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崩壊

どうもMake Only Innocent Fantasyの三条海斗です。

前回も言いましたが、この話は三話構成になっていて上中下の下に当たります。

まだまだ、稚拙な部分もありますが最後までおつきあい下さればと思います。

「ゼウスの雷だと!? 一体、どういうことだ!?」

『わかりません。言えるのは”ゼウスの雷が起動した”、それだけです!』

「くそっ! 何がどうなっている!!」

「いったん、落ち着いて。話は直接聞こう。」

由紀は俺をそう落ち着かせる。

こういう時の由紀は頼りになるかもしれない。

「……すまない。そうだな。まずは地上に向かおう。」

俺は連絡鉄道の入り口の奥にあるエレベーターに乗る。

ゆっくりと進むエレベーターがもどかしく感じた。


 * * * * * 


「はぁっ!!」

「ぐわっ!!」

白い軍服が鮮血に染まり、人が倒れていく。

また一人、また一人とその白い軍服を赤く染めながら倒れていく。

白い軍服が死装束に見える。

それくらい、青年は死神に見えた。

礼一は襲い掛かる隊員は一撃で屠る。

その歩みを止められるものは本部にはいなかった。

否、“その場”にいなかった。

礼一はゆっくりと進んでいく。

目指している場所は最上階だった。

エレベーターを使わず、あえて階段を上っていく礼一。

その足音にはイギナ達も恐怖を覚えた。

その足音はまるで死へのカウントダウンのようだった。


 * * * * * 


「どうことなんだ?」

扉が開き、そこで待っていたメイアにそう問いかける。

「何度も言いますが、起動したとしか言えません。」

メイアは申し訳なさそうな顔をした。

「メイアは地球の周りにある人工衛星にアクセスできるんだ。ゼウスの雷は無理だが……。その中にあるいくつかの衛星がゼウスの雷の起動をとらえた。」

メイアの後ろから斎藤が出てくる。

「それで確認できたというわけか。でも、軍がここにいることはわかっているんだろ? それならなんで……。」

そこでハッとする。

軍、礼一、オートマトン、EXITIS。

すべてが……つながった。

「そうか、そういうことだったのか!!」

「どうしたの?」

由紀が不思議そうにそうたずねる。

メイアも斎藤もきょとんとした顔をしていた。

「これは……」


 * * * * * 


最上階。

雰囲気の違う廊下にふたりはいた。

カーキ色の軍服を着た青年と、白い軍服を着た男が向かい合っていた。

「……これは驚いたな。」

礼一はぽつりとつぶやく。

「まさか、武器も持たずに、ましてや一人で挑むつもりとはね。」

「貴様程度、私一人で充分だ。」

白い軍服を着た男は構えをとった。

青年は刀を構えると、男と向かいあう。

青年の目は橙に、男の目は緑に染まる。

準備は万端だった。

それでも、二人は動かない。

時が止まったかのように向かい合ったままだ。

なにがきっかけになったのかわからないが、二人は互いにとびかかる。

「真っ向から飛んでくるとはね!」

礼一は刀を振り下ろすが、男はそれを難なく避ける。

懐に吐いた男は礼一に強烈な拳を入れる。

「ぐぅ!!」

礼一は一番端の壁にたたきつけられた。

「大口をたたいていて、その程度か?」

「……油断したよ。」

礼一は立ち上がる。

口に中にたまっていた血を吐き出すと、刀を構えた。

「はぁっ!」

礼一は男に向かってとびかかる。

男は動かない。

礼一が刀を振り下ろす。

それをまた避けると、今度はアッパーを礼一の腹に入れる。

礼一は天井にたたきつけられ、床にたたきつけられた。

「ぐっ……。」

「こんな幅が狭い場所では刀を十分には振り回せまい。」

男は目の前に倒れている礼一に対して、そういった。

男がこぶしを振り上げる。

どうやら、とどめを刺すようだった。

男はためらいもなく、こぶしを振り下ろした。


 * * * * * 


「ゼウスの雷、起動しました。」

オペレーターがそう報告をする。

その空間にはただ仕事をするという感情しかなかった。

これから人を殺すという感情がそこにはもうなかった。

地球から逃げ、コロニーで生活をしていた人間は地下の人間を見下す傾向にあった。

もともと地球で金を持っていた人間がコロニーに避難をしたのだからそういう傾向が現れるのは必然だった。

それは瞬く間に伝播し、コロニーの大半の人間が地下の人間を見下している。

それがたとえ、地下からコロニーに逃げてきた人間だとしても。

オペレーターは淡々と起動状況の報告をする。

一番上、司令部に位置する場所に、コロニー評議会・アンドリュー・ブルックリンはいた。

モニターを無表情で見つめる。

そこには何の感情もない。

「ゼウスの雷、チャージを開始します。」

その声が聞こえると、操作室が少し振動した。

ゼウスの雷がその銃口をターゲットに向けたのだ。

カウントダウンが始まっていた。


 * * * * * 


「これは……コロニーの罠だ!」

「コロニーの罠?」

由紀がそうたずねてくる。

「ああ。軍が駐留していれば、EXITISはそれを倒そうとするだろう。軍も倒されまいと反撃するはずだ。そうなれば俺たちは地下都市で戦闘をするはずだ。EXITISのほぼ全員が地下都市に集結していたんだ。そんな場所に、ゼウスの雷を放ったら……。」

「EXITIS大半の戦力を葬ることができる……。」

「そうだ。それに地下で見たオートマトンは軍、EXITIS関係なく攻撃していた。つまりオートマトンは軍が用意したものじゃない。そこには軍が利用されたということを黙らせておく必要があったんだ。」

