第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈23〉
そして、まりる。召喚人獣とよばれるモッケイモンキーのまりるは惑星アルマーレ人の子どもを素体として生みだされた召喚獣である。まりるは4歳の時に召喚獣モッケイモンキーにされ〈シュピーリ・ファーム〉でモッケイモンキーとして生かされてきた。
実のところ、召喚人獣を生みだす技術はいまだ確立していない。召喚人獣にされた子どもたちは1年ほどで血液中の毒素がふえて病死してしまうのだ。しかし、まりるは生きている。なぜか?
ミナト・ミズナキドリが地球から持参した丸薬を誤って口にしたせいだと云う。
ミナト・ミズナキドリが〈シュピーリ・ファーム〉を訪れた際、グラゴダダンがまりるの正体をあかさずペットの召喚獣として披露した。
いささか体調のすぐれなかったミナト・ミズナキドリが地球から持参した丸薬を服用しようとしたところ、丸薬がひとつ床に落ちた。その丸薬をまりるが拾い喰いし、泡を吹いて倒れた。
しかし、じきにまりるは復調した。その後の検査でまりるの血液中の毒素がウソのように消えたことが判明した。
グラゴダダンはその丸薬をミナト・ミズナキドリからゆずりうけようとしたが、ストックが切れて入手できないと断られたらしい。その丸薬を『コウサカガンZ』と云う。
……アルキメヒトやグラゴダダンには丸薬の入手できない理由がわからないだろうが、オレにはわかる。
『コウサカガンZ』ってオレの両親が調合したオリジナルの自家薬じゃん! 超強力な下痢どめだけど、超くっさいヤツじゃん! 召喚人獣の毒素を殺すってどんだけ劇薬!? 湊斗さん、いつの間にあんな薬、オレの親からもらってたの!?
オレの両親が海外にいるので入手できないわけだ。よしんば『コウサカガンZ』がアルキメヒトたちの手にわたっていたらとんでもないことになっていた。閑話休題。
アルキメヒトとグラゴダダンは召喚人獣ただひとりの成功例であるまりるにゲートリングをつけて地球へおくったらどうなるのか? と云う実験をもくろんだ。
これまで、まりるは〈シュピーリ・ファーム〉研究員の実験召喚人獣だったが、今回の実験では、グラゴダダンの召喚人獣として召喚牌を書きかえる必要があった。
地球でのまりるを見きわめるためにはゲートリングをもつ人間が同行せねばならない。まりるの召喚牌を書きかえたのちにゲートリングを装着すればよかったのだが、ゲートリングを装着したのちに召喚牌を書きかえようとして、まんまと逃げられた。遠路はるばるアルマイリス皇国〈アーデル・ファーム〉まで逃げられた。
そんなこんなで現在にいたる。
「……まりるや、子どもたちはどうやって集めたっちゃ?」
これまでだまってアルキメヒトの話を聞いていたアレストリーナ姫が小さな声で問いかけた。
「足しげく慰問へまわってくれたおんしには感謝しておるぜよ〈華の姫さま〉。いや、今は〈ウンコたれのおねえちゃん〉じゃったか?」
「……中兄さまっ!」
アルキメヒトの言葉の裏を読んだアレストリーナ姫が口の中で怒りを押し殺すかのようにうめいた。おそらく話の途中からアレストリーナ姫は残酷な事実に気づいていたのだ。
「ワシらが意味もなく孤児院なぞつくっていると思うたがか? むしろいき場のない子どもたちに新たな居場所をあたえてやっていると云っても過言ではあるまいが?」
「中兄……おまえは骨の髄まで腐っているっちゃ」
怒りにうちふるえるアレストリーナ姫のくちびるからもれたつぶやきがアルキメヒトのゲスな感情をしずかにあおりたてた。
「おんしの人気は絶大ぜよ。〈華の姫さま〉がお召しと云えば、子どもたちは嬉々としてワシらについて……」
「よくもウチの名を騙ってそんなヒドイことを……。ごめんだっちゃ……こわかったっちゃ……くるしかったっちゃ……」
アレストリーナ姫は胸に抱いた小さなまりるの頭をなでながら、まりるとまがまがしい研究の犠牲となった子どもたちの魂へ向かって謝った。アレストリーナ姫の顔を哀しげに見つめるまりるの顔や頭に大粒の涙がこぼれ落ちた。
「許さないっちゃ! おまえたちだけは死んでも許さないっちゃ! 召喚ッ!」
アレストリーナ姫が金色召喚牌をかざして慟哭した。




