解放―終焉へのカウントダウン―
「殺人者?」
「そう、殺すことに特化した化け物集団が僕らだ」
モードレッドは剣を抜き空を睨み始めた。
「そして……」
モードレドは空に剣を構えると次の瞬間なにかがそらから降ってきた。
鉛同士がぶつかり合いすさまじい音が辺りに響く。
暗闇の世界を明るく照らすほどだった。
「ありゃ、ばれてーら」
降ってきた男は、その状態から飛びあがり地面に綺麗に着地した。
「よう、負け犬ども」
「パンドラ!範囲を広げろ」
「わかった」
モードレッド達から距離が広がり、闇が広く深くなった気がした。
「随分逃げ腰じゃねーか、リのおっさん!」
男がそう叫ぶと、パンドラの悲鳴が聞こえた。
「煩くてかなわんな」
「パンドラ!」
モードレッドが叫ぶ、パンドラはもう一人の男に蹴り飛ばされていた。
「くそ!」
「いかせねーぞ!」
モードレッドの往く手を男が阻む。
「どけえよ!叛逆剣」
剣が赤く発光し、モードレッドの体を包み込む。
瞬間、人とは思えぬ動きで男を蹂躙する。
「まじかよ!」
男はモードレットの激しい動きについてはいってるがとても長く持つとは思えない。
「はははは!たのしくなってきたじゃねーか」
突然、男が笑いだし刀を鞘に収めた。
「どうした怖気付いたのか!!」
モードレッドはお構いなく、男に切りかかる。
男が切られそうな瞬間、男は目にもとまらぬ速さで刀を抜き、モードレッドを吹き飛ばした。
「叫べ、カネサダアア!!」
男の刀が光を放ち、吹き飛んだモードレッドに追撃を加えに飛んだ。
モードレッドも空中で体勢を立て直し男の刀を受け止める。
そして、モードレットの素早い攻撃より早く、男は刀を振り抜く。
さきほどと変わり男の動きがモードレットより早くなったように見える。
次々と、ぶつかり合うがモードレッドのほうがダメージを受けているように感じる。
しかし、モードレットが男の刀をはじいた時に大きな隙が出来た。
「うおおおお」
思いっきり剣を振り男のわき腹を狙う……
「甘え」
男は素早く脇差をモードレットのわき腹に突きさす。
そして剣を足の裏で受け流しそのまま距離を話した。
「勝負、ありですな」
もう一人の男がモードレッドのほうにゆっくりあるいていく。
「戦いから逃げたものに未来なぞないわい」
男がモードレッドに止めを刺そうと、腕を上げると。
大きな雷が暗闇の空間を照らした。
雷が落ちた地面には馬に乗った男がそこにいた。
男の登場に刀男ともう一人は距離をとってそちらを睨みながら身構えた。
「脆弱」
そう聞こえた気がした、馬に乗った男はなにか武器を天に掲げると闇の空間は消え去り、光っていた刀もすべて普通に戻った。
「牙襲・方天戟」
そして男がそうつぶやくと秋葉原は廃墟と化した。
まばゆい光が僕達を包みすべてを飲み込み蒸発させた。
残ったのはただの平地だった……そこには何も残らなかった。
僕は強い打撲と、細かい外傷は多かったがなんとか生きていた。
どうやら、技自体に攻撃力はなかったようだが……消えた秋葉原を見て、僕はこれまで起こったことが現実だということを改めて実感した。
朝、慌ててホテルまで戻ったがなんとかホテルは無事だった。
けど宿泊客のほとんどが一斉に帰ったせいか、大騒ぎで僕は自分の部屋に戻った。幸い魔法は使えたから多少無理はできた。
しかし、こっちの世界に戻ってきてから自分と言う存在が分からなくなってきた。あっちの世界はまるで自分が中心のように世界が回っていた……けどあれはそういう夢物語だった。
だからかもしれない……
「ただいま」
僕達は僕の家に向かった。
ここは都心からも離れているし割と安全なはずだ……
母親はアイシア達を違和感なく受け入れてくれた。
そして僕は、すぐに家をでた。
アイシア達には適当な理由をつけて……彼女らの近くにいると巻き込んでしまう恐れがあった。
そしてその予想はすぐに当たった。
だれもいない、路地で正体不明の敵に襲われた。
敵は数本矢を射るとどこかへ行ってしまった。
これでモードレッド、パンドラ、槍使い、刀使い、もう一人の男、馬に乗った男、弓を打った奴……これで七人か……家で考えよう。
「こっちの世界はもっと大変なんですね……」
アイシアはエリと一緒に布団に寝そべっている。
「ああ、もう訳がわかんないよ……」
アイシアに昨日の出来事をアースガルの事以外を伝えた。
結論としては、僕に出来ることはもうなにもない。
ただただ、巻き込まれないように祈るだけだ。
そう、巻き込まれないように……
しかし、そんな願いは叶わなかった。
「なんなんだよ!」
次の日は朝から襲われた、多種多様の重火器で武装した基地外みたいな女だった。
何も話さず、次々と重火器を乱射している。
壁を盾にして避けるが、どうあがいても無傷ではすまない。
「風神絶技・神風」
久々に魔法を使った、少し心配だが威力はそこそこで攻撃することができた。
女は、驚いた様子で隠れたがすぐに姿を消してしまった。
そしてもう一人の転生者を見たのはテレビだった。
