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籠の中

どうも、Make Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

更新が開いてしまい申し訳ありませんでした。

ここから再開と行きたいと思いますので、よろしくお願いします。

「ははは……ははははははっ!!」

遠く、少し高い山の頂上。

そこに彼はいた。

地上にあいた大きな穴を眺め、大きな声で笑っていた。

「ははははははっ!!」

その笑い声は止まらない。

誰もいない地上にその笑い声がこだましていた。


 * * * * * 


「どうだ? 直りそうか?」

「ああ。技術部の連中が予備パーツをもってきてくれてた。これでこいつは直る。」

「どれくらいかかりそうだ?」

「パーツ交換だけだからな。すぐに終わるさ。」

「わかった。」

「怜二様。」

後ろからメイアが呼びかけてきた。

「どうした?」

「杤井様がお呼びです。」

「杤井が? わかった。どこにいる?」

「2号機の中にいます。」

「わかった。」

俺は2号機へと向かった。

杤井は飛行機の中でほかの隊員たちの診断をしていた。

「折れてはないみたいだからただ打撲だろう。……これで、よし。動かしちゃだめだよ。」

ありがとうございますと礼を言って去っていく隊員。

その手には添え木が巻き付けられていた。

「ああ、桔梗君。」

「用事ってなんだ?」

「ちょっとした診断だよ。……地下で動けなくなったんだってね。」

「……由紀から聞いたのか?」

「心配していたよ。僕もすぐだったとはいえ、イギナがそうなるのは見たことがないからね。」

「それでということか。」

「血液検査と簡単な診察だけだから、気張らないでくれ。それじゃあ、やるよ。」

杤井はゴムチューブと注射器を取り出した。

俺は軍服の袖を捲る。

ゴムチューブが腕に巻きつけられる。

そのあとにくる、チクッとした痛み、血をとられる感覚。

「はい、終わり。」

杤井は注射器から血を試験管に移す。

ラベルを張り、それを何かの手元にある箱に入れた。

「それじゃ診察はじめるよ。」

そのあとは本当にすぐだった。

「本部にあった機械が持ってこれなかったから少し時間がかかる。結果がわかりしだい連絡するよ。」

「わかった。」

俺は杤井に別れを言うと、外に出た。

風が吹き抜ける青い空、見渡す限りの緑の森。

この青空の向こうにはコロニーがあり、大森林の向こうに種子島はある。

そうして景色を眺めていると、由紀が声をかけてきた。

「何を見てるの?」

「景色を、な。……そっちはもう大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。」

その顔にはすこし、陰りが見えた。

「そうか。無理はするなよ。」

だが、それを追及はしなかった。

たぶん、それは由紀が一番分かっていることだろう。

「わかってる。それより、宇宙に行くって本当?」

「ああ、本当だ。」

「それなら……」

由紀はじっと俺の目を見る。

その眼はいつもと同じまっすぐな眼だった。

「私も行く。」

やっぱりか。

その言葉が真っ先に浮かんだ。

「……それでいいのか? これから先は誰も守れる保証はないんだぞ。」

「決めたから。私は逃げない。私はこの戦いを終わらせたい。もう誰も悲しむ顔を見たくない。」

「そうか。」

由紀がこう言うのはわかっていた。

だから、拒否はしなかった。

それが由紀の選択ならば、それを優先させよう。

「わかったよ。だが、無理はするなよ。」

「わかった。……ありがとう。」

「礼を言われる筋合いはないさ。」

そういうと、俺は1号機に戻っていく。

そろそろ修理が終わっているころだろう。

階段の前に行くと、メイアが立っていた。

「メイア、どうしたんだ?」

「作業が終わるのを待っています。」

「中で待てばいいだろう?」

「いえ、ここがいいんです。」

そういうメイアの口調は駄々をこねる子供みたいな雰囲気を帯びていた。

「そ、そうか。修理の方はどうなっている?」

「8割ほど、終わっているそうです。」

「意外と時間がかかっているな。」

俺は斎藤の方へと向かう。

「手伝うか?」

「いや、機関部の部品は繊細だからな、慣れている方がいい。」

「わかった。手伝えることがあれば呼んでくれ。」

