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奇襲―満身創痍―

若干表現に不快を覚える方がいるかもしれませんので注意してください。  

「これが盗賊のアジトか……」


崖面と接触して作られた要塞のような砦が盗賊のアジトらしい。

周りは柵に囲まれており、高い塔には見張りもたっている、入るのは容易ではなさそうだ。


「危険なところですね。ダイチさんはここで待っていてもいいのですよ」


先ほどからアイシアは僕を危険な目に会わせないようにしているのか、やけにここに残れと言ってくる。

おそらく元の世界に戻るという目標のために僕は安全でいてほしいようだが、それじゃ意味がない。

僕自身の行先は僕自身で決めたい。


「アイシア、心配してくれるのはうれしいがそれじゃ君の騎士になった意味はない。僕は大丈夫だ」


「ダイチさん……」


「ひゅーひゅー熱いねー」


今までののりで話していたが、今はアレスターがいることを忘れていた、これからは恥ずかしいセリフは控えることにするか。


「そ、そんなんじゃないですよ!ねーダイチさん」


「お、おう……」


アイシアはたまに素なのか、考えてるのかわからない。


「おいおい、惚気るのも大概にしてくれよお二方。でもよ……」


アジトの状況を一度見回してまた口を開く。


「正直無理くせーな、誘っといてなんだがやめてもいいんだぜ」


「ふむ……」


確かに、人数の不利、地形の不利……問題はいくつもあった。

こちらは言うて若輩な僕と、アイシアだってまだ子供だ、アレスターもその実力は不明だ頼りきりにするわけにもいかない。

そういや、弓が得意なんだっけかでも弓矢を持ってる様子はないけど……


「アレスター、弓術が得意って言ってたよね。正直どれくらいなの?」


「あん、俺の実力が信用なんてっか……見とけよ」


アレスターが小さくなにか呟くと、突然なにもない空間から弓と矢が表れた。

僕たちが驚いてるのを尻目にアレスターは弓を構えると高々と放った。

弓は鋭い勢いで飛んでいくと、塔の一番上の兵に直撃した。


「どうよ」


「おお」


「すごい……」


アレスターは自信ありげに笑みを浮かべる、僕とアイシアは思わず拍手した。

しかし、そのせいかアジトがかなり騒がしくなっている。


「やべっ、やっちまった」


「ダイチさん、自信はないんですが私にいい考えが……」




「なんだ、なにごとだ!!」


アジトないで盗賊が叫ぶ、それを聞いてもう一人が叫ぶ


「見張りがやられたんです!襲撃です」


「さっさと警戒しろ、商品は絶対守れよ」


「うわあ、外の見張りがどんどんやられていく!!」


アジトの周りを見ていた見張りがどこからか撃たれた矢で次々と倒れていく。

しかし、普通に矢が飛んでくるような距離に敵は見えない。


「いったい、どこから。グワァ!」


慌てふためく、盗賊を僕は冷静に切り捨てる。

人殺しに抵抗がないと言えば嘘になるが……正直、殺さなきゃ殺される。

そう考えれば少しは気持ちが楽になる、それにこの世界の出来事は夢のようなものだ。


「後ろ!来ます」


そう言われ、僕は後ろを振り向き的確に急所を切り裂く。


「バリア!」


僕の後ろから、切りつけようとしてきた盗賊の一撃はバリアによって防がれる。


「なんだこいつ!魔法も使えるのか……ぐああ」


そして冷静に敵を切り捨てる。


「な、なんだこいつ後ろに眼がついてんのかぐあああ」


「しかも魔法まで」


「ヒィイイ」


目の前に正体不明の能力をもった敵が表れ弱い盗賊たちは戦意を喪失していく。

中には逃げ出すものも多数いる、がむしゃらにきりかかってくるものも、しかし今の僕に死角はない。

それもその筈だ、僕の後ろにはアイシアが常にくっ付いているのだ。

光の屈折、アイシアが僕と科学についての話を思い出して考えた作戦。

防御魔法のシールドと水の元素を利用して、アイシアの姿が見えないようにしている。

もちろん屈折は角度によって見えてしまう、全方位から姿を消すことは不可能だ……

