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兄妹―アルラスカの剣戟―

「で、僕は一体なにをすればいいですか?」


「いや、今のところ依頼はないので自由にしてていいですよ」


想像してたのと違うな、もっとパシリにつかわれるのかと思ったけど。

僕はなら情報のほうを教えてほしいとマスターにお願いした。

マスターは先ほどの対応とは大違いで知ってることを全部教えてくれた。

ネーデルに依頼した男はどうやら東方のほうへ向かったようだった、ここメディクトがフェスガルドのほぼ中央にあり、西がアルラスカ、東が「ケンメス」北が「ライード」南が「サファド」という感じに東西南北にそれぞれ王国が存在し、東といえばケンメスに向かったとのことだ。

また、「魔鎮の香」を使用しておりおそらく魔導に通じるものであり、それもかなり強力な魔力をもっているとのことだった。

マスターは最後に袋に入った魔鎮の香の匂いの欠片を渡してくれた。


「もし、見つけても自分たちでなんとかしようと思ってはいけないよ。必ず僕らギルドメンバーに知らせるんだ必ず力になってくれるからね。じゃ、必要な時は手紙でも出すからね」


そう言って僕らを解放してくれた、僕らが上に戻ると酒場が一瞬で静かになったが……それはもう気にしないでおこう。



「さて、アイシア。行く方向がばらばらになったんだけどどっちから行く?」


さすがに一人で考えるのはつらくなってきたのでアイシアに助け舟を求めることにした。


「うーん、私としては一度戻って報告したいのですが、そっちの男の人のことも気になりますし……」


「そうか……やっぱ一度戻るか、一応リリーナのギルドメンバーって肩書はできたけどもう少し後ろ盾はほしいしな」


アイシアはよくわかっていなかったが僕としては僕という人間の証明がもう少しほしかった。大手ギルドメンバーという肩書でもいいのだができればどっかの王国関係、それこそ騎士団の一員とか……まあ僕は剣術もできないし乗馬もできないし、かといって武術の心得があるぐらいか。

そういえば僕ってこっちの世界だと身体能力がかなりあがってるんだよな……なんでだろ、あんまり気にしなかったけどな……


「なあ、アイシア」


「はい?」


僕は一度、リリーナの酒場に戻ることにした。

理由は男の行方をギルドメンバーに任せようと思ったからだ。

マスターには事情を説明して、金貨五枚を依頼料、金貨二枚を保険料としてマスターに手渡した、マスターは「そういうことなら任せて」と快く引き受けてくれた。

ちなみにほぼ有り金全部もってかれたことはアイシアには内緒だ。

そして僕たちはこれからアルラスカに向かうことにした、アイシアに聞いたことだが王国に使える騎士団に入隊するためだ。

時期によっては大量の優秀な人材を集めて試験を行っているらしい、それに合格できれば晴れて騎士見習いになれるのだ。

そこから、また実績と知識、定期で行われる試験に合格すればはれて騎士となれるそうだ。また騎士になれなくとも兵士にもなれるらしいが兵士では国での勤務がほぼなので自由に外出ができないそうだ。その代わり騎士見習いよりは全然なりやすい。

僕たちはアルラスカ方面へ向かう荷馬車を探すことにしたのだが……


「全然ないですね……」


「だなー」


なんでもアルラスカ王国付近は関所の出入りが厳しく、普通の荷馬車では許可がでないうえにもともと危険地帯が多いためあまり向かう人もいないらしい。


「どうしたもか……」


すっかり、八方ふさがりの僕とアイシアは近くの食堂の椅子に腰かけながら悩んでいた。別段おなかがすいていたわけではないのだが他にいい場所もなかった……


「となりいいか?」


僕たちが悩んでいる、そばに金髪で短く整えた顔立ちのいい好青年が話しかけてきた。

僕は「どうぞ」と言って、席を空けたがなぜかその男はアイシアの隣に座った。よく見るとアイシアが男の顔をみてワナワナと震えている。


「よお、アイシア久しぶり!」


「に、兄様!」


「え?」


自体が飲み込めない僕はそこからアイシアとその兄「アベル・アルラスカ」の話を延々と説明された。

アイシアの母は現アルラスカの国王の妹であり、父親はアイシアと同じく宮廷第一魔導師だった人でその間に生まれたのがアベルとアイシアである。

そして、幼少から付き合いが深かったケルター家とアルラスカ家……しかしある時、事件が起こったアルラスカの第一皇子が誘拐され殺されてしまったのだ。これによりアルラスカの女王「アーネ・アルラスカ」はショックで子供が産めなくなってしまった。しかし、王家は男しか継げないため王の血が流れるアベルはアルラスカの第一王女である「ルル・アルラスカ」と婚姻を結び、アベルは異例の婿養子として王位を継ぐことになったとのことだった。