「その時は頼む。」

俺はその返事を聞くと、メイアのところに戻る。

正直言ってやることがない。

ないわけではないんだろうが、特に思いつくことがなかった。

「すこしその辺を散歩してくる。」

「わかりました。あまり遠くには行かれないように。」

「わかっているさ。」

俺はそういうと、森林の方へと歩いていった。


 * * * * * 


「地上からの通信です。」

「なんだ?」

アンドリュー・ブルックリンは気だるそうに答えた。

「久しぶり……と言うべきかな。俺はもうあんたの顔なんて見たくなかったけどね。」

画面に写し出された青年。

それは周防 礼一だった。

「なぜ今ごろになってコンタクトをとってきた?」

「宇宙に上がる。その許可をくれないかとね。」

「宇宙に? このコロニーにきて何をするつもりだ?」

「すこしばかり用事ができてね。」

「私を殺しにでも来るか?」

アンドリュー・ブルックリンはじっと画面の青年を見る。

その目は試しているかのような目だった。

「それでもいいんだけどね、違うよ。……04といえばわかるかな」

それまで平然としていたアンドリュー・ブルックリンの顔が驚愕の色に染まる。

「やっぱり、知らなかったか。EXITISの生き残りにいるんだ。」

「それで、ということか。……よかろう、許可しよう。すぐに正式な辞令が届くはずだ。」

「助かるよ。」

ぶつんと通話が切れる。

「通信、切断されました。」

オペレーターのその声にアンドリュー・ブルックリンは何もいわなかった。

ただ、なにか思考を巡らせているような、そんな顔だった。


 * * * * * 


「緑か。」

放射線が蔓延している地上にこれほど豊かな緑が残っていることが驚きだった。

EXITIS本部でもそうだったが、意外と自然が残っているところが多い。

地球は人がいなくなればまた、昔のような緑あふれる星に戻るのだろうか。

それはわからない。

だが、自然は強い。

それだけは実感することができた。

目の前に広がる光景がその証拠だった。

「……。」

目を閉じる。

キュインという感覚がした。

ゆっくりと音が聞こえる。

風に揺れて枝が揺れる音。

吹き抜ける風、土のにおい。

すべてが新鮮だった。

目を開ける。

なぜか妙にリラックスができた。

これが森林浴というものなのだろう。

「ふぅ……。」

息を吐く。

体も軽い。

そんな時だった。

遠くの方から作業が終わったらしい声が聞こえてきた。

引き返そう。

一抹の名残惜しさを残しながら俺は帰路についた。


 * * * * * 


「お帰りなさいませ。」

「もしかして、ずっとここにいたのか?」

「はい。それが、なにか?」

メイアはずっと、階段の下に立っていた。

既に斎藤はその場にはいない。

由紀は中にいるようだったから、俺を待っていてくれたのだろう。

「すまない。それで、修理はどうなった?」

「無事に終わりました。今夜、ここを発ち、種子島に向かう予定です。」

「意外と早いな。」

「善は急げ、です。」

「なるほど。なら中に入っていよう。」

「そうですね。」

中に入ると、すでに操縦席に座っている斎藤と、座席に座っている由紀の姿が見えた。

「散歩はどうだった?」

「いい気分転換になった。」

「そう、よかったね。」

由紀は少し微笑む。

無理のない、自然な笑顔だった。

「メイアから話は聞いたか?」

操縦席から斎藤がそう問いかけてきた。

「ああ。今夜、出発するんだろ?」

「それで、明朝までに宇宙に行くメンツを決めておいてくれ。」

「それならば問題ない。この4人で行く。」

「俺と、由紀と、お前と……メイアもか。」

「ああ。メイアは信頼できるし、このメンバーが俺にとっては一番信頼できるメンバーだ。」

「なるほどな。そう言い切るあたり、お前らしいよ。」

「そうか?」

「ええ、怜二様らしいです。」

「メイアもそう思うのか。」

「怜二らしいよ。」

「由紀もって……全員そう思ってるのか……。」

「ははは。まぁいいさ。さ、今夜に備えてしっかり休んでおけ。それと軍服を脱いでこの中に入れておいてくれ。」

斎藤が差し出したのは大きめの鞄だった。

「武器とかはもうその中に入れてある。桔梗は刀とライフル以外持っていくものはあるか?」

「いや、特にない。」

「由紀は?」

「刀だけ。」

「なら軍服を入れたら閉めてくれればいい。」

