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戦い

どうも、Make Only Innocent Fantasyの三条 海斗です。

三話でも言いましたが、この話は三話構成になっていてこれは中に当たります。

四話はバトルしかないですが、すこしグロテスクな表現があります。

稚拙な部分がありますが、最後までおつきあいお願いします。

「おい、由紀! 一体、どうなっている!?」

「わからない。……だけど、これは異常……!」

時刻は14時15分。

作戦が開始してから15分ほどしか経過していない。

だが、地下都市には血のにおいが充満していた。

明らかに何かがあったのは明白だ。

「何が起きているんだ……!」

そこで、通信が入った。

『何かあったのですか?』

メイアの声だった。

「わからない。だが、血のにおいがする。」

『……それはおかしいですね……』

メイアからの応答が途絶える。

何かを考えているようだった。

その隙に由紀は一人でどこかへ走って行ってしまう。

「あ、おい! 由紀! くそっ! 俺も進むからこれ以上先は通信できる保証はないぞ!!」

『あ、ちょっ……これい……』

メイアが何かを言っているようだったが、ノイズがひどく聞き取れない。

次第に通信機から発せられる音は何もなくなった。

すこし遅れて進んだのにも関わらず由紀の姿はもうどこにもなかった。

イギナの力を開放した由紀のスピードには追いつけない。

俺はエレベーターの近辺を調べることにした。

作戦が順調にいっていればもう15分したら撤退し始めた軍が現れるだろう。

それまでにここを封鎖しておかなければいけない。

連絡鉄道ならば、軍人の一人や二人いてもおかしくはないのだが、今のところ誰にも会わない。

そのまま真っ直ぐ進むと、連絡鉄道の入り口が見えた。

連絡鉄道に乗るにはここで、パスポートを見せる必要がある。

検問とは少し違うが、簡単に言えば「乗車券の拝見」だ。

切符というものがなく、パスポートを見せるだけで乗れる連絡鉄道は世界各地の地下都市に続いている。

まぁパスポートを持っている人間なんて限られているが。

そこにはいつも軍人がいるはずなのに、無人だった。

そこで気づいた。

少し遠い場所にある無機質な壁。

そこに鮮やかな赤が広がっていた。

それは明らかに人のものだった。

下をみると、なにか落ちている。

その様子をみると、とてつもない力でたたきつけられたようだった。

近づいていくと酷い臭いがした。

落ちている布を拾う。

カーキ色の服のようだった。

カーキ色の服には見覚えがあった。

軍の軍服だ。

これがとある軍人のなれの果てなのならば、イギナにやられたのだろうか。

サーフェイスの生き残りがいてもおかしくはない。

だが、あたりを見回しても人の気配はなかった。

明らかに異常だった。

「人の手じゃないな。もっと大きな……」

破裂した、というよりは押し潰されたの方が正しいような気がした。

大きな塊がところどころに落ちている。

だが、それは四肢と呼べるようなもので、それ以外は壁に張り付いていた。

「巨人でも出てきたみたいだ。それに軍じゃないのか?」

理由はともあれ、こちらとしても安全でないのは確かだ。

俺はそこから離れる。

結局、分かったことはここの封鎖はもういいということだ。

「何が起きているんだ……?」


 * * * * * 


「撃ちつづけろ!」

怒声が飛び交う。

その声は軍からではなく、EXITISの方から飛び交っていった。

「くそっ! なんていう装甲をしているっ!!」

銃弾が金属の板にぶつかり、火花を散らす。

だが、“それ”には全く聞いていなかった。

穴ひとつ開かない装甲にイギナ達は恐怖を覚えた。

“それ”の下には無残な姿になった軍人とイギナの姿がある。

イギナといえど、人であることには変わりない。

銃で撃たれれば銃弾は貫通するし、刀で斬られれば出血する。

人間の限界を超えた力を手に入れ、人間よりも強靭な体を手に入れてもそれだけは変わらなかった。

無数の銃弾をくらいながらもそれは歩みを止めない。

無機質の目が、怪しく光った。


 * * * * * 


「……!?」

ぞわぞわとした後味の悪い感覚がした。

本能的に危険だと告げていると思った。

それだけ、後味がわるい感覚だった。

