第十七話 この世界には魔術があるそうです
「ここにも良さそうなのがあるな。よし、これなら使えそうだ」
俺は、石を探しながら周辺を歩く。かまどに使えそうな石を集めているからだ。
「この石は駄目かもしれないな。なるべく平らな石が欲しい」
昨日の朝の出来事のお陰か、手頃な石がゴロゴロと落ちていた。俺は、ショッピングカートによさげな石を載せて運ぶ。
流石に砂利道ではうまくカートは押せないが、ないよりはましだろう。ある程度石を載せたら、洞窟の入り口まで運び、それを数回繰り返す。
それなりの量を集め終わったので、今度は薪集めだ。俺は建物に戻り、買い物カゴを持ってくる。
燃えそうな小枝や枯葉を集めカゴの中に入れていく。キャンプの気分だ。一通り集め終わると洞窟の入り口に戻った。
まずは、石をコの字型に並べていく。崩れないようにしっかりと積み上げるのが、中々難しい。所々、小さな石で調整をする。なんとか形になったので、少し離れて全体の確認をしてみる。
「なんか、ちょっと微妙そうだな」
安定感がいまひとつ足りない。軽い鍋なら問題無さそうだが、寸胴鍋だ。しっかりとした何かで補強した方が良いだろう。良さそうなものがないか、建物の中を探すことにした。
「お、これは使えそうだな」
長台車の取っ手部分を三本、台車に載せる。それと、売り場で使っているワイヤーネットも台車に載せる。取っ手の部分を横に寝かせて、ワイヤーネットを上に載せればそれだけで簡易かまどの完成だ。石の外側に配置すれば耐久度もばっちしだろう。
補強の目処が付いたので、精肉の作業場から寸胴鍋を持ってくる。次に、雑貨用品売り場に向かい木炭を台車に載せる。
なぜ木炭があるかというと、夏場に発注した売れ残り品だからだ。売り場の隅でほこりをかぶっていたはずだが、転移したお陰で綺麗な状態で売り場に並んでいた。
その他には、紙くずとか燃えそうなものをカゴの中に入れる。ペーパータオルとサラダ油も台車に載せた。ライターに軍手も忘れない。一通り集めたので外へ出る。
「よし、頑張るぞ」
声を出し、気合いを入れる。ここでしっかりとした物を作っておけば、今後も活躍してくれるに違いない。
まず、かまどの外側に長台車の取っ手を横に置く。取っ手は同じ大きさなので水平にするのも簡単だ。倒れないように、石で押さえ固定する。その上に、ワイヤーネットを置いて完成だ。
試しに、寸胴鍋をかまどの上に載せ確かめる。崩れる心配はなさそうだ。これなら中に水を入れても問題ないだろう。
次は火の準備だ。かまどの真ん中に枯葉を置き、次にくしゃくしゃにした新聞紙を載せる。その上に森で拾った枯れ枝を置き、木炭を置く。最後に、周りに大きめの枯れ枝を置い完成だ。
果たしてこれで大丈夫だろうか……。かまど作りなんて子供の頃以来だ。あの頃の記憶を頼りに、他に必要なものがないか考える。
「いいこと思いついたぞ」
俺は売り場からライターと軍手。それにアルミホイル、さつまいも、ジャガイモ、バター、塩を取りに行く。これで準備は終わったので、最後にキッチンで寸胴鍋用の水と、万が一の時のためにバケツに水を用意して終了だ。
外に出て、かまどの横で思いついたことの下準備をする。まずは、バケツの水でジャガイモとさつまいもを洗う。洗い終わったら、ペーパータオルで芋を包む。水で湿らし、アルミホイルを包んで完成だ。
俺がやろうとしていることは焼き芋だ。子供の頃は友人の家の庭で焼き芋をよくやったものだ。その友人は農家の子だったため、場所に困ることはなかった。
あの頃のこと思い出し、少しだけ寂しくなる。もう、会うこともないのだから……。
「ヌァーン」
「どうしたんだ? ハチ」
ハチは俺のすぐ横に座り、体をこすりつけてきた。もしかしたら慰めてくれているのかもしれない。ハチの頭をそっと撫で、一人でないことを自覚する。
「さて、火をつけてみよう」
最初はなかなか火がつかなかったが、風を送ったりしてなんとか火をつけることができた。
ある程度火が安定してきたので、用意していた芋達をかまどの中に入れる。
うまく焼けるといいのだが……。結果が楽しみである。
「何やってんだ? 美味そうな匂いがするな」
「おかえり、エネルド。お湯を沸かしているところです。芋を焼いているから焼きあがったら食べましょう」
夕方になり、エネルドがダンジョンから帰ってきた。レジ袋のは何かが入っていた。
「これは?」
「一層目と二層目の守護者が落としたやつだ。」
「何ですかこれ?」
袋の中に入っていた丸い球体を手に取って観察する。直径五センチ位のガラス玉の様な見た目だ。中に何かが入っているように見える。これはいったいなんだろうか? 茶色い、板チョコのような見た目だ。もう一つの方を見る。これは木だろうか? ジオラマで見るような木がガラス玉の中に閉じ込められていた。
