始まり
遅くなりました。
Make Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。
この話は3話構成で上中下の上になっています。
稚拙なところが多いですが、最後までおつきあいお願いします。
今のところ何とか一週間以内で更新できているのでこの調子で進めたいと思います。
静寂に包まれた部屋にバシュという音が響いていた。
まっすぐ進んだ弾丸は的の中心を貫く。
すると、すぐさま新しい的に入れ替わる。
またバシュっという音がして、弾丸が的を貫く。
もう新しい的がないのか、ピーピーという音がなった。
そこで俺はスコープから目を離す。
ガチャっというセーフティロックがかかる音がした。
手元を見ると、9800点というスコアが表示されていた。
ふぅっと息を吐く。
まずまずのスコアだ。
俺は銃を片付けると、技術部へと向かう。
技術部では斎藤が待ちくたびれたように立っていた。
「終わったぞ。」
「で、どうだった?」
斎藤は開口一番に聞いてきた。
「すこし、ぶれる。発射時にすこし反動が来てるのか?」
「ちと、特殊な銃だからな。こっちも加減がわかっちゃあいない。」
「特殊? レールガンがか? 確かに特殊といえば特殊だが……。」
「まぁいろいろあるんだよ。レールガンといえばレールガンだけどな。」
「弾を回転させてるのはわかったが、外からじゃこれ以上のことはわからないからな。整備はそっちに任せることになりそうだ。」
「気にするな、それが俺たちの仕事だ。それに集中タイプの狙撃手はあまりいないからな。こっちも参考になるよ。」
斎藤はそう笑いながら言った。
「それならいいんだが。……それじゃ俺はもう行くぞ。」
「ああ。」
俺は斎藤と別れると、階段を上り一階へと向かう。
地下と違って一階は太陽の光が差し込んでいた。
やはり太陽の光はいいものだ。
地下にいたときはいつも冷たい蛍光灯の光がついていた。
昼なのか、夜なのか。
それすらもわからないような状態がずっと続いた。
俺は自動ドアをくぐり外へ出る。
風が吹いていて、心地よかった。
そのままふらっとしていると、あの花壇のところに由紀がいた。
「花の世話か?」
「うん。一応、世話係。」
「なるほど。」
これが軍人におそれられている“赤き閃光”と知ったら軍人は一体、どう思うのだろうか。
それぐらい平和な少女だった。
「あ。」
由紀が突然そう言った。
なにやら思い出したような顔をしている。
「お兄ちゃんが呼んでた。」
「お兄ちゃん?」
由紀のお兄ちゃん……。
どこかで会ったような気がするのだが……。
確か……初めてここに来た時だ……。
そこで俺ははっとした。
「如月か。」
「一番上の部屋にいるって。」
「初めてここに来た時にあった場所だな。」
「うん。」
「わかった。だが、一体何の用だ?」
如月に呼び出されるようなことはなかったと思うが……。
「わからない。」
由紀にも心当たりはないようだった。
俺は由紀に別れを告げると、如月の元へと向かった。
* * * * *
「よく来たね。」
「お前が呼んだんだろ。……それで、俺に何のようだ?」
「これを渡しておこうと思ってね。」
如月は引き出しの中からなにかを取り出すと俺の目の前まで歩いてきた。
そして、その手の中にあるものを俺に差し出す。
俺はそれを手に取るとまじまじと見つめる。
「……バッジか?」
「それはEXITISでの階級を表すバッジだ。君はまだ二等兵だが、キャリアとかそういうのはないから実力次第ではもっと上まで行けるよ。襟首のところにつけていてくれ。」
俺はバッジを襟につける。
太陽に照らされ、バッジが輝いていた。
「それと、そのバッジは無線機になっている。太陽光で充電するからバッテリーの心配はいらない。普通にしていても一カ月はもつ。」
「なにかあったらこれで通信するわけだな。」
