認識してくれたらしい。しかし、凄い勢いで砂が飛び散っているのだが、これはどうにかならないのだろうか? トイレが終わっても、かなりの勢いで砂を掻いている。砂を被せているつもりなのだろうが、全然被っていない。明後日の方ばかりに砂が飛んでる。

 箒が必要だなと苦笑しつつ、俺は風除室に戻ることにした。



「洗い物は後回しで、ゴミだけまとめておこう」


 この後やることがあるのだ。神棚にお供え物をして、神様とやらに話を聞くという重大なことだ。スーパーごと異世界に来たんだ。神様の一人や二人居てもおかしくはない。レジ袋にゴミを捨てトイレ側にまとめておく。ハチも気が済んだのか戻ってきた。ハチと一緒に、お供え物を取りに行くとしよう。


 ハチを、上着の中に抱きかかえるようにしまう。これなら毛が飛び散るのも防げるだろう。お供え物はお酒と決めているので、売り場に向かう。

 何にするか色々と見ていると、惹かれる商品名のお酒があった。


「夢の夢か。良い名前だな」


 今の夢のような状態にぴったりだ。現実じゃ到底あり得ない状態。これが夢で無かったら、何だというのだろうか? 

 神様に会えるなら、会ってやろうじゃないか。値段もそこそこ良い値段なのでお供え物にはぴったりだろう。こうなった説明責任位は、果たしてもらいたい。

 俺は酒瓶を握りしめ、バックヤードにある神棚に向かった。



「初めまして、黒沢君。いやぁ良かったよ、君が神棚の存在に気がついてくれて」


 神棚にお酒を置き、初詣のお参り感覚でお祈りをしたら眩しい光と共に人影が現れた。

 本当に神様なのだろうか? 目の前に現れた存在を観察する。

 色白の肌に、整った顔立ち。腰まで届く長い緑色の髪に、青い瞳。服装は真っ白で、古代ローマのチュニックと呼ばれているものと似ている気がした。古代の彫像等で着ているやつだ。

 まじまじと観察していると、目の前の存在は小首を傾げこちらに一歩近づいてくる。


「むむ、君達の神はこのような服を着ているときいたが違うのか?」

「いえ、神様の服装を見たことが無いので」

「うーむ。やはり、もう少し話を聞いておくべきだったな。つかみを失敗してしまったようだ」


 目の前の存在がパチッと指を鳴らすと、服装が一変しブラックスーツにワインレッドのネクタイという姿に変わっていた。見たことがある礼服の姿と、緑色の長髪に青い瞳というギャップに思わず吹出しそうになるのをグッと堪える。


「改めまして、こんにちは。私は異世界交流委員会のリヴァーナ代表、ディルだ。この世界の神の一人でもある」

「初めまして。私は、黒沢充隆。マルセンマート多鳴店の店長です」


 思わず条件反射で自己紹介をし、お辞儀までしてしまった。勿論、最敬礼の四五度だ。お辞儀をした瞬間、握手のが良かったのではと不安になるが、時既に遅しである。

 しかし、異世界交流委員会とは何だろうか。いや、神というのも気になる単語である。ここに来た理由が異世界交流委員会が関係しているのは間違いないだろう。


「よろしく、クロウ店長。君のことは色々調べさせてもらっているよ」

「クロウ店長?」

「おや、知らないのかい。君は、従業員から苦労人店長と呼ばれていたよ。真面目でやや神経質。面倒見が良くて、嫌な客相手もきっちりこなす。上司の無茶振りも華麗な手腕で乗り切る。しかし、仕事人間の為婚期が来ない。そんな感じかな、君の評価」


 いやいや、ちょっと待ってほしい。仕事は真面目にやるのが当たり前だし。無茶振りとはいえ、売り上げについては自分だけの成果でもない。接客は店長として当たり前の態度を取ってるだけだ。婚期はほっとけと言いたいが……。いったい、どんな調査をしたのだろうか。


「苦労人店長ですか……」


「そう、だからクロウ。元の名前とも似ているし、君にぴったりだよ。クロサワは呼びにくいからね。こちらではそう名乗るといい。そう名乗ってくれないとしょる――、いやなんでもない」


 有無を言わさない視線でこちらを見てくるディル神。正直これから苦労しそうで嫌な名前である。名は体を表すとも言う。ちなみに、幼い頃のあだ名はクロちゃんだ。犬やネコにサイボーグだのではない。声だって高くはない。黒い服を好んで着ていたり、黒魔術と言って竜や神を滅ぼせる呪文を必死に暗記したのは、正に黒歴史だろう。黒だけに……。

 反論したい気持ちはあるが、リコラにも珍しい名前と言われたので改名した方が良いのかもしれない。


「……分かりました。クロウと名乗ることにします」

「おお、物わかりが良くて助かるよ。さて、私を呼んだということは用があるのだろう?さぁ何でも聞くと良い」


 聞きたいことは山のようにある。


「沢山ありますが、まず一つ。ここは私の居た世界とは違いますよね? 異世界交流委員会とはどういったものでしょうか」

「ここはリヴァーナという。君の居た世界とは、違う世界だ。君は異世界交流の一環で、地球からこのリヴァーナに転移したのさ。勿論向こうの神々とは交渉済みだよ」

「異世界交流委員会とは?」

「異世界交流委員会は、様々な世界の文化を取り入れ新たな発展を目指す。……と言う建前の、自分の世界がいかに素晴らしいかと自慢する、神々の集まりだな。ちなみにうちの世界は、最近入った新参だ」


 つまりは、自分達が創った作品を誰かに見てほしいということか。同好会とかそういった類いなのか? それとも、品評会でうちの作品凄いでしょ。と自慢したいのか? どちらにしても俺は、それに巻き込まれたようだ。 


「地球に帰ることは?」

「残念ながら出来ないね。それに、君はあの後死ぬ予定だったから。転移出来るのは、異世界交流委員会の規定で死ぬことが決まっている者に限るからね。だから、君は戻っても居場所がないよ」


 戻れないことは予想していた。死んでしまったのではとも思っていたが、流石に言われると少しショックだ。


「そうですか。では、スーパーと移転した理由について」

「それを語るには少し長くなるが、構わないかい?」


 何故長くなるのだろうか。深い訳があるのかもしれない。背筋を伸ばし聞く姿勢を整え直して、ディル神の話を聴くことにした。

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