「お前にやるよ。俺にはよくわからないが、あいつの魔力を感じるから、マジックアイテムか何かだろう。そのうちあいつに聞いてみるんだな」
「ありがとうございます」
なんだかよくわからないが、もらえるものはありがたく頂戴しよう。しかしこれがマジックアイテムか……。後で、ディル神に聞いてみよう。
気がつけば夕暮れだ。時間が経つのは早いものである。俺は、キッチンに置いてあった鍋を取ってくることにした。ご飯を炊くためだ。
朝にお米を洗い水に浸しておいたので、後は炊くだけ済むようになっている。皿とスプーン。レトルトカレーを売り場から持ち出す。アウトドアといったらカレーだ。昨日もカレーだったが、やはり外で食べるご飯はカレーが一番だろう。
折角だからレトルトではなく、カレールーを使って作るのが一番良いのだが、洗い物が面倒なので諦める。
俺は昨日のカレーより少し高めのレトルトカレーを選ぶ。牛タンが入った中辛のカレーだ。これを二箱カゴの中に入れる。カレー皿は、紙のお皿を使うことで洗い物を削減する。
お湯が沸いた寸胴鍋をずらし、ご飯を炊く。外なので火加減が難しかったが、何とか炊けて一安心だ。底の部分が少しお焦げになっているが、これも外で食べる醍醐味の一つに違いない。偶に食べるお焦げも良いものだ。
出来上がったご飯と寸胴鍋で湯煎していたレトルトカレーを、紙のお皿に盛り付けて完成だ。
買い物カゴを逆さまに置き、机代わりにする。今日は沢山動いたので、空腹だ。エネルドにカレーを手渡し、食事を取る。
「変わった味だが美味いな。この、後を引く辛さが面白いな」
エネルドは、カレーの部分ばかりを食べている。食べ方を教えた方いいかもしれない。カレー単品でも美味しいが、やっぱりご飯と一緒に食べるのが一番だろう。
「これはカレーという食べ物で、私の国ではよく食べられていました。子供から大人まで、親しまれていましたね。ご飯と一緒に食べると美味しいですよ」
俺はご飯とカレーを一緒に食べ、美味しいと体でアピールした。
「確かに美味いな。しかし、昨日もこれ食べてたよな? なんで、俺には食べさせてくれなかったんだ」
「カップ麺食べてたじゃないですか。それに、口に合うかわからなかったので……。反応もなかったし、興味がないものだと思っていました」
実際あの時、カレーには目もくれずプリンばかり反応していた。カレーの香りはしていたはずなのに、だ。カレーに興味がないと思うのも自然な流れだろう。
「俺は、新しいものが好きだからな。あの中の食べ物全て興味あるぞ。……この芋も美味いな」
「じゃがいもに、塩胡椒とバターで味付けしただけですよ。そちらの芋は甘いので、そのまま食べてみてください」
アルミホイルで焼いていた芋も、良い感じに焼けていた。じゃがいもに十字の切り込みを入れ、塩胡椒とバターを切れ込みに入れて、じゃがバターの完成だ。牛タンカレーにはジャガイモは入っていなかったので、良い付け合わせになった。
「これ本当に芋なのか? かなり甘いぞ」
「ここ数年で品種改良されたさつまいもで、焼き芋で食べると美味しいですね。ねっとり、そして滑らかな舌触りが人気の芋です。スイーツとしても好評ですね」
「へぇ、詳しいな」
「これも仕事の内でしたから」
つい何時もの癖で、商品説明をしてしまった。売り場で色々聞かれることが多いので、訪ねられるとどうしても説明したくなってしまう。
カレーについて質問されたりしながら、食事が進んだ。そして、カレーを食べ終えると、エネルドに聞きたかったことを聞く。魔法についてだ。
「この世界には、魔法はないんですか?」
「もちろんあるぞ。魔術と呼ばれている」
その一言に、俺は歓喜する。この世界に魔法はあったんだ。俺も魔術を使うことができるだろうか……。
「俺も魔術を使うことが出来ますか?」
「あー、どうだろうな。特別製みたいだし。でも、あいつの加護があるから使えると思うぞ」
「それは本当ですか!?どうすれば使えるようになりますかっ」
俺は思わず身を乗り出した。
「わかった、わかったから落ち着け。仕組みぐらいだったら教えてやるから。ただ――」
「プリン二つ。いえ、三つでどうですか」
プリンを要求されると思ったので、すかさず個数を提示する。こう言った取引は先手必勝だ。
エネルドは呆れた顔をする。少なかっただろうか……。
「あのなぁ。俺を物で釣る気かよ……」
「えっ。いらないんですか」
予想外の反応だった。てっきりプリンが欲しいとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。
「もちろん貰うぞ。てか、そういうわけじゃないんだよ。俺のは我流だから、基礎位しか教えられないんだ」
「それでも構いません。是非お願いします」
こうして俺は、エネルドから魔術の基礎を教わることになった。