だが、僕が派手に動き、さらにはこの混戦、姿の見えない奇襲……これだけの要素があれば、アイシアが姿を消しながら、戦闘のアシストをすることも可能になる。

あとは人質がいると思われる、塔の中に潜入するだけだ。

時間になればアレスターも合流する。


「もうすぐだアイシア」


「はい!」


もう僕に攻撃をしようとする盗賊はほとんどいない、数えるほどだ。

しかし……


「なっ……」


盗賊の一人が僕の剣戟を易々と受け切り、さらに僕の体を蹴りで簡単に吹き飛ばす。


「ダイチさん!」


アイシアが魔法を解いてダイチの側へ駆け寄る。


「いい腕だ……こんな出会い方でなければもっと楽に語り合えただろう」


その盗賊の男は冷たい目でなにかを呟くと僕とアイシアの前に来て剣を収めた。

咄嗟にアイシアは杖を構えその男を凝視する。男はしまった剣に手をかける。

アイシアも男の攻撃に反応できるように集中している。


「今だやっちまえ!」


別の盗賊達が僕達においうちをかけようとするが……


「絶技・覇王」


男が剣を一瞬抜いたと思うと、衝撃が走り周りの盗賊達は次々と倒れていく。


「強いな……」


そう言うと、男は剣をしまい。その場から立ち去ってしまった。

アイシアは緊張の糸が解けたのが腰が抜けてしまったようだ。

僕は慌てて立ち上がり、アイシアの手をとる。


「す、すみません」


アイシアは申し訳なさそうに謝りながら、手をとって立ち上がる。

辺りをざっと見回すが敵の姿は見えない、先ほどの件もあり僕たちはアレスターの待つことなく塔へと突入した。

中は簡素な造りで上へ続くらせん状の石階段と地下へ続く階段があった。

僕とアイシアは顔を見合わせ迷いなく地下へ下って行った。




「おいおいやりすぎじゃねーか」


やっと追いついた俺は辺りの状況に半ばあきれていた。

信用していた……と言えば嘘になるが利用するに足る価値はある……そう思っていた。

だが、あいつらはそれ以上のことをやってのけた。

しかも、ほとんど正面突破みてーな状況でありえないなんてもんじゃない。

化けもんだ、俺らからしたらあいつらは幼い……だが俺らが寿命を全部使ったって追いつけない領域を……


「さて、今度は俺が信頼をかちとらなきゃいけねーな」


いつの間にかまどろっこしい感情は一切消えた。

着いていこう、あいつらが行きつく先まで……




「気味が悪い……」


地下は薄暗く、湿って嫌な臭いがする。

多くの牢と白骨化した死体がごろごろと転がっている。


「……」


アイシアは何も言わずに僕にひっついている……

恐怖か、それとも別の理由か……

しばらく、進むと小さく声が聞こえてきた。

どうやらもうすぐらしい……僕は構えた剣を握りなおす、何があるか分からない。


「ひ、酷い……」


牢の中には弱り切った、エルフの女子供が沢山いた……

その人数は二〇人程度だがそのほとんどが暴行の後や強姦されたあとがある。


「うぅ……げほ……」


「アイシア!?」


アイシアはあまりの光景に耐えきれなくなったようだ、慌てて剣を収めて背中をさする。

まずいこんなとこアレスターに見られたら、まずい……


「助けに来たんですか……?」


目に包帯を巻いた少女が話しかけてきた、良く見ると両目があるはずの部分は赤黒くそまり、その下は涙がながれたかのように血の垂れたあとが乾いている。

僕は直感的に思った……この子は目をつぶされている……

そして、この子はなんて強い子なんだと……


「大丈夫だ、僕たちが助けに来た……すまないが鍵の位置とか知らないか?」


牢の中の子供が後ろの壁に掛けられている鍵を指差した。

僕はアイシアをその場に座らせて、鍵を手に取り牢を開けた。

その瞬間、僕の視界は一周した。

殴られた、僕は咄嗟に足に力を入れて剣を抜く。

それ以上追撃はされなかったが、エルフたちの目はすごかった……

人間に対する憎悪、憎悪、憎悪……ただひたすら人間を殺してやりたいという目をしていた。一体どれほどの惨劇がここで行われていたかは分からないが、その目からそれを想像することは容易にできた。

