第二章 召喚獣のざわわな夏休み。〈18〉
女子たちが泊まる部屋の準備をしなければ、と思った。リビングとふすま1枚で仕切られた8畳の和室へ泊まってもらうことにした。本来は両親の寝室だ。押入れから3人分の寝具をひきだして部屋のすみへ重ねて置いた。まあまあな労働である。
そう云えば、さっき朱音さんの調達してきた食材の入ったエコバッグがキッチンカウンターわきに放置されたままだった。なにが入っているのか知らないが、要冷蔵・冷凍ものがあるかもしれない。今のうちにかたづけておこうと和室をでたところで洗面所のひき戸があらあらしく開いた。
「!?」
「る~っ!」
不機嫌そうな声をあげて威勢よくとびだしてきたのはまりるだった。あろうことに、と云うかまたしてもすっぽんぽんである。
「ちょっと待ちなさいってば! 頭ちゃんと乾かさないとカゼひいちゃうでしょ!?」
お母さんみたいなもの云いで、まりるのあとを追いかける朱音さんもすっぽんぽん……ではなかったが、バスタオルを裸身にまいただけのしどけない姿だ。
「カオルちゃん、マリルンつかまえて!」
まりるの頭を拭いていたであろうタオルをふりかざしながら朱音さんが命令した。そう云われても、目のやり場に困る全裸童女のどこをどうつかまえればよいのか判然としない。
とりあえずバスケットボールのディフェンダーみたいに身体を入れて、まりるの進路を妨害すると、朱音さんがうしろからまりるを抱きしめた。
「る~っ!」
まりるが水から上がったイヌみたいに頭を小刻みにゆすった。パタタタッ! と短い髪が左右になびいて水滴がとび散り、オレと朱音さんの顔をぬらす。
「ほおら、もう! マリルンも頭ぬれたままじゃヤなんでしょ?」
朱音さんがまりるの背中へとりついたまま、脇の下から手を入れて、はがいじめするようなかたちでまりるの頭をタオルでふく。
二人羽織みたいな体勢でまわれ右してまりるを洗面所へつれもどす朱音さんの動きに、身体へまいたバスタオルがゆるんだ。
「あ、ちょ……!?」
まりるの背中へ身体を密着させ、なんとかバスタオルがずり落ちるのをふせいだ朱音さんだったが、はだけたバスタオルは朱音さんの背後まで死守できなかった。
すなわち、お胸かくして尻かくさず。キュートなヒップがズッキンドッキンであった。
「カオルちゃん、こっち見ない!」
あわてふためく朱音さんの言葉に思わずオレもまわれ右した。洗面所のひき戸の閉まる音がするまで、そのままの姿勢で石化する。
朱音さんに頭と身体を拭いてもらったまりるが今度はきちんと着衣ででてきた。
ピンクに黄色のラインが入った半そで短パンのトレーニングウェア姿だった。厚手のメッシュ生地だが通気性・吸汗性はよさそうだ。
「るる~っ!」
シャンプーの香りをただよわせながら、ごきげんのまりるである。
編み上げた長い髪を下ろしたキュートなヒップの朱音さんはドライヤーで髪を乾かすと、おくれてリビングへもどってきた。
編みグセでゆるやかにウェーブした長い髪をポニーテールにまとめていた。いつものきっちりかっちりした雰囲気ではなく、ゆったりくつろいだ感のある朱音さんは多分に色っぽい。
……もっとも、そんなことを考えているとバレたら、またぞろ痛くもない腹をさぐられ下心を疑われかねないので、関係ないことを口にした。
「あ、アカネさん。女子はそっちの和室をつかってください。布団とかだしときましたんで、荷物もそっちへ置いてください」
「お~、ありがと! 和室で布団ならべて寝るって、ホントに合宿みたいね」
お泊まりグッズの入ったスポーツバッグを和室へ運んだ朱音さんが布団の数を確認して訊ねた。
「あれ? 布団3つしかないよ? カオルちゃんどこで寝んの? はっ! よもや私とミズキュンにはさまれて窮屈な川の字で寝るつもりっ!?」
「自分の部屋に決まってるでしょ~が。わざとらしい質問はやめてください」
オレの言葉に朱音さんがあっはっはと笑った。……まったく、夜這いかけたろか?
「ただいま」
となりの自分ちでお泊まりの支度をしてきた瑞希がもどってきた。玄関に立っていたのは、ノースリーブの白いブラウスにつばひろの白い麦わら帽子をかぶった清楚なご令嬢だった。
しかし、背中へパンパンにふくらんだ黒いバックパックを背負い、小脇に大きな枕をかかえていた。そんな風体で外を歩いていたら、家を焼きだされた深窓の令嬢とでも誤解されかねまい。ここんとこのセンスのなさが〈ザンネン〉たるゆえんである。
「くっは~~っ! 私服のミズキュン、チョ~萌え~っ!」
おそらくは、はじめて私服の瑞希を目のあたりにした朱音さんがいろいろな違和感を無視して興奮した。……ひょっとして、この人ユリぢゃあるまいな?
生まれた頃からつきあいのある瑞希だが、枕がかわると眠れないと云う話は聞いたおぼえがない。
「瑞希、その枕は?」
迷うことなく和室へ足をすすめ、バックパックやら麦わら帽子やらを部屋の隅に置いた瑞希がこともなげに云った。
「あるいは、まりるにつかえるかもしれないと思ってもってきた。これは私とミナトでつくった睡眠学習枕、略してSLP」
睡眠学習枕って云うとアレか? 昭和末期を代表するインチキ通販商品。カセットテープとよばれる前時代の音声記録媒体を枕へセットし、寝ている間に音を流して記憶させようと云うムクチャクチャな一品だ。たんなる安眠妨害装置であろう。