「つまり、コロニー側が軍とEXITIS双方の壊滅を確実なものとするために用意したというわけですね。」

「そういうことになるな。本部には連絡したのか?」

「ええ。しましたけど……。」

メイアはばつが悪そうな顔をした。

「どうした?」

「脱出した様子がない。」

斎藤が助け舟を出す。

「なに?」

「連絡をしてから30分が経過しているが一機も本部から出た様子がない。」

「どういうことだ? どうして脱出していない。」

「何かしらのトラブルがあったか、それとも誰も来ていないか。」

「本部で何が起きている……!」


 * * * * * 


大きな穴が開いた床。

黒田は驚いた顔をしていた。

「はぁ…はぁ…。」

青年が床をたたき、横に転がって避けたのだ。

「あの状況からその機転とはな。感服するぞ。」

「ありがたく受け取っておくよ。」

青年は刀を鞘に納めると腰から抜き取った。

鞘に入った刀を床に置く。

すると、黒田と同じような構えをとった。

「刀が使えないんじゃ、これで戦うよ。」

黒田も構える。

青年と、黒田が互いに殴りかかる。

「ぐっ!」

「っ!」

「はぁっ!」

「はっ!」

バンという音が同時に響く。

青年と黒田が、同時に壁にたたきつけられた。

正直、黒田は驚いてばかりだった。

先ほどまで刀でやられていた青年が、素手での戦闘で互角に対峙していることに。

進化している。

そう思うまでに時間はかからなかった。

凄絶な殴り合いが続く。

最初は余裕があった黒田もだんだんと追い詰められていった。

しばらくして、両者同時に膝をついた。

「はぁ……はぁ……」

「ぐっ……。」

「ここまで強いとはね……。EXITIS最強は君なんじゃないか……?」

「老い耄れにその称号は似合わない。」

ふたりとも、膝をついたまま話し続けた。

黒田はわかっていた。

これが時間稼ぎにしかならないと。

「だけど、やっぱり……俺の勝ちだ。」


 * * * * * 


「ゼウスの雷が発射態勢に入っただと!?」

阿部はそう報告をしてきた青年に大きな声を上げた。

「はい……。コロニーからでもそれは確認できました。」

「アンドリュー・ブルックリンはここまで……。」

「目標はトウヨウニホン地区EXITIS本部です。」

「だろうな。それ以外、撃つところがない。」

阿部は頬杖を突く。

眼鏡の奥に少しの炎が感じられた。

「ご苦労だった、朝比奈。」

「いえ、それでは失礼します。」

朝比奈と呼ばれた青年は部屋を出ていく。

一人、静まった部屋にため息が聞こえる。

「もしかして、これも予想していたのか……?」

その問いかけに答えるものはいない。

「本当に、ときどきお前が怖くなるよ。」

その声には親しみが込められていた。


 * * * * * 


「メイア! ゼウスの雷の射程圏はどのくらいだ!!」

「計測中……。前回、サーフェイス殲滅時に発射された範囲から計測すると……旧東京、大阪間は確実に消滅するでしょう……。」

「本部は間違いなく消え去るってわけだ……!」

「桔梗君、由紀。……聞こえるかい?」

ふと、飛行機の中からそんな声が聞こえてきた。

「如月か!!」

「ようやくつながった……。そっちはどんな様子だい?」

「竹島にいる。そんなことより……」

「知っているよ。ゼウスの雷が起動したんだろ?」

「知っていてなぜそこにいる!」

「今、外で黒田さんが戦っている。それにここにはまだ逃げていない隊員たちがいる。私だけ先に逃げるわけには行かない。」

「戦っている? ……まさかっ!!」

「相手は軍のイギナ……。君たちの話にあった青年だろう。」

「やつは本部を襲撃するために撤退したのか!」

「すこし、私の話を聞いてほしいんだ。」

「なんだ?」

如月はゆっくりと話し出した。

まるで、遺言を残すかのように。

「まず、君と由紀、斎藤さんそして、メイアは宇宙に行くんだ。」

「宇宙に?」

「敵は宇宙だ。そこにいるコロニー評議会をなんとかしないと世界は変わらない。どれだけ戦火が広がろうと、元凶が残っている限り第二第三の戦争が起きる。桔梗君、君にすべてを託すのは無責任かもしれない、自分勝手かもしれない。だけど、お願いだ。由紀を、世界を頼む。」

「……わかった。」

「それと、桔梗君にもう一つ。」

「まだ何かあるのか?」

「どんなにつらいことでもどんなに認めたくないことでも逃げちゃだめだ。どんな事実であれ、君は人間だ。自分を見失わないでくれ。」

「……何のことかわからないが、肝に銘じておくよ。」

「最後に、由紀。」

「……。」

由紀はじっと、声が聞こえるだけの通信機を見つめる。

その眼は真剣だった。

「迷惑をかけてごめん。つらい思いをさせてすまなかった。剣をとって戦うような子じゃなかった由紀に戦うことを自分でもわからないうちに強制してたのかもしれない。すまなかった。最後に兄の願いを聞いてくれるのなら、幸せに生きてくれ。君が望み、君が生きたい人生を生きるんだ。……ごめんよ、できることなら君を一人にはしたくなかった。」

「……お兄ちゃん……。」

「それじゃあ、斎藤さん、メイア、桔梗君と由紀を頼んだよ。危なっかしいからね。」

「待って! お兄ちゃん!!」

通信機はもう何も言わない。

ただ、無音でそこにあるだけだった。


 * * * * * 


「ふぅ……」

椅子に体重を任せ、ため息をつく。

これでよかったんだ。

そう自分に言い聞かせる。

できることなら自慢の妹の結婚式に行きたかった。

それはかなわないのだろうけど。

窓から外を眺めると青い空があった。

この上にはこちらに銃口を向けた巨大な銃が浮かんでいる。

自然と恐怖は感じなかった。

それにしてもなぜ、説教臭いことを彼に言ったのだろう。

彼のことを知ったから?

