参戦―ギルド・リリーナ―
長いです。注意
「あれ……」
おかしい、昨日まで寝ていたはずの宿じゃない……
それどころかこれは日本の僕の部屋?
いつのまにか戻ってきたのか、いやそもそもあれはすべて夢だったんじゃ。
「ダイチさーんごはんですよ」
扉の向こうから聞きなれない声が聞こえた。
いや、夢では何度も聞いた声だ、でもなぜだここは日本であれは夢だったはず。
考えているうちに部屋の扉があく、そしてひょっこりと頭をだして現れたのは夢の中で出会ったはずの少女だった。
長い金の髪を器用に結び、二重のしっかりとした青い瞳、幼さ残るその容姿とは裏腹にしっかりとしたたち振る舞い……いまでも脳裏にはっきりと浮かぶアイシアと言う名の少女が僕の部屋へ入ってきた。
「いつまで寝てるのですか?もう朝ですよ」
うまく言葉が出てこない、どうして?なんで?そんな単語が頭の中を回り続ける。こんなことはあり得ないと思いつつもそれを否定できない自分がいる。
「どうしたんですか?」
そんな僕の反応を余所にアイシアはどんどんと近づいてくる。そしてエプロンを脱ぎ捨て、シャツのボタンに手をかけて一つずつ外していく。とうとう、シャツがはだけ下着だけの姿になった。
「ダイチさん……好きです」
そういってアイシアは僕を押し倒した。
僕は抵抗もせずになされるがまま――――
そこで眼が覚めた。
しまった……自分でも取り返しがつかないと思ったが幸いなことに服は昨日かったばかりだ。
これは最低な夢を見たと思った、たしかに最近は自慰のほうもご無沙汰だったし、久々の布団で寝れたため安心したのかそれでもかなりまずい。
アイシアはまだ目覚めていないようだった、僕は手早くシャワーを浴びてからだを奇麗にして服を着替えた。
久々に自分のからだを見たがここ数日の旅と規則正しい生活、それに貧しい食事が功をなしたのか日本で暮らしていたときのたるんだ体はそれなりにしまってきていた。
シャワーを終えるとアイシアはいつの間にか目覚めていて、布団を綺麗に直していた。
僕に気付くとアイシアは元気な声で「おはようございます」と言ってきた。
「おはよう、昨日はあの後よく眠れた?」
「はい!おかげさまでぐっすり眠ることができました」
よかった、アイシアは別段変りなく元気なようだった。部屋を調べてもあの後不審なことは起こっていないようだったしひとまずは安心と言ったところだろうか。
アイシアは私もお湯浴びしてきますと言ってシャワーを浴びに行ってしまった。前の自分なら多少の下心も出ただろうが今の僕にはとてもそんな気になれない。それにわざわざアイシアの信頼を失うような行為は避けるべきだ。
僕は少し気分を入れ替えようと窓を開けて外を眺めた、大きな城壁に囲まれたこのメディクト王国の町はとても活気ずいており、人が無数に行き来を繰り返している、今の時間はわからないがおそらく朝市のようなものだろうか、競りににたものも開催されている。
僕はなんとなくその光景に安堵した、こちらの世界に来てからあんまり人のながれを見ていなかったがこれだけ大勢の人が生き生きしているのをみると異国の世界でもなんとなく安心できた。
ふと、町の隅に眼をやると兵士のような者が数名ところどころで集まっては散り集まっては散りを繰り返していた。見たところなにかを探している様子だ。あとで宿屋の主人にでも聞いてみよう。
「お待たせしました。」
シャワーを終えたアイシアは今までのしっかりとした正装ではなく、少し動きやすい軽い感じの服装になっていた。相変わらず杖は持っているが思わず下心が動いてしまいそうになるがなんとか堪える。
僕とアイシアは荷物をまとめると、これからのことについて話し合った。
まず、目的としては僕が元の世界に戻るための手掛かりを探すことだが、それに関しては今のところ方法がみつからない。しかし、僕が送られてきたのと同じようにアイシアの護衛騎士たちも姿を消している。
つまりはこちらでもそういった世界の移動は起きているということらしい。
こちらの世界の情報に詳しい者を探すと同時に同じ現象が起きた場所……つまり僕が最初にでてきた沈黙の森の中腹や騎士団が消えて落ちてしまった橋付近の調査が主な目標となった。