エルフは、僕は睨みながら次々と牢から這い出してきた。

比較的元気があるものはさっさと逃げ出しやせ細ったものは立てないのか腹這いで逃げようとしている。

僕は、それを黙ってみているしか出来なかった、少しでも動けば僕は彼女たちを切るはめになってしまう。


「おいおい、なんだよ……これ……」


アレスターがこちらに合流したようだ、その声は恐怖を孕んでいる。

彼は僕たちの状況をみてうまく飲み込めないようだ。


「なんなんだよこれ……なあ……」


アレスターは、僕たちに詰め寄ってくる。

始めて僕はそこで胃の物をすべて吐き出した。


「お、おい大丈夫か!?」


胃が跳ね上がる、口に苦い味が広がる。

僕は、とりあえず吐けるだけ吐き出した。


「キャアアアア」


「イヤアアアア」


悲鳴が響き渡る、僕はエルフたちが逃げ出した出入り口のほうを見る。

アレスターも同じ方向をみる。


「だぁめじゃぁなぁい」


大きな体に黒い毛並み、大きなゾウのような牙をもち、細く鋭い眼は狂ったように光り輝いている……魔族だ……魔族がそこに立っていた……その手にはエルフを首もって……

エルフたちは全員、奥へ奥へと後退を始めた。


「おいおい、まずいんじゃねーの」


アレスターがそう叫びながら弓矢を構える、すると魔族はその辺のエルフを持ち上げて盾に構える。

アレスターは悔しそうに、武器をおろした。


「エルフがぁたすけにきたのかとおもったぁけど?にんげんかぁ」


魔族は舐めまわすように僕らを眺める、胃は痙攣しているが悟られぬように剣を握る、アイシアの姿を視界にいれつつ。

アレスターは魔族を凝視している、その眼には焦りもうかがえた。


「だまっていてもぉわからない……はなさないぃならおまえらころすぅ」


手に持った大斧を振り回しながらこちらに向かってくる。

僕はアイシアを掴みあげて後ろに投げ飛ばすと一直線に魔族に切りかかった。

魔族は僕の剣を悠々と斧で受け、その得物の大きさに似合わぬ速度で振り回す……僕の剣ではとても対抗できないその得物を間一髪のところでかわす。

正直絶望だ、魔族なんて想定外だし、このエルフたちの状況はどうにもならない。

斧が僕の動きをとらえ、的確に腕を切り落とそうと振り下ろされる。

だが、危ないところでアレスターの弓が魔族の動きを阻害する。


「うっとおしいい」


魔族はエルフを投げつけてきた、僕の視界はふさがりその一撃を交わすすべはない。僕は咄嗟に右腕で体をガードする、斧はその右腕を捉え怒涛の衝撃とともに腕ごと僕の体を吹き飛ばす。

簡単に飛んだ僕の体は牢を壊しながら、壁に打ち付けられた……

一人じゃなにも出来ないのか……

また負けた……そんなくだらな言葉が脳裏に浮かぶ。

その間にもエルフの悲鳴は聞こえる、アイシアは……

アリスターが叫ぶ、もうどうにでもなってくれ……僕は心底そう思った。


ふと脳裏にアイシアが浮かぶ。


なぜか体が動いた……


考えた訳じゃない、それどころかとても動くなんて思えなかった……


だけど残された左腕で、魔族を殴りつけた。

魔族は壁にめり込み、身動きが止まった……僕は叫ぶ。


「にげろ!!」


意識なんてなかった、ただ叫んだ。

エルフは一斉に逃げ出す、アレスターは僕を抱え上げようとする。

アイシアは意識が戻ったようで、必死に僕に何かを言っているが聞こえない……耳がおかしくなったのか……

僕の視界は暗転した。

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