離れ街
駅が見えてきた。
まだ、此処に呼び出した張本人は来ていない。
それはそうだ、だってまだ10時45分、
来る筈がない。
僕はそこにあったベンチに座る。
居心地が悪いと言った方が合っているとでも言っておこう。
なんせこのベンチには”名前”が無いから。
これは僕特有の体質。
名前が有る無いと一見どうでも良い様に見えるが、僕にとってはそれはとても苦痛な事。
「お早う。」
いきなり目の前に現われた巨大な影。
確かに今目の前に居るのは人間だ。
「はよ。」
そっけなく挨拶を返す。
別にコイツに対して恨みを持ってる訳じゃない。
”本能的に”だ。
「今日は俺との約束忘れてたな?」
「別に・・・ちょっと寝坊しただけ」
あながち嘘ではない、筈だ。
こいつが素直に聞くわけ無いが・・・
「へぇ、でもお前っていっつも約束だけは気味悪いくらいに守るよな?」
「・・・・で?はやく行くよ。電車がきちゃう。」
話を逸らしたのではない、時間が無かったからだ。
「はいはい。」
駅の窓口でキップを買う。
これから向うところは、この街の”離れ街”と呼ばれる所。
そんな遠い訳じゃないが、あそこに行くには電車を乗るしか手段がない。
なんせ上を通るからだ。
電車には僕とリオしか乗っていない。
電車からの眺めは最高だ。
町並みが良く分かる、それに時計塔が良く見える。
青く澄んだ空が時計塔を照らし、街を彩る。
3駅で着くその場所は、まるでおもちゃ屋敷のような造りだ。
今日此処に来たのは、ここの七不思議を調べる為。
七不思議の情報を高い金で買う奴らが居る。
そいつらに情報を渡す、コレが僕らの仕事・・・というよりは、ただのお遊びに過ぎない。
そう、この仕事はほぼ遊び感覚で始めたも同然。
ここにその”七不思議”が存在するかもしれないと分かったのは、これまた特殊な体質のお陰。
っつっても、リオの体質だけど。