始動―第二章―
未来編突入。
商業国家メディクト……貿易とギルドで財をなす、夢のかなう国……
冒険者を夢見る、若者は名を上げようとこの国に集まる。
大抵の者は、夢をかなえる前に挫折するか冒険者を続けて、安い酒をあおりつづけるか……成功者はほんの一握り。
そんなメディクトの噂の花となるギルドが一つ存在する。
ギルド・リリーナ……ここ数年飛びぬけて実績を積み続けている王手ギルド。
そのギルドのエースを担うのが隻腕の剣術師……その名も……
「おいおい聞いたかまた隻腕がやったらしいぜ」
「またかよ……もうあそこのギルドしかないんじゃないかってぐらいの活躍だな」
多くの人が溢れかえるメディクトで今日も商人達が噂をしている。
噂は風に乗り、国中でしらないものもいないほどだ……
それもその筈、そのギルドの噂は国外にも広がるほどなのだから。
「おつかれさまでしたー」
人が溢れている酒場のカウンターで一人の男が人数連れの男にそう告げる。
男の言った言葉には少々小馬鹿にした意味合いも含まれている。
「おいおい、冗談きついぜマスター」
小馬鹿にされた男は、そう言いながら乱暴に席に座る。
「そうそう。このところ、魔物退治や小龍の退治ばっかで割に合わないっつーの」
男の隣に銀髪で長身の男が同じように腰かける。
「非効率、私達じゃないと。狩れない」
青いショートで無愛想な女も同じようにカウンターに座る。
「まあ、いいじゃないですか食いっぱぐれないのは平和の印ですよ」
長い黒髪の女がその隣に座る。
「お、おいあれ……隻腕とその仲間じゃねーか」
「ほ、ほんとだ依頼が終わって戻ってくるってまじだったのか」
彼らの周りがガヤガヤと騒ぎ立て始める。
「おやぁ?これはうるさく鳴りそうですね」
マスターと呼ばれた男は食器を拭く手を止めると、無言で彼らに下に行くかとジェスチャーする。
彼らは何も言わずに、やれやれと言った感じでマスターの後を付いていく。
案内されたのは、昔懐かしい作戦会議室と呼ばれた場所だった。
「改めて……お疲れ様です皆さん、今回はどうでしたか?」
全員が席に着くのを確認すると、マスターは彼らにそう問いかける。
彼らの反応はすでに分かっているがあえて聞きたいと言った感じだ。
「どうもこうもねーよ、まーた依頼書ミスかと思ったわ」
銀髪長身の男はだらしなさそうに座りながら、そう答える。
「ミスすんのはあんただけでしょ……」
黒髪ロングの女は武器を大事そうに手入れしながら先ほどの男に向けてそう言い放つ。
長身の男は「そ、そんなことねーよ」と言いながら額に汗を浮かべていた。
「フィリアちゃんはどう思ったの?」
黒髪の女は隣で無愛想に座っている女に問いかける。
「別に。負けない、私強い」
フィリアと呼ばれた女は、表情を変えずにそう言い放った。
「まー負けないのには賛成だけどねー。そんなことよりリーダーしばらくお休みって本気なの?」
短い黒髪の男に向かって、女はそう問いかける。
男は表情を強張らせながら……でも至極真面目にこう言った。
「だって、お家に休業してしばらく滞在しろって怒られた……お家怖い」
その言葉に一同が大爆笑を巻き起こす。
「おいおい、あんな化け物退治しているリーダーの怖いものが家って……」
「ほんと、あなたって面白いわ」
黒髪の女と銀髪の長身は腹を抱えて笑っている。マスターもつられて笑っているが、リーダーと呼ばれた男は、真剣に悩んでいるしフィリアは本を読み始めた。
「あー、ヨミもアレスターもうるせえーマスターもついでに笑ってるんじゃないよ!」
この何とも言えない雰囲気のパーティがギルドリリーナのナンバーワンパーティ……「隻腕のダイチ」率いるメンバーたちである。