再開―故郷アルラスカ―
「てやぁ!」
しっかり、魔物の首筋を捉え、的確な一撃を入れていく。
「おいおい、また依頼書の改ざんかよ……」
後ろで、同じように魔物の相手をするアレスターがぼやく。
僕とは違い剣ではなく弓で敵を相手にしている、器用なものだ。
「確かに、依頼書の内容は付近の村の警備としか書いてないがこれも含まれることは今更だろ」
「そーだけどよー」
アレスターは納得できないと言った感じだ、それもそうだろう。
護衛と聞けば魔物ばかり、警備と聞けば魔物ばかり……今更慣れっこだが魔物がでるならでると教えてほしいものだ。ただでさえ、魔物の生息範囲が曖昧なご時世だ……依頼主が最初から魔物と書いてくれればこちらのほうで、ある程度警戒もできるのだがな……魔物を含むと依頼料が跳ね上がるから仕方がない。
「こっちは粗方片付いたかか……」
「まー魔物程度なんでもないけどな」
僕と、アレスターは辺りの魔物から使えそうな素材を拝借している、お金も稼げるし新種ならギルドに報告すれば、国で登録してくれる。
「ちゃっちーな」
「ウルフ系ならこんなものだろ……それより数が増えているのが気になるが……」
僕たちが素材を確認していると、唐突に爆発音が辺りに響く。
その方向へ視線を向けると、見なれた女二人が小龍に追われているのが見えた。仕事が増えるが致し方ない。
僕はアレスターに合図すると彼はやれやれと言った感じで矢を一本放ち、それは綺麗に小龍に直撃した。
最近、出現するようになった竜族の小型の個体で、小龍と呼ばれる種類だ、大きくなれば、固定の種類として分類されるが、基本的に小龍は小龍として扱われる、小龍に種類はないのだ。
戦いなれた、僕たちでさえ小龍が成長してなにになるかなんて分からない、小龍はみんな灰色っぽく四足で鎧のような皮膚に棘が生えている……という共通した特徴があるため、細かく分類することはしないでいる。
しかも、竜族はすべて捕獲しなければいけないため骨が折れる。
「ナイスショットじゃん」
僕の仲間の一人「ヨミ」がアリスターに言い放ちながら僕たちの横を走り抜ける。
「疲れた。後お願い」
もう一人の仲間の「フィリア」もそう言い残しながら、横を通り過ぎる。
「任せろ」
僕は左手に意識を集中して、剣に力を込めると淡い緑の光が左腕を取り巻き始めて風のようになる。
「風剣絶技……竜巻剣舞」
振りかざした剣から無数の風の衝撃波が小龍に向けて放たれる、小龍は一瞬怯んだように見えたが構わず衝撃波へと突っ込んでくる。
接触した、小龍の大きな体は簡単に空へ舞い上がり落下して地面にたたきつけられた。
小龍は「きゅあぁ」と言いながら静かに眠りについた。
あらかじめアレスターも睡眠毒を塗ってもらった矢を入れているためダメージにより体力が消耗して簡単に眠ってしまったのだ。
しかし、これだけ大技を打たないとどうにもならない小龍の存在には頭を抱える……ほんの昔はそんなでもなかったのだが。
フィリアとヨミが戻ってきた、ヨミは額に汗を浮かべて肩で息をしている、反面フィリアは疲れた様子もなく平然としている。
「ずるいのよー」
ヨミは上がった息を整えながらもため息を吐くようにそういった。
「実力の差、当然」
「フィリアちゃんが異常なだけです……」
まあ、僕自身フィリアの魔導師としての能力はとても高いと思うし、味方で良かったと思う。ヨミだって身体能力は高く魔法もそれなりに仕える、アレスターだって僕と古い仲だが実力は折り紙つきだ。
彼らは僕の大切な仲間だ……
――――酒場でマスターに報告をした後に戻る。
「これからどうすんだダイチー」
リリーナを酒場を離れると、アレスターが意一番に聞いてきた。
「うん、僕もアベルに呼ばれてるからいかなきゃね」
王宮には戻りたくない……だからここ数年、帰らずに旅をしてきたんだ。
だが……一つの区切りか、そろそろ会いに行っても罰は当たらないか……
「ってな訳で、みんな短い休日が出来たぞ」
僕は彼らにそう言った。
「あたしも故郷に帰ってみるか……」
「私。ダイチついてく」
「俺も森に帰るかな」
「ま、まてまてフィリアも一回帰っとけよ。すぐ連絡するから」