俺はその感覚がした方を見る。

闇の向こう、電灯が壊れ、灯りがなくなったその一角に、怪しく目を光らせる“それ”はいた。

「まさか……!」

それが次第に姿を現す。

ガチャンと大きな音を立てて進むそれは人間の倍近くの大きさだった。

鉄の装甲に身を包み、無機質の目を赤く光らせ、鉄の四肢をもった機械人形。

正式名称・対人用自律型機械人形。通称……

「オートマトン……!!」

“それ”は俺の目の前で止まる。

とっさに「やばい」と感じ、横に飛ぶ。

建物を盾に隠れる位置に転がった。

直後、俺がさきほどまでいた場所は蜂の巣になっていた。

オートマトンがバルカンを放ったようだ。

ガチャンと大きな音を立てて進んでくる。

俺はライフルを手にする。

その時、キュインという感覚がした。

ライフルで狙撃をした時と同じ感覚。

もしかすると、イギナの力を開放している感覚なのかもしれない。

俺は建物から飛び出て、オートマトンに狙いをつける。

引き金を引くとバシュという音と共に弾丸が放たれる。

それはまっすぐオートマトンに飛んでいく。

だが、弾丸はオートマトンを貫くことはなかった。

「なにっ!?」

オートマトンは何事もなかったように進んでくる。

オートマトンが手を振り上げていた。

俺はとっさに後ろに飛ぶ。

振り下ろされた鉄の腕はセラミックの床に大きな穴をあけた。

「さっきの軍人はこいつの仕業か!!」

だが、軍がもってきた兵器がなぜ軍人を襲ったのか。

さらに理由はわからなくなった。

そんなことはお構いなしにオートマトンは襲ってくる。

「くそっ!」

俺はその場から離れる。

幸い、オートマトンは先ほどからゆっくりと進んでいる。

全力で走れば逃げ切れそうだった。

だが、オートマトンはその予想を上回った。

歩みを止めたと思うと、突然、勢いよく追いかけてくる。

どうやら足がキャタピラーのようになっていて、それを勢いよく回転させて近づいてきているらしい。

まだ、あの感覚はしたままだったので、その動きがよく見えた。

「っ!!」

俺は思い切り地面をけり、跳躍する。

その高さはオートマトンを超えた。

勢いを殺しきれなかったオートマトンは俺の下をくぐり、地面に着地した俺の前で止まる。

俺は腰にさした刀を鞘から抜く。

そのままオートマトンにとびかかる。

甲高い音を立てている刀をオートマトンめがけて振り下ろす。

ものすごい量の火花が散る。

なかなか装甲を切断できなかった。

それがオートマトンに態勢を立て直す隙を与えてしまった。

「しまっ……」

オートマトンは足蹴りをした。

とっさに飛んで避けたが、すこし当たってしまい、俺の体が後ろへと飛ばされる。

地面に何回もたたきつけられ、ようやく止まる。

オートマトンが小さくなっていた。

どうやらかなりの距離を飛ばされたらしい。

「がはっ……けほけほ……。」

口の中から鉄の味がした。

口にたまった液体を吐き出すと、真っ赤な液体が出てきた。

直撃をくらえば体が持たないだろう。

例えるならば鉄道と正面衝突したようなものだ。

そう考えただけでぞっとする。

俺は勝つための手段を考える。

よく目を凝らすと関節には装甲がなく、頭部と胴体をつなげていることろにも装甲はなかった。

そこを狙うしかない。

俺は地面に落ちた刀を拾い上げる。

ライフルはどこかへ行ってしまった。

あとで探さなくてはならない。

その前にこいつを倒さなければいけない。

ゆっくりと、息を吐く。

キュインという感覚がさらに深く濃くなる。

どうやらこの感覚は集中している度合いにもよるようだ。

それが集中タイプといわれる所以なのかもしれない。

ゆっくりと動くオートマトンめがけて駆け出す。

不思議と体が軽く感じた。

オートマトンが腕を振り上げるがその動きでさえも今は遅い。

俺はオートマトンの懐に入り込むと、オートマトンの足を踏み台にして頭付近まで飛ぶ。

「はあっ!!」

横一線に刀を振ると、オートマトンの頭は胴体から離れ飛んでいく。

俺はすかさず、刀をむき出しになった場所に突き刺す。

バチバチという大きな音を立ててオートマトンは力なく崩れ落ちる。

俺はすぐさま、距離をとる。

次の瞬間、オートマトンは爆散した。

燃料に引火したのか、それとも他の理由があるのかははっきりとはわからなかった。

「なんとか倒せたな……」

