三日―因果剣―
僕と言う、生は終わりを告げた。
僕の体は何かに変わった、しかし僕は見えている。
それがどういう罰なのか僕にはわからない。
「どうしたのですか?こんなところまで」
アイシアが居る、けど僕の声は届かない。
僕じゃない僕が何かを言っている。
「君が好きなんだ」
え、なんなんだ、なにかが聞こえた。
僕がずっと言おうと思っていたセリフだ。
ちゃんと言おうと思っていた。
「と、突然なにを……」
アイシアは戸惑っている。
「今言わないとずっと言えない気がしてさ……ちゃんと言いたかった」
「そんな……そんなの……」
アイシアは泣いている。
その涙の意味を僕はしらない……
距離が近すぎて忘れていた、感情を……
「迷惑かな?」
「そ、そんな……ことないです……うれしくて……」
「じゃあ!」
「今更遅すぎですよ」
アイシアは笑っている、僕じゃない僕に……
おかしい、アイシア気付いてくれそいつは僕じゃない。
僕じゃない僕とアイシアは口づけをした長い長い口づけを……
今の僕に心があるか分からないけどなにかが失われて壊れた気がした。
声がする……それはお前が弱いせいだ……そうか僕が弱いせいか……
そうか……悲しいはずなのに涙は出ない。
その夜アイシアはその男に抱かれた……けどなにも感じない……
眠くなってきた……寝よう、そうしよう。
「おはよう」
僕の前にもう一人の僕が立っていた。
こいつの存在は見当が付いている。
「おはよう……」
転生者……僕もそうだったのか……
なんとなく、槍男が僕を本気で殺そうとしなかった理由が分かる。
待っていたのか、僕がこうなるのを……
モードレッド達があれ以降接触してこないのは待っていたのか……
じゃあ、僕はいらないのか……
「そこで見つめ続けろ。お前の弱さを」
もう一人の僕が言う。
「見てるさ……」
乾いた笑いがこみあげてくるが笑えない。
「おいおい、もう意気消沈か?俺はお前に望まれて出てきたんだぞ」
僕は笑っていた、自信に満ちた表情で僕はどうだろう……どんな顔してるんだろう。
「もういい、二度と話すことはない。さよならだ弱き俺よ」
そう言って、僕は消えた……視界が明るくなる。
となりにアイシアが眠っている、エリは母親の部屋にでもいるのだろうか……
皆が皆僕を僕だって気がつかない……けど代わりの僕は僕よりうまく僕を演じてくれる……それでいいんだ。
「くっそ!おっさん」
「わかっとる」
刀男ともう一人と接触した。
けど今の僕は負けなかった。
武器なんて必要ないのか、素手で二人を相手にしている。
「お前、前のやつじゃねーな」
刀男が肩で息をしながら問いかける。
僕は笑っているのだろうか。
「前?昔から僕は僕だ」
「はっ!よくゆーぜどこのどいつだかしらねーがよ!」
刀男は呼吸を落ち着けているのか、いつになく冷静に話す。
「俺の名前は土方……土方歳三……名乗ってもらおうか化け物!」
「僕は、天海大地だよ」
「しらばっくれんな……ころすっきゃねーな。和泉守兼定……堀川国広……よ。俺を守り俺を勝たせろ!」
土方と名乗った男が真っ赤に染まる……モードレッドと戦った時以上だ。
「楽しいね……そっちの人は?」
僕はもう一人の男に問いかける。
「わしは、平和にいきるつもりじゃったんだがな……」
男は構えをとり手の平をこちらに向ける。
「本気で行くか……わしは李書文……だが名を聞いたということはもう貴様に生はないぞ」
李と名乗った男が地面を一蹴りすると僕の余裕の顔が消えたみたいだ。
土方が無言で切りかかる、かなりの早さだ。
李もすぐに追撃を刺せるように後ろに僕の後ろに飛んでいる。
「波!」
僕に李の攻撃があたる、すさまじい衝撃が体をかけぬける。
骨が折れたのか、体に力が入らない。
土方に体を刺される、そして切られる、切られる、切られる。
僕の体はまるでボロ雑巾のようにぼろぼろになっている。
二人は僕の様子をみて後ろに距離をとった……けど僕は僕だから知っている……こんなこと無駄だって。
「くたばったか……」
「さすがに普通の人間なら死んでおるじゃろ……普通なら」