「わかった。」

俺と由紀は軍服の上着をそこに入れ、チャックを閉めた。

上着の下は私服なので、それほど違和感がある格好ではなかったが、それでも少し違和感が残る格好だった。

時刻は16時といったところ。

日が落ちるまでに少し時間がある。

俺は席に座ると、目を閉じる。

睡魔はすぐに訪れた。


 * * * * * 


時は遡ること、3時間前。

「……コロニー評議会、アンドリュー・ブルックリン。」

「了解。」

軍で面倒を起こすとやっかいなのか、礼一はちゃんと敬礼をした。

「それにしても急な異動だな。」

「EXITISが崩壊したからそれに伴って、でしょうね。」

いつものふざけた口調ではなく、しっかりとした敬語を話す。

戦場での礼一を知っている人間なら驚くことだろう。

「達者でな。」

そういうと、移動の命令を伝えた軍人は立ち去っていく。

「そっちこそ……ね。」

その口調はいつものふざけた口調だった。

礼一の顔には不気味な笑顔が張り付いていた。


 * * * * * 


「よし、出るぞ!」

機体が音を立てる。

フォンとした感覚と共に体にGがかかる。

一定以上上空に浮かぶと、前に進み始めた。

「そういえば、なんで夜なんだ?」

Gがなくなり楽になったころ、そう聞いてみた。

「軍の進軍から逃れるためだ。」

「軍から?」

「夜、しかもこんな大森林では衛星から私たちを見つけることは不可能に近いでしょう。そこを狙います。」

「つまり、やつらが気づいたころには宇宙に上がっているってことか。」

「そもそも俺たちが宇宙に行く手段をもっているなんて思っていないだろうから、油断しているだろう。」

「それで夜か。」

「そういうことだ。発射は明朝になるが……」

「それは仕方ないだろう。ゼウスの雷で種子島ごと撃たれるわけには行かないからな。」

「発射の手筈は杤井主体で行ってくれる。技術部の腕の見せ所だな。」

そういう斎藤の声から嬉々とした雰囲気が感じられた。

自分の後輩である技術部の人間が成長した様子を見られてうれしいのだろう。

そこからは何事もなく、種子島まで進んだ。

だが、油断はできない。

軍が襲ってこないとも限らないのだ。

シートベルトをして席に座る。

ウォォォンという音を立てて、機体が垂直になる。

窓から見える世界が横向きになった。

「それじゃあ発射台にセットするよ。」

ガチャンという音と共に少しの振動。

どうやら発射台についたようだ。

「桔梗君、由紀君、斎藤君に、メイア。君たちと一緒にはいけないが、私たちが地球で待っていることを忘れないでくれ。」

杤井のアナウンスが響く。

薄暗い空からすこしの灯りが見え始めていた。

日が昇る。

直後だった。

機体が激しく揺れた。

「なんだ!?」

「軍の襲来だっ!」

杤井のそのあわただしい声が聞こえてきた。

「ここは私たちに任せるんだ!」

発射シークエンスに入る機体からはもう出られない。

いまから降りて軍の大砲の狙撃を防ぐなんてことはできないのだ。

「おおおおおお!!」

生き残った軍事部のイギナが軍に攻める。

砲撃が少しの間、やんだ。

「いまだっ!!」

その声が聞こえた直後、体に強烈なGがかかる。

それは今まで経験のしたことのない耐え難いものだった。

「ぐぅぉ……。」

腹や肺が押され、口から声が漏れる。

「っっ……。」

由紀も同様に顔をしかめ耐えているようだった。

どんどん地上から離れていく機体は勢いを増し、空へと昇っていく。

窓から最後に見えた景色は白い軍服を着た隊員と、軍人が入り乱れて戦っている様と、大砲がこちらに照準を合わせようとしていた光景だった。

すでに大砲の射程圏外へと出た機体はとどまることを知らず、高度を増していく。

宇宙へと船は進んでいった。


 * * * * * 


「何? 種子島から発射された宇宙船から救難信号だと?」

「ええ。それが不思議なことに、送られてきているのはコロニー評議会の日本支部だけなんです。」

「……。」

阿部は考えた。

この意味を。

そして、どうするかを。

「3番ポートをつかえ。」

「3番ポート……それは日本支部専用ポートじゃないですか!?」

朝比奈は驚いた声を出す。

どこか子供ぽいというか、そういうところを持ち合わせた青年だった。

「そうだ。そこならば大丈夫だ。」

「大丈夫とはいったい……。」

「今は断言できない。だが、そういう気がする。それだけだ。」