それもあるだろう。

だけど、一番の理由はたぶん……。

バンという大きな音で集中が途切れた。

扉を破り飛んでくる黒田の体。

「やっぱり、ここに来たか……。」

「意外とてこずったがな。」

「周防 礼一……!」

「実際は本当の名前を知っているんだろ? 如月 誠。」

「さてね。」

礼一はふっと笑う。

「やっぱりお前は侮れないな。」

「ほめ言葉としてありがたく頂戴するよ。」

「こそこそ、嗅ぎまわっていたんだろ。」

「まぁね。いろいろとわかったよ。……だれが元凶なのかもね。」

「ふん。やはりお前はここで消しておくべきだな。」

礼一は刀を構える。

それでも如月は笑ったままだった。

トンと、まっすぐ飛ぶ。

虹色に輝く軌跡が、横一線に描かれた。


 * * * * * 


「由紀は大丈夫か?」

「ええ。泣きつかれて寝てしまっています。」

「そうか、すまないな。」

「いえ、これくらいは。」

メイアはぺこりとお辞儀をすると由紀のところに戻っていった。

「とりあえず、ここから離れた方がいいだろう。ゼウスの雷に巻き込まれるわけには行かないからな。」

「……こんな状況でよく落ち着いていられるな。」

「くよくよしていられないだろ。それに、いまはどうするか考えるべきだ。言っただろ、どう戦うかは俺次第だと。こんな状況だからこそ、冷静に対処するしかない。」

「……そうだな。とりあえず、中国方面に向かう。メイアにそう伝えてきてくれ。5分後に発進する。」

「わかった。」

俺はそう返事をすると、座席の方へと向かった。

ぽつりと、「自分の戦い方……か。」というつぶやきが聞こえた。

「メイア。」

座席に向かうと、メイアが由紀の隣に座って看病をしていた。

「どうなさいました?」

「これから出発する。シートベルトを付けてくれ。」

「わかりました。」

メイアは先に由紀にシートベルトをして、その後、自分の席のシートベルトをした。

俺はその隣に座り、シートベルトをする。

そこで、メイアがはっとした顔をした。

「ゼウスの雷がチャージを開始しました!」

「なにっ!?」

その声が斎藤にも聞こえたのか、斎藤は大きな声で言った。

「すぐに発進するぞ! しっかりつかまれ!!」

ウォンという音を立てる。

そこからはすぐだった。

少し体にGがかかると機体は宙に浮いた。

「中国方面に飛ぶ! しっかりつかまっていろ!!」


 * * * * * 


「ゼウスの雷、臨界点まで……3……2……1……臨界点です!」

「ゼウスの雷発射!!」

アンドリュー・ブルックリンのその声で、白い閃光が地上に降り注ぐ。

それは死の焔であり、天の裁きであり、人の傲慢だった。

それはまっすぐ、EXITIS本部へと降り注いだ。

モニターには白い閃光のみが映っていた。


 * * * * * 


「ゼウスの雷、発射されました!!」

「なに!? 本部から飛行機は出たのか!?」

「確認中……二機がそれぞれ別方向に飛び立ったのが確認されています!」

「二機か……くそっ!!」

斎藤の怒声が聞こえる。

少し離れた距離での会話は必然と大きな声になる。

由紀を目覚めさせるには十分だった。

「ん……」

由紀はそのまま窓の方を見ようとした。

「見るな!」

とっさにその声が出ていた。

だが、すでに遅かった。

由紀の顔がどんどんこわばっていく。

その視線の先には空から一直線に降り注ぐ閃光があった。

