1.伝説の勇者 『帰還』
真っ白な視界から徐々光が収まりクリアになる。
クリアになった視界に飛び込んできたのは、二年前に何度も見た鬱蒼とした森だった。
この森のことは知らないがこの雰囲気が慣れ親しんだ空気そっくりだった。
「ただいま異世界!」
辺りは既に真っ暗で、この世界では既に真夜中らしい。
俺は自分の体に異変がないか、ペタペタと自分の体中を触りまくる。
「やっぱり身長とかは戻った時と同じ高さか……分かっていたけど十年前の体が良かったのは本音だな」
十年培ってきたあの体はもう戻ってこない。そう思うと少し悲しくなった。
一回目の召喚で培ってきた肉体は筋肉がしまっており、片手で持った剣ひと振りでモンスターを蹴散らすという、とんでもチートな肉体だったのだが。俺の目的は『安全な異世界生活』。この目的を果たすためには十年前の肉体は喉から手が出るほどに欲しいものだった。
とは言っても、うじうじと無い物ねだりをしていられない。
取り敢えずここがどの部分なのか把握するために捜索――魔力を薄く周りに放ち地形や生き物などを把握する魔法――を発動させる。
元の世界に居たときは枯渇しそうな程に魔力がジリジリと減っていっていたが、この世界に来た時魔力が体内に入ってくる感覚があったので試しに使ってみたがどうやら成功したようだ。
「んーと、ここらには村や街といった場所がないなあ」
捜索は飛距離が存在しそれは自身の魔力料によって変わっていく。今の俺は魔力がやっと戻てきたばかりたからか、そこまで広い範囲は捜索出来なかった。
魔力はこの世界では重要だ。特にこういった森では魔物が住んでいる可能性だってある。さっきの捜索では見当たらなかったが、この時点では察知できなかっただけでもしかしたら捜索範囲外にうじゃうじゃいるかもしれない。
そう考えると、魔力は少しでも節約して行くべきだろう。
とりあえず、森を抜けるために俺はそこらへんに落ちている木の枝を拾い倒れた方向に向かって歩きだした。
歩きだして一・二時間、気のせいか木々の鬱蒼さが増したような気がする。
俺は水分補給のために学校のカバンに入れておいたスポーツドリンクを飲む。こんな事もあろうかと非常食やら何やらをカバンに突っ込んでいて正解だった。
カラカラになった喉をスポーツドリンクが通り喉を潤す。
一休みがすんだ俺は再び森の中を歩いていった。
森を歩き回ってから二日目――
俺は絶賛迷子になっていた。
まあ、この迷子な時間も有意義なもので体に魔力をなじませるのにはいい時間だった。
昨日くらいからチャレンジしてみた火の魔法や水の魔法は上手くいき、その時は本当に帰ってきたと感じた。
そしてこの二日間で体の変化も感じられた。魔力量も徐々に戻ってき、それに伴って捜索の範囲も徐々に広がっていった。
更に、この体は意外にも丈夫で無茶が利くこともわかった。
「少しだけ無茶して捜索魔法を使うか」
俺は捜索を発動し、限界まで魔力を遠くまで飛ばす。
少し無茶すると踏ん張っている感じで直ぐに息切れするからこれはあまりやりたくない。が、収穫はあった。
「人がいた!」
少し肩で息をしながら、俺は喜ぶ。
無茶して頑張った甲斐があった、東へ二・三キロほどに行くと森を抜け数人と動物が感じ取れた。
俺は早速その場へ向かっていった。
そろそろ目的地に着こうとした頃、近づくにつれて懐かし金属音が聞こえてきた。
モンスターとの戦闘だ。
商馬車に怯えている商人。その前に護衛二人がモンスターと対峙していた。
モンスターはスピインドウルフが四体。その俊敏さと集団行動が厄介で、並みのソロでは捌ききれない。俺も最初の頃はそのすばしっこさに舌を巻いた。
「おいエルザーク! そっちへ漏らしちまった! カバー頼む!」
「おうよ! オラァアアア!!」
エルザークと呼ばれる巌は両手で握られていた大剣を上段で構える。
エルザークに二体のスピンドウルフが襲ってくる。
勢いよく振られた大剣をスピンドウルフはその持ち前の素早さで躱す。
「くっそ、コイツは俺にはチト厳しいかもしれん。ロウラン! そっちはまだか!」
「無茶言うなよ! こっちは二体受け持っているんだぞ! 一体を倒すなら難なくこなせるが二体は時間がかかる!」
ロウランと呼ばれる片手剣と片盾を装備した男は、二体を一体上手く捌きながらエルザークに答える。
通常なら二体でもスピンドウルフの餌食なる可能性があるのだが、この二人はかなり持ちこたえている。
「ヤバい! 抜けられた!!」
エルザークの叫びとともに一体のスピンドウルフは後ろの馬車へ襲い掛かる。
「ひぃいい」
「グワァアア」
商人の叫びとスピンドウルフの咆哮が重なり商人を食わんとする。
その瞬間、スピンドウルフの牙を木の枝で防いでいるアラタの姿があった。