表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/95

第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈22〉

挿絵(By みてみん)


 オレたちはこれからアルマイリス皇国北端の〈アーデル・ファーム〉から南西端の〈ゼーゼマン・ファーム〉へいかねばならないのだ。のんびりしている時間はない。


 オレの意をくんだ朱音(あかね)さんがアレストリーナ姫へ云った。


「そうだ! アレストリーナ姫、こんなことしてる場合じゃないきゅん! グラゴダダンが〈ゼーゼマン・ファーム〉を占拠してヒメアンドロ殿下(ぼっちゃん)を人質にとってる。明日の昼までにアレストリーナ姫がこなければヒメアンドロ殿下(ぼっちゃん)を殺すとか息まいてるんだって」


「ヒメアンドロが人質!?」


「だから私たちはヒメアンドロ殿下(ぼっちゃん)を助けてアレストリーナ姫を地球へ避難させるってネブラスカス皇女を説きふせたきゅん。……グラゴダダンを倒してヒメアンドロ殿下(ぼっちゃん)を助けなきゃ!」


 朱音(あかね)さんの言葉にアレストリーナ姫が力強くうなづいた。


「OK。みんな出陣だっちゃ!」


 牢獄からでたアレストリーナ姫がオレの姿を横目で見ると、サッカーボールみたいにオレの身体を蹴り上げて両腕で抱きかかえた。


「ぷぎゅっ!」


 痛てっ! 召喚獣(フェアモン)はもっとていねいにあつかわんか! ……必死こいて助けにきたのにオレだけこんなあつかいかよ、と内心ふてくされかけたが、オレを抱くアレストリーナ姫の腕にやさしく力がこもった。


「……カオルも、きっと助けにきてくれるって信じてたっちゃ」


 アレストリーナ姫がうしろからオレの耳元へささやいた。日頃、オレには悪態しかつかないアレストリーナ姫なりの精一杯の感謝の言葉だ。


 つくづく可愛げのないお姫さまだが、しゃーない。B級召喚獣(フェアモン)のオレにできることなどたかが知れているが、せいぜいがんばらせてもらうことにするか。


 ……まったく。召喚獣(フェアモン)はつらいよ。



     17



〈アーデル・ファーム〉の城をでると、案の定、オレたちは召喚獣(フェアモン)をしたがえた数人の召喚師にとり囲まれた。


 しかし、これはハッタリにもならなかった。そもそも惑星アルマーレの人々は直接人へ危害をくわえることを禁忌(タブー)としているため、召喚獣(フェアモン)は人をおそうように調教(トレーニング)されていない。


 しかもアレストリーナ姫の前に立つ〈石化〉の魔女(メデューサ)シュオンは召喚師ですらない。


〈アーデル・ファーム〉の召喚師たちは異国情緒あふれる正体不明の魔女を実力で組み伏すしかないわけだが、近づけば〈石化〉されると云う恐怖に支配されている。


 実のところ、無敵の〈石化〉の魔女(メデューサ)シュオンといえども、一度に〈石化〉できる人の数はかぎられている。それに気づいた〈アーデル・ファーム〉の人々が大挙して押しよせてくれば、平均的女子高生の腕力しかない〈石化〉の魔女(メデューサ)シュオンこと朱音(あかね)さんもかなりのピンチに見舞われるはずだが、さらにこちらには規格外召喚獣(フェアモン)のオレとまりるがいる。


 なにしろオレたちは惑星アルマーレの人々ほど高潔な倫理観をもちあわせていない(もちろん人にケガとかさせる気はないけど)。


 アレストリーナ姫に抱きかかえられたオレはマズルカフラッシュの花火で〈アーデル・ファーム〉の召喚師たちを威嚇(いかく)する心づもりでいたが、朱音(あかね)さんが朗々(ろうろう)と云い放った。


「ひゅ~ほほほっ! わが名は〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオン! 下がれ下郎ども! 一歩でも前にでれば〈石化〉させたネブラスカス皇女の命はないぞよ!」


 この言葉に〈アーデル・ファーム〉の召喚師たちが屈服した。純朴あるいは高潔な人々を相手に悪魔のような所業とうしろめたさをおぼえるが、背に腹はかえられない。


「アレストリーナ姫! シャイニーロプロスを召喚せよ!」


 唐突に〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオンがアレストリーナ姫へ命じた。


「え? ああ。〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオンに命じられては仕方ない。シャイニーロプロスを召喚しよう。今しよう」


 朱音(あかね)さんの意を察したアレストリーナ姫が小学生の学芸会レベルの三文芝居で応じた。ひどい棒読みである。


 ようするに、アレストリーナ姫の意思で逃亡するのではなく、〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオンと云う正体不明の邪悪な存在に拉致(らち)られたよう〈アーデル・ファーム〉の召喚師たちへ印象づけたのだ。


召喚(コーリン)ッ!」


 アレストリーナ姫が金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)をかざすと、飾り尾羽の優美な金色(こんじき)の鳳凰とよぶにふさわしい体長2mほどの鳥系D級召喚獣(フェアモン)が姿をあらわした。


 とどのつまりは地球で待機していた瑞希(みずき)である。


 瞬時に状況を把握した瑞希(みずき)ことシャイニーロプロスが身をかがめて背中に朱音(あかね)さんとアレストリーナ姫を乗せた。オレはアレストリーナ姫に抱きかかえられたままだし、まりるも朱音(あかね)さんの肩に乗っている。


「われがこの地を去りしのち、すべての人の〈石化〉を解く! ただし、ひとりでもわれらのあとを追うそぶりを見せれば〈石化〉した人々は未来永劫(えいごう)その姿のままであると知れ!」


 完全に〈石化〉の魔女(メデューサ)・シュオンになりきった朱音(あかね)さんが大声でのたまうと、シャイニーロプロスが羽ばたいて雨煙にけぶる暗い空へととびたった。


〈アーデル・ファーム〉が視認できないほど夜の闇に溶けると朱音(あかね)さんは約束通り、全員の〈石化〉を解いた。なんとも律儀な魔女ではある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