第三章 召喚獣のさんざんな冒険。〈11〉
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オレたちひとりと2匹は日の暮れかけた〈アーデル・ファーム〉で厩務員の監視をかいくぐり地下迷宮へと潜入した。
〈地図〉の死角となる小さな路地に身をひそめ、地下迷宮で調教をおえた最後の召喚師が地下迷宮をあとにし、入り口が施錠されたのを確認すると行動を開始した。
アレストリーナ姫の召喚したC級召喚獣サーベルサーバルの背にゆられて、まりるの知るグラゴードリス皇国へのぬけ道をめざす。
まりるの通訳は想像以上の戦力だった。まりるのおかげでことごとくアレストリーナ姫の方向音痴を回避することができた。オレの言葉が通じなければ、最初のチェックポイントへ着くまでに夜があけていたにちがいない。
グラゴードリス皇国へのぬけ道はグラゴダダンの逃走路の先にあった。最初のチェックポイントとは、すなわち水没していたいきどまりの瞑想場である。
「ぬけ道は水の底るる」
マリモコウの光に照らしだされた黒い水面を指さしてまりるが云った。最初にまりるがぬれていたのは、壁や天井から水に落ちたのではなく、水の中からやってきたせいだ。
「ぷぴぷぴっ」
まりるがアレストリーナ姫にオレの言葉を通訳した。
「まりるとカオルでぬけ道見てくる。姫、ここで待つ」
グラゴダダンや大型犬のC級召喚獣ランスリカオンが通りぬけられる程度に大きいことはたしかだが、ぬけ道までの深さやトラップの有無などを確認しておく必要がある。
左右2本目の両手でマリモコウをつかんだまりるにつづいてオレも水中へ身を投じた。視界などまるでない。
まりるがなにを手がかりに進んでいるのかさだかではないが、ふたつの光が迷いなく水底へもぐっていく。オレはその光だけをたよりに必死で水をかく。
まりるのもつマリモコウの光が壁面と冥いくぼみを照らしだした。どうやらそこがグラゴードリス皇国へつづくぬけ道であるらしい。
それは2m四方の横穴だった。アレストリーナ姫がサーベルサーバルに騎乗したまま通れるほどの余裕はないが、サーベルサーバルの背中にしがみついて牽引してもらうくらいなら問題はない。不審なトラップも見あたらないようだ。
オレはまりるの肩をつつくと、一旦、壁面にそって浮上した。ちょっとばかし息がつづかない。
「ぷはっ!」
水面から顔をだすと小さな炎を吐いた。対岸の路地で待つアレストリーナ姫へぬけ道のありかを知らせる合図だ。アレストリーナ姫のいるところから見て左奥に位置する。オレのあとからまりるも顔をだした。
「ぴきゃぷ?」
あのぬけ道はどのくらいつづいている? まりるへそうたずねると、ちょっと考えてまりるがこたえた。
「20数えるくらいるる」
まりるの泳ぐスピードで20秒くらいと云うことか。だったらそれほど長い距離ではない。
「ぷひゃぴ」
オレの言葉をうけてまりるが闇へさけんだ。
「姫、こっちくるるる!」
まりるが頭上へかかげたふたつの光をたよりにアレストリーナ姫がサーベルサーバルへ騎乗したまま黒い水面をわたってきた。
「ここから20もぐるるる。姫はサーベルサーバルの背中をつかむるる。サーベルサーバルにまりるを追わせるるる」
視界もなく言葉を発することのできない水中では、呪印による指示で召喚獣をコントロールするしかない。地下迷宮で召喚獣を遠隔操作する方法だ。
アレストリーナ姫を騎乗させたまま水面から顔をだすサーベルサーバルが不快そうにのどを鳴らした。素体がネコ科の動物なので水が苦手なのかもしれない。
そのようすにまりるがサーベルサーバルの鼻の頭をやさしくかいた。まりるにはサーベルサーバルの気もち(言葉)もわかるようだが、まりるのバイリンガルは人語とモッケイモンキー語だけだ。
「る~」
自分の言葉がサーベルサーバルへつたえられないもどかしさにまりるもうめいた。オレにもその気もちはよくわかる。「毛布をください」その一言がつたえられなくて、どれほど〈アーデル・ファーム〉の厩舎で切ない想いを味わったか。
「いくるる」
まりるが大きく深呼吸すると水中へもぐった。オレたちも深呼吸してまりるにつづく。まりるの手にしたふたつの光が水底と横穴の冥いくぼみを照らしだす。
ここから20秒くらいか。オレは横穴のぬけ道に突入すると頭の中で数をカウントしながら先導するまりるの光を追う。
……18、19、20、21……。20秒をすぎてもまりるの光が上昇する気配はない。いささかのタイムラグはあろうとカウントしながら潜水をつづけるも、40秒をすぎてもゴールが見えない。
およそ20秒と云う心のささえがあっての潜水である。水の冷たさと漆黒の闇に不安はつのるし、だんだん息苦しくなってきた。
いきなりオレの身体がうしろから押された。サーベルサーバルが泳ぐスピードをあげてオレとまりるを突きだしていく。サーベルサーバルも息苦しいのか、アレストリーナ姫が息苦しいのか、おそらくはその両方か。
ヤバイ、これ以上もう息が……! すんでのところで頭上の圧迫感が消え、オレたちは必死にもがいて水面へ浮上した。
「ぶはっ!」
「がはっ!」
「ぷはっ!」
「るる~っ!」
オレたちはまりるの光に導かれ、ほうほうの体でなんとか水のない通路へ上陸した。