そして不気味に笑いだす、僕。
「なあアンサラーよ、なぜ俺は笑っているんだ?答えを教えてやれ」
その言葉により、僕の体はまるでなにもなかったかのようにすべてを綺麗に消した。
土方も李も目の前の現象に一瞬目を疑ったがそれを気に留める余裕もないと判断したのか即座に攻撃に移る。
だが……
「なっ!」
土方の二振りの剣戟を宙から湧いた二本の槍によって、それを防いだ。
すかさず李が攻撃を加えようとすると一本の槍が李に向かって飛び出した。
李はその槍を華麗な動きで避けるが……
「やるな、だがイヴァル」
すると避けたはずの槍が再度、李に向かって飛びつく、そしてもう一度避けたように見えたのだが……
「なぜだ……」
李の体には峰ばったやりがしっかりと突き刺さっていた。
「化けもんが!」
それでも李はそのまま僕に殴りかかる、僕は普通に左腕で防御するが……わずかな衝撃が腕に走り左腕が動かなくなった。
「化けものはどっちだ、アスィヴァル」
槍は李の体を突き抜け、また宙へと消えていった。
李の体はそのまま地面におち動かなくなった。
土方は、槍二本に苦戦している、片方の槍は五尖槍でもう片方は赤黒い不気味な槍だ。
「鬱陶しい!!」
おそらくただの人間なら何人束になってもかなわないであろう土方の攻撃は二本の宙に浮いた槍によって阻まれる。
その時、空から声がした。
「うらららら」
槍男が脳天目がけて、槍を振りかざしたが僕はもう一本の槍を宙に置きそれを防ぐ。
槍男はその勢いのまま距離をとって、こちらを睨んでいる。
「目覚めたと思えば今度は殺し合いかい、坊や!」
槍男はそう叫んだ、僕はそれを聞いても何も感じていない。
「だんまりかい……まあいいや殺せばだんまりは変わらん!」
槍男と土方、二人の強豪を相手に僕は余裕で相手をしている。
しかも、僕の記憶を見れば槍はあと二本ある。
遊んでいるのだ僕は……
「おいおい、こいつは厄介だな」
槍男は、攻撃をやめて睨んでいる。
同じように土方もかなり引いている。
そこへモードレッドとパンドラが登場した。
「何事だこれは……」
モードレッドはいきなり剣を抜いているが震えている。
「ば、馬鹿な……パ、パンドラ退くぞ!」
そう言って二人は即座に僕の前から消えた、それを見て槍男も土方も消えた。
「つまらん……」
そうつぶやいた僕は本当につまらなそうだった。
僕は左腕を押えながら、家へと帰宅した。
家に着くとアイシアに心配されたがエリは僕を避けるように母親の裏に隠れてしまった。
僕はエリに話しかけるが怯えているのか逃げる。
その夜も、アイシアと寝た。
僕も寝た。もうなにもかんじない。
そして、僕は出会ったおそらく最強であろう相手に……
斧槍を振り回し馬を駆る、男……
無言で槍を打ち合う、片腕な分僕が不利なのかもしれない。
男はどんな攻撃も対応してくる、例え槍を飛ばそうが。
僕はあの槍を使わないで戦っている……と言うより楽しんでいる。
相手の男は強かった、宙に槍を出すだけでは防ぎきれぬ一撃、圧倒的身体能力、僕でも反応が出来ない。
僕の攻撃は弾かれ男の鋭い一撃が頬を掠める。
だが笑っていた……僕も男も……
「死ね!イヴァル」
男に絶対死の攻撃を加えるが、男が叫びをあげると槍はその場に落ちて止まった。
「化けもんが……アスィヴァル」
槍は僕の近くまで戻り宙に消えた。
どうやら相手にはこういった能力を消せるらしい。
いよいよ僕はつみだ。
あとは消耗して死ぬのか。
妙に落ち着いていて他人事に思えた。
「覇王絶唱・絶比無双」
男の一撃が離れた距離の僕に、向かって飛んでくる。
だがこうなったら男の負けだ。
「今だ、因果剣その力を消し去れ」
短剣をかざすと僕は男の心臓をえぐり取った。
男は武器を構えたままそこで死んでいた。
勝ってしまったのだ、僕は……
「神は死なない」
僕はそういうと男の死体から武器を抜きとった。
もし男が大技をださなければ僕は死んでいたはずだ。
そういう武器であり技なのだ。
「これであと……五人……」
僕は笑っていた。