「あ……あ……」

「由紀! しっかりしろっ!!」

その直後、機体が激しく揺れた。

「この揺れは……っ!」

「ぐぅぅ! ゼウスの雷の衝撃波がここまで来るとは……!」

斎藤は必死に操縦桿を握っていた。

イギナの力をもってしてもその衝撃は凄まじいものだということが分かった。

「メイア!」

「確認しています! 射程範囲から外れていますが、その衝撃がここまで飛んできているのでしょう!!」

「ぐっ! 耐えてくれよ……!」

飛行機は揺れながらも、まっすぐ進む。

がくんと大きく揺れ、落下していく感じを最後に意識が途切れた。


 * * * * * 


ゼウスの雷を発射してからしばらく経った頃。

既に白い閃光は収束していた。

「EXITIS本部消滅を確認しました。」

モニターにはぽかりと大きく開いた穴が映っていた。

そこには、かつて白く巨大な建物があった。

少女が大切に育てていた花壇があった。

だが、いまはもうただの穴になっていた。

文字通り、跡形もなく消え去ったその穴を一瞥するとアンドリュー・ブルックリンは席を立った。

「ご苦労。」

そういうと、そのまま部屋を出ていった。

そこには何の感情もなく、むしろゼウスの雷にいた職員の何人かは“邪悪なテロリスト”を葬ったという達成感に浸るものもいた。

すでに200人以上の人間をその手で消し去ったという事実は頭の中になかった。

笑い声が響く。

コロニーから見れば親しげな、地上から見たら恐怖を感じる、そんな光景だった。


 * * * * * 


「くっ……。みんな……。」

あたりを見回す。

どうやら全員無事なようだ。

シートベルトを外し、席を立つ。

あの衝撃は一体なんだったのだろう。

そのまま操縦席の方へ行くと、そこには斎藤の姿がなかった。

「どこに行ったんだ……?」

窓が割れた様子はなく、周りを見回しても別段、おかしなところはなかった。

くらくらする頭を抱えながら外に出る。

目の前には大森林が広がっていた。

「これは……!」

「すごいだろ。」

斎藤の声が聞こえる。

周りを見回してもどこにも見当たらなかった。

「ここだ。ここ。」

声は下から聞こえた。

「そんなところにいたのか。」

「まぁな。不時着した衝撃で少しばかりいかれたからな。」

「手伝おう。」

俺はそこから飛び降りると、斎藤の横に駆け寄った。

「大丈夫なのか?」

「これでも地下では機械整備をやっていたんだ。機械に関しての知識は多少ある。」

「それは初めて知ったな。」

「聞かれなかったからな。」

「それなら技術部に来てくれればよかっただろう。」

「あいにく、部屋にこもって作業っていうのは性に合わないんでね。」

「お前らしいよ。」

「俺らしい?」

「ああ。まだ会ってから少ししかたってないから具体的なことは言えないが、お前は自分を持っているというか。そんな感じがするんだ。」

「初めて言われたな。」

「聞かなかったからだろ。」

「はっ、確かにな。」

「だろ?」

そのあとも斎藤と他愛のない話をしていた。

何時間か立った後、由紀が出てきた。

その後ろにはメイアもいた。

「起きたのか。」

「ええ、ですが……。」

由紀はずっと遠くを見ていた。

その眼はどこかうつろだった。

「しばらくそっとしておいた方がいいだろう。……家族を失ったつらさはわかる。」

斎藤は由紀を見ながらしみじみといった。

