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第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈29〉

挿絵(By みてみん)


「ぴぎ~~っ!」


 ねばりねばって1体のレーザービーを戦闘不能(リタイア)させたオレは、馬車の脱出する時間をかせぐべく敵大型召喚獣(フェアモン)の眼前をとびまわり、マズルカフラッシュで煙幕をはった。不完全燃焼のマズルカフラッシュが白く()ぜる。


「ゴルアァ!」


 敵大型召喚獣(フェアモン)どもがいらだたしげに首や腕をふりまわした。オレを追ってマズルカフラッシュ煙幕へとびこんだレーザービーが、オレとかんちがいしたであろうクンネドラゴンにはたき落とされ戦闘不能(リタイア)した。


 ざまあみやがれ! 一瞬そちらへ気をとられた隙にガルガンチュアコンドルがやみくもにふりまわす大きな翼がオレの背中をかすめ、小さなオレの身体はハエみたいに地面へたたきつけられた。あまりの衝撃に息がつまる。


「カオル!?」


「カオルちゃん!」


 絹をひき裂くようなアレストリーナ姫と朱音(あかね)さんの悲鳴が遠くで聞こえた。戦闘不能(リタイア)するほどのダメージではないらしいが、全身打撲ですぐに身体が動かない。


 墜ちてきたオレに気づいた1体のドアラゴリラがオレの頭上へとび上がった。


 ドアラゴリラはコアラ顔の巨大な灰色ゴリラで得意技はドアラヒッププレス。800kgの体重で敵を押しつぶすと云う原始的な技だ。


 ……こりゃ、おわったな。


 オレの脳裏に戦闘不能(リタイア)の4文字がよぎったが、頭上を暗くおおうドアラゴリラの影がいきなり横へふっとんだ。ドアラゴリラへ体あたりし、オレをかばうように立ちふさがったのはシャイニーロプロスだった。


 瑞希(みずき)!? おまえ人の心配してる場合じゃないだろ!?


 2体のジョサイアコンドルを相手に戦っていたシャイニーロプロスの身体はそうとう傷ついていた。シャイニーロプロスを追ってきた2体のジョサイアコンドルが爪を立ててシャイニーロプロスへ激突する。


「キアアアッ!」


 2体のジョサイアコンドルとくんずほぐれつしながら転がったシャイニーロプロスの瑞希(みずき)が苦しげな悲鳴をあげた。オレはなんとか起き上がると、ジョサイアコンドルの目にとびついてホウセンカをたたきこんだ。グリフォン風情が人の幼なじみになにしてくれてんじゃ、ボケ!


「ギヒイイィ!」


 今度はジョサイアコンドルが悲鳴をあげて地面をのたうちまわった。オレはすかさずもう1体のジョサイアコンドルの下アゴへとりつき、渾身(こんしん)のホウセンカをたたきこむ。


「ギキイイィ!」


 くちばしの真下を()かれたジョサイアコンドルがもんどり打って倒れたところに、さっきのドアラゴリラが転がっていた。


 ジョサイアコンドルの体あたりをくらって怒りにわれを忘れたドアラゴリラが、ジョサイアコンドルを下からボコなぐりする。ドアラゴリラを召喚したのはグラゴダダンでないため、こう云った(いさか)いも起きる。団体戦のむずかしいところだ。


「だ~っ! なにをやってる、あのバカどもは!?」


 グラゴダダンがわめくと2体のジョサイアコンドルを帰還(リターン)させた。もはやグラゴダダンの怪獣総進撃にジョサイアコンドルは必要ない。


 この間に2体のランスリカオンもマルドゥガナ姫のユニキョーンに倒されて戦闘不能(リタイア)し、ユニキョーンも帰還(リターン)する。


 3人の皇族を乗せた馬車は全速力で城門を通過しようとしていた。


 馬車が跳ね橋をわたりきったところでふたたび城門を閉じれば、さらに遠くへ逃げる時間がかせげる。G級召喚獣(フェアモン)ドロイドラゴンやF級召喚獣(フェアモン)グランデマミタスには飛行能力がない。よしんば、城壁をこえて追撃してこようとしても、一斉攻撃しにくくなると云うわけだ。


 オレが城門へ向かってとぶと同時に、シャイニーロプロスが城門を背に大きな翼をひろげて立ちふさがった。


 おなじことを考えていたのはオレたちだけではなかった。


 跳ね橋へ踏みこんだ馬車の荷台からふたりの人影がとび下りた。モッケイモンキーのまりるを肩に乗せた朱音(あかね)さんとアレストリーナ姫だ。


 朱音(あかね)さんは音もなく華麗に着地し、そのままオレとおなじく城門の開閉装置へ向かって駆けだした。


「アレちゃん!?」


 一方、城門の石畳を転がって着地の衝撃を殺したアレストリーナ姫も立ち上がると、心配するマルドゥガナ姫へ笑いながら手をふった。


「……ありがとう! ヒメアンドロをよろしくだっちゃ!」


 つたえきれないたくさんの感謝をしぼりだすようにアレストリーナ姫がなんとかそれだけさけんだ。


「アレちゃん!」


 全速力で跳ね橋を駆けぬけた馬車の荷台からアレストリーナ姫を追ってとび下りようとしたマルドゥガナ姫の腕をガッケライノがつかんで(かぶり)をふった。


「いけません姫さま。アレストリーナ姫は命がけでヒメアンドロ殿下を(たく)されたのです」


 ガッケライノのかたわらへ横たわるヒメアンドロ殿下(ぼっちゃん)の姿に目をやったマルドゥガナ姫が荷台へ腰を下ろすと小さくくちびるを噛んだ。


(アレちゃん! ぜったいに死ぬんじゃないの!)


 マルドゥガナ姫の視界から跳ね橋の上がっていく〈ゼーゼマン・ファーム〉の光景がぐんぐん遠のいていった。

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