「……了解しました。」

朝比奈は一礼すると部屋を出ていく。

すこし不満があるように聞こえたが、あまり気にしない。

「これでお前の予想が当たっていれば、お前が予想した未来に進んでいるということだ。」

阿部は誰もいない部屋でそうつぶやく。

その答えが目の前に迫っていた。


 * * * * * 


「救難信号?」

「ああ、故障しましたよっていうのをコロニー評議会・日本支部にだけ送った。」

斎藤は操縦席に座りながら、そう答えた。

既に操縦桿からは手を放していて、いまはただ浮いている状態だ。

「だが、なんで日本支部だけなんだ?」

「すこし賭けに近いんだが、種子島から上がった宇宙船は旧日本の地下にいた人たちだと思うだろ?」

つまり同情を誘うわけだ。

「確かに賭けに近いな……。返ってこなかったらどうするんだ?」

「強行突破するしかないだろうな……。できればそれは避けたい。」

「そうだな。」

強行突破のこともそうだが、そのあとがまた面倒になる。

EXITISがコロニーに潜んでいる。

そんなことがうわさされたらコロニー軍も動くだろう。

そうなれば俺たちが動ける時間帯や範囲が限定的になってしまう。

それだけは避けたかった。

「……返答帰ってきました。『可能ならば三番ポートへ向かうように』とのことです。」

「故障しているふりだけはしておかないとな。」

ぐらぐらとわざとらしく揺らし、蛇足運転しながら進んでいく。

正直、酔いそうな動きだった。

コロニーから距離がそれほど離れていたわけではなかったので、すぐに3番ポートへ着くことはできた。

シャッターがゆっくりと開き、光の通路が出来上がる。

それに従って中へと入っていく。

船が完全に中に入ると、ゆっくりとシャッターが閉まる。

プシュっという空気がシャッターに入る音がした。

それが鳴りやむと、俺たちは外へ出た。

「うわっと。」

軽く踏み出したつもりだったが、体が宙に浮き、思うように進めない。

なんとかスキップの要領で出口までたどり着いた。

扉から出ると、エレベーターが前にあった。

それに乗ると、エレベーターは上がっていく。

エレベーターは目的地にすぐについた。

扉が開く。

「なんだよ……これは……!」

目の前に広がるのは地下とは全く違う、むしろ地上に近い風景が広がっていた。

ただ、違うところを上げるとするならば、上に大きな棒があることと、人工的な空だった。

すれ違う人間は俺たちに違和感すら持たず立ち去っていく。

どれも地下の人間と変わらないのに、どこか違うようなそんな感覚がした。

いうなれば、日本人が海外旅行した旅先にでもいるようなそんな感覚。

自分が違う場所にいるんだなと実感させられる、独特の感覚がざわざわとしていた。

心を落ち着けて、これからのことを考える。

「とりあえず、しばらくの宿を探さないとな……。」

家がなければ当分の間は野宿になるだろう。

それに、武器などは隠しておきたかった。

その場所を探し出すことが先決だろう。

「とりあえず、別行動しないか? 通信機は持ってるだろ、それで通信をしよう。」

斎藤がそう提案する。

この人数であるくよりかは合理的か……。

「そうだな、そうしよう。」

「なら、一時間後にまたここに集合しようぜ。」

全員がうなずくと、俺たちは別々に歩いていった。


 * * * * * 


「ふぅ……。」

講義が終わり、息をつく。

僕は片づけをすると講義室を後にした。

講義はやっぱりなれない。

大学の校舎から外に出ると、大きく伸びをした。

「よしっ。」

自分に活を入れる。

あまりぼうっとしていてはいけないな。

僕は校門へと向かう。

コロニーの中にこんな広い大学があるのは驚きだったが、小中高大とバラバラにあってというよりは一か所に集めて、という方がいいのだろう。

その分、教職というのは大変になったと聞くけど。

僕にはあまり関係のない話ではあるけれど、考えただけでも頭が痛くなる。

勉強量は計り知れないし、小中高の内容を教えられるだけ理解しなければならない。

そんなことを思いながら校門までの並木道を歩く。

ふと、前を見ると、女の人がきょろきょろとしていた。

女の子の方が近いかもしれない。

長い髪が特徴的な女の子だった。

道がわからないのだろうか。

とりあえず、話を聞いてみることにした。

「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。」

