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現代(いま)

どうもMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

さて、8話の前書きでもいいましたが、この9話はもともと8話と一つの話でした。

なので、場面転換が多めです。4話ほどではないのですが。

まだまだ稚拙な部分が多いですが、最後までおつきあいお願いします。

「くそっ!」

激しく繰り出されるこぶしをよけ続ける。

イギナの力を使っていてもその攻撃を避けるだけで精一杯だった。

「……。」

それでも男はただ無言だった。

「何か反応をしてほしいものだがな!!」

刀を振り下ろす。

男は後ろにとび、その攻撃を避けた。

「鬱陶しい!!」

「……。」

男は何も答えない。

ただ、目の前の敵を倒すことしか考えていないようだった。

そこには死という概念も、恐怖という概念もなかった。

死ねば終わり。

それが本能的にわかっているのか、攻撃を食らうようなことはしない。

だが、このイギナたちはどこか雰囲気が違う。

全員が紫色の目に変わるのもそうだが、全員が戦闘タイプで、しかも全員が武術の経験者という偶然じみた状態が違和感を増大させる。

そもそも”コロニーにイギナはいない”のだ。

それならば何故……。

「っ!」

そんなことを考えていると、男が攻撃を仕掛けてきた。

それをとっさに避けると、態勢を立て直す。

「考える時間はくれないわけか……。」

「……。」

「いいぜ。来いっ!!」

互いに飛び掛った。


 * * * * * 


「……。」

「……。」

互いに無言でにらみ合う状態が続く。

由紀はずっと不思議に思っていた。

それは怜二と同じ疑問だった。

”何故ここにイギナがいるのか”。

だが、由紀は感じ取っていた。

このイギナはイギナであってイギナではないことを。

人間を超越した力を持ち、その力を使っているときに目の変色が起きるのがイギナというのならば、彼らは確実にイギナである。

だが、その根底が彼らには通用しないような気がした。

もしかすると、彼らはイギナミラ症候群になっていないのでは?