だが、一体倒すのにかなりのダメージを食らった。

こいつが一体だけならば問題はないが、ほかにもいたら……と考えるとぞっとする。

オートマトンが集まってくる前に俺はライフルを探す。

ライフルはオートマトンのすぐ近くにあった。

一体、由紀はどこにいるんだろうか。

俺はライフルを拾いながらそんなことを思っていた。


 * * * * * 


「くっ……!」

オートマトンがその巨大な腕を振り上げる。

万事休す。

先ほどまで怒声を飛ばしていたEXITISの隊員は死を覚悟した。

無表情なオートマトンの顔をにらみつける。

オートマトンはたじろぎもせず腕を振り下ろした。

だが、その腕は彼をつぶすことはなかった。

ゴトッという音を立てて地面に落ちる鉄の腕。

そこには深紅の目をした剣士が立っていた。

“赤き閃光”。

虹色に光る刀を構えながら少女はオートマトンに向き合う。

「早く逃げて。」

「……すまない。」

隊員は抗おうとしたが、おとなしく従った。

先ほどの戦闘で、自分たちがオートマトンにかなわないことを実感していたからだ。

隊員たちが撤退していくのを見ると、由紀はオートマトンに斬りかかる。

モルテ鋼の刀は固いオートマトンの装甲をいとも簡単に切り裂いていく。

者の数秒でオートマトンは動かなくなった。

「ふぅ……」

由紀はゆっくりと息を吐く。

間に合ってよかったと、内心ほっとする。

だが、周りにある赤い水たまりに少し胸を痛めた。

少女は戦場で戦うには優しすぎた。

ガチャンという音が聞こえ、由紀はまた刀を構える。

目の前にはオートマトンがいた。

「……!」

オートマトンの動きをじっとみる。

だが、そこで由紀は違和感に気付いた。

明らかに動きがおかしい。

その理由はすぐに分かった。

突如、力が抜けたように崩れ落ちるオートマトン。

その後ろには橙の目をした青年が立っていたからだ。

「久しぶりだな、“赤き閃光”」

「お前は……!」

「そういえばまだ、名乗っていなかったな。」

青年は笑う。

まるで今から戦うことが楽しみでしょうがないような。

そんな笑みだった。

「俺は周防 礼一。よければ君の名前も教えてくれないかな。」

「……如月 由紀。」

「如月 由紀か。さぁ、あの日の続きをしようか。」

青年は腰から刀を抜く。

直後、一歩踏み込み、由紀の方へと飛んだ。

「……!」

キンという甲高い音が響いた。


 * * * * * 


地下都市を駆け回る。

充満していた血の臭いは換気扇のお陰でだいぶ楽にはなっている。

だが、それでも消えていないのが現状だ。

鼻をつく独特の臭いはやはりなれない。

地下都市中央。

本来ならばEXITISの隊員が戦線を展開しるしているところには、オートマトンの残骸が二機ころがっているだけだった。

切断された腕と、胴体で切り裂かれたオートマトンから流れ出る燃料がまるで血のように広がっていた。

由紀とあいつの仕業だとすぐにわかった。

「まさかっ!?」

そこで気づく。

こうした向かい合う2体のオートマトン。

ひとつは後ろから、もうひとつは前から切られていた。

由紀がやつと戦っている。

それを理解した途端、ぞわぞわとした感覚がした。

恐怖とかそんなものじゃないこの感覚の正体はなにかは知らない。

俺は由紀を探すことにした。

「由紀! どこにいる!!」

叫んでみても、答えは返ってこない。

「くそっ!」

俺は走る。

ところどころに粉砕された肉片と、がれきが落ちていた。

由紀はどこにいるのだろうか。

しばらく走っていると通信機から声がした。

『桔梗、戦況はどうなっている。』

上官だった。

どうやらEXITIS本部にかなり近づいたらしい。

「由紀を見失った! それに“やつ”が出てきてる!」

『なに? それは本当か?』

「確証はないけどな! 現在、由紀を探してる!」

『引き続き、由紀の捜索を続行しろ。ほかの隊員に通達。』

上官の指令が飛び交う。

由紀は一体、どこにいるのだろうか。


 * * * * * 


「どうした? 如月 由紀。“赤き閃光”と呼ばれたお前がその程度なわけがないだろう。」

「くっ……!」

傷ついた由紀と、余裕の笑みを浮かべる青年。

力の差が歴然だった。

青年はゆっくりと、あざ笑うかのように近づいてくる。

由紀はじりじりと後ろに下がる。

「逃げてどうなる。結局は自分の首を絞めるだけだぞ。」

