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EX、それは……

どうもMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

ついにEXTISも7話ですよ!

最終話まで走り続けていけたらと思います。

まだまだ稚拙なところはありますが、最後までお付き合いいただけたらと思います。

「一体、どこに行くつもりだ?」

灯りがともっていない、領事館内を歩く四人。

はたから見れば奇妙な光景だろう。

「君の過去を見に行くんだ。」

先ほどからそういう答えしか返ってこなかった。

「しかし、阿部さん。僕も一緒にというのは……。」

「君も見ておく必要があるからだ。」

阿部は振り返らない。

エレベーターに乗ると、エレベーターは静かに動き出した。

どうやら下に向かっているようだった。

しばらくして、扉が開く。

目的の階についたようだ。

「……ここは?」

「地下通路だ。本来は機密なんだがね。」

阿部は悪びれもせずにそういった。

「この秘密通路はコロニーの内壁の中にあって、理論上はどこへ立っていける。」

「理論上は……か。どこにも行けないみたいなそぶりだな。」

「結局はこの鳥籠の中から出られないのだ。」

「鳥籠ね。面白いたとえじゃないか。」

「実際にそうだ。籠の中で自由に生きていても結局は籠の中だ。自ら飛び立つ欲求を失った鳥は鳥とは呼べない。」

「それがコロニーの人間だってか?」

「いや、全人類だ。……ここだ。」

阿部が立ち止まる。

そこには扉があった。

阿部はポケットからカギを取り出すと、鍵穴にさして回す。

ガチャンという音が聞こえると、阿部はドアノブをひねり、扉を開けた。

ほこりっぽい臭いが風に乗ってきた。

「少し、ほこりが多いが我慢してくれ。」

阿部は何事もないように中へと入っていく。

俺と由紀は目を合わせると、そのまま中に入っていく。

朝比奈は終始、きょろきょろしていたが、意を決したのか俺たちの後に続いた。

阿部が電気をつける。

目の前に広がる実験器具の数々。

どうやらここは研究室のようだ。

「ここはとある生物学者の元研究室だ。」

「こんなところに一体、何があるんだ?」

「それはこの部屋の一番奥にある。」

阿部はまっすぐ進んでいく。

部屋の奥にはもう一つ、扉があった。

黒い、扉が。

近づくな。

直感がそう告げる。

頭の中で鳴り響く警鐘がやけにうるさかった。

「君自身が開けるんだ。」

「俺が?」

「覚悟があるなら開けるんだ。」

「……。」

頭の中の警鐘は鳴りやまない。

だが、ここまで来て手ぶらで帰るつもりはなかった。

俺はドアノブに手をかけ、扉を開けた。

薄暗い部屋に光る液体の数々。

培養器と呼ばれるそれに入っていたのは、何かの生き物のようだった。

「なんだこれは……?」

近づいてみてようやく分かった。

人だ。

それも赤子が培養器の中に入っていた。

「人体実験か!?」

「正確には違うが、大体はそれであっているだろう。」

阿部は部屋の一番奥にある棚から一つのファイルを取り出してきた。

「“04チャイルド”。かつて、ここの主だった生物学者が作った、人造人間。その実験の後だ。」

朝比奈が手で口を押えた。

由紀はそれを介抱するために朝比奈を連れて外に出た。

「……場所を変えよう。あいつも聞く必要があるんだろ?」

「そうだな。」

部屋から出て、実験台の上にファイルを置く。

表紙には“EX Project”と書かれていた。

俺はそのファイルを開いた。


 * * * * * 


20XX年4月8日。

やっと研究が始められることにいまはただうれしく思う。

この研究に協力をしてくれた私の友人のためにも、この研究は何としても成功させねばならない。


研究報告


船外活動をしていた宇宙服に付着していたウイルスを採取。

これをEXウイルスと名付ける。

このEXウイルスは空気や水といったものでは感染しないことが判明した。

そこで、実験用のマウスにウイルス自体を注入し、経過を観察することにした。



4月9日

朝来てみると、飼育器の中は血まみれだった。

蓋を開けてみると、そこには昨日、ウイルスを注入したマウスの亡骸があった。

マウスの亡骸は(ウイルスを入れた私が言えたことではないが)むごいものだった。

もしかすると、私はとてつもなく危険なウイルスの研究を始めてしまったのではないかと思った。


研究報告


