表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/95

第二章 召喚獣のざわわな夏休み。〈5〉

挿絵(By みてみん)


 ほりほりガンバレ〈華の姫さま〉あらため〈ウンコたれのおねえちゃん〉と、あきらめムード全開のオレは心の中で生ぬるいエールをおくりながら、地下迷宮(ダンジョン)のようすをチェックしていた。


 一見おなじような光景のつづく地下迷宮(ダンジョン)だが、よく見ると分岐点には色あせたさまざまな記号が記されていた。


 うす(ぐら)地下迷宮(ダンジョン)でこう云った記号を見きわめながらすすむのは骨が折れそうだが、オレは頭の中で自分なりの地図(マップ)を描いていく練習をした。


 常日頃からアクションRPGで地下迷宮(ダンジョン)やら、やたらとひろくてギミックのたくさんあるアヤシげな警察署内などを探索してきたおかげで、思った以上に現在位置の把握ができていた。


 ……ゲームでの疑似体験ってリアルでも活かせるのな。


 そんなことを考えていたら、周囲への警戒をおこたった。模擬戦闘(スパーリング)ではない分、オレもいささか気がゆるんでいたようだ。


 眼前の十字路の右手からカタンと小さな音がしてとびだした敵召喚獣(フェアモン)のハリボテにいちはやく反応したのはサーベルサーバルだった。


 カッ! と開いた口からソニックカノンを発射して敵召喚獣(フェアモン)のハリボテを粉々にした。


 ソニックカノンとは相手とおなじ固有振動波を発する音波砲である。生身の相手には衝撃波を喰らわせることしかできないが、無機物は簡単に破壊できる。


「ちゃは~~っ! お手柄だっちゃ、サーベルサーバル!」


 ハリボテを粉砕したサーベルサーバルの頭やあごをなでながら、アレストリーナ姫がオレたち4体の人間(アース)召喚獣(フェアモン)へ向かって口をとがらせた。


「みんな油断大敵だっちゃよ! 今日は敵から攻撃される心配はないっちゃけど、周囲の警戒をおこたっちゃダメだっちゃ!」


 ……イヤイヤ、一番周囲の警戒をおこたって〈地図(マップ)〉をガン見してるのあんたですから。そう云いたいのはオレばかりではあるまい。


 とは云え、オレたちが油断していたことも事実だ。サーベルサーバルの残響定位(エコー・ロケーション)をもってすれば事前にハリボテの存在を認識していた可能性は高い。


 おそらく、サーベルサーバルはハリボテの存在をオレたち人間(アース)召喚獣(フェアモン)やアレストリーナ姫へちょっとした仕草や威嚇(いかく)音でつたえていたにちがいない。


 一流の召喚師ならそれに気づいていたはずだし、PCゲーム『フェアモン・バトル』でならしていたオレたち人間(アース)召喚獣(フェアモン)ならそれに気づけていたはずだ。


(つぎはゼッタイ一番に敵召喚獣(フェアモン)のハリボテをやっちゃる!)


 そんな緊張感がオレ以外の人間(アース)召喚獣(フェアモン)からも感じられた。全員クールに見えてもアレストリーナ姫のスカウトに応じたであろう猛者(もさ)たちである。


 人間(アース)召喚獣(フェアモン)に身をやつしているとは云え、元一流召喚師(プレイヤー)としての矜持(きょうじ)召喚獣戦闘(フェアモン・バトル)への情熱はうしなっていない。……もっとも、オレはだまされてひきこまれたので論外だが。


 (せん)にエラそうな説教をたれたアレストリーナ姫は、あいかわらず〈地図(マップ)〉に首っぴきで周囲への警戒はおろか現在位置すら見うしなっていたが、のんびりかまえていてよいはずのF級召喚獣(フェアモン)サンドロバルバドスまでピリピリしていた。


 少なくとも、人間(アース)召喚獣(フェアモン)ではないサーベルサーバルには勝ちたい。人間(アース)召喚獣(フェアモン)の中でもっともランクの低いオレはそう思っていた。


 アレストリーナ姫が〈地図(マップ)〉片手に順調に迷いながら、ようやく設定された敵陣地へたどりつこうと云うところでサーベルサーバルが足をとめ、筒状の耳を進行方向へピクリと動かした。


 サーベルサーバルがなにかの異常に気づいた証拠だ。


 オレたちの眼前には右手に細い路地があり、そのちょっと奥には左右へのびるT字路がつづいていた。


 T字路の左右どちらかに敵召喚獣(フェアモン)のハリボテがある!


 そう見こしたオレが先陣を切って駆けだすと、右手の細い路地から小さななにかがとびだしてきた。


 火炎放射をお見舞いしようとしたオレはすんでのところで息をとめた。路地からまろびでてきたのは敵召喚獣(フェアモン)のハリボテではなく、正真正銘の召喚獣(フェアモン)だった。


 白い小ザルのB級召喚獣(フェアモン)モッケイモンキーである。


 モッケイモンキーはシロテナガザルを素体とした召喚獣(フェアモン)である。するどい爪や長い手足に尻尾が特徴の召喚獣(フェアモン)だが、小ザルと云うのはめずらしい。


 しかも、長い手足が特徴のモッケイモンキーだが、目の前にいるのは長い手のかわりに短い腕が4本生えていた。


 長い尻尾のつけ根にはエメラルドグリーンの小さなリングがはまっている。モッケイモンキー亜種、あるいは別種の召喚獣(フェアモン)かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