近くで見るとその女の子は端正な顔立ちをしていた。

話し方もしっかりとしている。

だけど、なんで大学の前できょろきょろしていたんだろう。

「きょろきょろしてたから、道に迷ったのかと思って。」

「道に迷ったというわけではありませんが、コロニーに来たばかりで。」

「そういうわけでしたか。どこに行かれるんですか?」

「いえ、家を探していて。」

家を探す……。

「ということは移住してきたわけですね。」

「ええ、そうなりますね。」

「だったら役所に行って申請すればいいですよ。最初はそこに行かなければいけない決まりになっていますから。」

「そうなんですか。ありがとうございます。」

ぺこりと頭を下げる仕草が様になっていた。

「役所はこの道をまっすぐ行ったところに日本支部って書いてある門がありますから、その中にある地域課ってところに行けば大丈夫ですよ。」

「丁寧にありがとうございます。」

「いえ、それじゃあ僕はこれで。」

そういうと僕は自宅の方へと歩いていく。

立ち止まって振り返ってみる。

女の子はもうそこにはいなかった。

可愛い子だったな。

また会える。

なぜかそんな気がした。


 * * * * * 


街中を歩いていると、メイアから通信が入った。

「メイアか。」

『とりあえず、家の確保ができそうです。』

「本当かっ!?」

『ええ。移住した人間には統合政府が所持する建物が与えられるそうです。』

「つまり、そこに行くってことだな。」

『ええ。申請自体は済ませておきましたので、また連絡します。』

「すまない、メイア。助かる。」

『いえ。それでは、後ほど。』

その言葉で通信が切れる。

「とりあえず、集合場所に戻るか。」

俺は集合場所に戻る道を歩く。

集合住宅が立ち並ぶこのあたりでは飲食店などが点在する。

コロニーという閉鎖された空間でどうやって食料を手に入れているのか不思議だった。

そう思うと、地下の配給も不思議なものだ。

ファクトリーらしいところで作っているのだろう。

それ以上は考えないことにした。

気にするようなことじゃない。

ただ、同年代であろう男女が笑って歩く様子は地下ではあまり見られなかった。

コロニーという籠が現実をぼかす。

地球では緑あふれるところに人は住んでいない。

むしろ、空がない地下でずっと生活している。

それを知っているはずの人間もいるはずなのに、それを知らない世代が生まれてしまう。

それがこのコロニーという籠だろう。

不透明な布がかぶされているような、そんな感じがした。

窮屈だ。

コロニーに来てそれほど時間が立ってはいないが、そう感じた。

集合場所にはメイア以外が立っていた。

どうやら全員に連絡をしてくれていたらしい。

「あとはメイアだけか。……何か見つかったか?」

「何も。家があって店があって……っていうぐらいだな。」

斎藤があきれたようにそう答える。

「こっちも何も。」

「そうか。この近辺にはそれほど重要な建物はないのかもしれないな。」

「そうだなぁ。」

斎藤は何か考えるようなしぐさをする。

「何かあったのか?」

「いや、さっきから不思議なんだ。……日本支部から連絡があったのに、どうして誰も来ないのか。」

「……どういうことだ?」

「『故障しました。』って言えば救急隊員の一人でも出てきそうなのに、ポートには救急隊員どころか、誰一人としていなかった。」

「俺たちのことがばれてるってことか?」

「そうすると、一つの疑問が出てくる。」

「なぜ俺たちをこのコロニーに入れたのか、か。」

「そうだ。理由が見当たらない。反政府組織であるEXITISをコロニーの中に入れるってことはそれだけリスクがあるってことだ。」

「……。なにかそのリスクを享受してまでやりたいことがあるのか。それとも、その程度のリスクは問題じゃないのか。」

「どちらにしろ、俺たちがここに来たことは知られてる。用心しておいた方がいいだろう。」

「そうだな。……やつがいないのが幸いか。」

「あいつは、来る。」

由紀は確信があるようにそう言い切った。

「……俺もそんな気がするよ。」

確信があったわけじゃない。

だが、あいつとは戦う運命のような気がした。

しばらくして、メイアが帰ってきた。

「すみません、遅くなりました。」

「大丈夫だ。それより、どうなった?」

「無事に許可が下りました。こちらです。」