死亡したマウスの飼育器を清掃し、新たなマウスを3匹入れ、同様にウイルスを注入した。

30分ほど経過観察をしていると、3匹のうち、二匹のマウスがぐったり始めた。

そのまま経過観察を続ける。

注入してから1時間28分後、一匹のマウスが血を流し始めた。

体には疱瘡のようなものができていて、そこから血を流していた。

ぐったりしていたマウスも同様に疱瘡のようなものができ始めていた。

何事もない3匹目はそんな様子を気にも留めず、ただじっと、座っていた。

注入から2時間後、もう一方のマウスも同様に血を流し始めた。

3匹目には変化が見られなかった。

注入から2時間14分後、二匹のマウスは完全に動かなくなった。

3匹目はマウスの死体を気にもせず、ただずっと座っていた。

生き残った3匹目のマウスにとある小説のネズミから名前をもらい、「アルジャーノン」となずけた。



4月11日


驚いたことに、翌朝研究室に来てみると飼育器に穴が開いていて、アルジャーノンが逃げ出していた。

通常のマウスならば破ることのできないアクリルの壁をアルジャーノンは破ったのだ。

一体、どうしてこういうことになったのだろう。

研究室の机の上にアルジャーノンはいたからよかったものの、逃げだされた場合の被害を考えるとぞっとした。

私はアクリルより強力な強化ガラスの飼育器を用意することにした。


研究報告。


アルジャーノンは同じ飼育器の中に入ったマウスには微塵も興味を示すそぶりはない。

それどころか動かなくなっても助け出すそぶりすら見せなかった。

マウスが仲間を助ける習性があるという実験結果をもとに考えるのであればこれは、明らかに異常とみられる。

アルジャーノンの身体能力は通常のマウスと比べて3倍ほど増加していた。

以後も、経過観察の必要あり。


 * * * * * 


「ここに書いてあるもの……。これはまさかっ……!!」

「君が思っている通りだ。そのマウスはイギナ化したマウスだ。」

「どういうことだ! このファイルはもう25年以上前のものだぞ!!」

「続きを読みたまえ。そこにすべてが書いてある。」

阿部は淡々と答える。

俺は反論したくなったが、黙ってファイルに目を向けた。


 * * * * * 


4月13日


アルジャーノンの血液を採取したら驚くべきことが分かった。

アルジャーノンの血液には未知の物質が入っていたのだ。

私はこの物質をマテリアと名付ける。

このマテリアがどういった働きをするのかは不明だが、EXウイルスを注入してできたものだということは容易に想像できた。

もしかすると、このEXウイルスは風邪といったウイルスと根本的に違うのかもしれない。


研究報告


新たにマウス3匹にEXウイルスを注入。

EXウイルスは自己増殖するが、血液および空気感染をしないということが判明。

また、増殖スピードも遅く、死滅の速度もまた遅い。


4月16日


注入した3匹うち、また一匹だけが生き残り、そのマウスの遺伝子を調べてみると、アルジャーノンの家系だった。

このマウスをメイアとなずけた。

EXウイルスの耐性は遺伝的なものであるかもしれない。

また、遺伝子にマウスではない遺伝子パターンがを発見した。

このEXウイルスは遺伝子を変えてしまうウイルスなのか。


研究報告


アルジャーノンとメイアを同じ飼育器のなかに移した。

死んだマウスたちの血液を調べてみると、マテリアと結合している血小板を発見した。

他のマウスの血液も同様で、マテリアは血小板がEXウイルスによって変化させられたものだという仮説を立てた。


その仮説を証明するために私は人としての禁忌を犯すだろう。

だが、私の願いのためには私はその禁忌を破ろうと思う。


 * * * * * 


ちょうど半分読み終わったところ。

由紀の顔を見ると凄絶な顔をしていた。

「……半分読んでみてその生物学者をどう思ったかね。」

阿部はそう聞いてくるだけだった。

「どう思ったかだって? こいつの目的がわからないな。ただの理想を追い求めてる科学者だな。」

「理想か。……そうだな、間違っていないよ。君の言ったことは。」

「含みのある物言いだな。」

「彼が目指していたものは私にもわかりはしないさ。だが、桔梗。君がここに存在するということが彼が本気で理想を目指していた証拠なんだよ。」

「……何が言いたい。」

「君はすでに察しがついているのだろう。答えはそのファイルの中にある。」

ファイルのページにはそれまで書かれていたものと少し雰囲気の違う見出しページだ。