渋谷の中心で、気味の悪い虫を使役していた。
これで九人も転生者が居たことになる……あと何人いるんだ。
エリはすっかりこちらの世界に怯えてしまった。
これが事情を知っているものの恐怖か……
そしてなんだかんだで一カ月経った……
相変わらず、恐怖に怯えて暮らしている日々だった。
なんでだろう、アースガルじゃ死ぬのなんて怖くなかった。
けど、こちらの世界じゃ怖くて怖くて仕方がない。
恐怖が溢れてくる、理由なんかしらない……けど、このままアイシアとエリと暮らせれば……いや暮らした。
そのためには生き残らなければいけない。
「よう!死ねや!」
「くっ!」
いつのまにか巻き込まれる日々だ。
「なあ、終わりにしようや……唸れ!蜻蛉切」
どういう理論かは分からないがやつの槍はいきなり伸びる。
しかし、モードレッドや刀男のような身体的強化はないようだ。
それでも、こいつは手ごわい……何よりリーチの差が勝敗を分けると言っても過言ではない。
僕は受け切るので精一杯だった。
「チッ!」
だが、ある程度時間が経つと必ずどこかへ消えるのだ……
どんなにこっちが不利でも、理由は分からないが何者かに呼ばれている……そんな感じだ。
重火器女もそうだった、ひたすら攻撃してこちらが反撃すると逃げるのだ。
理由は分からない、それでも堪ったものじゃない。
そして遂に最凶の恐怖と出会ってしまった……
僕の家の近くでテレビで見た虫が確認されたらしい。
避難勧告が出ていた、僕らも母親を連れて逃げなければならない。
けど僕は奴と会わなければいけない。
それが運命なんだろう……
「やっと君と対峙できたか」
男は黒いスーツに身を包んだ外国人だった。
「自己紹介しよう、僕の名前は……ハワード・P・ラブクラフト……世界に恐慌をもたらし僕自身が僕がもっとも敬愛する神によって救われることを望んでいるものだ。さあ自己紹介も終わった君はどんな絶望を僕に見せてくれるのか……楽しみだよ!!!!」
男は持っていた本から次々と虫を召喚する。
虫は十や二十なんてものじゃない……
「風神絶技・新風」
僕は精一杯の魔法で虫を片っ端から殺し続ける、虫は緑色の体液をまきちらしながらどんどんと死んでいく。
そしてそばからどんどん増えていく……
「いいぞ……もっともっと死を……僕に死をくれよ!!!」
僕は次第に疲弊し、恐怖を感じ始めていた。
無数に表れる虫、止まらない笑い声。
人は避難できたのか……みんな逃げれたのか……
「やっぱダメだな……変な正義感が出ちまうよ」
僕は直接、ラブクラフトを狙いに行く一番の大技で……
「いくぞ!風神覇王・大和」
最大魔法、小さな竜巻を無数に合体させ天まで届く巨大な風の渦を作りあげてもっとも排除しなければいけない、男を殺すために。
「いいぞ!」
奴は笑っている、逃げる気もないようだ。
男は竜巻に巻き込まれ、周りを壊しながら竜巻は消えた。
もし直撃で生きていても巻き上げられて生きていられるはずがない。
そう思っていた……
「すばらしい、ブラボーブラボー……さすが、僕達と同じ世界を生きただけはあるね……でもね、君が恐怖を感じている限り僕(恐怖)は残りつづけるんだ……残念だね」
男はまた無数に虫を生み出し、こちらへ近づいてくる。
「おいでイス……」
男がそういうと重火器女がラブクラフトの側に表れた。
「初対面ではないだろう?イス(もっとも友好的な生物)は僕達に興味がおありでね……だから単独で調査してもらっていたのだよ……そしてついに僕達のお仲間の死を御覧入れられる」
男は深呼吸するととてもうれしそうにしかし囁きかけるような声で優しく頭に響くように……
「でも安心してずっと君の魂はここにいるからね……神の餌として」
ああ遂に死ぬのか……
しにたくねーな……なあ……死にたくねえよ。
なんでだよ、こんな一方的に……いや首突っ込んだのは俺だけどさ……
けどこれってないんじゃないの?
ねえ、神様ってやつがいるならさ奇跡ってやつをくれよ……いいだろう一度くらい……勝ちてえんだよ!
「なら、お前の体をもらおう俺のためにな……」
口が勝手に動いた……何かが僕の中にいた。
剣が……まるでメッキがはがれるように別の剣へと変化した。
「なあ、太陽はなんであるか分かるか……」
「ん?いや知らないね。まあ太陽も人が忌むべきものの一つだからね僕は好きだよ」
「そっか、じゃあ焼かれて死ねよ……回答者よ、この愚かな者に救いを忌むべき太陽の存在の答えを!!」
空が晴れ、太陽から一本の筋がラブクラフトにへと降り注ぐ。
「はああああああああああああああああああああああああああ」
ラブクラフトは全身を焼かれ、その身を焦がした。
「闇を払うために太陽はあるんだ……スローン(さようなら)」
イスと呼ばれた女が、こちらに銃を向ける。
「主が死してもまだこちらに敵意を向けるか……灼熱槍」
僕が唱えると、どこからか槍のようなものがイスに向かって一直線に飛び抜ける、イスの身は大きな風穴を開けて蒸発した。
「一日に二度もさようならはいらないだろ」
こうして、僕は僕じゃなくなった。