それともう一つの目的として僕たちの命を狙う者の調査もする必要があった、沈黙の森での火の玉や巨大な悪魔の召喚、ネーデルを雇った男のことなど核心に迫ることはないが探す手掛かりは多くあった。
それに悪魔は魔族でしか扱えないことからおそらく魔族がなにかしらかかわっていることもアイシアの話で分かったことだ、後は移動現象と同時に調べていけば分かるはずだろう。
目的は2つ、あとはこれからの行動だ。
アイシアの提案で一度アルラスカに戻ることにした、僕たちは荷物をもって宿屋の主人にあいさつにいった。
それとさっきの兵士たちの動きもそれとなく聞いてみたところなんでも商人に交じって魔族が出入りしているらしく、それで怪しい人物を次々と捕まえているとの話だった。
僕は昨日のネーデルの話にあった男を聞いてみたが主人に心当たりはないそうだ。僕たちは主人にお礼を言って宿屋をあとにした。
とりあえず、戻る前にメディクトの有名な「冒険者の酒場」へと足を運んだ、なんでもここはルーキーからベテランまで多くの冒険者が集い仕事の依頼や情報の交換、パーティーの募集をしているらしい。
宿屋の主人が情報がほしかったら是非立ち寄ってみなと教えてくれた。
酒場へ入ると色々な人で賑わっていた、年老いた老兵や屈強な男、とても冒険者に見えなさそうな兄ちゃんに気の強そうな女と色々だ。
僕はアイシアに外を外で待たせて一人、酒場の主人に例の男について聞きに行った。
酒場の主人は一見すると優しそうなおじさんに見えるがその長くさらっとした白髪と眼鏡のせいでそう見えるだけで顔つきや肌の感じから二十代の後半か三十代のはじめにみえる。
「新米か、見ない顔だね。まあ情報がほしかったら金目のものと交換かな」
男について尋ねると開口一番にそういわれた。新米だから舐められているのか、主人は白髪の長い髪を揺らしながら食器を拭いていてこちらを見ようともしない。少し、僕は胡散臭いと思いながらもいくらぐらいほしいんだ?と聞いてみた。
「まあ、いくらってよりは気持ちの問題かな?」
主人は動きを変えずニッコリと笑ってそう言った。
まあ、よくRPGに出てきそうな情報やもこんな感じだなーと思いながら、僕は金貨二枚を主人に差し出した。
この世界は日本と比べて金銭が単純である。銅貨は百円、銀貨は千円、金貨は一万円ぐらいだと思っている、たとえばリンゴのような果物は銅貨一枚で買えるし、服なんかはしっかりしたやつは銀貨二、三枚、武器や鎧なんかは金貨一枚ぐらいで買える。そのため金貨二枚というのは二万円ぐらいの大金である。
僕から金貨二枚を受け取ると主人は態度も変えずに自己紹介を始めた。
「僕はこの酒場……「リリーナ」を取り仕切っている、レスター・コービット、客からはマスターとかレスターとか言われてるからまあ好きによんでどうぞ、それで君の知りたいことだけど……おっと君たちか、その男なら夕べから見かけていないね。もうこの町にはいないんじゃないかな」
どうやら腕は確かなようで僕たちのことはしっかり知られているようだ、まあ目的の男がこの町にいないことなんて重も承知だ、昨日のネーデルの一件で姿を消したかそもそも彼女に依頼して消えたのかはわからないが……
「僕が聞きたいのは男の居場所じゃない、男のことについてとどこ向かったのかってことだ」
僕がそう言うとマスターは食器を置いて手を差し出してきた。
「情報がほしかったら対価」と追加を要求してきたようだ。
僕は頭にきたが別に金で解決できるならそれでもいいと思ったがマスターとい人間の態度が気に入らないので喧嘩を吹っ掛けてみた。
「さっき金貨二枚払ったじゃないか、それとも足りないって言うのか?あんな情報程度で金貨二枚とは……これはとんだ期待はずれだな」
僕の言葉にマスターは少し、カチンときたようだ眉間の筋が寄っている。喧嘩にふっかかりやすい人でよかった。
「ずいぶんと、強気ですがいいんですか?ここには私の仲間もいるんですよ。馬鹿な事を言ってないで金がないならさっさと消えてください」
「なんだ、ろくな情報も持っていない上に仲間頼りか。ここの酒場は噂とは程遠い場所だったな。言われなくとも他を当たるよ」
そう言って僕が踵を返すと屈強な大男が僕の前に立ちはだかった。
「おいおい、坊主ずいぶんと生意気いってくれて……覚悟はできてるんだろうな?」
