休息―ちょっとした一時―
開き直った描写切り替え
「うぅ……」
アイシアが目覚めると簡素なベッドに寝かされていた。
あたりを見回すと古びた小屋にボロボロの暖炉、壊れ立て掛けられてる椅子や机、そして頭の上にのせられていた生ぬるくなった布。
回らない頭でアイシアは思い出す、「そうか、私は気を失って……」
「お師匠様!?」
とっさに口に出して起き上がる。
そんなはずはないと頭では分かっていながら思わず口に出してしまった……まだ現実を受け入れきれていないことにアイシアは自分自身ガッカリした。
その声に呼応してかボロ小屋の扉が建てつけの悪い音をだして開く。
「気がついたのか。調子は大丈夫?」
ここ最近見慣れた顔が現れた、異国の遠い地からやってきたダイチさん……必死に頭を回転させて心のなかで呟く。
「はい、大丈夫です。これは……ダイチさんがやってくれたんですか?」
いつものようにいつもの調子で……自分は大丈夫だと思い込む。
「はは、逃げてって言われたんだけどねなんか手伝えないかと思って戻ってきちゃってね。そしたらちょうどアイシアが倒れててあわててここまで運んできたよ」
ダイチさんは気さくに笑う、また助けてもらってしまった。
なんともなさけないと思うと同時にアイシアは今まであったこともないような彼の人柄に少しばかり特別な感情を抱いていた。
もし、最初から彼と協力していたらここまで手間をかけさせなかったのではないかと思うほど、彼は頼もしく見えた。
「ありがとうございます。二度も助けていただいて……もうなんてお礼をいっていいものか……」
アイシアが大袈裟に謝ると彼は「気にしないで、僕はなにもしてないからましてやお礼なんて」といった、確かに直接的にダイチさんはなにもしていないかもしれないが私にとってこの出来事は特別だった。
そしてもうすぐメディクト王国が近いことがとても残念に感じている自分がいたことにまだアイシア自身は気づいていなかった。
よかった。
正直、とてもじゃないが女の子を一人置いていけないと思って引き返してきて。偶然、あのでかいのが倒れていたからよかったもののあのままだったらどうなっていたか……
アイシアにお礼を言われたがそれほどのことしてないんだよな。
まあ、思ったより元気そうだし良かった。
「そろそろ行きましょうか」
そう言ってアイシアはベッドから出るがまだふらついている。
僕は「まだ休んでていいよ」と彼女を無理やり寝かして、長い長い話相手にでもなってやろうかと思った。
「ところで、あの化け物はいったいなんなんだ?召喚魔法とか言ってたけど」
僕の質問にアイシアはしばらく考えていたが、ながながと説明してくれた。
彼女が言うにはあれが魔族が使役する悪魔といわれる魔製生物で普段はディアヴァルのある特定地域に生息しているが、その時々によって召喚され破壊の限りをつくすらしい。今回召喚されたのはおそらく「獣の大悪魔」と呼ばれるやつらしく、本来ならとても手に負えるものじゃないらしい。
今回は魔力を温存していたために大魔法を使うことができたことと、相手が召喚されたばかりでまだ力が安定していなかったこと、それと近くに術者(召喚を行ったもの)がいなかったためらしくかなりの幸運が重なったとアイシアは言っていた。
「なんにせよアイシアがあいつをやっつけてくれたんだしさすが第一魔導師だな」
僕がそういうと彼女は「そんなことないです……自分なんてまだまだです」と言って若干落ち込んでしまった。
しまったなと思ったが彼女は喜怒哀楽の回転が速いので様子見をしながら声をかけることにした。
オンラインゲームにもこういう子はよくいた(キャラづくりだったかもしれないが僕にとってはいい経験だった)
アイシアと今後の方針を話合うと目的地のメディクトはもうすぐ近くらしく一日そこらあれば到着すると言っていた。
それと思い出したように僕が手紙と短剣を返そうとすると彼女は「それはダイチさんが持っていてください」と言って受け取ってくれなった。
理由を聞くと、またこんなことになったら今度こそ逃げてくださいと言われてしまった。
まあ、それはいいのだが負けず嫌いの僕は「今度は僕も一緒に戦うよ」と言ったら「そうですね」と笑われてしまった。
いったい何が可笑しかったのか、僕じゃ役不足ってことか……と勝手に納得しておいた。