「ああ。作戦室のオペレータに届くようになっている。半二重通信だから片方がしゃべってる時は何言ってもあっちには届かないから。」
「わかった。」
「なにか聞いておきたいことはあるかい?」
「仕様に関してはわかった。あるとするなら階級とかにはあまり興味はないが、二等兵ってどこなんだ?」
如月は満面の笑みでこたえた。
「一番下。」
* * * * *
部屋に帰ると、メイアから検査室へ向かうように言われた。
杤井という医者が呼んでいるらしい。
あの医者だったはずだ。
今日は人に呼ばれることが多いような気がする。
そんなことを思いながら俺は検査室へと向かった。
ノックをすると「どうぞ」と返事が聞こえた。
俺は部屋の中に入る。
入ってすぐのところに杤井はいた。
「一体、何の用だ?」
「なにちょっとした検査だよ。一応、EXITISの決まりになっていてね。健康診断だと思ってくれればいい。」
「健康診断か……。イギナでもやるんだな。」
「まぁね。基本的な構造や内臓の機能とかは一緒だから。普通に風邪も引けば胃潰瘍にもなるよ。」
「なるほど。」
健康診断か。
思い返すと、健康診断というものをやっていなかった気がする。
よくもここまでこれたものだとは思う。
自慢ではないが、病気にかかったことはなく、健康そのものだった。
「君の場合はちょっと特殊だからね、意味があるかどうかはわからないけど、通常の健康診断くらいはできるよ。それじゃあ、こっちに来てくれ。」
そういうと杤井は立ち上がり、奥まで案内する。
そこには視力検査のボードがあり、杤井はその横に立った。
「まずは簡単な視力検査だ。この棒で差したところの向きをこたえてくれ。」
俺は軽くうなずく。
「あと、イギナの力は使わないでくれよ。では、始めよう。」
そういうと杤井は一番大きな○から始める。
「下」
そう答えると次の○を指し示す。
それを延々と繰り返した。
「ほう……。」
「悪いのか?」
「むしろ良すぎるよ。視力が3.0なんて。」
「そうなのか? 意識したことはなかったな。」
「狙撃手だったね。……目が良くて困ることはないだろう。それじゃあ次に行こうか。」
今度はヘッドホンのついた機械を持ってきた。
「聴力検査だ。音が聞こえたらボタンを押してくれ。」
それが終わると、レントゲンを撮り、血液検査に体重測定など行った。
すべてが終わると、杤井はもう終わりと告げた。
「結果はまたあとで送るよ。時間をとらせたね。」
「そうでもないさ。」
「それで、どうだい? なにか変化はあるかい?」
「変化って言ってもな。別段、そういうことはないな。」
「そうか……。なにかあったらすぐに来てくれ。」
「わかった。なにかあったらここに来るよ。」
そういうと俺は杤井に別れを告げ、検査室を出る。
斎藤に如月に杤井に呼ばれ少し疲れた。
そう思い俺はもう一度部屋へと向かう。
扉を開けるとメイアが出迎えた。
「お疲れのようですね。」
「そりゃ入隊二日目だからな。いろいろとやることもあるんだろうさ。」
「それは大変でしたね。もう休まれますか?」
「そうだな。そうさせてもらうよ。」
俺はベッドに飛び込む。
すると途端に眠気が襲ってきた。
その睡魔に負ける前にメイアの笑い声が聞こえた気がした。
なんだよ……笑えるんじゃないか……。
そう思った瞬間に俺は眠りに落ちた。
* * * * *
朝、目が覚めるとメイアから技術部に行くように告げられた。
「どこの部屋にもこういうアンドロイドはいるのか?」
ふと疑問になりそう聞いてみた。
「いえ、怜二様が特別なだけですね。」
「じゃあ、なんで俺だけいるんだ?」
「私は知りません。あなたが最初ここに来た日に如月様から頼んだと仰せつかっただけなので。」
なんだか、すこし引っかかったが、あまり気にしないことにした。
正直、いてくれて大助かりな面もある。
「そうなのか。……まぁ気にするようなことでもないだろうしな。それじゃあ、技術部に行ってくる。」
「いってらっしゃいませ。」
そういうとメイアはぺこりと頭を下げる。