「う……すぐ会いに行くから」
やれやれ……長々と冒険してきたんだ、故郷に帰るのもいいことだな。
フィリアは……すぐ来るだろうけど、まあ帰ってすぐ終わらせればややこしくはならないだろう。
「じゃ、俺はしばらくダイチと同じ方向だな。じゃーなーお二人さん」
そう言って、アレスターは僕の肩を組んで、そそくさと馬車乗り場まで連れてきた。
「ダイチは優しいからまた出かけるのが遅くなっちまうぞ」
「ありがとな」
「いまさらだろ」
アレスターは笑って答える。
僕たちは、アルラスカへ向かう馬車に乗り込むとすぐに眠りにおちた。
「ついたぜーダイチ」
アレスターに起こされ、目を覚ます。あのころとほとんど変わらない城壁がそこには立っていた。
「もう七年ぶりか……」
アレスターが懐かしそうにつぶやく。
僕は窓からゆっくりと眺めながらその門をくぐった……
もう七年とアレスターは言ったが僕にとってはもう十年になる。
思い出したくもない、けど忘れてはいけない過去。
十年前のあの日……僕が腕を失った日……
あの日から……
「御帰り!」
王宮に着くと、アベルが一番に迎えてくれた。
久々に会ったのだが、相変わらずの整った顔に髭まで生えてずっと男らしくなっていた。
「お久しぶりです……義兄さん(にい)……」
「お久ぶっりっすー王様」
「おお、アレスターも元気そうで」
僕たちは簡単に挨拶をすませると、アベルの部屋に案内された。
アベルの部屋は余計なものが一切ない簡素な部屋だった。
ただ、写真立てが伏せられており、それは触れてはいけないことだということは分かる。
「いやーすっかりお前たちの噂は耳にしてるよ。今は竜退治だっけか?」
「ま、そんなとこですね」
「そうかそうか……あれから色々あったな……」
僕が腕を失ったあとの話だ。
あの後アレスターによってエルフの森のエルフ達が一斉に救助にきてくれたらしい。エルフ達は、身体的にはボロボロだったが精神的には大丈夫だったそうだ……これは直接聞いたわけじゃないがアレスターが聞いた話では人間に復讐を誓って耐えたものとアレスターの妹……名はチレル……そのチレルが率先して心を支えられていたものと分かれていたらしい。
エルフ達は救出され、僕とアイシアもアルラスカの方へ送られたのだがアベルが会った時にはアイシアの心はすでに壊れていたらしい。
アレスターも何があったのか詳しくはしらない、ただ僕のショックで激昂し大魔法を連発してそこから反応がなかったそうだ……結論として、大魔法を使い続けた結果の精神負荷によるものと診断され、そこからずっと王宮の自室に軟禁されている状態だ。
一日中空を見上げて、なにもしゃべらずなにも食べない。
最近じゃすこし改善されてきたとアベルの手紙に書いてあったが……
僕はそんなアイシアの姿に耐えきれず、三年間リハビリも込めて修行し続けた……ただ心を紛らわせるためにそして三年目正式に騎士になったと同時にこの国を出てリリーナへ身を置いた。
その時、アレスターも一緒についてきた、そこからただひたすら強さを求めて仕事をしつづけた、活動範囲は土地勘がなかったから広くはなかったが、そして最初に出会ったのがフィリアだった。
フィリアは考古学者でたまたま、神の封印されし場所を訪れた時に出くわした、出会った当初は男性恐怖症とかで苦労をしたが共通の目的のために旅をするうちに慣れたおかげか少なくとも俺やアレスターには心を開いてくれている。魔導師としての腕も一流で、独学で南の国で魔法を極めたらしくなんでも特殊魔導官とかいう役職をもっているらしい。
そのあと出会ったのがヨミだ、なんでも竜族の研究をしているらしくたまたま僕らと仕事がかぶりそこから行動を共にしている。
すぐれた身体能力と一流の近接の腕を持ちながら魔法も扱える強者なのだが人付き合いが苦手で孤独でいることを自分に強いていたが……今じゃアレスターに毒吐きまくっているうちの仲間だ。
気がつけば、十年の歳月がたっていた……もちろん俺がこの世界の人間じゃないと気付いているのはアベルだけだ……いずれは必ず原因を確認するつもりだが……
「今日は会っていくだろう?」
「はい」
アイシアの顔が浮かぶ、今度こそ彼女を……