そんな疑問が頭の中をよぎる。

由紀がそう思うのも不思議ではなかった。

「……っ!」

由紀は男に向かって飛び掛る。

男はじっと構えたままだ。

どうやらカウンターを決めるつもりらしい。

由紀はそれでも男に向かっていく。

男が手に力を入れる動作を由紀は見逃さなかった。

足を力強く踏み込み、いったんとまる。

相手が拳を繰り出すと、体を横にひねる。

そのまま勢いのまま、刀を横一線に薙ぐ。

手に肉を切り裂く感触が刀を通して伝わってきた。

次の瞬間には、由紀の刀は由紀の右斜め前に切先を向けていた。

噴出す血が由紀の軍服を赤く染める。

”赤き閃光”の異名に負けない実力を由紀は見せ付けた。

「怜二・・・・・。」

由紀はそうつぶやく。

その深紅の目には、遠くで戦う青い目をした青年が映っていた。


 * * * * * 


「くっ……!」

由紀が決着をつけたころ。

俺はまだ決着をつけられずにいた。

後ろを横目に見ると、由紀がこちらに向かってきているようだった。

「そろそろ決着をつけさせてもらうぞ!!」

刀を持つ手に力がこもる。

それを男は感じたのか、拳に力をこめたようだった。

次の交差がおそらく決着のときになるだろう。

キュインとした感覚が深くなっていく。

何がきっかけになったかはわからないがお互い同時に飛び掛る。

男が拳を繰り出す。

それをかがんで避けると、頭の上を刀で薙いだ。

男の手が二つにゆっくりと離れる。

俺はその勢いで体を回転させる。

「はぁあああああああっ!!」

刀を横一線に振る。

男の体がゆっくりと刀身を飲み込んでいく。

刀身が男の体から出てきたときにはもう真っ赤だった。

そこで世界が動き出した。

ゴトンという音を立てて落ちる腕、上半身。

断面から鮮血が地面に広がっていく。

「ふぅ……・。」

息をつくと、由紀がちょうどついたところだった。

「怜二、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。だが、この三人……。」

そこで違和感に気づく。

そうはじめにいたのは”3人”。

だが、地面に横たわっているのは”2人”だった。

「しまった!!」

気がつくと俺は駆け出していた。

あわてて由紀も後からついてくる。

「くそっ! 敵にひきつけられすぎた! まさか、一人が離脱してることに気づかないなんてな!!」

「まさか、最後の一人は!」

「研究室に向かったんだ! はじめから狙いは俺たちじゃなくてあいつらだったんだよ!!」

研究室の前に着くと、扉は荒々しく開けられていた。

いや、壊されていたの方が正しいだろう。

片側の扉がなくなっている。

「この中か!」

俺が中に入ると、奥のほうから声が聞こえた。

もうすでに阿部と朝比奈のところにいるらしい。

研究室の奥に向かうと、壁際に追い詰められている二人と壁際に追いやっている男がいた。

「動くな!」

そう問いかけても男は何も答えない。

「くっ!」

俺は力強く地面をける。

同じタイミングで男が拳を構えていた。


 * * * * * 


どんとひときわ大きな音がした。

「今の音は!?」

「……やはり、狙いはこちらだったか。」

「どういうことですか?」

阿部さんはただ静かに扉を見つめているだけで、答えてはくれなかった。

そのとき、大きな音ともに扉がこちらに飛んできた。

「危ないっ!!」

僕は阿部さん突き飛ばしながら、横に飛んだ。

直後、僕たちのいた場所に鉄の扉が直撃した。

扉は大きく曲がり、その真ん中には人間の拳のあとがしっかりと刻まれていた。

「人間の仕業じゃない……だけど、桔梗さんたちじゃない!!」

「……。」

「お前は一体何者だ!」

問いかけても男は何も答えてくれない。

無視をしているというより、”考えることができない”ようだった。

「まさか……薬……いや、それにしては強すぎる。まるでイギナだ……。」

「……。」

どうやら考えさせてくれる気はないらしい。

じりじりと壁際に追いやられていく。

気がついたときにはもう背中が壁に触れていた。

「何もできないなんて……。」

悔しい。

僕にも彼らのような力があればこの窮地を脱出できるかもしれない。

だけど、そんな力はどこにもないし、そんな力が手に入るわけでもなかった。

越えられない絶対的な壁が目の前に立ちはだかる。

「くっ!」

男が拳を振り上げた。

僕は思わず目をぎゅっと閉じて、手で顔をかばう。

それだけで守れるとは思っていなかった。

だが、いつまでたっても拳は飛んでこなかった。

ゆっくりと、目を開けてみる。

目の前に”彼”が立っていた。

「桔梗さん!!」


 * * * * * 


「ぐっ! 間に合ったみたいだな……。」

鞘に収めた刀で男の拳を受け止める。

驚いたことに、鞘の方が先に悲鳴をあげていた。

「さっさと逃げろ! こいつらはいつまでも抑えつけられるほど雑魚じゃない!!」

「は、はい!」

朝比奈は阿部を半ば無理やり連れて行く形で部屋を出て行った。

部屋の前には由紀が立っていて、二人は由紀に連れられていったようだった。

由紀がいれば大丈夫だろう。