そう言うと同時に男は見かけによらない鋭いこぶしを振りかざした、向こうの世界ならこんなことは望まないがこっちの世界じゃべつだ。
僕は男のこぶしを正面から片手の平で受け止める、いいパンチだが僕の敵じゃない。
そのまま、こぶしの力を上に逸らす。すると男は簡単に無防備になった。
僕は左手でこぶしを作り男の顎めがけてストレートの一撃を放つと、男は空中を華麗に舞い後ろの席をなぎ倒しながら倒れて気を失った。
静まり返る、酒場。そしてヒソヒソと周りが話始め僕のことを色々な意味合いを含んだ視線で見てくる。
「さあて、他に僕の相手になりたい奴はいるか?僕を倒せばそれなりにいい稼ぎになるよ」
周りを挑発するが誰一人、僕に突っかかってくる奴はいない。
マスターもかなり驚いているようだ。
僕は呆れて、酒場を後にしようとするがあわててマスターが止める。
「ま、待ってくれ。取引しよう」
僕は最初とは大違いの態度でどかどかとカウンター席の椅子に腰かける。
「取引ですか?」
「そうだ、うちの……リリーナのギルドに参加してくれたら、情報でもなんでも渡そう」
ギルド?始めて聞いたな、この世界にそんなシステムがあったなんて。
こう言った冒険者用の酒場があるんだから当然あるのか、ギルドな……
「そもそもギルドに入ったらなにかいいことあるんですか?」
僕がそう問うとまたマスターは情報料とかいいだしたので机を思い切り叩いてビビらせた、手がいたい。
「わ、分かったそれぐらいは話すよ……ギルドっていうのはようはコミュニティの一種で冒険者同士がいざこざを起こさないように定められた証みたいなものさ、ここリリーナはどんなギルドでも受け入れているが場所によってはそのギルドしか入店禁止とかそのギルドなら安くものが変えるとか……まあ、そんな感じ。あとは大型の生物の討伐が楽になるとか、依頼とかを複数で受けられるとか色々メリットはあるよ」
「じゃあリリーナは入るとどんなメリットがあるんですか?」
「うちのリリーナはメディクトで一番大きなギルドさ、ここを拠点に色々な国などに商店を持っていてそのすべてを割安で売買ができる、もちろんすべてリリーナのギルドメンバーだからへんないざこざもないし、何より僕の情報料が無料になるよ。まあ、その分働いてもらうけど。君なら腕も確かだしちょっと手が足りない時に頼むだけだから、面倒なことも押し付けないよ。だから入ってくれないか?」
いや、情報がもらえるのはいいけど……ギルドに拘束されるのは嫌だな。アイシアに相談するか……でもこっちの世界で人脈を作るにはいい機会か。
メリットは各国家での売買と情報、それと依頼の難易度か……現状金銭には困っていないがあるに越したことはないな。それに信用が得られるというのはでかい、デメリットとしてはギルドの拘束と呼び出しがあることか……
「ダイチさん、大丈夫でしたか!?」
僕が返答に悩んでいるとアイシアが血相を変えて飛んできた、さっきの騒ぎを聞いて駆けつけてくれたようだ。
「いや、特に問題なかったよ。そうだ」
僕はアイシアに耳打ちしながらギルドについて聞いてみたが、アイシアもその実態じたいは噂程度でしか認識がないらしく、なんとも返答に困っているようだ。まあそういうことならと、僕はギルドに参加することを承諾した。
「ありがとう、君のように力のあるものが入ってくれて。それじゃあ早速ついてきてくれ、そちらのお嬢さんも一緒にだ」
そう言いいながらマスターは僕たちを手招きしてカウンターの裏の通路を進んでいく、僕とアイシアも警戒しながらマスターのあとをついていく。
しばらく行くとマスター個人のものだと思う部屋まで案内され、箪笥の中に仕込まれた隠し扉を通り抜け、すぐそばの階段を下へ下へと降りていく。
結構深くまでくると水が激しく流れる音がする場所まで来た、うっすらと明りで照らされた場所はおそらく地下水脈がわき出ているらしく水がいたるところから流れ出していた。
その場所の一番奥の部屋を案内され僕たちは恐る恐るなかへと入る。
中には数人の男女が机を囲んで、各々好き勝手にしながらも座っていた。
「ようこそ。我がギルドリリーナの集会所へ!」
先ほどとは打って変わって高揚したマスターの声が辺りに響いた。