本当にアンドロイドなのかと疑問に思うほど自然な動きだった。
メイアに見送られ、俺は技術部へと向かった。
エレベーターに乗り、地下二階へ。
EXITISの施設内でここに来る回数が一番多いような気がする。
「軍事部の桔梗だが……。」
部屋の中に入り、近くにいた人間にそう声をかける。
「少々お待ちください。」という一言がかえってくると、奥へと行ってしまう。
その場に一人取り残され、しばらく待つと奥から斎藤が顔を出した。
「すまん。待たせちまったな。」
「いや、気にしちゃいないさ。それで、今回は何の用だ?」
「そうだな。現物を見てもらった方がいいだろう。奥にあるからついてきてくれ。」
そういうと、斎藤は奥へと進んでいく。
それについていくと、あの武器がたくさん置いてある場所についた。
どうやらここが斎藤のスペースらしい。
「これだ。」
手渡してきたのは鞘に納まった日本刀だった。
「頼んでいた奴か。」
鞘から刀を抜くと、刀身が黒く、キィィンと甲高い音がした。
「それはソニックブレードっていうのに分類される刀だ。もともとの切れ味に超高速で振動することによって切れ味を増している。面倒なのはバッテリー式でな。刃が入ってるからつけなくても斬れるんだが、バッテリーを定期的に充電しないといけない。」
「その時はまた、ここに持ってこればいいのか?」
「いや、これはコンセントで充電できるタイプだから、部屋にでも置いておくといい。」
「武器はロッカーの中じゃなくていいのか?」
「銃火器はな。それ以外は特に規定はないさ。万が一のために備えてるんだろ。」
つまり、銃などはロッカーにしまい、それ以外は自室で管理ということでいいのか。
まぁ、武器をもってうろうろしていたらそれこそ怪しいから別にそれ以外はどこにおいていても変わらないのかもしれない。
それにここにはイギナがたくさんいる。
変な気を起こしても一瞬でやられるだろう。
由紀でさえ、勝てるかも微妙だと思う。
「さすがに砥いだりするのはこっちでやるから気になったらもってきてくれて構わない。まぁ、滅多にないだろうが。」
「わかった。だが、由紀の刀とは少し違うんだな。」
由紀の刀は虹色に輝いていたはずだ。
それに比べて俺の刀は黒く、虹色には程遠い。
「ああ。由紀の刀は技術部で作ってないからな。」
「どういうことだ? 自分で作ったのか?」
斎藤はすこし、渋めの顔をした。
「あの刀は由紀の叔父の形見になるんだ。流星群の襲来は……」
「知っている。と言っても聞いただけだがな。」
「その時に由紀の両親が死んでしまってな。まだ幼い息子と生まれたばかりの娘は叔父に引き取られたんだ。その叔父っていうのが刀鍛冶だったらしい。その叔父が作った刀がいま由紀が使っている「白光」っていう刀らしい。俺も聞いただけで詳しくは知らないけどな。詳しくは本部長にでも聞いてくれ。」
「そうだな。そうするよ。」
「っと、そうだ。忘れるところだった。」
俺が部屋から出ていこうとしたときに斎藤がなにかを思い出したらしい。
「なんだ?」
「メイアはどんな感じだ?」
「どんな感じ? ……まぁいてくれて助かっているが……。」
「なにか変なところとかはないか?」
なぜか妙に聞いてくる。
いつもはここまで細かくは聞いてこない。
「そうだな……。しいて言うならば、アンドロイドっぽくないところだな。もうあれは人間だよ。それにしても妙に聞いてくるな。」
「メイアには少し思い入れが強くてな。動きや応答がおかしいと思ったらすぐに知らせてくれ。」
「わかったよ。」
どことなく斎藤がメイアの親に見えて仕方なかった。
あそこまで人間に近いアンドロイドだ。
なにか特別な思い入れを持ってもおかしくはないだろう。
「メイアはずっと部屋にいるからな。そこまで心配ならば、時々でいいから会いにいったらどうだ?」
「いや、やめておくよ。」
そういった斎藤の顔はどこか暗かった。
「呼び止めて悪かったな。俺はもう仕事に戻るよ。」
