第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈28〉
「アルーム川の国境ごしにも〈ゼーゼマン・ファーム〉の厩舎が焼かれて召喚獣たちのもだえ苦しむ阿鼻叫喚は夜通し聞こえてたの。アレちゃんが〈シュピーリ・ファーム〉三角城で悪逆非道をのかぎりをつくしてきたってウワサも聞いたけど、召喚獣が人をおそっているなんて、伝説や歴史の教科書でしか読んだことないの。クーラウの人にもジギリスタン皇国の人にも本当の悪者はわかっているの。だからマルドゥガナは義によって助太刀いたすの。……召喚ッ!」
マルドゥガナ姫が召喚牌をかざしてさけぶと2体のC級召喚獣ユニキョーンがオレたちを包囲しているランスリカオンへ優雅におそいかかった。
ユニキョーンは子鹿サイズの白い一角獣だ。期せずしてランスリカオンとの一角獣対決となる。
「こんなデタラメな召喚獣戦闘で3対2じゃアレちゃんが不利なの。……それに一度はアレちゃんと肩をならべて召喚獣戦闘してみたかったの」
どうやらマルドゥガナ姫は、さっきから2体のプテラノドラキュラを牽制している朱音さんをモッケイモンキーまりるの召喚師(しかも、まだ召喚獣を一体しか召喚できない初心者)くらいにかんちがいしているようだ。実はアレストリーナ姫の召喚獣にして〈石化〉の魔女とか説明していられる状況ではない。
召喚人獣の包囲網がくずれた隙にヒメアンドロ殿下をかかえたアレストリーナ姫がマルドゥガナ姫の元へ駆けよった。ぐったり気絶しているヒメアンドロ殿下にマルドゥガナ姫が緊張した。
「ヒメちゃんどうしたの?」
「マルちゃん、お願いがあるっちゃ! ここはウチらがくいとめるから、ヒメアンドロを安全なところまでつれていってほしいっちゃ!」
ヒメアンドロ殿下の額に手の甲をあてたマルドゥガナ姫が目をまるくした。
「ひどい熱……! これは一刻もはやくお医者さんに診せる必要があるの! 聞こえたの、ガッケライノ、ガッケライア!?」
ガルガンカンガルーに乗って城壁をとびこえてきた男が馬車のかたわらにひざをつき、御者台の人がフードつきのマントを跳ね上げてこたえた。
「「ハイ! よろこんで!」」
馬車のかたわらにひざまずいていた男がアレストリーナ姫へちかづいて云った。
「アレストリーナ姫。ヒメアンドロ殿下をおあずかりいたします」
「おねがいするっちゃ」
ヒメアンドロ殿下を抱き上げた若い男が御者台へするどく声をかける。
「いくぞ、ガッケライア!」
「ハイ! よろこんでですわ、兄さま!」
御者台に座っていたのはショートカットの若い女だった。手綱をひきしぼり馬首をめぐらせ馬車を反転させる。
「マルドゥガナが目をかけている子爵召喚師のガッケライノ・ガッケライア兄妹なの。このふたりにまかせれば問題ないの」
マルドゥガナ姫とアレストリーナ姫が言葉をかわしている間も、オレたちは敵召喚人獣と戦いつづけていた。
ランスリカオンをマルドゥガナ姫のユニキョーンへまかせて、オレは広範囲に小さな火球を炸裂させるマズルカフラッシュで1体のレーザービーを追いかけまわす。
2体まとめて攻撃できるほどのよゆうはないが、1体に攻撃を集中すれば、もう1体はオレを背後から突こうとする。そうやって2体のレーザービーをオレにひきつけてアレストリーナ姫たちからひきはなすことに成功した。
自分で召喚したジョサイアコンドルに城内へふっとばされたグラゴダダンがようやく〈ゼーゼマン・ファーム〉城のバルコニーにあいた穴から顔をのぞかせてさけんだ。
「くそっ逃がすか! お遊びはこれでしまいだ! 総攻撃準備っ! 召喚ッ!」
グラゴダダンに呼応して城壁の見はり台からさらにふたりの召喚師が姿をあらわした。
「「召喚ッ!」」
小雨のぱらつく〈ゼーゼマン・ファーム〉上空にたくさんの呪法陣がうかび上がると、計13体の召喚獣が召喚された。
G級召喚獣クンネドラゴン2体。
G級召喚獣ドロイドラゴン3体。
G級召喚獣ガルガンチュアコンドル1体。
F級召喚獣グランデマミタス2体。
E級召喚獣ドアラゴリラ4体。
D級召喚獣メガデスカンク1体。
「作戦変更! アレちゃんひとまずここは逃げるの!」
マルドゥガナ姫がアレストリーナ姫の手をとって馬車の荷台へとび乗った。
さすがにここまでG級F級召喚獣をそろえられては、最強タッグのマルドゥガナ姫&アレストリーナ姫といえども分が悪すぎる。
「あなたもくるの!」
モッケイモンキーのまりるをプテラノドラキュラへ投げつけ、モッケイヴァルハラで斬り裂くと云う荒技で2体のプテラノドラキュラを戦闘不能させた朱音さんが、マルドゥガナ姫の声に気づいた。
「まりる!」
まりるを肩に乗せた朱音さんが馬車へ駆けよる。
「ハイッ!」
朱音さんが荷台へ乗りこむや否や、御者台の女召喚師ガッケライアがムチ打って馬車を急発進させた。




