襲撃―暗闇の侵入者―
「いいんですよ、こっちで一緒でも私は……」
「遠慮しますよ、僕としてはこっちのほうが寝やすいですから」
「そ、そうですか……じゃあおやすみなさい」
「おやすみ」
寝れるわけはないのだが。
いい年して女の子と触れ合う機会すらなかった僕がいきなりこんな状況で寝れるわけがない……
アイシアと話すのはなんとか馴れた顔をみながらももう大丈夫だ、でも寝るのは別だ……
今までも何度か一緒に寝ることはあったがほとんど野宿だったし、それにそんなことを考えてる余裕なんてなかったが今回は違う。
少し、外に出てくるか……こっちの世界の空を眺めるのは結構好きだ、もとの世界でも綺麗な夜空が見える場所はあるんだろが少なくとも僕はしらないから、尚更こっちの世界の綺麗な夜空が好きだ。
まあ、すぐ出て行ったらアイシアが気にするだろうからしばらくまってからにするか……
それからどれくらい経ったのだろうかアイシアの寝息が聞こえ始めたころ宿の廊下で物音が聞こえた気がした。
最初は気のせいだと思った、しかし何度かコツン、コツンという音が聞こえた。僕は確信した……確実に何かがいる。
僕は無言でアイシアを起こすと口を塞いでしゃべるなとジェスチャーした。
アイシアは自体を飲み込めてはいなかったが異常を察してはくれたようだ。
そして部屋の扉がゆっくりと開けられた。
「無防備な……これが大国の使者だと?馬鹿馬鹿しいこのあたしが大国の死者にしてやるよ」
僕のとなりで何者かが話している、暗くて見えないがどうやら女性のようだ。侵入者は懐からなにかを取り出し構える。
鈍く光るそれは、おそらく刃物だろう、僕は寝たふりをしながら勝ち誇ったように笑った。
「死ね」
そいつが刃物を振り下ろすと同時に僕は毛布を投げつけ視界を奪った。
「今だ!アイシア」
「はい、ホールド」
アイシアの魔法が発動する、侵入者の周囲に輪が発生して侵入者の全身を拘束する。
「クッ、気づかれていたのかクソ」
侵入者は必死に逃げようとするがアイシアの拘束魔法の前には文字通り手も足も出ないようだ。
部屋の照明に火をつけて明るくする。
見た目は金色の髪に黒いとんがり帽子、ちょっと際どい黒い服装で一見すれば遊び人のようにも見える。
「さて、何者だか正直に吐いてもらおうか」
「ふん、あんたたちに話す口はもってないね。クソッ。なにが素人が相手だから楽だ……あんな端金につられるんじゃなかったよ」
結構おしゃべりだな、しかし雇われ殺し屋かなんかか?話してる内容からして本当に遊び人で借金でもあったのか。どっちにしても素人っぽいな。
するとアイシアがとんでもないことを言い始めた。
「お金に困ってるんですか……」
「そうだよ!あんたらみたいなお役人と違ってこっちは貧乏人でね。こうでもしなきゃいきてけないのさ」
「それは大変です!これ受け取ってください」
そう言って彼女は自分の金袋をそいつに対して差し出した。
「あんまり多くはないのですが……」
アイシアは満足げにしているがそいつはさらに怒りをぶつけてきた。
「馬鹿にするんじゃないよ、餓鬼から施しなんか受けるか!こんなやつらにやられたのかいあたしは……情けないよまったく……もういい、役所にでもなんでも引き渡しな」
彼女のことばにアイシアはしまったと言う顔をしている、自分のしたことが逆効果だと気付いたのか少ししゅんとしてしまった。
「まあ、役所にでもなんでも突き出すのもいいんですが僕としても狙われている理由は少しでも知っておきたいんですよね……取引しませんかお姉さん?」
彼女は悩むそぶりも見せずこう言い放った。
「随分と肝が据わった餓鬼だね。いいだろう取引の内容によっちゃあたしの知ってることを全部話そうじゃないか」
僕は彼女にとりあえず自己紹介をした、彼女はどうでもよさそうだがこちらを知ってもらうことですくなからずメリットはあると感じだ、僕はこの世界で使う名前としてダイチとだけ名乗ることにした。
すると意外にも彼女は名前を教えてくれた。名はネーデルというらしく僕の見立て通り遊び人をやっており(本職は魔導師見習いらしいが)ちょっと高価な魔性石を買おうとして大博打をして全財産を摩ったらしい。
そこに僕たちの始末を依頼された、相手は僕たちは実践経験の少ない素人の子供だから余裕だと言われていたため気楽に仕事を引き受け現在に至るらしい。なぜ狙うかは聞かなかったそうだが相手の特徴は覚えていた。
色黒で帽子を深くかぶり顔は見えなかったが背が高く身なりはかなり良かった、それとあまりかがない特殊な匂いがしたと教えてくれた。
情報料としてアイシアの金袋と非常食を渡して解放した。
捨て台詞に「この屈辱はいずれ倍にして返す」と言われたがまあまた来ないことを祈ろう。
「とんだ災難だったな、お互い」
「そうですねーふあーまだ眠いです」
「さーしっかり寝ようか」
僕は扉に防犯対策をいくつかして床についた。