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閑話 リコラの夢

「バール。これからどうするの」


 クロウさんと別れて二日目の夜。私達は街に着いた。街に戻る途中、今まで感じたことの無いような強力な魔力の流れをクロウさんと会った方角から感じた。

 あれは何だろう? 戻って確認をしたかったけど、バールに止められて私達は街に帰ることになった。急いで報告した方が良いだろうって……。


「俺は、神官長に報告してくる。リコラはゆっくりしてろ。休息を取るのも重要な役目だ」

「分かった。先に部屋に戻ってるよ」


 そう言って、バールと別れる。

 バールは神官長にホーンウルフの件と、クロウさんのことを話しに行った。帰る途中で感じた強力な魔力は、神官長達はもう気がついているはずだ。その件でも色々報告するのだろう。

 私は、お言葉に甘えて部屋に戻ることにした。街に滞在中使ってる神殿の一角だ。


「大変そうだなー」


 部屋に戻るために建物内を歩いているが、神官達が世話しなく動いている。みんな、余裕の無い感じ。寝てないのだろうか目の下に大きなクマが出来ている人も居た。恐らく対応に追われているのだろう。

 邪魔にならないように移動しつつ、急いで部屋に戻る。


「次は、この騒動の調査でもしろって言われるのかな……」


 何事もなく部屋にたどり着くと、椅子に座り思わずぼやいてしまった。勇者候補者として幼い頃から訓練を重ねてはいるけど、まだまだ未熟だよね。この程度のことで不満を口にしてしまうなんて。勇者候補失格って言われそう、気をつけないとね。

 勇者は、魔王と対な存在だと言われている。魔王は魔族領を治める存在だ。

 

 遙か昔、勇者と魔王は激しい戦いをしていた。

 そんなある日、とある魔王は勇者に恋をしたそうだ。これは有名な恋物語で、悲恋な物語として今でも言い伝えられている。

 その時は、勇者と魔王はお互い殺し合う存在だと神に定められていた。お互い、どちらか滅びるまで戦い続けると……。勇者は魔王の、魔王は勇者の。お互いのとどめの一撃でないと死ぬことが出来ない呪いを受けて……。何故そんなことがあったのかは分からないけど、遙か昔はそうだったらしい。

 そんな気持ちを知った勇者も、魔王のことを愛していた。しかし、それはお互いを苦しめた。魔王は日に日に狂っていく。……勇者を殺したい衝動で。

 勇者は諦めずにこの運命を断ち切る方法を探し、遂に見つけたという。その方法がどんな方法か分からないけど、互いに結ばれ幸せに過ごした。それがこの恋物語の内容だ。


「昔、沢山読んだなぁ。おとぎ話から史実に近いものまで、いっぱい有るんだよね」


 今では、そんな恐ろしい呪いは消えてしまったと伝えられている。しかし、不老不死になれると一部の人間は、勇者と魔王の呪いを求めているんだって。怖いよね。

 そんな悲劇を起こさないように、今では勇者と魔王はある程度管理されている。

 勇者や魔王になれる条件を達成出来るであろう者。又は、達成した者が候補者として日々を過ごし、神からのお告げを待つ。お告げがくれば晴れて勇者や魔王になれる。突然、全く関係ない人にお告げが来ることもあるみたいだけどね。

 そして、お互い定められた期間を平和に過ごせばそれで役目は終了する。


「色んな場所に行ってみたいなぁ」


 その期間、どのように過ごすかは自由なんだって。世界を旅しても良いし、遊んでても良い。ただし、神様のお告げは絶対だから何かあったらその役目を果たすみたい。

 勇者や魔王と認められるだけで、強力な力を得ることが出来る。その力に溺れてしまった場合は、対の勇者か魔王がその者を討つ。それが役目なんだって。そうなりたくはないなぁ。


「最近、魔王が選ばれたって聞いたけど。どんな人なんだろう」


 神様からのお告げで魔王が選ばれたって言う話だけど、どんな人かな? 魔族と呼ばれる人達は、人の形をしていない種も居る。スライムが魔王になったりしたことも、昔にあったみたい。今回はどんな人が魔王なんだろう。話が通じる人なら良いな。