メイアの案内にしたがって歩いていく。

大きな集合住宅が目の前にあった。

「ここです。」

「ずいぶんと立派じゃないか。」

「コロニーに移住してきた人が初めに住む物件だということですので、ほかの物件と比べて何ら遜色ないように作られているのでしょう。部屋はこちらです。」

三階の一番奥。

焦げ茶色の扉を開けると、フローリングの床が見えた。

玄関で靴を脱ぐ。

冷たい感触が妙に心地よかった。

奥に進むと、少し広いリビングと、部屋が二つ。

キッチンまであった。

リビングにはソファがすでにおいてあり、一通りの家具は備え付けられているようだった。

「すごいな。地下にいたころ住んでいた俺の部屋よりいいかもしれないな。」

「当分はここを拠点にすることになります。」

「さてと、すこし調べてみるか。」

斎藤はカメラのようなものを取り出した。

それを目に当てると、部屋全体を見回した。

「盗聴器やカメラが仕掛けられている様子はないな。ほかも調べてくる。」

そういうと斎藤は扉を開け、部屋の中へと入っていった。

「なら俺たちは荷物を片付けよう。」

少し大きめの鞄から刀や軍服を取り出す。

「それで、これからどうするの?」

由紀がそうたずねてくる。

「まだ、深くは考えていないが……コロニー評議会に戦いを挑む。」

「でもどうするの?」

「ならば、まずは日本領事館に向かうのはどうでしょうか。」

メイアがそう提案してきた。

「日本領事館?」

「はい。日本支部の代表がそこにいるはずです。」

「なるほど。場所はわかるか?」

「ええ。」

「ならまずはそこに向かおう。」


 * * * * * 


その日の夜。

灯りが消えた建物の中を進む二人の男女がいた。

その様子をモニターで見るひとりの男。

コロニー評議会・日本支部の阿部だった。

「やはり来たか。」

暗い部屋でそうつぶやく。

モニター越しに見えるその顔にはどこか面影があった。

今は亡き、友の面影が。


 * * * * * 


「どういうことだ? 警備が薄いどころか警備員が誰一人いない。」

「誘われてる……。」

「俺たちを待ってるってことか。」

長い廊下を走りながら進む。

灯りはどこもついていなかった。

窓から差し込む灯りを頼りに進んでいく。

一番奥の扉を開けると、少し広い部屋に出た。

「EXITISの方ですね。」

「誰だっ!」

闇の中から青年が出てきた。

「僕は朝比奈 雄介。みなさんをお待ちしていました。」

「待っていた? 一体、どういう理由で。」

「それは僕も知りません。僕の上司が連れて来いと言ったので。」

「その上司が俺たちをこのコロニーに入れたわけだ。」

「ええ。理由は本人からお聞きになってください。この部屋の奥にいます。」

朝比奈は壁にあるスイッチを押した。

灯りがつく。

朝比奈の横には扉があった。

「どうぞ。」

「……。」

俺は扉を開けて中に入る。

窓から差し込む灯りしかない暗い部屋の一番奥。

そこにひとりの男が座っていた。

「お前がさっき会った朝比奈ってやつの上司か?」

「そうだ。」

「俺たちをこのコロニーに入れた目的は何だ?」

「過去を知るためだ。」

男は淡々と答える。

「過去を知るため? 一体、何の過去だっていうんだ。」

「君の過去だよ。……『桔梗 怜二』君。」

「……!? どうして俺の名前を知っている!!」

「だから言っているだろう。過去を知るためだと。それは私が知るのではなく、君が知るんだ。」

「どういうことだ!?」

「ずいぶんと大きくなったな。私が最初に見たときはまだ赤ん坊だった。」

「……まさか……!」

「孤児院はどうだったか?」

俺が孤児院に入ったのは赤ん坊のころ。

そして、俺を孤児院まで連れてきた人間がいた。

俺の名前を知っていて、俺が孤児院にいたということを知っている人間。

それが、何を意味するのか。

それは明白だった。

「お前が、俺を孤児院に連れて行ったのか!」

「本当に大きくなったよ。」

「お前は何を知っている!」

「君のことは知っているつもりだ。無論、君の父親のことも。」

「なんだと……!」

「さて、これから君に過去を教えよう。だが、それを受け入れる覚悟は君にあるか?」

「……。」

過去を知る。

このコロニーに一体、俺の何があるというのだろうか。


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