表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/95

第一章 召喚獣のささやかな日常。〈6〉

挿絵(By みてみん)


 ようするに、オレと瑞希(みずき)は幼なじみの腐れ縁でしかない。そのことを七竈(ななかまど)さんへわかりやすく説明すると、瑞希(みずき)が悪意まみれの総括をした。


「……つまり、カオルは私に近親相姦的性欲を(いだ)いている」


「なにをどう要約したらそうなるっ!?」


「恥ズカシイヨ、オニイチャン」


「恥ずかしいのは、その棒読みだ!」


 せっかく七竈(ななかまど)さんとお近づきになれる百年に一度のチャンス到来と云うのに、瑞希(みずき)のせいでどんどん変態性欲者のイメージがすりこまれてしまうではないか。


「て云うか、ちょっと待て。おまえ、オレのいないとこでも、そんなヨタ話吹聴(ふいちょう)しているんじゃあるまいな?」


「案ずるな。胸襟(きょうきん)を開いた者の前でしかするつもりはない」


「おまえ、ゼッタイ、人への心の開き方まちがってるから!」


 オレたちの不毛なかけあいを聞いていた七竈(ななかまど)さんがクスクス笑った。


水啼鳥(みずなきどり)さんて実はおもしろい人だったんですね。菜々美、ちょっと安心しました」


「……は? おもしろい? 安心?」


 およそ瑞希(みずき)とは縁のない単語(フレーズ)に首をかしげると、七竈(ななかまど)さんがつづけた。


水啼鳥(みずなきどり)さんて、菜々美とちがって超怜悧(クール)才媛(ビューティー)じゃないですか? だから菜々美とかレベル低すぎて相手にしてもらえないと思ってたんです」


 七竈(ななかまど)さんの云うこともわからんではない。


 たとえば、校内に貼りだされる試験の順位は成績上位者30名にかぎられる。オレはもちろん七竈(ななかまど)さんの名前も見かけたことはないが、水啼鳥瑞希(みずなきどり みずき)の名前は常に満点トップの玉座へ君臨している。


 実のところ、瑞希(みずき)の父・水啼鳥湊斗(みずなきどりみなと)は世界中にその名を知られた天才プログラマーである。


 そんな湊斗(みなと)さんのDNAをうけ継ぎすぎた水啼鳥瑞希(みずなきどりみずき)は、10歳で世界的権威をもつ科学雑誌に難解な宇宙論が掲載されたこともあるほどの超絶天才女子なのだ。


 論文発表後、世界中の名門大学やらNASAなどの研究機関からとび級すらとびこえ、教授あるいは研究者待遇で招聘(しょうへい)されたが、


「なんかめんどくさい」


 の一言ですべてのさそいを一蹴(いっしゅう)した。


 とどのつまりは「ウチから一番近くて通うのがラク」と云う理由だけで、きわめてふつうレベルのオレとおなじ薬子園高校に通っている。幼なじみとは云え、超絶天才ザンネン美少女の考えることはわからない。


「……だから菜々美、さっき水啼鳥(みずなきどり)さんにお茶をさそわれて、すごくうれしかったんです」


 云われてみれば、瑞希(みずき)が個人的にクラスメイトとお茶しているなんて、就学以来はじめてのことかもしれない。その舞台がオレんちと云うのも、なかなかシュールな光景だ。


七竈(ななかまど)さんはアヤシイ人にホイホイついていっちゃいけないって教わらなかったかな?」


 そうオレがまぜかえすと、


「べつにアヤシくないです」


 と七竈(ななかまど)さんが応え、


「ヤラシイ人に云われるすじあいはない」


 と瑞希(みずき)にきりかえされた。


「だれがヤラシイ人だ、だれが」


「机の上にこんなものが」


 そう云う瑞希(みずき)の手の中に思いっきり見おぼえのある黒いフラッシュメモリがあった。


 ぎっくう! おのれ水啼鳥瑞希(みずなきどりみずき)! なぜそれがオレのエロ画像コレクションだと知っている!?


「……処分(ポイ)


 瑞希(みずき)がうしろも見ずに投げ捨てたフラッシュメモリは、みごとな放物線を描いてキッチンカウンターのアクアテラリウム、すなわち観賞用水生植物のレイアウトされた水槽へトプンと小さな音をたてて沈んだ。


 ああ、なんてこった! 昔の黒船グラドルも云っていたではないか。処分(ポイ)しないでください、と。


お茶うけのクッキーに手をのばしていた七竈(ななかまど)さんが異音に気づいて顔を上げた。


「今なんかヘンな音しました?」


「いいや。なにも」


 瑞希(みずき)はそううそぶいてハーブティーへ口をつけた。


「それと、ナナナカマドさん」


「あの……さっきからずっと「ナ」が1個多いです」


 七竈(ななかまど)さんのツッコミを意に介さず、瑞希(みずき)がつづけた。


「私の名字は長くてよびづらかろう? ミズキでよい」


「えっとじゃあ……瑞希(みずき)ちゃん。菜々美のことも名前でよんでください。菜々美も名字長いし。……あ、もしよかったら香坂(こうさか)くんも」


 え? なにそれ超ラッキー! なんかこういきなり七竈(ななかまど)さんとの距離がぐっとちぢまった感じ?


 オレは小躍りしたくなるほどの喜色をかくしつつ七竈(ななかまど)……もとい菜々美ちゃんへ云った。


「じ、じゃあオレのことも香坂(こうさか)くんじゃなくて……」


「みだらなオスブタとよんでよい」


「いや、オレそう云う性癖(せいへき)ないから! 女子にしいたげられて喜ぶ性癖(せいへき)とかないから!」


 しかもオスブタって。異世界で世を忍ぶ仮の姿が〈ウサ耳小ブタ(トンカプー)〉であるオレに向かって、なんと云う正鵠(せいこく)()た一言! ……などと内心感心するのもアホらしく、


「……カオルで」


 そうささやいたオレの言葉に菜々美ちゃんが天使の笑顔で応えた。


「うんわかった。みだらなオスブタ。……ウッソ。冗談だってば。カオルくん」


 ……うっわあ、意外といいかも。


 菜々美ちゃんの花澤香菜にも似た甘い声色で「オスブタ」よばわりされるの、思ってたほど悪くなくない? なにこのシビれる恍惚(こうこつ)感!? 菜々美ちゃん、オレの新たな扉を開いてくれてありがとう! ワンモア・プリーズ・テルミー・オスブタ!


 ……なんて云ったら、ソッコーきらわれるだろうな。さすがにその程度の判断力と自制心はうしなっていない。すんでのところでうしないかけたが。


「今後ともよろしくおねがいします、菜々美ちゃん」


「あ、はい! こちらこそよろしくおねがいします」


 オレが菜々美ちゃんに深々と頭を下げると、つられて菜々美ちゃんも頭を下げた。こう云うところもすっごくカワイイ。


 よもや、こんなカタチであこがれの菜々美ちゃんとお友だちになれるなんて思ってもみなかった。「人間バンジーひもなしはイヤ」もとい「人間万事塞翁(さいおう)が馬」とはよく云ったものだ。


 ひどい下痢(げり)して召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)でヘタこいて特別強化合宿とか組まされて最低最悪の気分だったのに、今は昇天しそうなほど最高の気分だ。……閑話休題(それはさておき)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