最後―崩落する箱庭―
「無駄だ」
僕は強くなりすぎたのかもしれない。
五人の転生者が僕を殺そうとしている……いや一緒に消えるつもりかもしれない。
けれど……もう無駄なんだ。
「ほら、どうした俺が一声話せばお前らは死ぬんだぞ?」
「だからどうした!!」
モードレッドが地面に剣を付き刺す。
「解放しろ叛逆剣!」
剣がまるで血を噴き出すように赤く染まる。
「アーサーを憎んだその怒り……僕が肩代わりしてやるよ、守り切る王への憧れと憎しみの反旗……ブレイカーボードキング・クラレン!」
モードレッドの全身をまるで鎧のように包み込む。
「貴様が声で僕達を殺すと言うなら、言葉もだせないようにしてやるよ!」
「熱くなってね……兼定、国広……頼むもう一度俺に力を貸してくれ」
土方は赤い炎にともされた、まるで血が燃えているようなそんな錯覚を覚えた。
「それじゃ……行くぜ」
「忠臣忠勝、いざ参る!」
本田忠勝はただ純粋に槍を構え突っ込んだ。
「……」
パンドラは何も言わない、ただモードレッドの怒りに呼応して自身もサポートするだけだから。
言葉なんていらないと思った。
モードレッドは、激しい剣戟で変幻自在の僕の槍をかわし僕自身を狙ってくる、もちろんそんな強引な攻めでは僕を追い詰めるのは難しいがそんな隙をパンドラの闇が襲いかかってくる、闇は物理ではとめれない。
けど、あの男から奪った武器は闇を振り払った。
だからパンドラは無視してもよかった、土方も相変わらず槍二本を相手しているが、その猛攻は槍ではなかなか防ぎきれない、時々僕自身槍を使って応撃している。
ただ避けてかわすだけ、だから勝負は決まらない、けど僕の余裕は消えている。
左腕の負傷、回答剣を使う隙のなさ……さらに身体強化の技が多く、因果剣を使うことも出来ない。
僕の弱点は消耗戦だ、一体一なら負けることはまずないただ人数が増えれば増えるほど、それは難しくなる。
お互いが消耗していく、特に具体的な理由は分からないがパンドラはすでにダウンしている。
僕も彼らに致命傷を与えられなくとも攻撃を与えられればそれで勝てるのだが……
「動きが鈍ってるぞ!」
この土壇場で土方がさらに早さを上げた。
僕は後ろに距離をとる、これ以上は手が足りない。
「ブリューナク」
パンドラに向かって槍を放つ、もちろんモードレッドはそれを助けに行くだろう、チャンスだ。
「イヴァル!」
槍男に向かって絶対死槍を投げつける、例えあの男がどれほどの強さを持っていようがアッサルは避けられない。
「くっ!」
槍男……忠勝にアッサルが向かっていく、忠勝はアッサルを自分の管理できる範囲でかわす、李の時に性能を見られたか……だがこれで一人は減った。
「きさまあああ」
モードレッドが叫び声をあげる。
「この一撃にすべてをかける!叛逆栄光!」
剣先にすべてが集束し、振り下ろすと同時にそれが放たれた。
「因果剣」
「待っていたよこれを!パンドラ!」
パンドラの箱がバラバラに弾けた。
「世界終焉」
すべての闇に染まった。
そしてアッサルとフラガラックが手元に戻っている。
「なんだこれは……」
「パンドラの隠し技……」
座っていたパンドラは立ち上がりこちらをみる。
「これはこの空間内の時間の流れをなくし、因果を断ち切る」
パンドラの動きに夢中になっている隙にモードレッドと土方がこちらへ突っ込んでくる。
「回答者よ……人はなぜこうも愚かなのか……応えよ!」
空から光の筋が彼らに向かって降り注そぐ。
「茶番は終わりだ……スローン」
モードレッド、パンドラ、土方の体は太陽に焼かれた。
忠勝はいつの間にか逃げ出したのかその場にいない。
残ったのは荒廃した街と無数の死体だけだった。
「アンサラーよ、応えろ……下らぬ遊びに突き合わせた元凶を応えろ!」
太陽の光が宙を焼く、二本の柱が隠れた元凶を焙りだす。
表れた二人の女神は、鬱陶しそうな表情で僕を見ている。
「これだけ殺せば、箱庭も安泰じゃないのかい?」
僕は馬鹿にしたように女神に告げる。
あれがモードレッドの言っていた、三女神……二人しかいないけど。
「イヴァル!ルイン!」
僕は二本の槍を女神に投げつける。
「馬鹿にすんな!」
一人はゆうにアッサルを避ける、もう一人もルインを避けるが……
代わりに地上へと落とされた。
「馬鹿な、私達の神力が斬られた!?」
髪の短いほうの女神が叫び地に落ちた体を持ち上げながらこちらを睨みつける。
「これでハンデはなしだ……ルイン」
「くっ!」
二人は慌てて体を起こしそれを避ける。
しかし、そこには用意された槍が二人の左腕をそぎ落とす。
「いたああああああああい」
「ぐあぁ」
二人の女神は腕を押えながらこちら睨む。
そして不思議な事に腕が再生していく。
「はぁはぁ」
「便利な能力だな……ウルド」
「人の身の分際で名前を呼ぶな!」
ウルドと呼ばれた髪の短い女神は叫ぶ。
「今はこんな形だが、同じ高貴な存在だろ?」
すべての槍が宙へ装填される、二人の女神の息の根を止めようとその胸元に狙いをつけて。
「だまれ!舞い込んだ紛いものの分際で」
「ルイン」
槍がウルドに突き刺さる。
瞬時に傷が回復する。
「スレイグ」
槍がウルドに……
「やめて」
「ブリューナク」
回復しきる前に二本目がささる。
「アラドヴァル」
三本目。
「イヴァル」
四本目。
「スローン」
僕は最後の槍を持ってウルドの顔に突き刺した。
ウルドはそのすべてを受けて動かなくなった。
もう一人を見る恐怖でその顔を歪んでいた。
「ヴェルダンディ」
「は、はい……お願いします殺さない」
「下らん、箱庭へ……アースガルへ連れて行け」
「で、でも……」
ヴェルダンディに槍が突き刺さる。
「いやああああああ!分かりましたいきます!」
なつかしい、光景が目の前に広がる。
僕は……
「終わらせろ、仮初の世界など」
すべての槍を手元に用意する。
「スローン」
そして僕は、町を森をすべてを焼き尽くし壊しつくした。
ヴェルダンディは悲鳴を上げていたので殺した。
彼女達の目的など知らない……知ったところで理解もできない。
終わりにしよう……
そしてその日、箱庭も僕もその存在を消した。