早とちり
歩く事約20分。
僕はやっとこさオルガの家に着いた。
歩いてくる時に色々な世間話をしたわけだが、
話の内容からするとこの女は”クルエ同盟”の幹部。
本人は隠してるようだったけど、僕には会った瞬間から分かっていた。
きっと僕を殺すつもりだろう。
だけど彼女はまだ僕の正体を知らない。
ならば存分に楽しもうじゃないか
「さ、着いたわ。ここが私の家、どう?結構趣味いいでしょ?」
彼女は冗談交じりに聞いてきた。
そこは、レンガで造られた壁に2階建ての煙突付き。
庭はまるで楽園を思い出させる。
「うわぁ・・・すごい。こんな家初めてみました・・・。」
「ふふ、当然♪」
何だかんだいいながらオルガは僕を部屋にともしてくれた。
部屋の造りもなかなか。でも何か物足りない感じがする。
そうだ、テレビが無いのだ。
テレビはクルエ同盟にとってタブー対象なのだろうか?
「あら?もしかしてテレビが無いのを気にしてる?」
・・・・結構鋭いようだ。まぁ、彼女も伊達に幹部やってないってか。
それでなきゃね。楽しく無いのは嫌いだから。
「あ、はい。何で無いのかなぁとおもいまして。無いと不便でしょう?」
「ん〜そうねぇ、でも見なくても大丈夫だから、”私達は”。」
たぶんワザとだろう。
この後僕が、私達と言った訳を聞き返すための。
じゃぁお言葉に甘えさせてもらおうかな。
「・・・?私達ってどう言う意味ですか?」
彼女は待ってました、とばかりに、顔を歪めて
「・・・・・・それはね、私は、すごい人間だって事よ。この世の中の世界中を探しても私のような”特殊”な体質を持つ人はそうはいないの。私の体質は『情報の取り合い』よ。だから、テレビなんてもの必要ない。そういう私と同じ環境に生まれた人たちと集まって出来た同盟に私は入ってるのよ、とても名誉な事でしょう?ねぇ、ゼナ君も入りたいと思わない?でも無理よ、あそこは特別な人間しか入れないとこだから。あぁ、気を悪くしないでね?ゼナ君の為に言ってるんだから。」
・・・・・・・・・・・言ってくれるじゃない。
そこまで長々と、自分は下のほうの人間なくせに、僕を侮辱できると思ってるの?
いいよ、そこまで言うならこっちからも反撃してあげる。
「・・・・・ええ、そうですね。確かに僕に特別な体質は無いかもしれません。でも、何故それが分かったのですか?僕は体質の話に関しては一切触れていないのに・・・・・。それも、オルガさんが”特別な人間”だからですか?それは、可哀想な体質を持った方ですねぇ。」
瞬間、彼女の眉間に微かに皺がよった。
僕は、楽しくて仕方が無い、なんたって人間の苦痛は僕の栄養でもあるからね。
「・・・・っ、そうね。あなたが特別な人間かどうか、知らないのに少し早とちりしてしまったわ。ごめんなさいね。」
にこり、と愛想笑いを振りまいてくる、相当キレてんな。
こちらこそごめんね?優位に立っちゃって。
「いいえ、大丈夫ですよ。でも、今度からは気をつけたほうが”身のため”ですよ・・・・。」
忠告はしたからね?これは僕のほんの気遣い。
今までだって僕は”忠告”をしてきた。
なのに馬鹿な人間たちはどんどん、僕の落とし穴にはまっていく。
そう、”早とちり”は”危険”なんだよ?
そんな事がぽつぽつあった。
この後彼女は悔しそうな顔を一瞬見せて戻った時に、一筋の汗を流しながら、今日はもう寝るように僕をともした。
僕は言葉に甘えて、借りた空き部屋に篭った。
僕の想定だと彼女はまだ僕を殺さない。
多分殺すのは、明日の夜のはず。
理由は一つ。
彼女はとっても、『早とちり』だから。