そういうと斎藤は奥に行ってしまった。
変に取り残された俺は気晴らしに外へと向かった。
最近よく外に出ている気がする。
地下にいた時間が長かったせいだろう。
外の空気がどこか心地よかった。
そのままベンチに座り空を眺める。
雲を見ていると、なんだか落ち着く。
地下にいたときは、上を見上げても見えるのはセラミックの天井だった。
いまは上を見上げると、いろいろな景色をみせてくれる。
正直、それがうれしかった。
しばらくそうしていただろうか。
突然、無線機から声が発せられる。
『怜二様、至急作戦室まで来てください。』
その声の主はメイアだった。
「作戦室に?」
『ええ。至急来てください。』
「了解だ。」
俺は急ぎ足で作戦室へと向かった。
* * * * *
「桔梗、席につけ。」
部屋に入るといきなり上官のその一声が発せられた。
俺は一番近くの席に座る。
それを見届けると上官は咳払いをした。
「それでは作戦について説明する。」
上官がそういうと部屋の電気が消える。
すると、上官の後ろに地図が表示された。
「今回の作戦で地下に駐留している統合軍を掃討する。現在の統合軍の状況はこのようになっている。」
赤い点がところどころに現れた。
これがきっと統合軍の主な駐留場所なのだろう。
「今回、我々は部隊を三つに分けて作戦を実行する。まず、地下第一ゲートから進軍する部隊、地下第二ゲートから進軍する部隊。そして、地上につながるゲートから進軍する三つの部隊だ。それぞれ一班、二班、三班とする。」
つづいて、青い点が地図上に現れた。
「まずは一班から説明する。一班は第一ゲートを通過後、地下都市北側から南側へ移動させる。敵を北側へ出させるな。」
その言葉に何人かうなずく。
すでに部隊が決まってるのかもしれない。
俺はどこになるのだろうか。
上官は止まらず話続ける。
「第二班が南方から出撃し、敵を北方へと追い込め。そこから部隊を一線に展開。敵を連絡鉄道まで追い込め。そこから第三班が連絡鉄道から挟み撃ちにする。無力化が目的だ。虐殺はするな。説明は以上だ。なにか質問はあるか?」
手は上がらなかった。
「作戦は一四○○に開始する。それまでに準備をしていくように。それと、桔梗 怜二は前に来い。では解散だ。」
そういうと隊員たちは退席していく。
その流れに逆らうように俺は前へと進んでいく。
前につくとそこには由紀もいた。
俺が上官の前に立つと、上官は話し始めた。
「桔梗には第三班についてもらう。ここが一番作戦時間が少ないからな。初任務にはちょうどいいだろう。……それより、由紀の報告にあった軍のイギナについて聞きたい。」
やっぱりその話だと思った。
「報告では由紀を上回る実力だと聞いているが、実際に戦ったもの、見たものを意見を聞いてみたい。もし彼が出てくるのならば何かしらの対処をしなければならないからな。」
上官の目が真剣なものになる。
何か活路を見出す、そんな覚悟が見えた気がした。
「由紀から頼む。」
「はい。まず、彼がイギナであることは間違いありません。瞳の変色現象をこの目で確認しました。」
「タイプはわかるか?」
「はっきりと申し上げることはできませんが、戦闘タイプだと思われます。しかし、集中タイプ並みの動体視力を持っています。」
「二タイプの特性を持っているということか。……実力はどれくらいだ?」
「はい。私と互角、もしくはそれ以上の実力だと思います。可能性としては私よりも上だと思われます。」
「なるほど。……続いて桔梗。どう思った?」
「あいつがってことですか? ……言葉にしかねますが、強いのは目に見えてわかりました。由紀を相手に遊んでいるような感じでしたし。」
「特徴とかありそうか?」
「そうですね……。しいて言うならば虹色に光る刀を使っていたことですね。今どきの軍人で使っているところは見たことありません。それにボディーアーマーすらつけていませんでしたから、相当の自身があると思います。」