その奥には先ほどまでの日記のようなページだろう。

だが、頭の中で警鐘が鳴り響く。

「めくるかめくらないかは君次第だ。」

「……。」

意を決する。

俺はそのページを開いた。


 * * * * * 


10月20日


もう何人の命が目の前で消えていっただろう。

一人目はもう形すら残さないほどひどいものだった。

それを見るたびに心が痛む。

数十回に及ぶ実験のかいがあって、今の個体は安定して成長している。

この子が出産と同じ時期になればこの培養器から取り出して成長させなければならない。


研究結果


被検体01が人間でいう安定期に入った。

あと五カ月ほどで被検体01は完成する見込み。

被検体01はSTAP細胞による細胞の作製と、EXウイルスに適合するように遺伝子操作をした、いわゆる人造人間だ。

私はこの人造人間を“04チャイルド”と名付けた。



4月30日


ついにこの子が培養器の中から出る時が来た。

私はこの子を怜一と名付け育てることにした。

桔梗 怜一(01)という単純な名前だが、この子にとって、また私にとっても大事な名前となるだろう。


研究報告


被検体01(以後怜一)が誕生。

赤子の時点ですでに通常の赤子以上の筋力を持っていた。

体重は4750g、身長は53cm。

以後、経過を観察する。



4月30日


怜一の一歳の誕生日を行った。

無邪気に笑う顔が何とも微笑ましい。

まるで父親になった気分だ。いや、父親なのだろう。

彼にとっては私は唯一の肉親であり、家族なのだ。

私は愛情をもって怜一を育てようと思う。



6月18日


怜一も3歳になり、遊ぶようになってきた。

その時に50mのタイムを計測してみた。

10.5秒。三歳児にしては好タイムすぎる。

身体能力は通常の人間をはるかに上回るかもしれない。

そんなことを考えていると、怜一がひょんなお願いをしてきた。

「弟がほしい。」

そんなことを言うようになったとは驚きだった。


研究報告


被検体02を作成、培養開始した。

怜一の血液を調べてみると、血中からマテリアが検出された。

このことからEXウイルスは生物関係なく遺伝子を変化させるものだという確信を得た。



8月13日


珍しいことがあった。

この研究室に来客が来たのだ。

どこから聞いてきたのか、EXウイルスの研究を譲ってほしいとのことだった。

どうしてそんなことを聞くのかわからなかったが、私は断った。

来客は粘りに粘ったが、私に渡す気がないと悟るとおとなしく帰っていった。

何か嫌な予感がする。

私は古い友人に連絡を取った。

幸い、明日来てくれるらしい。

怜一を紹介して、昔話に花を咲かせるとしよう。


研究報告


EXウイルスの注入を開始。

怜一と注入時期を変更し、経過を観察。

EXウイルスの拒絶反応は見られなかった。



8月14日


古い友人である阿部が研究室に来てくれた。

政治家になってから多忙と聞くが、こうして来てくれるだけでもうれしかった。

怜一を紹介すると、阿部は驚いた表情をしていた。

それから阿部と少し昔話をした。

やはり友というのはいいものだと思う。

私の夢を彼は笑わず聞いてくれる。

阿部という人間は私の生涯の友だろう。

怜一、そしてこれから生まれ来る子にその気持ちがわかってほしいと思う。


研究報告


被検体02の成長が予想していた以上に早い。

これもEXウイルスのせいなのだろうか。

謎は深まるばかりである。



10月23日


あの来客はここのところ、ずっときている。

だが、EXウイルスの研究を渡すわけには行かない。

これは私の夢であり、希望だ。

この夢がいずれ世界のためになるものだと私は確信している。


研究報告


アルジャーノンとメイアの細胞を調査したところ、ある特定の条件下のみ細胞分裂が活発になり、多数の細胞が死滅していた。

メイアを狭い鉄格子の檻に閉じ込め、アルジャーノンの横に置くと、アルジャーノンはメイアの救出をした。

その時、アルジャーノンは鉄格子をかみ砕くほどの力を手に入れていた。

EXウイルスは仲間(同族)が危機にふんした時、自らの細胞を引き換えにとてつもない力を得るのではないかという仮説を立てた。



10月24日


また、あの来客が来た。

しつこい客だ。

この研究が悪用されれば世界は核戦争以上にひどいことになる。

それだけは避けねばならない。

怜一はあの来客の顔を見るたびに不機嫌になる。

本能的に何かを感じ取っているのか?