「勇者のお告げも、もうすぐ来るのかな?」


 魔王のお告げがあったということは、直に勇者のお告げも来るかもしれない。お告げがいつ来るかは、神様位しか分からない。同じ日のときもあれば、数年後だったりと色々だ。候補者の中に勇者になれそうな人物が居なければ、全く関係ない人物が選ばれる時もある。その時は更に遅くなるみたい。

 候補者は、私の他にも沢山居る。私は選ばれるのかな……。弱気な考えを振り払い、別のことを考える。バールはいつ帰ってくるのかな。


「バール、遅くなりそうだなぁ」


 お腹も減ったし、外で何か食べてこようかな。まだ日が暮れたばかりだからお店もやってるだろうし。

 私は、食事をするために夜の街へ向かった。バールの食事も買ってこよう、お腹減っているだろうしね。




「お帰り、リコラ。おっ、串焼きか? 美味そうだな」


 買い物をして戻ってくると、バールが戻ってきていた。何やら疲れているみたい。


「これ、バールのために買ってきたんだよ。お腹減ってるよね」

「おお。流石リコラだな。丁度、腹が減っていたんだ」


 バールに、肉と野菜が交互に刺さった串焼きの入った袋を渡す。ここの名物で、お肉が柔らかくて美味しかったんだ。ついつい食べ過ぎちゃったよ。


「これは美味いな」

「でしょ。美味しいお店を教えてもらったんだ」


 バールは美味しそうに食べている。喜んでもらえてるみたいで、見てるこっちも嬉しくなる。


「報告どうだった?」

「報告は無事に終わったぞ。後、次の依頼も受けた」

「もしかして、この騒ぎの原因を調べるの?」

「ああ。どうやら、ディル神が新しいダンジョンを創り出したらしい。場所は多分クロウが居たあの辺だろう。数日後に調査隊が組まれるから、それに参加することになった」


 バールの話を詳しく聞く。

 あの強力な魔力は、どうやらディル神がダンジョンを創り出した際に溢れ出したものだと判断されたらしい。ディル神教の偉い人が、そう伝えているんだって。

 それで、ダンジョンの調査隊を編成して色々調べるみたい。私達は、それに参加して色々調査するんだって。


「クロウにまた会えるかな」

「会えるだろうな。兄ちゃんは、あのダンジョンに近くに居るはずだ」


 私は、あの時のことを思い出す。ちょっと変わった人だったけど、優しい人だったなぁ。パンも美味しかったし。

 肌や手が綺麗だったから、本当は貴族だったりするんじゃないかなって思っているんだよね。もしかしたら、魔族領から逃げてきたんじゃないかなってさ。

 この国は中立国だから、そういった人達が多く暮らしているんだよね。私はこの国出身じゃないけど、この街は良い街だと思う。みんな楽しそうに過ごしているし。私が産まれた国は、笑顔が少なかった気がする。幼い頃だから、余りよく覚えていないけどね。

 あの時はそれが普通だと思っていたけど、この国に来てあそこは違うんだなって思った。

 だから、私は勇者になるって決めたんだ。みんなに笑顔で居られるようになって欲しいから。


「バール。私頑張るからね」

「ああ。だけど無理はするなよ。勇者の候補は居てもリコラの代わりは居ないんだからな」


 バールは優しく微笑むと、大きな手で頭を撫でてくる。落ち着くけど、子供扱いだ。幼い頃から一緒に過ごしてきたから、仕方ないのかもしれない。


「大丈夫だよっ。私だって何時までも子供じゃ無いからね」

「そう言ってる内は子供だけどな」

「むうぅぅ」


 バールの体をポカポカと殴る。そろそろ大人として扱って欲しいんだけどなぁ。そんな気持ちを、バールは気がついているのかな? 多分気がついていないんだろうけどね。

 バールは笑いながら私の拳を受け流す。体術はバールの方が得意だから、この程度は何ともないんだろう。


「ほら、そろそろ寝るぞ。明日は、朝から情報収集しないといけないからな」

「分かった。お休みなさい、バール」

「お休み、リコラ」


 バールと寝る前の挨拶をして別れた。バールの部屋は隣だからね。

 私は身体を綺麗に拭いてから、布団に入る。久しぶりのふかふかのベッドが気持ちいい。ここ最近、ずっと野宿だったからね。

 明日も朝早いから早く寝ないと……。

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