表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/95

第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈20〉

挿絵(By みてみん)


     12



「……なんかにおいがしないっちゃ?」


 これまでは冷たい石の気配しか感じられない無機質な闇の中を歩いてきたのだが、鉄の扉の先へ一歩足を踏み入れたとたん、なんとなく湿っぽい空気が感じられた。


 ウサ耳小ブタのトンカプーであるオレにはなじみあるにおいである。召喚獣(フェアモン)と云うか動物のにおい、あるいは気配だ。


 奥へとつづく通路は大ざっぱに木の板が打ちつけられて立ち入り禁止となっていた。そのわきに上へとつづく階段があったので、いきおいオレたちは階段をのぼる。


 地下1階であろうスペースへでた。大きく長い通路の左右にいくつか大きな部屋のあることが扉の数でわかる。


 壁面へ等間隔に燭台(しょくだい)のくぼみが彫りこまれ、マリモコウがあえかな光を放っていた。だれかが定期的にマリモコウへ水を吸わせていると云うことだ。


 扉の向こうからかすかに音が聞こえてきた。耳をすませば聞こえてくるのは『カントリーロード』ではなくネコの鳴き声だ。


 アレストリーナ姫が扉についた小さなガラスののぞき窓から中を見ると、暗闇にたくさんのネコが瞳をかがやかせていた。


「ネコがたくさんいるっちゃ。三角城〈シュピーリ・ファーム〉はネコのブリーダーだっちゃ?」


日本では西暦2016年時点で犬よりもネコを飼う人が増えたと聞くが、惑星アルマーレやグラゴードリス皇国でネコブームと云う話は寡聞(かぶん)にして知らない。


 また、ネコを素体とした召喚獣(フェアモン)もいないことはないだろうが、B級召喚獣(フェアモン)以上に進化させるのは膨大な時間を要する。これだけのネコに需要があるとも思えない。


 通路の奥には上へとつづく階段があった。階段にほど近い扉の前へさしかかると、アレストリーナ姫に抱かれたモッケイモンキーのまりるが全身の毛を逆立てて小さくふるえた。


「どうしたっちゃ、まりる?」


「まりる、思いだしたるる。まりる、ここから逃げてきたるる」


 アレストリーナ姫が扉から中をのぞくと、そこはさっきまでアレストリーナ姫が幽閉されていた牢獄(ろうごく)と似たような造りになっていた。ただし、そこにはだれもいなかった。


 おびえるまりるにアレストリーナ姫がやさしくささやいた。


「よくわからんがわかったっちゃ。ウチにまるっとまかせておくっちゃ」


「ぴきゃぷぴっ」


 大丈夫だ、まりる。オレたちが守ってやる。オレもまりるへそうつたえると、まりるがアレストリーナ姫のふくよかな胸の谷間に顔をうずめた。


 あ、いいな~、と場ちがいなことを思いかけてオレは雑念を必死でふりはらった。そのような下心をアレストリーナ姫へ通訳されたら、オレの命は風前の灯火(ともしび)だ。


 オレはアレストリーナ姫とまりるを待機させてすばやく階段を駆け上がった。1階の人の有無を確認するためである。


 いわばそこは小さな教会を改造した研究所のようなところだった。天井高5mはあろうかと云う三角屋根の上部に採光と換気をかねた窓があり、壁面は白い大理石でおおわれていた。


 壁際のぐるりを(かこ)むのは連結された大小さまざまな円形のガラス槽だった。教会なら祭壇(さいだん)のあるところにひときわ大きな円形のガラス槽があり、その手前には小さなうけ皿のようなものが設置されていた。


 室内の隅に置かれたカートには召喚牌(カルタ)がならべられていた。ここは召喚牌(カルタ)工場なのかもしれない。


召喚牌(カルタ)、どうやってつくるるる?」


 まりるを介してオレの(いだ)いた素朴な疑問をぶつけてみたが、アレストリーナ姫からかえってきたのはにべもない返事だった。


「知らないっちゃ」


 ……まあ、オレだってスマートフォンのつくり方とか仕組みとか説明しろと云われてもムリだし、どこでつくっているのかも知らない。つかい方さえ知っていれば不便はないこととおなじか。


召喚牌(カルタ)の製造販売は皇族の専売特許で工場の場所すら秘匿(ひとく)されているっちゃ」


 アレストリーナ姫が補足した。自分だけが無知なのではないと云うアピールのようだが、一般人ならともかく一応仮にも皇族のはしくれであるあんたなら知っておくべきだろ? と思わぬこともない。


「るーっ、るーっ!」


 突然、まりるが部屋の奥を指さして鳴きだした。


「どうしたっちゃ? なにがあるっちゃ?」


 ガラス槽の奥へかくれるように小さな扉があった。木製の簡素なものだ。ガラス槽の裏へまわって扉を開けると、そこにもうひとつ大きな部屋があった。


 ぐるりを大小さまざまな円形のガラス槽がとりまいているところは前室とかわらなかったが、部屋の中央に大きなガラスの球体があった。


「……これは、一体?」


 オレたちは眼前の光景に絶句した。


 ガラスの球体はほのかに赤く発光し、その中はドロドロの液体で満たされていた。ドロドロの液体は球体の中で撹拌(かくはん)されているのだが、その中心で微動だにしていないものがあった。


 眼窩(がんか)の黒く落ちくぼんだ子どもの顔である。


 撹拌(かくはん)されているドロドロの液体をよく見ると、溶けかかった内臓や小さな指と(おぼ)しきものがただよっていた。子どもが呪術(じゅじゅつ)によって溶かされている!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