最初は色々と問題もあったそうだが、ほとんど血筋は王家でありアベル自身もとても優秀な人間だということもあり今ではすっかり周りから認められているとのことだ。

そしてアベルは今、王家を継ぐためにアルラスカから出ることはできないはずらしいのだが……


「どうしてに、兄様がここにいるんですか!!お母様もおじさまも心配しますよ!」


「おいおい、我が妹よ……愛しい妹がまさか遥々隣国まで大使を務めるなんて、兄である俺がほっとけるわけないだろ」


アイシアはいつにもなく、高揚している。兄に会うのは久々らしいのだがそれもあるのだろうか……それにしてもこの兄大丈夫か……?


「兄様は昔から心配症なんですよ!いい加減妹離れしてください」


「おお、妹が冷たくて兄は悲しいぞ……ところでき、み、は、な、に、も、の、か、ね?」


対象が僕に切り替わった、僕は正直に話そうと思ったがそこでアイシアが突然。


「この人は私の騎士様です!兄様には関係ないです!」


「な、なんだってえええ!アイシアいつのまにそんなとこまで……許さん、許さんぞ貴様!」


そういうといきなり剣を抜いてその切っ先を僕の目の前に突き付けた。


「決闘だ、決闘だぞ青年。さっさと剣を抜け!」


「い、いや僕は……」


自体が全然飲み込めない、そもそもなんでいきなり決闘なんだ。だいたい僕は剣なんてもってないぞ。


「ダイチさん、これを……」


いきなりアイシアに剣を渡された、西洋の細い剣……確かレイピアだっけか


「さあ、ついてこい」


僕たちは広い広場に場所を移し替え、剣を抜いて対峙した。

アベルの眼は本気だった、しかも本物剣での真剣勝負……


「安心しろ、殺しはしないさ……行くぞ!」


先に相手が仕掛けてきた、さすがに剣術なれしているせいか動きに無駄がないように感じる。

僕はアベルの剣を間一髪のところで防ぐのが精一杯だった、とても攻めることなんてできない。

激し突きの連続かと思いきや引きなり振りおろしたり切り上げたり。

まるでこちらの命をねらってるんじゃないかというレベルだった。

一撃、一撃も重く、気を抜けば剣が吹き飛ばされそうだ、耐え忍べば忍ぶほど剣筋もどんどんするどく速くなってくる。


「ダイチさん!頑張って!」


遠くからアイシアの声が聞こえた、ここ一番の集中……アベルの激しい剣戟の中に一瞬だけ隙が見えた。


「いまだあ!」


その隙をついた瞬間、激しい音が鳴り響き、気づけば地面に尻もちをつき剣先を突きたてられている僕がいた。

手元にあった剣は遠くに飛ばされ、完膚無きまでにやられてしまった。


「さあ、勝負ありだ青年……俺の勝ちだ」


「負けましたよ、アベルさん」


とりあえず空気を読んで出された手を掴んで立ちあがる、いつの間にか周囲には野次馬が集まっており拍手喝さいが起きていた。

それととりあえずアベルさんにはちゃんとした説明をすることにした。



「なんだ、そういうことだったのか……」


アベルさんに事情を話すとアルラスカへの専用馬車を用意してくれた、多分アベルさんを強制的に迎えに来ただけだと思うが……


「しかし、青年……いや、ダイチ。先ほどの剣さばき見事だったぜ、これで剣を使ったのは初めてなんて俺も少し驚いた……」


「あ、ありがとうございます」


「で、向こうに戻ったら正式に騎士の試験を受けるんだろ?俺でよければ多少手伝うことができるぜ?剣術の指南ぐらいならとかアルラスカの歴史とかなら得意だしな。まあ知識面なら俺の妹が詳しいからな、俺が足りない部分はアイシアに聞いてくれ。とにかくお前にならアイシアの騎士を任せられるだろう。頼むぞ」


「が、頑張ります」


「よかったですね、ダイチさん」


アイシアがいつになく上機嫌だった、兄に僕が認められたのがうれしいのか……または別の理由か……

僕たちは馬車に揺られながらも、アルラスカへの帰路を順々と進んでいった。


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