第四章 召喚獣のざんねんな帰還。〈13〉
惑星アルマーレのことだけでも大変なのに、地球でも要らん波風たてないでくれる!? 周章狼狽するオレの姿に湊斗さんがぷっとふきだした。
「あっはっは。冗談、冗談。……ただ、ミナヨさんには内緒にしておいてほしい。ミナヨさんは『フェアモン・バトル』のことも惑星アルマーレ(あっち)のことも知らないからね。それにミズキくんがここに泊まってたなんて知ったら、嬉々としてお赤飯炊いちゃうよ」
くりかえすようだが美奈代さんと云うのは、湊斗さんの奥さんであり瑞希のお母さんである。
「なんですか、それは?」
あきれるオレに向かって、床に正座した瑞希が三つ指をついた。
「フツツカ者デスガ、末永クヨロシクオネガイ申シアゲマス」
「やめんか。……あんたたち本当に切迫した状況だってことわかってるんでしょうね?」
「あらあら、や~ねえ。だからこそ、カオルちゃんをリラックスさせてあげようと思ったんじゃない」
伝説のギャグマンガ『マカロニほうれん荘』の金藤日陽みたいな口調でおどける朱音さんに水啼鳥父娘がうなづいた。……オレ、この人たちの冗談キライ。
「それにしても、問題はアレストリーナ姫救出のあとだ。惑星アルマーレ……キルリーク大陸は戦争になるね」
「おそらく」
湊斗さんの言葉に瑞希が同意した。
「戦争になる? グラゴードリス皇国とアルマイリス皇国がジギリスタン皇国を侵略する可能性はないって……」
オレの言葉に瑞希がつづけた。
「表向き、アレストリーナ姫の〈シュピーリ・ファーム〉三角城襲撃でグラゴードリス皇国はアルマイリス皇国との開戦理由ができた」
「戦争って、グラゴードリス皇国とアルマイリス皇国なのか?」
「表向きって云ったじゃん? グラゴードリス皇国とアルマイリス皇国が戦争になれば、ジギリスタン皇国は、より親交の深いアルマイリス皇国へ加勢するに決まってるきゅん」
朱音さんがオレの無知を正すと、瑞希が言葉を継いだ。
「そうなれば、グラゴダダンとアルキメヒトの思うツボだ。グラゴードリス皇国とアルマイリス皇国は戦争しているふりをつづけながら、主戦力をジギリスタン皇国へまわしてジギリスタン皇国を先にたたく」
「ただ、そうなるとグラゴードリス皇国はアルマイリス皇国を裏切るだろうね。侵略したジギリスタン皇国の支配をアルマイリス皇国へゆだねることで、旧ジギリスタン皇国の人々は自分たちが助けようとしたはずのアルマイリス皇国に裏切られたことを知る。旧ジギリスタン皇国の不満分子をアルマイリス皇国へぶつけさせ、疲弊したところをグラゴードリス皇国がかっさらう。キルリーク大陸全域がグラゴードリス皇国に統一されると云うシナリオだよ」
「あっちゃ~。なにそれ? 最悪じゃん」
「ジギリスタン皇国がグラゴードリス皇国へつけば、アルマイリス皇国の滅亡は確定だ」
「少なくとも、ジギリスタン皇国には事態を静観するよう連絡しておく必要がある。ジギリスタン皇国が沈黙をたもてば、グラゴードリス皇国もおいそれと手をだすことはできまい」
「だれがそのことをジギリスタン皇国へつたえるんですか?」
オレのハテナに瑞希が嘆息した。
「目下、手はない。脱獄させたアレストリーナ姫がジギリスタン皇国第2皇女・マルドゥガナ姫へ連絡して信用してもらえるのなら希望はあるが……」
「ここ数百年、あるいは千年近くいなかった凶悪犯罪者と目される人物からのタレコミなんて信用してもらえるかどうか……」
朱音さんもヤレヤレと肩をすくめた。
「アレストリーナ姫救出をグラゴードリス皇国移送後まで待つことはできないかな?」
「ミナト。それはどう云うことだ?」
「ミズキくんにはわからないかな? アルマイリス皇国領内で姫が消えれば、グラゴードリス皇国側はアルマイリス皇国が姫を逃がすかかくまうかしたと難クセをつけることもできるが、グラゴードリス皇国領内で姫が消えれば、すべての非はグラゴードリス皇国が負うことになる」
「開戦理由がなくなると云うわけか。……しかし、逃亡の手びきをアルマイリス皇国やジギリスタン皇国の者がおこなったと難クセをつければ、グラゴードリス皇国はいきなりジギリスタン皇国へ宣戦布告することもできよう」
「そこまでするかな?」
「グラゴダダンは狂人だ。それくらいやりかねん」
正直、アレストリーナ姫は子どもの命をもてあそぶグラゴダダンとアルキメヒトの非道に義憤をおぼえて暴挙へでたわけだが、それが大陸中を戦渦にまきこむ事態にまで発展しようとは思ってもみなかったはずだ。
「酷なことを云えば、アレストリーナ姫が自殺するか移送中に事故死すれば、この件はちゃんちゃんと手打ちにできるわけだけど……」
「……グラゴードリス皇国やアルマイリス皇国で秘密裏にたくさんの子どもたちが殺されて、じきに戦力増強した2国にジギリスタン皇国が侵略されちゃうんですよね?」
深刻な面もちの湊斗さんへ、朱音さんがうつろにあかるい口調で反駁した。
「……私があの時アレストリーナ姫の命令どおりアルキメヒトを踏み殺しておけば、グラゴダダンを石化して殺しておけばこんなことにはならなかったきゅん……」




