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2.伝説の勇者 『冒険者になる』

「大丈夫ですか?」


 俺は後ろにいる商人に声をかける。

 口はぱくぱくと、ズボンはびしょびしょ正直言って大丈夫ではなかった。

 しかし商人は何とかして返事をする。


「は、はひぃ……」


「少し待っていてください。すぐ終わらせますら」


 そう言って俺はスピンドウルフの牙が食い込む枝を放す、いきなり押す力がなくなったスピンドウルフは前倒れになる。その瞬間、俺は回し蹴りで首元を蹴る。


『ギャフッ!』


 首をボキッと音を立てたスピンドウルフは力なく倒れる。

 痛ッ! 十年前だったらこんなのなんともなかったのに!

 蹴った足をぷらぷらとさせ痛みを和らげる。


 スピンドウルフはぴくぴくと痙攣しているから死んではいないらしい。


「うっひゃー、あの坊主足で首折ったぞ」

「ああ、なかなかにやる」


 エルザークに続きロウランがそう口にする。

 どうやら残りも倒し終えたようだ。

 二人は肩に剣を担いながらこちにくる。


「んよっ! 坊主なかなかにやるなあ。うちの依頼主を助けてくれてあんがとよ」

「ああ、本当に助かった。よければ何かお礼をさせてくれないか?」

「それならここがどの辺なのか教えてくれませんか?」


 今重要なのはアザファルトのどの部分に位置するかが大切だ。十年前に一通り国名も覚えさせられたから問題ないはずだけど。


「ん、坊主迷子か? 確かさっき森から出てきたよな」

「おおかた移住の旅の際に離れ離れになったところじゃないか? まあ、それがお礼でいいなら越したことはない。今俺たちがいるところはエナサルという国の王都を軸としたら南側に位置するな。と言っても王都までは結構掛かるから行くのはおすすめできん。もし腰を休める町を探してんなら俺たちが今向かっているオロスって街をおすすめするが」

「そ、そうですか……」


 エナサル? オロス? 知らない単語ばかり出てくる。

 まだまだ勉強したりなかったということなのだろうか。

 一回目の召喚で勉強したと言っても軽く知識を叩き込んだだけであとは筋肉バカがやるようなトレーニングに旅ばっかだったからな……もう少し勉強しておくべきだった。


「もしオロスに行くってんなら俺たちと来るかい? 依頼主も助けてもらったから嫌と言えんだろう」

「え、ええ、助けていただいたのでもし宜しければ」


 久しく会話が出来てなかった俺にはいい提案だった。


「では、お言葉に甘えて」


 俺は商人一人冒険者二人と知り合った。

 短い付き合いになるだろうがまあ、今は久しぶりの会話を楽しませてもらうとする。






 情報収集も終えちょうどオロスの町に着いた。


「んじゃな坊主、これはちょっとした土産だ。とっといてくれ」


 そう言いながらエルザークは小さな小袋を渡してきた。中身を見るとそこには硬貨が数枚入っていた。


「見たり話したところ坊主は金を持っていなさそうだったからな。それに冒険者ギルドに入ろうとしていたがそんときも入会手数料が取られる。それで入会しな。入会しても二三日は何とか生きていける分はある。まあ、坊主に心配は無用だろうと思うがな」

「ありがとう。じゃあ、またどこかで」


 三人も返事をして、俺たちは別れた。




 冒険者ギルドに入ると、そこは懐かしい感じの建物だった。お決まりの中世風で、二年前まで住んでいたあの国にそっくりだ。


 受付のおねーさんは営業スマイルで対応してきた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件で?」

「冒険者ギルドに冒険者登録と買取を」

「かしこまりました。では少しお持ちください」


 そう言うとおねーさんはカウンターの奥へ消えるとものの30秒ほどで帰ってきた。どうやらこの人は仕事が出来るらしい。


「では先ず冒険者登録をしますね。えーっと、手数料が二百コルになります」

「はい……コル? まあいいか、んじゃあこれで」

「はい、ちょうどですね」


 コルという言葉も聞き慣れなかったが、硬貨の位はおそらく同じだろう。

 現にちょうどだったしね。


「では、こちらに必要事項をお願いします」

「はいはい……ん?」


 ペンを持ち必要事項を記入しようとしたところ紙に書かれている文字が読めないことが判明した。


「あの、すみません。文字の読み書きができないので代筆お願いできますか?」

「はい、分かりました」


 くっ、情けない男として今おねーさんには俺が写っているだろう。

 恥ずかしい……。


「えっと、そんなに気になさらなくても……文字が読み書きできない人はよくいますから。でも、よければ文字は読み書きできておいたほうがいいですね。ギルドの依頼は基本掲示板に貼られているので、読み書きができないと少し手間がかかったりしますよ」

「あ、はい、覚えます」


 本気で心配してくるおねーさんに若干情けなく感じながらも覚えようと決心した。


「それではお名前からお願いします」

「はい、アマギリ・アラタです」

「アマギリ・アラタさまですね。では、次に出身地をお願いします」


 ここまで来るときに、俺が知っている単語は出るどころか知らない名前ばかり出てきた。迂闊に名前を言ってもし敵国の土地だったりしたら間者扱いされても困る。

 さて、どうしたものか。


「えっと、これは必要事項ではないですので無理にという訳ではありませんよ」

「あ、そうなんですか。すみません、ちょっと遠い土地ですので言ってもわからないと思いまして」

「ああ、それで。そうですね、この町か周囲の街にしか行ったことがない私どもにはわからない地名が山のようにありますしね。では、次に主に使う武器又は戦闘スタイルなどを」

「魔法は少し使えます。主に剣ですかね、片手剣をよく使います」


 まあ、今は丸腰なんだけども……


 他にも色々と質疑応答を繰り返して必要事項を埋めていった。


「はい、ではこれでギルド登録は完了しました。これがギルドカードとなります。無くした際は再発行で更に百五十コル掛かりますのでできるだけなくさないように。また、再発行されると前のは使えませんのでご注意を」

「わかりました」

「では、次に買取に移ります」


 仕事のできるおねーさん、お名前が知りたいなあ。と思いつつ買取の品を差し出す。


「これは……スピンドウルフの牙と爪ですか?」

「はい、道中で遭遇したので」

「では鑑定させていただきます」


 それから十分ほど時間がかかたがそのかいもあったというもの、おねーさんのお名前を知ることができたのだ!

 名前をアスハさんと言うらしい。名前をきくときはちょっと恥ずかしかったけど良かった。


「では、これから頑張ってください。アマギリ・アラタさん!」


 アスハさんの笑みを背に俺はギルドを後にする。

 こうして俺は冒険者となった。

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