子供の感性は不思議だ。


研究報告


今度はアルジャーノンを檻に入れ、メイアの横に置いた。

するとアルジャーノン同様にメイアはアルジャーノンを救出した。

メイアの体毛を採取し、調査するとやはり、細胞分裂が活発になっていた。

怜一や被検体02にも同様の能力があると考えられる。



2月14日


被検体02がそろそろ人間でいう出産の時期だろう。

私はこの子の名前を怜二と名付けることにした。

怜一の弟だから怜二という単調な名前だが、この子にとっては怜一と兄弟という証になるだろう。

それに、そろそろ私の身が危ないかもしれない。

阿部に手紙を出したが、それが届いたころには私はこの研究室にはいないだろう。

あの来客がアメリカ大統領に就任したからだ。

アンドリュー・ブルックリン。

彼がどうしてEXウイルスの研究をほしがる理由はわからなかった。


研究報告


怜二が乳幼児程度まで成長したが、培養器の中から出さなかった。

アルジャーノンとメイアを殺処分。

Minimal Earth Information Androidを設計。



怜一、怜二、そして阿部。

もしこの研究報告をみているのなら、どうか私の願いを聞いてほしい。


“     ”


 * * * * * 


ファイルはそこで終わっていた。

「その直後、彼は行方をくらました。ただ一人、培養器の中に君を残して。」

「……。」

「じゃあ、怜二は……。」

「ああ。」

阿部はまっすぐにこちらを見る。

その一瞬の間が永久に感じられた。

「“04チャイルド”……作られた人間。生まれながらのイギナだ。」

「……っ!」

由紀の顔が驚愕の色に染まる。

「思い返せば心当たりがあるだろう。たとえば……人の死に無関心だった……とかな。」

今度は由紀がはっとした。

どうやら心当たりがあるようだ。

だが、いくら思い返しても俺には心当たりはなかった。

「君は心当たりがないだろう。生まれてからずっとそれが当たり前だったのだから。」

「……ひとつ聞きたいことがある。」

「何かね?」

「俺はずっと地上いたはずだ。それなのにこの研究室がコロニーにあるのはなぜだ?」

「この研究室は彼が地上で使っていた研究室ではない。」

「なに?」

「この研究室はコロニーに来た後、彼が使っていた研究室だ。この上には大学がある。」

「じゃあ、こいつはコロニーに来て研究を続けていたってことか? あの培養器の中は俺と同じ“04チャイルド”なのか!?」

「そうだ。」

「……っ!!」

「だが、この研究室のメインの研究は“04チャイルド”ではなかった。」

「どういうこと? ここで行われていた研究って?」

「これから先は彼だけじゃない。君たちイギナ全員にかかわる問題だ。その先を見る勇気はあるか?」

「……ある。ここまで来て、俺が人間じゃありませんでしたって終わるわけにもいかないだろう。」

「自暴自棄になっているな。」

「……なっちゃいないさ。それより早く教えろ。やつがここで何をしていたのかを。」

阿部は少し考えるそぶりをした。

少し悩んでいるらしい。

「いいだろう。ついてこい。」

培養器があった部屋の扉を開ける。

朝比奈は少しためらっている様子だったが、結局ついてきた。

培養器の間の一番奥、そこに汚れた机があった。

「ここだ。」

「……ただの汚れた机だが?」

「だが、確かにここだ。」

阿部は引き出しを開ける。

そこには一冊のファイルがあった。

「またファイルか。」

「ああ。ところどころページが抜け落ちているがな。」

「ページが抜け落ちてる?」

「持っていかれたんだ、彼らに。」

「彼ら? ファイルにあったアンドリュー・ブルックリンとかいう男か?」

「アンドリュー・ブルックリンだって……!?」

朝比奈が驚愕した声をだした。

「知っているのか?」

「知っているも何もコロニー評議会のトップじゃないですか!」

「……なに? それは本当か!?」

「ええ、彼がこのコロニーを統治しているといっても過言ではないでしょう。」

「アンドリュー・ブルックリン……。まさか、ここまでつながるとはな。」

「彼が消したページ。それがなくてもここで何をしていたかわかる。」

阿部は一冊のファイルを手渡した。

「見てみるといい。それが君たちの戦いの理由になるのなら。世界をしる覚悟があるのなら。」

「……。」

俺はファイルを開いた。


 * * * * * 


3月20日

EXウイルスとインフルエンザウイルスを結合させ、イギナミラウイルスの生成に成功。

イギナミラウイルスがマウスに感染したことを確認。自己感染機能のなかったEXウイルスに感染機能、発病機能を持たせることに成功。