由紀は壁にぶつかる。

気づかないうちに追い詰められていたようだ。

「終わりだな。」

青年は刀を構える。

この距離で、本気で斬りかかられたら由紀は逃げることができない。

「はぁっ!」

トンと軽く、だがとてつもない勢いで迫る。

「くっ! 負けない!!」

由紀も刀を構える。

キンと甲高い大きな音を立てて激しいつばぜり合いが起こった。

「まだあきらめていないのか。」

「……あきらめない!」

じりじりとしたこすれる音が二人の間に響く。

「無駄だ。お前は俺には勝てないよ。」

青年は由紀の刀をいなすと、由紀の腹に蹴りを入れた。

「がはっ……!」

「戦闘タイプにしては優秀だよ。スピードは文句なし、パワーも通常のイギナよりも強い。だが、それでも“優秀”の域を出ない。」

青年は刀を由紀の首筋に触れるか触れないかのところで止める。

虹色の輝きが由紀のほほに反射していた。

「さよならだ、“赤き閃光”。」

そういうと、青年は刀を振り上げた。

由紀は反射的に目を閉じる。

瞼の裏には仲間の顔が浮かんでいた。

だが、青年の刀は由紀に触れなかった。

キンという音に混じって、キィィンという甲高い音がしている。

じりじりという音からつばぜり合いをしているのがわかった。

ゆっくりと目を開けると、目の前には黒い刀身と虹色の刀身がせめぎあっていた。

「お前はっ!?」

白い軍服に身を包み、黒い髪をした青い目の青年。

桔梗 怜二がそこにいた。


 * * * * * 


「なんとか間に合ったみたいだなっ……!!」

といってもぎりぎりだった。

通信が終わり走り回っているときに立ち止まって集中してみた。

世界が静止し、音さえも形を成していた。

大きな音に混じって響く、甲高い音。

鉄と鉄がぶつかっている音だとすぐに分かった。

俺はそこめがけてまっすぐに進んできた。

それで今に至る。

「お前にはさっさと離れてもらわないとな!」

俺は膝立ちの態勢から立ち上がる。

半ばやつを押すように由紀から距離をとった。

少し離れたところで、どちらも後ろに跳び、互いに距離をとる。

「やってくれるじゃないか。地下都市にいたやつが。」

「俺には桔梗 怜二っていう名前があるんでね。」

「そうかそうか。それはすまないことをしたな。」

「その余裕も今のうちだぞ。」

「お前に俺が倒せるのか?」

キュインという感覚と共に世界が静止する。

それでも、青年の顔は笑ったままだった。

強く、地面を蹴る。

俺の体は青年に向かって真っすぐ飛んでいく。

「遅いな。」

青年は俺のスピードを上回る速さで刀を薙いでいた。

俺は急いで刀を振り下ろす。

ガンという音が広がる。

勢いはあったはずなのに気がつくと俺の体は後ろへと飛ばされていた。

「がはっ……!!」

俺の体は壁に叩きつけられる。

肺から空気が抜けて一瞬、呼吸ができなかった。

「見たところ、集中タイプのようだな。」

青年は何事もなかったかのように話始める。

「それがどうした。」

「それでここまでとはね。」

青年はさも楽しいかのように笑う。

「なにがおかしい。」

「いや、お前は知らないだろうし、それに……」

とたん、表情が真剣なものになる。

「ここで倒されるお前にいっても無駄だろ。」

イギナの力を解放しているはずなのに、青年は異常な早さで動く。

「遅いな!!」

「なにっ!?」

俺はとっさに刀を地面に刺す勢いで下へ向ける。

次の瞬間には俺の体は宙に浮いていた。

青年はタイミングを合わせ、俺を蹴り飛ばす。

強い衝撃が体を襲う。

気が付いた時には俺の体は壁にたたきつけられていた。

壁に亀裂が走り、がれきがパラパラと落ちる。

手に握った刀を支えにして俺は立ち上がった。

「頑丈だな。」

「この程度……!」

「無理するなよ。そこでおとなしく寝ていた方が、身のためだぞ。」

「やられっぱなしは性に合わないっ!」

キュインという感覚がさらに深くなる。

「無駄だよ。」

青年は先ほどと変わらない速度で、俺に近づく。

「くっ!」

タイミングを合わせて、斬りかかっても、青年にはかすりもしなかった。

青年は刀を鞘に納め、殴りかかってきた。

遊んでいる。

それが確実に分かることだった。

「ほらほら、反撃しないのか?」

最後の一撃は刀を鞘に納めたまま俺を突く。

たったそれだけなのに、俺の体はいとも簡単に飛ばされる。