「そうか。……頼んだぞ。」

「任せろ……って言っても何もできないんだがな。」

そういうと、斎藤は作業に戻った。

「メイア、由紀のことを見ててくれ。」

「わかりました。」

メイアは飛行機の入り口近くで由紀のことを見ていた。

それを確認すると、俺は作業に戻った。

「様子はどうだ?」

「だめだな。需要な部品がダメになってる。」

「どうにかならないのか?」

「こればっかりはどうすることもできん。パーツを交換しなきゃいけないからな。」

「そうか……。」

「どうにかして部品を手に入れなきゃ、ここから動くこともできない。」

「連絡……。メイア!」

「なんでしょうか?」

メイアはこちらに顔をのぞかせる。

長い髪が風に揺れていた。

「衛星通信で、飛び去った飛行機に連絡をとれないか?」

「やってみます。」

すると、メイアは目をつむった。

「なるほど。メイアを使うのか。」

「衛星につなぐことができるんだろ? 理論上、地球上のどこにいても通信はできるはずだ。」

「まぁな。つながってくれるといいんだが……。」

「接続完了。……どうやら無事に飛行しているみたいです。」

「そうか!」

「現在地を通達したところ、こちらに向かってくださるそうです。ですが、到着は明日以降になると。」

「明日か……。」

「とりあえず、中に入ろう。……いろいろあったし疲れただろう。」

「そうだな。」

「先に入っててくれ。片づけをしておく。」

「ああ。」

俺は階段を上り、飛行機の中へ。

操縦席に腰を掛けると、メイアが隣に座った。

「怜二様、これからどうなさいますか?」

「どうするって何をだ?」

「これからのことです。……宇宙に行きますか?」

「そうだな。それは考えている。だが、コロニーに向かう手段がないぞ。いくらこの飛行機がシャトルになるとはいえ、飛べなきゃ意味がない。」

「でしたら手段が一つ。」

「なに?」

「種子島宇宙センターへ向かいましょう。」

「種子島宇宙センターだと? 本気か?」

「ええ。あそこにはシャトルの発射台があったはずです。ここからそれほど距離は離れていません。」

「だが、使えるのか? もう18年も使われていないんだろ?」

「問題はないはずです。無論、私たち4人だけで動かすには厳しいでしょうけれど。」

「……ということはこれから合流するメンバー全員で種子島宇宙センターに向かうわけか。……わかった。考えておく。」

「ありがとうございます。」

「それにしても……メイア、意外と話すんだな。」

「そうですか?」

「ああ。そっちの方が気が楽でいいが、これは意外な一面を見れたと思うよ。」

メイアはきょとんとした顔をしていた。


 * * * * * 


「由紀。」

斎藤はそう問いかけるが、由紀は黙ったままだった。

「隣に座るぞ。」

斎藤は由紀の隣に腰を下ろす。

目の前には大森林が広がっていた。

「すこし昔話を聞いてくれ。」

斎藤は一瞬、空を仰いだ。

「昔な、流星群が襲来する前、俺には家族がいたんだ。妻がいて娘がいて、裕福ではなかったけどそれなりに幸せに暮らしていたよ。」

由紀は黙って聞いていた。

体操座りのような格好で、腕の中に頭を入れながら。

「本当に突然、流星群はやってきた。降り注ぐ隕石を止める手段なんてそうなかった。別になかったわけじゃないが、それがすぐに使えたわけじゃなかった。家に帰ると、それはもう悲惨だったよ。」