3月25日

連れてこられた人間がいる部屋にイギナミラウイルスを散布。

一週間後にEXウイルスに感染したことを示す発疹が確認された。

これによりイギナミラウイルスは人間にも効果があるということが確認できた。

被検体は全員死亡が確認された。

これをイギナミラ症候群と命名。


4月2日

イギナミラウイルスに感染すると、感染から発病までの期間ははインフルエンザと同一で、発病後3日以内に細胞の変異が確認された。

イギナミラ症候群を克服した人間をイギナと命名。

EXウイルス単体よりも劣るが、人間を超越した身体能力が確認できた。


5月20日

イギナにタイプがあることが判明。

速さや力に特化したタイプ。これをタイプAとする。

集中力や反射神経、動体視力に特化したタイプ。これをタイプBとする。

肺活量や暗闇での視力など身体能力が特化したタイプ。これをタイプCとする。

傾向としてはタイプAが60%、タイプBが10%、タイプCが30%だった。


6月3日

イギナミラウイルスの耐性は遺伝することが判明。

被検体のうち、兄弟がイギナミラウイルスに耐性がなかった場合は99.9%死亡し、イギナミラウイルスに耐性があった場合は99.9%生存した。

しかし、親に耐性があっても子に遺伝するとは限らないらしく、生存率が30%までにダウンした。

これは父親と母親の遺伝子のうち、片方しか耐性を持っていなかった場合、イギナミラの耐性が遺伝しない可能性が考えられる。


次なる研究についての指示があったが私はこれを拒否しようと思う。

実際、イギナミラウイルスでさえ作りたくはなかった。

だが、怜一のために作るしかなかった。

言い訳だと罵るがいい。

だが、イギナミラウイルスの研究についてこのレポート以外、すべて廃棄済みだ。

彼らは自らウイルスを作り出すことはできないだろう。

怜一、これを読んでいるということは無事だということだろう。

無事でよかった。

お前にはすこしつらい生活を送らせてしまったな。

学校にも通わせることもできず、自由に外を出歩くこともできない生活に不満もあっただろう。

すまない。

だが、お前が笑うたびに素直にうれしくなったり、お前を一緒に遊ぶ時間が楽しかったりしたあの時間は私にとって大切なものだ。

お前は賢いから私の設計書などすぐに理解してしまっていたな。

目を閉じるたびにあの光景が浮かんでくる。

お前は私にとって自慢の息子だ。

だから、頼む。

自由に生きてくれ。

できなかったこと、たくさんあるだろう。

いままで、自由にさせてやれなくてすまない。

弟の面倒もちゃんと見るんだぞ。

阿部、これを読んだなら“二人”のことを頼む。

お前はいい友人だったよ。

EXウイルスの研究を始めたとき、お前だけが笑わずに聞いてくれた。

ありがとう。

政治家になってから多忙だろう。

体を壊すんじゃないぞ。

お前は病気になると大ごとになるんだからな。

だから最後に、私の夢を託そうと思う。

怜一と怜二だ。

ふたりのことを頼む。

君の人生に多くの幸があらんことを。

最後に怜二。

顔を見せてやれなくてすまない。

あってやれなくてすまない。

父親らしいことができなくてすまない。

恨んでくれても構わない。

無責任だと思われてもいい。

父親からの願いだ。

自由に生きろ。

お前が成し遂げたいこと、お前が望むこと。

それはすべてお前がそこにいる証だ。

私はお前に教えることはできない。

間違いを正してやることもできない。

だけど、怜二。

お前ならきっと、周りにきっとお前のことを思ってくれる人がいるはずだ。

その人たちのことを大切にしろ。

きっとその人生でかけがえのないものだ。

その中でお前が見つけ出せたものがあるのなら、それを大切にするんだ。

お前の中にあるものは決して、お前にとって悪いものじゃない。

父親といっても実感がわかないだろうが、父親からの最初で最後の願いだ。

怜一を頼む。

あの子は感性が強すぎるところがある。

ひとりでは暴走してしまうだろう。

兄を窘める弟というのもすこしおかしなものだが、この世にいる唯一の兄弟だ。

ふたりで仲良くやってくれ。


桔梗 怜史


 * * * * * 


「なんだよ、それ……。なんなんだよ!!」

感情が止まらない。

ここまで感情が爆発したのは初めてかもしれない。

「無責任だと思われていもいいだと!? 恨んでくれて構わないだと!? ふざけてんじゃねえよ!! お前のせいでどれだけの人間が死んだと思ってる! 勝手に死んでんじゃねえよ! くそ親父!!」

