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第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈35〉

挿絵(By みてみん)


 いろんな意味でがっつり落ちこむオレを尻目に、和室で朱音(あかね)さんがアレストリーナ姫とグラコロさんの着替えを手伝いながらきいていた。


「そう云えば、私はタンポン派なんだけど、ふたりはナプキン派? タンポン派?」


「なんの話だ?」


「なに云ってるっちゃ?」


「だからっ! そ~ゆ~話は男子のきこえないところでしなさいっ!」


「こっちを見るんじゃないっちゃ、エロブタ!」


「着替える時はふすまくらい閉めてください!」


「カレーよそったからだれかテーブルへ運んで~。ほら、カオルくんもさっさと着替えて手伝う!」


「まりる着替えたるる~! お手伝いするるる!」


「それじゃ、まりるちゃんはスプーンとかだしてくれる? 瑞希(みずき)ちゃんはサラダおねがい」


「わかった。ドレッシングはどうする?」


「冷蔵庫にゴマとフレンチがあったよ~。全部だして個々のお好みってことでよくない? グラコロちゃんとアレストリーナ姫はとりあえずこっち座ろ」


瑞希(みずき)~。オレ、サラダにはマヨネーズがいい。冷蔵庫からだしといてくれる?」


「断る。とっとと着替えて自分でだせ」


「カオルくん、飲みもののグラスどこ~?」


「ナナミン、それなら冷蔵庫わきの食器だなの右がわ!」


「ほんとだ。ありがとうございます」


「ナナミンとやら。酒はあるか?」


「未成年がなにナマ云ってるっちゃ」


「われは未成年ではない。1014歳は立派な成人じゃ」


「心は大人でも身体は子どもだっちゃ。お酒なんてダメだっちゃ」


「そちは頭がかたいな。ムネは大人でも頭の中は子どもか」


「エ、エロい云い方するんじゃないっちゃ!」


「姫、お顔が赤いるる~」


「まりるちゃん、姫をからかっちゃだめでしょ? ほら、ここ座って。……カオルく~ん? もうみんな席ついたよ~」


「ごめん、ごめん」


 部屋へもどって着替えをおえたオレがあわてて席につくと、朱音(あかね)さんが音頭をとった。


「なにはともあれ、ひとまずみんなお疲れさま。こっから先のことなんてまだわかんないけど、今日のところはとにかく食おう! それじゃ、いっただっきま~す!」


「いただきま~す!」


 こうして、なんとかアレストリーナ姫を奪還(だっかん)したオレたちは、地球でのにぎやかな晩餐(ばんさん)舌鼓(したつづみ)を打った。


 意外なことに納豆カレーは異世界の住人にも好評だった。



     26



 後世の歴史書に『〈ゼーゼマン・ファーム〉の戦い』(皇紀1216年8月26~27日)と記される召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)にアレストリーナ姫と神獣グラコロアリスドラゴンの名前はない。


〈ゼーゼマン・ファーム〉をグラゴードリス皇国軍から奪還(だっかん)したのは、ネブラスカス皇女であり、一説にはジギリスタン皇国のマルドゥガナ皇女も加勢したとつたえられるが確証はなく、伝説の域をでないとされている。


『〈ゼーゼマン・ファーム〉の戦い』で病臥(びょうが)し〈デルフレ・ファーム〉での長期静養を余儀なくされたヒメアンドロ皇子は、ことの発端となった『〈シュピーリ・ファーム〉三角城襲撃』(皇紀1216年8月24日)の首謀者アレストリーナ皇女を生涯憎んだ。それがやがてヒメアンドロ皇子非業の死へとつながっていくのだが、今ここで語ることはできない。


 また『〈ゼーゼマン・ファーム〉の戦い』でネブラスカス皇女の捕虜となったグラゴダダン皇子は、グラゴードリス皇国へとりのこされたアルマイリス皇国第2皇子アルキメヒトと人質交換されるが、その顛末(てんまつ)も今ここで語ることはできない。


 この年(皇紀1216年)の春、ジギリスタン皇国主催の召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)『ヴァーデルン(カップ)』個人戦決勝でマルドゥガナ皇女と対戦し、手ひどい敗北を(きっ)した〈ヴァーデルンの屈辱(くつじょく)〉をきっかけに、アレストリーナ皇女は精神を()んだともつたえられる。


 一説には、乱心したアレストリーナ皇女をそそのかし『〈シュピーリ・ファーム〉三角城襲撃』をくわだてた真の首謀者こそ〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオンと云われているが、歴史の転換期にピンポイントであらわれる彼女も架空の人物と目されており、信憑(しんぴょう)性はひくいとされる。


『〈シュピーリ・ファーム〉三角城襲撃』以降、首謀者アレストリーナ皇女は皇族の資格を剥奪(はくだつ)され、軍事的緊張関係のつづくアルマイリス皇国とグラゴードリス皇国の両国から犯罪者として追われたものの、その行方は(よう)として知れず、しばらく歴史の表舞台から姿を消す。


 ……そしてここからはじまるのだ。


 のちに〈狂乱の覇姫(はき)〉〈皇国なき皇女〉と(うた)われるアレストリーナ姫の逆襲劇、たったひとりの召喚師による壮大な国盗(くにと)り物語が。



   【おわり】

 前々からファンタジー小説を読んでいて気になることがありました。


 精霊の力をかりる魔法とか、異世界から竜をよびよせる魔法なんかがでてくるたびに、疑問に思っていたのです。


 精霊とか異世界の竜とかって、召喚されてない時、いったいなにしてんだろ? と。動物ならまだしも、人間レベルの知性を有していたら、それなりに都合とか事情とか、いろいろありそうじゃないですか。


〈召喚するがわ〉のものがたりは枚挙(まいきょ)のいとまもありませんが〈召喚されるがわ〉のものがたりは寡聞(かぶん)にして知りません。そこで、このものがたりを書くことにしました。


 よしんば、自分が召喚獣だったとして、どんな時に召喚されたら一番イヤだろう? とかんがえた結果が序章に集約されているわけで……、のっけから尾籠(びろう)な話でどうもすいません(笑)。


 このものがたりをweb上に公開した西暦2016~17年は世界的な極右化がすすんでいました。日本では国賊・安倍晋三が安保法案を強行採決したり、欧米では移民難民排斥運動が激化したり、トランプが大統領になったり、イスラム国がテロしたり、北朝鮮がミサイルをばんばかうちあげたり、中国が周辺諸国の海洋権を侵害したりと、もうめちゃくちゃです。みんな自分のことしかかんがえていません。


 もうすこし自分以外の相手の立場に立ってものごとをかんがえたり、思いやりや敬意をもって接することができれば、世界はもっとやさしくまるくなるはずです。


〈召喚されるがわ〉を書いたこのものがたりのテーマは、相手の立場に立ってものごとをかんがえる、すなわち〈思いやり〉です。中高生の道徳の教科書に採用されてもよいくらいです。


 ……などと、それなりにまじめな想いもありますが、とどのつまりはおもしろくなければ意味がありません。ハラハラドキドキワクワクをギュッ! と凝縮した極上のエンターテインメントにしあげたつもりです。


 これまで発表してきたものがたりのなかでもっとも長くなり、いくつかのものがたりと平行して掲載していたため、完結まで1年以上かかってしまいました。さいごまでおつきあいくださったあなたに心より感謝いたします。


 ありがとうございました。

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