俺は男の腹に蹴りを入れる。

男の体が後ろにとび、培養器をひとつ壊していた。

「お前たちが操り人形なのか、そうでなのかは知らないが……ここで終わらせてもらうぞ!!」

男が立ち上がり、ファイティングポーズをとる。

俺も刀を鞘から抜き、構える。

こいつで二人目だ。

まったく同じ構え、同じ動き。

まさか、こいつら……。

「そういうことかよ!」

俺は前に飛ぶ。

男は動かなかった。

そのまま刀をふると、男は後ろに避けた。

「お前ら……軍人だな。」

「……。」

「さすがだよ、お前たちは。だが……それもここまでだ。」

キュインという感覚が深くなる。

「行くぞ!!」

タンと強く、床をける。

ほぼ踏み込みに近いような動作で前に飛んだ俺に反応し切れなかったのか、男はとっさに防ぐ構えをした。

「遅いっ!」

俺は抜刀術の要領で刀を抜く。

男は後ろに飛んでいたので、直撃とはならなかったが、腕に深い傷を負わせることができた。

「くそっ! 致命傷にはならなかったか!!」

「……。」

男は無表情で構えを取り直した。

「痛みを感じていないのか……?」

ますます疑問に思えてくる。

人間じゃない。

そう思えるほど彼らは常軌を逸していた。

「……。」

「っ!!」

男は血を流しながらも、こぶしを俺に打ち込んでくる。

一発、二発と攻撃を避けていく。

その攻撃を避けることに集中しすぎていて、間取りを考えていなかった。

「なにっ!?」

壁に体が当たり、そちらに意識を持っていかれてしまった。

「しまっ……!」

危ないと思ったときには体にこぶしが撃ち込まれていた。

「がぁっ……!!」

向かいの壁にたたきつけられる。

その衝撃で視界が明転する。

「ぜぇぜぇ……。」

次も食らえば一たまりもないだろう。

俺は刀を構えなおした。

「……。」

血を流す腕を気にすることもなく、男は俺にとびかかってくる。

「そうなんども食らうかよ!!」

攻撃を避ける。

その開いた脇腹に刀を突きさした。

声を発することもなく、男は力なく崩れ落ちる。

「ぐっ……。」

どうやら予想以上にダメージを受けていたらしい。

俺はその場に崩れ落ちた。

「……! 怜二!!」

「由紀……。あの二人は?」

「領事館まで連れて行った。それより、大丈夫?」

「ああ。やつのこぶしが意外に重かっただけだ。少し休めばどうってことない。」

「無理はしないで。」

「ああ、大丈夫だ。」

立ち上がろうとしている俺に由紀は肩を貸してくれた。

本当に彼女は優しいんだなと思う。

「ありがとうな。」

「礼を言われるようなことじゃないよ。」

「はは、言わせてくれ。」

あのファイルを見てから、妙に辛気臭くなってしまう。

自分が思うより応えているのかもしれない。

由紀の肩を借りながらそんなことを考えていた。


 * * * * * 


監視カメラの映像を見ながらアンドリュー・ブルックリンはひとり、微笑む。

「いかがでしょうか。」

研究員らしき男が、アンドリュー・ブルックリンにそうたずねる。

「うむ。上出来だ。」

そう聞くと、研究員らしき男は満足そうな顔をした。

「エクシードウイルス……。あれからもう18年がたつのか。」

アンドリュー・ブルックリンは感慨深げにそうつぶやく。

だが、そこには過去に殺した人間に対する謝罪の念は込められていなかった。

「私の理想に一歩近づいたな。」

アンドリュー・ブルックリンは笑う。

研究員は満足げに研究室から出ていく。

もう彼を止めるものは誰もいなかった。


 * * * * * 


領事館に戻ると、朝比奈がいた。

「阿部はどうした?」

「執務室にいます。この領事館の中では一番安全なところですからね。」

「そうか。」

「桔梗さん、大丈夫ですか?」

「ああ。ひとつ聞きたいことがあるんだが……。」

「なんでしょうか。」

「このコロニーにイギナはいるのか?」

そうたずねると朝比奈は少し考える仕草をした。

そのしぐさは考えているというよりも思い出しているといった方が正しいかもしれない。

「いえ、実際にイギナが移住をしてきたという話は聞いたことがありません。もちろん、今回の桔梗さんたちのように偽ってこのコロニーに移住をしてきた人がいないとは断言できませんが。」

「つまり、いる可能性はあるが、限りなく少ないんだな。」

「でしょうね。地下とのデータは同じですし、何らかの工作を加えない限りはイギナミラ症候群に罹ったことがある人は基本的には地下の時点ではじかれているはずです。」

「なら、あいつらは一体、どこから……。このコロニーにイギナミラ症候群が発症したという事例はないのか?」

「聞いたことがありませんね。もしあるのならば、このコロニーにはもう人は住めないでしょう。」

「イギナミラ症候群にかかったこともなく、コロニーでイギナに後天的になった人間だと。そんなことが……。」

そこでハッとする。

ここであいつは何の研究をしていた。

イギナミラウイルス。

そして、そのあと。

なにかの指令が来て、それを拒否していた。

もしそれが、イギナミラ症候群を発症にさせずに人をイギナへとさせるウイルスだったら?

