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第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈22〉

挿絵(By みてみん)


     13



 18年前のとある夜。アルマイリス皇国第1皇子・アルハンドロ殿下は召喚実験中だった召喚牌(カルタ)からあえかな声がひびくのを耳にした。


『みなさん聞いてください! 今日ぼくに娘が産まれました! このしあわせを全宇宙全次元の生きとし生ける者とわかちあいたい! みなさんを心から愛しています! ぼくの娘が産まれたこの宇宙に感謝します!』


 それは惑星アルマーレとは異なる別の惑星、別の宇宙、別の次元からおくられてきたであろう脳天気なメッセージだった。


 ふつうなら空耳、偶然、気の迷いでかたづけてしまうところだが、召喚牌(カルタ)召喚獣(フェアモン)の研究にいそしむアルハンドロ殿下は『異世界通信』と云う召喚牌(カルタ)の新しい可能性に魅了され、没入した。


 じきにアルハンドロ殿下は召喚牌(カルタ)による『異世界通信』を成功させた。そのコンタクトした相手が、最初に全宇宙全次元へ向けて脳天気なメッセージを放った張本人、地球のミナト・ミズナキドリである。


 オレはアルキメヒトの語るめずらしくも聞きおぼえのある名前に耳をうたがった。……水啼鳥(みずなきどり)湊斗(みなと)って瑞希(みずき)のお父さんじゃん! てことは、こっちの時間軸で18年前に産まれた娘って瑞希(みずき)のこと!? 湊斗(みなと)さん、うれしかったのはわかるけど、なにしてんの!?


『異世界通信』技術と召喚獣(フェアモン)召喚技術を応用すれば、惑星アルマーレと地球との間を物質的にも行き来できるのではないかと考えたアルハンドロ殿下は召喚牌(カルタ)の改良を重ね、金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)の原型となるものを開発する。


 その元祖金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)は200匹のネコで数ヶ月かけて練成したものだそうだ。


 元祖金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)による地球への召喚獣(フェアモン)召喚は成功した。ただし問題もあった。地球へ召喚された召喚獣(フェアモン)が人間の姿になったことである。


 地球以上に倫理観のきびしい惑星アルマーレのアルハンドロ殿下には人体実験と云う発想そのものがなかったわけだが「じゃあ、ぼくを召喚獣(フェアモン)契約して、惑星アルマーレへ召喚してみたら?」と云いだしたのはミナト・ミズナキドリだったと云う。


 ……ちょっと待て。それじゃ人類初の人間(アース)召喚獣(フェアモン)って湊斗(みなと)さんだったってことじゃん!? しかも無謀な人体実験。瑞希(みずき)はこのこと知ってるのか!?


 人間(アース)召喚獣(フェアモン)に実害のないことはミナト・ミズナキドリが実証してみせた。しかし、地球から惑星アルマーレ人を召喚することはできないし、自由意思で行き来することはできない。


 そんな時にアルハンドロ殿下が協力をあおいだのが、アルマイリス皇国第2皇子・アルキメヒトである。


 かねてより、より強大な召喚獣(フェアモン)を生みだす研究をしていたアルキメヒトにとって人間(アース)召喚獣(フェアモン)と云う存在は未知なる可能性の扉を開いてくれた。(いな)、開かせてしまったと云うべきか?


 アルキメヒトは動物ではなくアルマーレ人を素体とした召喚獣(フェアモン)を生みだす研究に手をそめてしまったのだ。もちろんアルハンドロ殿下には秘密裏に。


 アルキメヒトが禁忌(タブー)に触れる研究のパートナーとして選んだのが、グラゴードリス皇国第2皇子・グラゴダダンだった。類は友をよぶのたとえもあるように、このふたりは実に馬があった。よくない意味で。


 200匹のネコのかわりにひとりの子ども(10歳以下)で、より安定した金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)がつくられることを発見したのはグラゴダダンだそうだ。


 そんな非道な実験がおこなわれているとは知らないミナト・ミズナキドリが「人間(アース)召喚獣(フェアモン)になれる地球人の条件や能力について研究したい」と云われて、出会いの場としてもうけたのが、アマンド社から配信されているPC無料オンラインゲーム『フェアモン・バトル』である。


 PCゲーム『フェアモン・バトル』の開発者が湊斗(みなと)さん!? ……ひょっとしてアマンド社って、アルマイリス皇国の「A」にミズナキドリの「M」「N」「D」でアマンド社!? いやいやそんなの聞いてないよーっ! って人に云える話じゃないだろうけど。


 PCゲーム『フェアモン・バトル』を通して判明したのは、強制的に人間と召喚獣(フェアモン)契約することはできないと云うことだ。相手のかんちがいであっても最低限の同意が必要だと云うことは、オレ自身の経験からもわかる。


 アルキメヒトがPCゲーム『フェアモン・バトル』の調査から導きだしたのが、金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)の強力なものをつくりだせば次元転移の影響をうけずに人が人の姿のまま、たがいの世界を行き来できると云うことである。


 その理論によってつくりだされたのが〈ゲートリング〉だ。金色(ゴールド)召喚牌(カルタ)30枚で練成される稀少品である。ゲートリングがあれば人の姿でたがいの世界を行き来できるわけだが、ゲートリングは〈ゲート〉およびゲートリングに反応する。


 地球や惑星アルマーレのどこにでも自由にいけるわけではなく〈ゲート〉とよばれる石板を置いた場所に限定される。


 惑星アルマーレのゲートはアルマイリス皇国・皇都〈メアルミノス・ファーム〉に一ヶ所とグラゴードリス皇国〈シュピーリ・ファーム〉三角城の一室。


 地球のゲートはオレたちの住む街からさほど遠くない場所にあるらしい。そこからグラゴダダンはまりるのゲートリングの反応を追って薬子園城趾(じょうし)公園へあらわれたと云う。まったくもって運の悪い偶然だった。


 目下、ゲートリングを所持しているのは3人。グラゴダダン、アルキメヒト、ミナト・ミズナキドリである。まりるのゲートリングはアルキメヒトのものだと云う。


 人間を素体として召喚獣(フェアモン)を生みだすさまざまな実験の結果あきらかになったのは、10歳以下の子どもでなければ呪印(じゅいん)をほどこすことができないと云うことだ。


 それ以上の年齢になると召喚獣(フェアモン)契約中に肉塊となるか人格崩壊をひき起こす。呪印(じゅいん)をほどこされた子どもたちは召喚獣(フェアモン)ではない。地球へ召喚されると召喚獣(フェアモン)になる。


 地球でオレたちを襲撃したのがコイツらだ。グラゴダダンの私兵として教育(洗脳?)されているらしい。


 ただし、子どもに呪印(じゅいん)をほどこす技術は5年前に確立したので、グラゴダダンの私兵の上限は15歳だと云う。

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