手に落ちたものが涙だと気付くまでに少し時間がかかった。

実際に会ったわけでも、父親に温情を見ていたわけでもないのに自分が泣いてる理由がわからなかった。

だが、涙は止まらなかった。

静寂が研究室をつつむ。

「……その机についている汚れだが、調べたところ桔梗 怜史の血液だと判明した。やつは拒んだんだ。自分の研究が悪用されるのがわかったから。あいつは最後まで自分を貫き通したんだ。」

「……っ!」

「怜二……。」

「大体、あいつが望んでいた事ってなんなんだ!」

「それは……」

その時だった。

ドンという音がした。

「なんだ!?」

「ばれたか……。」

「どういうこと?」

「アンドリュー・ブルックリンだ。」

「なに!?」

「この研究室は正面以外に出口はない。……突破できるか?」

「それしかないんだろ! 由紀! 行けるか!?」

「大丈夫。」

「行くぞ!!」


 * * * * * 


彼らがこの部屋を出て行って少し経った後。

「彼は大丈夫でしょうか……。」

「珍しいな。お前が初めて会った人の心配をするなんて。」

僕は少しむっとする。

まるで僕が薄情な人間みたいじゃないか。

「そりゃ僕だって心配しますよ。いきなり、人造人間だとか、親が死んでいるだとか言われたら僕は正気ではいられないと思います。」

「……04チャイルドにはあえて、死についての感情が欠落している。今の彼にとって父親の死というものはそれほど重要じゃない。」

「では、なにが彼を突き動かすんですか?」

「さあな。私は怜史じゃないからわからないよ。」

「……すごい人だったんですね。その桔梗 怜史という人は。」

「すごいというよりは変人だったさ。」

阿部さんが懐かしそうにそうつぶやく。

やっぱりすごい人だ。


 * * * * * 


「どこだっ……!」

研究室の入り口。

そこには誰もいなかった。

俺は集中する。

キュインという感覚がすると、音が聞こえてきた。

「こっちか!」

俺は音の方向へと走る。

「怜二、待って。」

「どうした?」

「無理してる。」

「してないさ。」

「してるよ。だって辛そうだもん。」

「辛そう? 俺が?」

「うん。」

由紀はまっすぐ俺を見る。

その顔は心配をしてくれてるんだなとわかる顔をしていた。

「……大丈夫だ。俺が人造人間だとか、父親が死んでるとかでやけになってるって思ってるんだろ?」

由紀は何も言わなかった。

「それだけでやけになってるなら今頃、こうして由紀と話していないさ。確かに感情は抑えられなかったが、それでやけになるほどじゃない。心配するな。俺は大丈夫だ。」

「……わかった。だけど、つらかったら私にもいって。」

「了解。……行くぞ!」

「了解!」

俺と由紀は音のした方へと、走っていった。

長いまっすぐな廊下。

そこに3人の男がいた。

「俺たち相手に三人とはなめられたものだな。」

「……。」

三人は何も答えない。

俺と由紀はイギナの力を開放した。

キュインという感覚がすると、世界が静止する。

じっと男たちの顔をみると、目の色が紫一色に変わっていった。

「なにっ!?」

「……。」

男は俺たちに襲い掛かってくる。

その速さは通常の人間の速さを逸していた。

「こいつら……まさか!」

「……。」

男がファイテイングポーズをとる。

どうやら戦う気満々らしい。

俺は刀を抜くと、男に向き合った。

「……。」

男が一歩踏み込み、こぶしを繰り出す。

それを横に避ける。

壁には大きな穴が開いていた。

「やはりこいつら!」

「くっ!」

となりで由紀も苦戦していた。

こいつらは普通の人間じゃない。

それが指し示す答えは一つだった。

「こいつらイギナか!!」

その言葉にも男たちは反応しない。

まるで操り人形のようだ。

「くそっ! お前たちの目的はなんだ!」

長い廊下に向かいある二人と三人。

コロニーに来て、初めての戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。


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