ピースが一つずつはまっていく。

「そういうことか!!」

「何かわかったんですか?」

「これがあいつの目的だったんだ。何度も足を運んでウイルスを欲しがった理由。そして連れ去ってまでも研究をさせたかったその理由。」

最後のピースがはまる。

「あいつはイギナの軍隊を作るつもりだったんだ……!」

「イギナの軍隊……? そんなことをして……まさかっ!」

「たぶんそうだろうな。あいつは世界を手中に収めるつもりだったんだよ。だが、流星群が襲来したことによってそれがかなわなくなった。だが、あいつはこのコロニーを手中に収めたかった。なぜならこのコロニーはつまり世界を掌握したことと等しいからだ。」

「じゃあ、あいつは初めから統合政府なんて作るつもりがなかったってこと?」

「それはわからないが、こうして実際に統合政府ができているあたり、作らなければならない理由があったはずだ。」

「ちょっと待ってください。」

朝比奈がそう静止をする。

何かを思い出しているようだった。

「思い出しました! 確か、統合政府の常任理事国の5か国はそれぞれの国と技術提携をしています!」

「それが理由か。」

「技術を獲得するってこと?」

「ああ。いくらイギナが人の身体能力を遥かに超えていてもその力には限界がある。より最強の軍隊にするためにあいつは他の国の技術も吸収したかったんだ。」

「じゃあ……。」

「用済みになったらさっきみたいに消されるだろうな。この話もどこかで盗聴されているかもしれない。場所を変えた方がいいだろう。」

「じゃあ、僕は阿部さんを連れていきます。外で合流しましょう。」

「ああ、わかった。」

俺と朝比奈はその場で別れ、俺たちは玄関へと向かった。


 * * * * * 


桔梗さんと別れた後、僕は阿部さんのいる執務室へと向かった。

ドアをノックすると、阿部さんが「どうぞ。」という。

「失礼します。」

阿部さんは机に座ったままじっと動かなかった。

「彼らと一緒に行きましょう。ここにいては危険です。」

「それはできない。」

「どうしてですか!」

「私は仮にも統合政府の役員だ。それも常任理事国のトップだ。私が行けば日本という国は消滅し、このコロニーにいる日本人たちは住む場所を失うだろう。それだけは避けなければならない。」

