第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈26〉
ザンネンミイラ召喚師の3人が召喚師として未熟なせいかケガのせいかはしらないが、こちらとしては一度に20体の召喚獣を相手にするより9体の方がはるかにマシだ。
「ガルラァ!」
3体のランスリカオンが三方からおそいかかってきた。
オレは右の城壁を駆け下りるランスリカオンへ炎球の炸裂弾・ホウセンカをお見舞いし、左の城壁を駆け下りるランスリカオンへ身がまえていたモッケイモンキーのまりるとポジションをかえて、左のランスリカオンへもホウセンカをたたきつけた。おたがいの意思がつうじる人間召喚獣と召喚人獣ならではの連携技である。
正面からおそいかかるランスリカオンは朱音さんが射程圏内で〈石化〉した。グラゴダダンと配下の召喚師3人は知ってか知らずか〈石化〉の 射程圏外なので、朱音さんには手がだせない。
オレたちがランスリカオンへ対処している間に第二波攻撃をかけてきたのはプテラノドラキュラだった。
ふつうの召喚獣戦闘であれば、プテラノドラキュラが攻撃してくるのはオレかまりるかシャイニーロプロスの瑞希だが、プテラノドラキュラのドラキュラタンが狙っていたのはアレストリーナ姫と朱音さんだった。
シャイニーロプロスが大きな翼でウイングストームをまき起こし、3体のプテラノドラキュラをなんとかふき散らす。
「まさか、このコたちって……!?」
「召喚人獣だっちゃ!?」
驚愕する朱音さんとアレストリーナ姫の姿に〈ゼーゼマン・ファーム〉城のバルコニーから睥睨するグラゴダダンが哄笑した。
「だ~っはっは! そいつらが使役するのはみな知性をうしなった召喚人獣よ! 召喚人獣の寿命は1年ともたんが、きさまらを殺すためだけなら充分だっはっは!」
ダメージを負った2体のランスリカオンと3体のプテラノドラキュラが距離をとってオレたちを包囲した。
「どこまでもゲスな男だっちゃ」
「……やっぱり狂ってるきゅん」
朱音さんが〈石化〉させたランスリカオンをヘルゴルゴートの瞳でねめつけると、ランスリカオンの身体が粉々に砕け散った。
朱音さんはランスリカオンを戦闘不能させたのではない。朱音さんはランスリカオンを、人間の子どもを素体とした召喚人獣を殺したのだ。それは朱音さんの冷徹な慈悲だった。
今度はその光景に人間召喚獣のザンネンミイラ召喚師たちが狼狽した。地球で重傷を負った人間召喚獣の彼らも召喚獣戦闘で命をうしなう覚悟まではしていなかったにちがいない。
地球人は召喚獣を躊躇なく殺す。新たな認識が敵召喚師たちをひるませた。しかし、まだ戦意喪失していない。彼らの召喚人獣は対人間用の兵器でもあるのだから。
スズメバチを素体としたB級召喚獣レーザービーも上空三方向からオレたちを牽制していた。レーザービーはその名のとおり、顔についたふたつの触角からレーザービームを放つ。シャイニーロプロスに乗って逃げるアレストリーナ姫たちを狙撃するための召喚人獣だ。
召喚獣がその一撃で戦闘不能することはないが、人間のアレストリーナ姫とヒメアンドロ殿下、そしておそらくゲートリングで人の姿をしている朱音さんがレーザービームなぞくらえばひとたまりもない。
「ふむ。この戦場にシャイニーロプロスは無粋だな。召喚ッ! ジョサイアコンドル!」
文字どおり、高みの見物を決めこむグラゴダダンが対シャイニーロプロス用にD級召喚獣ジョサイアコンドルを2体召喚した。コンドルを素体とした1m級の有翼四足獣で、ひらたく云えばグリフォンである。
「キアアアアッ!」
召喚されたジョサイアコンドルたちへ向かってシャイニーロプロスが飛翔した。地上ちかくで戦闘すればアレストリーナ姫たちをまきぞえにしかねない。先手を打ったシャイニーロプロスは高度を上げると同時に、斬り裂く風の攻撃フーヤーターをグラゴダダンのいる〈ゼーゼマン・ファーム〉城のバルコニーへ放った。
「うぎゃああ!」
頭をかかえてうづくまるグラゴダダンを守るために1体のジョサイアコンドルが身を挺してシャイニーロプロスのフーヤーターをうけた。ジョサイアコンドルがそのままのいきおいでバルコニーへ突っこんだ。グラゴダダンは城内へふっとび、バルコニーが砕け散る。
「だああっ!」
とばっちりをうけたのは、城の正面に立つ片目のミイラ召喚師ウノグリオだった。頭上からふりそそぐバルコニーの破片をくらってその場にくずれ落ちた。1体のレーザービーとプテラノドラキュラが自動的に帰還する。召喚師ウノグリオの戦闘不能である。
シャイニーロプロスが城へ身体をめりこませたジョサイアコンドルへもう一発かまそうとしたが、もう1体のジョサイアコンドルが頭上からシャイニーロプロスを急襲した。
すんでのところでシャイニーロプロスが身をかわすと、ジョサイアコンドルはそのままもう1体のジョサイアコンドルへ体あたりした。これはグラゴダダンの調教練度がひくい結果だ。
シャイニーロプロスは長い首をめぐらすと、空中にホバリングしているレーザービーへおそいかかった。2体のレーザービーはシャイニーロプロスへレーザービームを放ちながら回避行動をとった。D級召喚獣のシャイニーロプロスにとって、小型のB級召喚獣レーザービーはちょこまかとして捉えにくいのだ。
ぶざまな失態を演じたジョサイアコンドルたちも身をよじりながらシャイニーロプロスへ向かって小雨のふるあかるい空へ舞い上がった。




