崩壊―戻らない日常―
鬱展開あり。
「とりあえずここまできたが……」
俺はともかく安堵したかった、魔族……噂に聞いちゃいたが実際目のあたりにすると……その……ビビって動けなかった。
それをダイチは……
同胞達は……無事ってわけじゃねーが生きてるだけましだ……
アイシアだったか……さっきから泣いてて話にならない。
腕の立つ魔導師らしいが……いや何言ってんださっき助けてもらったばっかだろう、だからエルフはって言われんだ。
とにかく、皆を安全な場所へ……
「おい……あんたアレスターだろ族長のとこの」
比較的元気そうな、同胞が話しかけてきた。
「そ、そうだけど……」
なんなんだこんな時に、やっべ止血しねーとやべー。
「あんたの妹、まだ中にいるんだよ」
「なぁ……!」
なんてこったどうすんだ……俺一人じゃどうしようもねーぞ。
アイシアも泣いてるし、とにかく止血だ。
「お、おいアイシア……し、止血しねーとやべーぞ」
「は、はひ……わ……」
泣いてて言葉になってない、徐に服を破りだしてダイチの右腕を縛ってるが縛り方がなってない。
俺は、アイシアが結んだのをほどいてさらにきつく結びなおした。
「アイシア、治癒はつかえねーのか」
アイシアは泣きながら首をぶんぶん縦に振っている。
杖が光ったと思うと、綺麗に血が止まっている。
これで一先ずは……けど問題解決にはなってないな。
「アイシア、俺は妹を助けにいってくる。ここでまってろ」
俺だって男だ、だてに森で一番と名乗っちゃいない。
相手は魔族だ、確かに強い……だが関係ない、ここにそいつに立ち向かった奴がいる。
「わだしも……いぎまず……」
アイシアがとんでもないこといいだした。
「いや、いい泣いとけお前らはもう十分頑張った」
「一人……無理ですよ」
まあそうなんだが……かっこつかねーな。
「じゃあ行こう」
迷うのも考えるのも趣味じゃねーことはやめた。
俺は俺の得意な生き方をする、そう決めた。
俺が先頭で武器をロングソードに切り替えた、あの化け物の斧を防ぐにはこれしかない。
アイシアはすっかり、泣きやんでいるが何を考えているかは分からない。
「ぐおぉ」
唸り声が聞こえる、おそらくやつだ……
俺たちは恐る恐る、進む、なんか策があるわけじゃねーがそれでもいかなきゃならねえ。
「いた……」
まだダメージが残ってるのか、床に手をつきぶつぶつと何か言っている。
仕掛けるなら今しかねーが……
俺はアイシアに耳打ちしようと後ろを見るが……やべえ。
「咲き誇り……凍て尽かせ、氷結の花……氷結園」
その技と同じように冷たい声が響き、あの化け物が居たであろう場所はまるで氷の壁が出来上がった。
「おうおう……こいつはやべーな……」
さすがに、やりすぎな気がするがこれだけやればいいダメージが期待できるんじゃないか……こりゃ、って……また唱え始めた!
「炎獄の猛よ……その境を越えて、すべてを焼き尽くせ地獄火炎」
勢いある炎が先ほどの氷ごと、焼き尽くす牢も何もかもすべてを溶かしてる。
「大地よ……怒れ、猛れ、壊しつくせ……流岩槍撃」
追撃の一撃がはいる、正直俺は逃げ出したい……
魔族であったであろうものは無数に出来てきた岩の棘に突きさされ動かなくなっている……
アイシアはかなり消耗したのか肩で息をしているが、まだやる気でいるようだ……早くここから離れよう、思考が追いつかない。
「アイシア、ここにいろ妹を迎えに行ってくる」
俺はうまく岩を避けてその先へと進んだ、そしてすぐ近くの牢に隅で隠れている我が妹がいたが……その姿は無残だった……しかし今嘆いている時間はない……
俺はちゃちゃっと妹を抱えると、その場を離れアイシアの手を引きさっと地下から脱出した。
外では同胞がなにごとかと震えている、とりあえず安堵した俺は妹を下ろす。辺りは日が落ち始めているがどうすればいいのか俺には判断がつかない。
「おーいお前らとりあえず集まって隠れるぞ」
近くに森があるのが救いだが、それでも安心はできない。
とにかく、俺は同胞を集めて状況を聞くことにしたのだが……
予想より酷い、親父は商品をそこまでひどく扱わないといっちゃいたが彼女らはぼろぼろだ……
今から全力で走って森に戻るか……だがこいつらを置いていけるか……
「アイシア……大丈夫か……」
反応はない、もう誰も頼れない……あーくそおお。
「アイシア。聴いてても聴いてなくてもいい、けどよ大事なもんなくしたくねーならもっとしっかりしろ。俺が言える立場じゃないけどな!ともかくみんなを任せた俺は一度森へ戻る。すぐ戻るからな」
これだけ言えばなんとかなるだろう、とにかく人手がいる。
悩まないってのと考えねーとは別だから大変だ。
俺は持てる限りの力で森へと向かった。
「ん……」
眠っていたのか……体が痛い……
起き上がると全身がビリビリと痺れるような感覚に襲われる。
僕は……なにを、確か盗賊のアジトに行って……
……思い出した、そうだ……ずたぼろにやられて。
失った右手を見る、傷口は綺麗に治っているが肘より少し先がなくなっている。
「はは……」
自然と乾いた笑いが溢れてくる、今までのような負けてもなにも失わない状況と違う、失ったのだ……腕を……
だが今なら前向きにとらえられる自分が居る、昔と負けの重みも違うが捉え方も昔と違う……
あれだけやって腕だけで済んだのだ、幸運……とまではいかないものの運は良かったと捉えるべきだろう。
それより、アイシアはどこだ……僕も一体何日寝ていたのか……
僕は辺りを見回す、どこかで見たことがある壁紙や部屋の作り……
まさか……僕は動かない体を引きづりながら部屋を飛び出した。
「アイシア!」
僕は通いなれた彼女の部屋を訪れた。
彼女はベッドに腰かけながら窓の外を見ていた……
「アイ……シア……?」
僕が呼びかけても返事はない。
「アイシア!」
僕は必死になって彼女の肩を揺さぶる、そして僕は気づいてしまった。
彼女の瞳は色を失い、彼女の肌は温もりを失い、彼女は心を失った。
アイシアは……壊れてしまっていた。
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第一章・終わり
一区切りです。