開始―きっかけのエルフ―
エルフの森はアルラスカを南方へずっと下っていくと着くそうだ。
馬車なら明日の昼には着いているとのことだったので、馬車に揺られながらアイシアと魔法について語り合うことにした。
最近気付いたのだが魔法はこっちの世界の化学に似ている。科学ではなく魔法が発展していたら日本もこうなっていたんじゃないのかと思う。
この世界の魔法は五大元素が合わさって構成されている。
一括りに魔法と言ってもかなり深い……この世界を満たしているマナは五大元素、火、水、土、風、無の五種類が合わさったものであり、たとえば火を起こす魔法は火の元素を含んだマナを集めて火を起こす、水は水の元素、風は風の元素、土は土の元素をそれぞれ体内のマナと混ぜ合わせて威力を上げたり範囲を広げたり、飛ばしたりと出来る訳だが、無の元素だけは他と違い他の四種の元素の力を維持し続ける力を持っている。ただ単純に火の元素を集め続けても火を起こし続けることはできない。
魔法を手元から放し放出することは、空気中の無の元素を吸収してその形を保ち続ける。
まれに、精霊と心を通わせることのできる人間がいる……たとえばアイシアだ。
彼女の高い魔法の技術は、五大精霊と直接語り合うからこそ出来る部分も多くある。細かい部分は色々あるのだが今はそう仮定している。
詳しいことはアイシア自身も分かっていないそうだが、これからそれらを解明していこうとは思っている。
また、魔法が使えない僕なりに仮定したのだが魔法が幼少時から訓練されるのはこの精霊と語り合うという部分が多い、幼児期であれば精霊の存在も簡単に受け入れられるし、その感受性から魔法の上達が早いのだと思われる。あくまで仮説だが……
それと体質のせいもある。魔法にも属性があるように体内のマナにも属性が存在している、この属性が一致していれば魔法の生成にかかる負担もかなり軽減できる、代わりに逆属性……無以外に存在する苦手となる属性のことだが、火には水を水には風を風には土を土には火をそれぞれぶつけることでその力を弱体化させることができる……これが逆属性だ、体内マナにこの逆属性を混ぜ合わせることは難しく、基本は得意属性、または相性の悪くない属性を使い続けることが魔法が上達することの近道と言われている。
僕ももしかしたらと思い他の属性を試してみたが火はあったかくなる程度、水はなんか湿っているだけだし、土に埃が湧いて、風はなんだか分からなかった……結局僕に魔法を使うことは難しいと思われる。
もう少し、研究を重ねて魔法についての新しい面を見つければいずれは補助魔法ぐらいは使えるようになるかもしれない。
次の日の昼ごろ、予想通りエルフの森についた。
僕たちは馬車を降りると、エルフに案内されて族長に会うことになった。
エルフの族長は悠に五〇〇を超える年齢らしいが会ってみるととても若く見えるのでおどろいた。
「よくぞ来た、導師とその友人よ」
「御招きいただき光栄です。早速ですが文書の件について教えていただけませんか」
「そうあわてるな、こちらも一つ一つ理解し、見出さなければならぬ……まあ、今は気負いせずゆっくりするといい。私の名はアルターク」
「僕はダイチです」
「ふむ、ただの人間にしては思慮深く聡明と見える」
族長……アルタークは少し考えると、他のエルフをその場から退かせ、ここには僕とアイシアとアルタークだけになった。
「先ほどはああ言ったが、こちらも切羽が詰まっておる手短にやりとりしようではないか」
そう言って、アルタークは大きな机にアイシアが持っていた地図の実物を広げて見せた。
「この地図に書かれている、神とは始祖神オーディンのことであろう。オーディンはその力で争いを収め、平和が永劫続くようにと自身をバラバラにして各地に封印されたと言われている。おそらく、お主たちが求めている女神とはその後、オーディンが残した言われる三人の女神のことであろう。残念ながら女神は行方不明だが、オーディンが復活すれば女神も戻ってくると思われる」
幾度となく読んだ、この大陸の始まり……それがおとぎ話じゃないことも驚きだ。しかし、オーディンが復活すれば各地を治めていた力が失われるのではないのか……
「それは理解できますが、それではまた争いが起こるのではないですか?」
僕は思ったことを素直に口にした、するとアルタークは笑いながらこう言った。
「なーに、神が復活すれば争いなどすぐに治まる。それに今の世界事情じゃ神の復活は誰しもが望むことではないか。我々も協力する、人の身に頼むのは忍びないが、エルフにそのような思考はないからな……だから頼む」
アルタークの熱心な頼みに、僕たちは快く承諾した。
それと今回の旅に同行者を一人お願いされたのだが……
「よろしく頼むぞ、未来を決める友たちよ」
馬車の前に、整った顔立ちにスラっとした手足で長身、銀髪に長い髪に尖った耳、如何にも美形といった感じのエルフが待ち構えていた。
「えーとあなたが同行を希望した?」
「如何にも!俺は「アレスター・イーグレット」エルフ一の弓術師だ。絶対に友たちに迷惑は掛けない!どうか頼む俺のを仲間にしてくれ!!」
アレスターは深々と頭を下げた。
熱血エルフ……始めてみるジャンルかもしれない。
「あ、頭をあげて。僕は別にかまわないよ。アイシアはどう思う?」
「私も別に構いませんよ、仲間が多いのはいいことです」
「おお!ありがとう二人ともおおお」
「よ、よろしく……」
アルタークが言うには、神との接触はエルフがいたほうがいいそうだ。
特にアレスターは腕もたつし、義理人情に厚い信頼に足る人物だと……どうしても連れて行ってほしいそうだった。エルフと言う閉鎖空間ではなく世界の姿を見て成長してほしいそうだ。ちなみにアルタークの息子だ。
「ありがとう、友ダイチ。導師アイシア」
「いや、普通にダイチと呼んでくれ」
「わ、分かった……」
アレスターはアルタークとなにかを目で語り合ったようだ。
「さあ、早く発とう」と僕たちを急かして馬車に乗った。
エルフ達が見送る中、僕たちはエルフの森を後にした。
「さて、もういいだろうか……ダイチよ。このたびは同行を許していただき誠に感謝する。そして導師アイシアよ、我が父と交友を持ち続けこのような時に頼って頂いたこと誠に感謝する。父からもそう言うよう頼まれた。俺も同じ気持ちだ」
「わ、私も普通にアイシアでいいですよ」
「そうか……ではアイシアと呼ぶことにする」
そしてアレスターは一枚の地図をとりだした。
「急ぎの用事もあるやもしれませんが、どうかお願いです。この場所へ一番で向かってくれないでしょうか。無礼は承知です」
僕とアイシアは思わず目を見合わせた、事態を飲み込めない。
「アレスターさん、事情を説明してもらえないとどうにも……」
「こ、これは失礼した。それと俺のことはアレスターと呼んでくれ」
「分かったアレスター。で事情は?」
「それが……」
良くある、と言っていいのか分からないが、アレスターの妹が盗賊につかまってしまったらしい、エルフはその見た目から高く売れるため、一部金持ちの間で愛玩具として出回ることも少なくないそうだ。
エルフ自身はあまり強くなく、好戦的でもないため盗賊に抵抗することも出来ず……
そこで僕たちを利用して盗賊を倒してほしいとのことだった、協力するとアルタークは言っていたがおそらくこちらが目的で接触してきたのだろう。まあ情報が手に入ったのはいいことだが……事前に伝えてほしかったと思う。
そして、僕とアイシアはその盗賊とやらを退治することになった。