「がぁっ!!」

地面に何度かたたきつけられようやく止まる。

すでに体のいたるところから血が出ていた。

「怜二!!」

どうやら由紀の近くまで飛ばされてたようだ。

由紀が俺のそばに駆け寄ってくる。

「大丈夫?」

「問題ない。それより、あいつをどうにかしないと……!」

「……!」

由紀は俺の前に立つ。

青年は笑みを浮かべたままだった。

「……!」

由紀が刀を構え、跳ぶ。

それは俺がいままで見た由紀の速さの中でもトップクラスだった。

「はあああっ!!」

「はっ!」

ギィィィンという音が響く。

由紀はすかさず蹴りを入れる。

「ぐっ!」

青年の体が浮く。

青年相手に由紀が押している。

「はあああっ!!」

由紀が刀を振り上げる。

青年はまだ宙に浮いたままだった。

勝った。

そう思った時だった。

鮮血が舞った。

それは青年ではなく、由紀の方からだった。

「詰めが甘いなっ!!」

態勢を立て直した青年は由紀を殴り飛ばす。

由紀は俺の目の前で止まった。

「由紀っ!!」

由紀のもとに駆け寄る。

由紀は腕から血を流していた。

「大丈夫……。」

軍服を切り裂くほどの切れ味ならば、俺の刀では勝ち目がなかった。

「これを……」

由紀は俺に刀を手渡す。

「戦って。」

「だが、この刀は……」

「お願い……」

「……わかった。だから休んでろ。」

先ほどまで腰にさしていた鞘をとる。

「ほう……。」

「リベンジマッチだ。」

俺は由紀から託された刀を腰にさした。

刀を抜くと、虹色の輝きが見えた。

「行くぞ!」

俺は青年めがけて走り出す。

青年は刀を手にしたまま立っているだけだった。

「はあっ!!」

俺は刀を振り上げる。

青年はそれに合わせて斬りかかってきた。

青年の動きが遅く、見えた。

その斬撃を避けると、俺は青年の顔を思い切り殴る。

青年はまっすぐ後ろに飛んでいく。

地面を何度かバウンドし、ようやく立ち上がる。

青年は立ち上がると、口から血を吐き出した。

「正直、これは予想していなかったよ。」

青年は他人事のように言った。

「俺を甘く見るんじゃない。」

そうはいっていても自分では不思議だった。

この刀は妙に俺に馴染む。

まるで、昔から使っていたかのようなそんな感覚がする。

それにキュインという感覚がさっきよりも深くなる。

イギナの力が強化されているのか、どうかはわからなかった。

ただ、一つ言えることは、あの青年の顔に一発入れたことだ。

「戦闘タイプじゃないお前が、俺に拳を入れるとはね。」

「余裕は今のうちだといっただろう。」

行ける。

なぜかそう確信できた。

俺は地面を強く蹴る。

セラミックの床に少し穴が開いたが、俺は勢いよく前にとんだ。

「そう何度もその手が効くとおもうなよっ!!」

青年は刀を降り下ろす。

早く強烈な一撃だろう、その斬撃は俺に当たらない。

「なにっ!?」

降り下ろした先に俺はいない。

「こっちだっ!!」

俺は抜刀術の要領で刀を振り抜く。

青年は後ろに飛び退くが、少し遅かった。

「ぐっ!」

青年は腕から血を流していた。

「くそっ! 決定打にならなかったかっ!!」

青年は顔に手をやる。

血が流れている手はだらんとぶら下がったままだ。

そして、青年は大きな声で笑いだした。

「これほどまでとはな! 驚いたよ!!」

「痛みで頭がおかしくなったか?」

「俺は周防 礼一。お前の名は忘れないぞ、桔梗 怜二。」

そういうと礼一は走り去っていく。

「待てっ!!」

俺は追いかけようとしたが、ガクンと膝から崩れ落ちた。

どうやら自分が思っていた以上に無理をしていたようだ。

おもわず笑いが込み上げた。

動かない体を必死に動かし、前を見ると、由紀がこちらに来ていた。

「大丈夫?」

「体が動かないが……少し休めば大丈夫だ。」

由紀は俺を抱えると、壁際に座らせてくれた。

「すまないな。お前もケガしてるのに。」

「いい。私も助けてもらったから。……ありがとう。」

「……礼を言われるようなことじゃないさ。」

そう直球で言われることにはなれていない。

すこしむず痒い気持ちになった。

そんな俺の気持ちを悟ったのか、由紀は声を出して笑った。

その顔は年相応の少女の顔だった。

由紀が声を出して笑ったところは初めて見たかもしれない。


 * * * * * 