斎藤の顔が少しゆがむ。

つらいことを思い出しているようなそんな様子だった。

「東京を直撃した巨大隕石の衝撃はすさまじく、うちもどこかしら壊れていた。それでも二人は生きていたけどな。だけど……妻が最初に放射線被ばくしてしまった。それが原因で起きた白血病で妻は死んでしまった。俺と娘はなんとか地下都市に逃げてこれたんだが、地下都市ではイギナミラがはやり始めていてな。娘も俺もかかったんだよ。隣で苦しんでいる娘に何もできなかった。『痛い』ってその声が今でも聞こえてくるんだ。結局、俺はイギナになったが娘はそのまま治らなかった。俺は流星群襲来で家族を全員なくしたんだよ。」

「……。」

「だから、わかるんだ。家族がいなくなる気持ち。つらくて、寂しくて、認めたくないんだ。だけどな、結局認めなきゃいけない時が来る。いつもでも逃げてばっかじゃいけないんだ。だから由紀。無理にとは言わない。ゆっくりでいい。お前の兄が最後に言った言葉をちゃんと聞いてやるんだ。どんなことでも、本当に大切に思える。それが、家族ってもんだ。」

斎藤はそういうと、立ち上がった。

「説教くさくなっちまったな。俺は先に戻ってる。外にいてもいいが、風邪をひかないうちに戻ってくるんだぞ。」

斎藤は飛行機へと戻っていく。

その場に残った由紀は空を眺めた。

大きな銃はそこに浮いている。

自分の兄を撃った銃が。

由紀は決心をした。

それが少女にとってつらい決断だとしても。

少女は立ち上がった。


 * * * * * 


「……。」

ディスプレイに映った巨大な穴。

それはゼウスの雷が開けた穴だった。

EXITISは崩壊した。

だが、それがどこか引っかかる。

阿部はその得体のしれない違和感がぬぐいきれなかった。

なにか裏がある。

そう考えるようになったのは最近のことだった。

ふと、扉がノックされる音ではっとする。

どうやら深く考え込んでいたようだ。

「どうぞ。」

「失礼します。」

入ってきたのは朝比奈だった。

「集計が終わったのでこちらに。」

「それで、どうなった。」

「先に申し上げますと、このデータは確実ではありませんので。」

「わかってる。」

「では報告します。生存者 28名、死者 2名、行方不明者 3562名です。」

「っ!」

ガンと強く机をたたいてしまった。

「……すまない。」

「いえ、こちらが報告書になります。」

「ご苦労だった。」

「それでは失礼します。」

そういうと、朝比奈は部屋から出ていく。

朝比奈が置いた報告書をみると、軍とEXITIS双方合わせた数だというのがわかった。

そう、“軍”も。

コロニー軍と地上軍はそれぞれ別の指揮系統下にある。

だが、その上下関係はすさまじいもので、同じ軍でもコロニー軍の方が格上だった。

「これが、おまえが予想した世界なのか……。」

その問いに答える人物はそこにはいなかった。


 * * * * * 


翌日。

「桔梗君、無事だったかい?」

「栃井、無事だったのか。」

「もうすこし遅ければ危なかっただろうね。」

斎藤は少しばつが悪そうな顔をした。

「それで、これからどうするんだい?」

「種子島宇宙センターに向かう。」

「種子島宇宙センターだって?」

「ああ。宇宙に行く。」

その眼はまっすぐだった。

怜二もまた決意した。


運命の歯車が回りだす。

さて、今回の更新から次の更新まで少し空きます。

二週間、またまた三週間開くかもしれません。

もしかしたら開かないかもしれません。

それはわからないですが、とりあえず、今言えることは来週までに6話の更新ができないということです。

楽しみにしてくれている方、申し訳ありません。

6話の更新楽しみにしておいてくださいね!

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