「ここにいても命はないんですよ!」

「それでもだ。私も自分の理想のために死ぬ覚悟はある。」

「死んだら理想も何もないじゃないですか!」

「それでも自分を曲げるわけにはいかない。最後に、朝比奈頼みがある。」

「聞きたくありません! 一緒に行きましょう!!」

「私の代わりに彼らを頼む。お前のIDならこのコロニーの大半の施設が使えるはずだ。できる限るのサポートを頼む。」

「阿部さん……!」

「すまないな。こんな上司で。」

その時だった。

外から大きな音が響いた。

「時間がない。はやく行くんだ。」

「阿部さん!」

「私の頼みを聞いてくれないか?」

「……っ!」

僕は阿部さんに背を向けて非常口へと急いだ。


 * * * * * 


「そうだ、それでいい。」

朝比奈が立ち去った後、阿部は一人、そうつぶやいた。

「類は友を呼ぶということか。」

桔梗 怜史が理想のために命をかけたのと同じく阿部もこの双肩に乗っている日本人の命を守るために命を懸ける覚悟をしていた。

「大きくなったあの子とも会えた。もう、心残りはない。」

階段を駆け上る音が大きくなる。

ここまで着々と近づいている証拠だった。

「……。」

バンと乱雑に扉が開け放たれる。

そこには武装した人間が4人ほどいた。

「なるほど。地下であったイギナではないわけだ。」

「……。」

男たちは何も答えない。

ただ無言でこちらに銃口を向けるだけだ。

「(あとは頼む。怜二、朝比奈。)」

4つの銃口が火を噴いた。


 * * * * * 


「まさか、お前とここで会うとはな……。」

目の前にいる橙色の眼をした男。

それはよく見知った人物だった。

「コロニーにまで来たんだ。ちょっとは喜んでくれてもいいだろう?」

「誰が喜ぶかよ。」

「つれないなぁ。」

礼一はわざとらしく悲しそうな顔をしたが、着々と刀を鞘から抜いていた。

「さて、やろうじゃないか。“赤き閃光”、桔梗 怜二。」

「お前もさっさと自分の本名を名乗ったらどうだ? 周防 礼一。いや、桔梗 怜一。」

「ほう……。」

怜一は少し驚いた顔をした。

「なら自分の正体も知っているのだろう?」

「“04チャイルド”。」

「すべてを知ったうえで、俺と戦うってことか。」

「ああ。」

「そうか。なら俺も手加減はしないぞ。」

「っ!」

プレッシャーが強くなる。

何もしていないのに、気圧されるようなそんな感覚。

今まで手加減していたのだとそう思わせるほどのプレッシャーだった。

「行くぞ。」

タンと怜一が地面を強く蹴る。

すると怜一の姿が消えた。

「なに!?」

「上っ!」

由紀がとっさに刀を出して攻撃を防ぐ。

「っ! ああああっ!!」

だが、由紀は怜一の攻撃に耐え切れず、吹き飛ばされてしまった

「今まで俺に勝てなかったイギナが勝てるわけがないだろう。」

「それはやってみなくちゃわからないさ。」

俺は怜一に斬りかかる。

怜一はそれを片手に持った刀で防ぐ。

「なにっ!?」

「戦闘タイプじゃないお前が、俺と互角に渡り合えると思うなよ!」

怜一のこぶしが俺のみぞおちに入り込む。

俺の体は領事館の壁にたたきつけられた。

「がはっ……!」

「おいおい。この程度か?」

直後、怜一は後ろに飛ぶと、怜一がいた場所には銃弾が着弾した。

「狙撃……?」

「これ以上、怜二様や由紀様には手を出させませんよ。」

「メイア!!」

「ほう、アンドロイドか。しかもメイアとは、な。」

怜一は笑い出した。

「何がおかしいのですか?」

「何すぐわかるさ。」

「メイア! 離れていろ!」

「ほう、怜二はあのおもちゃにご執着か。」

ゾゾッという感覚がした。

「メイア!!」

「はぁっ!」

怜一が刀を振り上げた直後、領事館から銃声が響きわたった。

「ちっ、時間か。」

「今の銃声は……!?」

「自分で確認しろ。それじゃあな。」

そういうと、怜一は刀を鞘に納め、悠々と立ち去っていった。

その怜一を追いかけるやつはここにはいなかった。

「大丈夫ですか?」

「ああ。すまない、助かった。」

「いえ。由紀様も大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう。」

「それにしてもさっきの銃声は……?」

領事館の見ても変わった様子はなかった。

「いったん、なかに戻ってみるか。」

そう決め、中にはいろうとしたとき、領事館の庭の一角が動いていた。

「……?」

俺は不思議に思い、そこまで行ってみる。

よく目を凝らすと、取っ手のようなものがあった。

それをもって引き上げてみると、朝比奈が出てきた。

「朝比奈!?」

「桔梗さん……。」

「朝比奈、領事館の中から銃声が聞こえてきたんだが、何か知っているか?」

「……。」

朝比奈は何も答えない。

「おい、朝比奈。」

「怜二。」

そう問い詰める俺を由紀が静止する。

由紀はただ無言で首を振るだけだった。

「……とにかく、ここから出るぞ。」

俺は朝比奈を連れて、領事館を後にした。

領事館の前には斎藤が車を止めて待っていて、俺たちはそれに乗り込み、帰路へとついた。

コロニーに来て、初めての戦いは敗北だった。


 * * * * * 


「報告します。日本暗殺完了しました。」

「報告します。ロシア暗殺完了しました。」

そうした報告が上がってくる。

これでこのコロニーにいる常任理事国の代表はすべて葬り去られた。

「はははっ! これで始まる!」

アンドリュー・ブルックリンは珍しく大きな声で笑う。

その笑い声は嬉しさに満ちていた。

まるで、人の死など意に介していないような、そんな様子だった。


 * * * * * 


翌日、テレビでは衝撃的な内容が放送していた。

『昨日、アメリカを除く常任理事国の代表4名が暗殺された事件で、警察は“EXITIS”による犯行とみて調査を進めています。現場には……』

「なんだって……!」

「明らかに嵌められましたね。」

「そうまでしてあいつは世界が欲しいのか!!」

「落ち着け、桔梗。今ここで大声を出せば怪しまれるだけだ。」

「そうだよ、怜二。いまはどうするかを考えないと。」

「くっ……!」

そう毒づいても何も変わらなかった。

俺がやること、今できること。

「やつがゼウスの雷を掌握したのは確かだ。つまりこれであいつは世界を牛耳った。なら俺たちがなすべきことは一つだ。」

俺は決意を込めて言い放つ。

「アンドリュー・ブルックリンを討つ!」


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