転生―選ばれた者―
「母さん……え、あどうしたって……いや別に……明日帰る用事で……うんじゃ」
携帯をしまう、アイシアとエリはその光景に驚いていた。
電話と言う存在は彼女達にとって未知との遭遇だろう、僕だってあっちの世界を体験しているから分かる。
移動してきたのは異世界だが、正直タイムスリップでも変わらないだろう。
それでも……二人が一緒に来てくれたことは救いだ。
これもあの変な物の気まぐれのおかげか……この腕も……
両腕がある感覚なんていつ以来だろうか。感謝すべきなのか憎むべきなのか……
「これからどうしましょうかダイチさん」
久しぶりにアイシアの顔が見れてうれしい気持ちになってくる。
いい方向に考えればエリとアイシアと僕で新しい生活を出来る……
そういうのもいいんじゃないかと思い始めた。
「しばらくはこちらの世界で生活しよう」
今はこう言うしかない、だけど戻る方法なんてない……
「そうなんですか……兄様やアルラスカのことが心配ですが……今は仕方ないですね……」
「げ、げんきだしてください」
エリがアイシアを宥めている、アイシアは元気そうに笑い始めたがいいのかそれで……
「服でも買いに行くか……」
「やったー」
「いきます」
しばらくはこの環境に慣れてもらわなければいけないからな……
「ふう……」
すっかり買い物に白熱して時間が経ってしまった。
アイシアもエリも眠っている疲れたのだろう、異国の地で好奇心の目にさらされることは疲れるからなきっと。
僕は気分転換のために外をぶらぶら歩いていた。
久しぶりのこの空気、すっかり森林や平地になれてしまったからかコンクリートが心地よく思える。
地に足がつくとはこういうことか……なんて。
「見つけた」
突然声をかけられる、後ろから。
もう終電も走ってないような秋葉原で人違いはありえない。
「なんのようですか?」
相手は答えない、コスプレの話題をSNSで見てきた野次馬か……?
だが僕は着替えているし、なによりこの時間だぞ。
「そうか、まだ知らないんだな……なら」
相手はいきなり槍のようなものをこちらに突き付けてきた。
僕はなんとか反応してぎりぎりで回避した。
「この俺の刃を避けるとは……良い目をしている……だが……」
男は突きだした槍を思いっきり振り回す、僕は体を地面につけてそれをかわし距離をとる。
「距離をとったな!!」
男がそう叫ぶと、持っていた槍が長くなった気がした……いや実際に長くなったのだ。
「魅せろ!蜻蛉切」
僕は思わず剣を抜いた、その得体のしれない槍は剣に弾かれ男の手に戻った。
「これをかわすか……異国帰りとは恐ろしい」
男は、槍を収め一礼をするとビルの合間を飛び交いそのままどこかへ去って行った。
「なんだったんだ……」
僕がそうつぶやくと、今度は目の前に人が降りてきた。
「その問いには僕が答えましょう」
普通の青年だった……携える剣さえなければ……
「事情を教えるなとは僕は言われていない、それに……」
青年は思い出したように笑うと、もう一度言葉を紡いだ。
「同じ体験をした人を放っては置けない」
「一体どうゆう……」
青年はいきなり剣を突きだした、間一髪のところで止める。
なんでこっちの世界の人間のほうがこんなに激しいんだ。
「一応、生きてこっちの世界に戻ってこれているだけ……はありますね」
青年は余裕そうな笑みを浮かべている。
「頼む、事情を説明してくれないか……」
僕は頭がパンクしそうだった、なんでもいいから教えてほしかった。
「なら教えます。おいでパンドラ」
青年が呼ぶとパンドラと呼ばれた者が青年の後ろからひょっこりと表れた。
表れたのは長い黒髪に背の小さな女の子だった。
その子は、ぼそぼそと何かを呟くと突然、宝箱のようなものが出現した。
それと同時に宝箱が開き、黒い霧が辺りを包む。
真っ黒な空間が周りを飲み込んだ、あるのは青年と少女それと僕だけだ。
「さて、事の始まりは君も知っているアースガルの歴史に遡る。あの国はこの日本と言う世界の裏側にある世界だ……アースガルは楽園……つまりこの世界での死はアースガルへの旅立ちと言われている」
「つまり僕は一度死んだのか?」
「そう、焦らないでください。今はアースガルと言う世界の認識を確認しているだけです」
「アースガルは死後の世界って事だろそれは分かったよ」
「はい、理解していただけたようで……ではなぜあなたがアースガルに贈られたか……本来であれば異端者としてアースガルから追い出されるはずでした、しかしあなたは興味深い事にNPCとの友好を結びつづけた、それは異端者としての特権ですがね、それでも今まで存在し得なかったパターンだ」
「なんだそれ……まさか本当にあれはゲームだったのか?」
「ゲーム……僕もそう認識するように言われました。まさにゲームなのです」
「言われた?あの煙みたいなやつにか?」
「違います、良く言えば先輩……悪く言えば敵ですね」
「敵?」
「結論から言えば僕達は選ばれたのです。十人の選定者……訳のわからないアースガルという箱庭に閉じ込められたプレイヤー……それが僕達」
「意味がわからない、あれは現実だった」
「そう、アースガルは死後与えられる第二の人生。箱庭で人間は新しい人生をもう一度行い、死んでアースガルの魔力へと還元される。それが人間が転生させられる理由だ、アースガルを維持するために人間はどんどん還元され魔力になるようなサイクルが出来ている」
「それが、理由……じゃあ君達は?」
「僕達は選定者、あなたが出会ったアイシアと言う少女、僕も出会った彼女も……少女を救い国に送り届けるそこからは自由だ。僕は彼女を送りとどけたあと騎士の国に行って騎士になった。彼女は遺跡を巡り考古学者に、他の八人もそれぞれ自分の生きたいように生きて十年経った……そしてあいつは表れた「現行神ヴェルダンデイ」……あいつはこの世界とアースガルを結ぶゲートを管理している……そして「過去神ウルド」彼女の力により僕らの歳は戻された。そして「未来神スクルド」によって心身を正常に戻された」
「ウルド?スクルド?」
「そう、彼女達はアースガルを管理する三人の女神。空間を司るヴェルダンディ、時間を司るウルド、現象を司るスクルド……」
「そう言えば向こうの文献で見たな……まてよ魔力に還元したいなら選定者とは?」
「選定者とは、効率よく魔力を集めるための……この世界で人を殺し、向こうに魂を送るもの……」
「え……」
「僕達は選ばれた殺人者だ……しかもただの殺人者じゃない特別に選ばれた殺人者だ……」
「選ばれた、殺人者……?」
「そう、僕の名前は高橋礼二……開放名は裏切騎士だ」
「私は、最悪箱」
「モードレッドとパンドラ……?」
「僕達、選定者は神話や歴史の魂が転生したものだ。強大な力と傲慢な意思を持った殺人者さ……」