礼一は走っていた。

腕の傷はすでにふさがり、血は止まっている。

もう怜二たちが追ってきて来ていないことは知っていた。

だが、それでも走るのをやめない理由があった。

礼一は笑う。

それはまるで楽しみで仕方がないようなそんな笑みだった。

階段を上ると、施錠された扉が出てきた。

それを思い切り蹴破ると、風が吹き抜ける。

礼一はそのまま進み少し小高い丘に立つ。

そこでまた礼一は大きな声で笑った。

その視線の先には白い、大きな建物がそびえ立っていた。


 * * * * * 


「もう大丈夫だ。……今度は単独行動するなよ。」

「わかってる。」

「ならいいんだ。」

俺は立ち上がる。

体にすこし痛みが走ったが、動けないほどではなかった。

「怜二、辛そう。」

意外と顔に出てしまっていたらしい。

「筋肉痛のようなものだろ、大丈夫だ。」

「無理はしちゃだめだよ。」

「わかってるって。……それより、ほかの隊員は?」

「本部の方に撤退してもらった。……あいつは強いから。」

あいつとは周防 礼一のことだろう。

確かに、やつは強い。

正直な話、勝てたといっていいのかどうか。

もしかすると、撤退していなければ負けていたのはこっちかもしれない。

それぐらい、やつとの差ははっきりしていた。

「そういえば、由紀のその刀……なぜか、不思議な感覚がしたんだが……。」

「不思議な感覚?」

「なんか妙になじむというか、いつもより集中できるというか……とにかく初めて使った気がしないんだよ。」

「……『白光』。」

「これがその刀の名前なのか?」

「そう。これは私のおじいちゃんが作ってくれた刀。」

「おじいちゃん?」

「正確には叔父なんだけど、腕のいい刀鍛冶だった。」

「だった……。」

そういえば上官が言っていた。

『その加工法を知っている人間はもうこの世にはいない。』

つもりその人物とは由紀の叔父だったということになる。

「これはその形見。だけど、モルテ鋼で作られた刀はもう一振りある。」

「まさか……!」

「そう、あいつが持っている刀はおじいちゃんが作ったもう一振り、『黒闇』。」

「一体どうしてやつが由紀の叔父の形見を持っているんだ?」

「わからない。だけど、おじいちゃんが死んだときにはもうなかった。残っていたのはこの白光だけだった。」

つまり、生きているときに由紀の叔父は刀を渡したことになる。

やつは俺たちよりも少し年上、年齢的には如月と同じくらいだろう。

ということは由紀の叔父が生きているときはやつも子供だということだ。

そんなやつに刀を渡すだろうか。

俺だったら渡さないような気がする。

だが、刀はやつの手に渡っている。

理由は由紀の叔父しか知らないのに、その人物には聞くことができない。

理由はやつに聞くしかなさそうだった。

そう思ったその時、通信機に通信が入る。

『怜二様!!』

珍しくメイアが大きな声を出していた。

「どうした?」

『ああ、やっとつながりました……。いそいでこちらに戻ってきてください!』

「戻る?」

いつも落ち着いているメイアが慌てたような、そんな声を出していることに驚き、思わず素っ頓狂な返事をしてしまった。

『作戦は中止です! 至急、竹島ゲートまで戻ってきてください!!』

オートマトンに礼一の襲来。

中止になる理由も納得ができた。

だが、竹島まで戻る理由がわからない。

「どうして竹島なんだ?」

そこでノイズがまた走る。

「メイア? メイア!」

「どうしたの?」

「通信が切れたんだ。距離が離れすぎたのか。」

「それでなんて?」

「作戦は中止、いそいで竹島まで戻れってさ。」

「……。通信も途中だし、いったん戻ろう。」

「そうだな。」

俺と由紀は竹島まで向かう。

いそいでといわれたので、走らなければならないのだが、体に痛みが走るので半ば駆け足だ。

それでも普通のスピードよりは速い。

連絡鉄道へ向かう途中、破壊のあとがところどころに見えた。

連絡鉄道の入り口が見えかかったころ。

メイアと通信が繋がった。

「メイア、言われたとおりに戻ってきているが、一体何があったんだ?」

『ゼウスの雷が起動しました!』

「なんだって!?」

空に浮かぶ巨大な銃口が火を放とうとしていた。


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