「虹色の刀……モルテ鋼か。」
「モルテ鋼?」
初めて聞く鋼鉄だ。
モルテ鋼とは一体、何なのだろうか。
「モルテ鋼とは流星群に含まれていた鉱石から精製された鋼鉄だ。地球上に存在せず、その流星群でしか入手することができなかった貴重なものだ。その鋼鉄は地球上のどんな金属よりも固く、よく曲がるという矛盾した性質と虹色の独特の光沢を放つ性質を持ち、加工に手間がかかることからあまり使われなかった。聞いたことがなくて当然だろう。」
「あいつの刀はそのモルテ鋼でできているっていうことですか?」
「そういうことになるな。しかし、どうして軍があの刀を……?」
上官は不思議そうだった。
「軍ならモルテ鋼を精製して刀を作ることくらいできるんじゃないのか?」
「いや、このモルテ鋼はすこし特別。」
「特別?」
さっきまで黙っていた由紀がそう言った。
それに続けて上官が説明してくれる。
「このモルテ鋼は放射能を持っている。うかつに近づいただけでも放射線被ばくは免れないだろう。そして厄介なことにその放射能は鉱石自体にあるため、鋼鉄に精製した時に失われる可能性がある。そうならない加工法を知っているのはもうこの世にはいない。」
つまりもう作られることはないということか。
ならば、なおさらやつがその刀を持っている理由がわからなくなる。
「モルテ鋼の刀を持った軍人ならばすぐにわかるだろう。ほかには何かないか?」
「一つだけ。」
「なんだ?」
「俺のことを知っているような素振りでした。」
「会ったことはないのか?」
「ええ。それに俺は孤児ですから家族もいません。」
上官は孤児という言葉に驚いたような顔をする。
俺は流星群が落ちてからすぐに孤児院に届けられたらしい。
流星群によって両親が死んでしまった、とのことらしいが俺にはさしあたって興味がなかった。
物心がついた時にはすでに俺には親がいなかった。
それに孤児院の職員も親身になってくれた。
別段、親がいなくてつらいということはなかった。
「その孤児院であったということもありません。」
「向うは知っているが、こちらは知らないという状況か。……わかった。彼を見かけたらすぐに撤退するよう指示を出そう。」
上官はそういうと、通信機から通信を始めた。
どうやら作戦実行時はここが、オペレータルームになるらしい。
「トウヨウコリアン地区との連絡鉄道の入り口は竹島だ。いますぐに飛行機に乗り向かってもらう。準備をしてきてくれ。」
「了解!」
俺と由紀がそう返事をすると、上官は長官室の中へと入っていった。
「行こう、怜二。」
「ああ。」
俺と由紀は作戦室を出て、準備室へと向かう。
入口にはメイアが刀を持って立っていた。
「怜二様。」
「すまない。」
俺はメイアから刀を受け取ると、準備室の中に入る。
042番のロッカーの中にはライフルが入っていた。
「頼むぞ。」
ライフルに対してそうひと声かけると、そいつを手に取る。
ずっしりとした重みが伝わってきた。
俺はそれを背負うと、腰に刀を差した。
外に出ると、すでに由紀が待っていた。
「飛行場は外だから。」
そういうと、由紀は階段を上っていく。
俺はそれに続いて階段を上る。
外へ出ると、少し離れたところに建物があった。
散歩しているときには気づかなかったが、あそこが飛行場らしい。
そこへまっすぐ進んでいく。
どんどん大きくなっていく建物はどこか工場のような雰囲気が漂っていた。
シャッターの横にある小さな扉を開け、中へ入る。
中では技術部の面々があわただしく、作業をしていた。
斎藤は技術部の面々に指示をとばす。
こうしてみていると、かなり上の役職なんじゃないかと思う。
こちらに気付いたのか、斎藤がこちらに近づいてきた。
「ああ、由紀と桔梗。もうすぐ準備が終わるから少し待っててくれ。」
「それにしてもすごい飛行機だな。」
「ああ。理論上はスペースシャトルにもなる。」
「そいつはすごいな。」
再使用を目的とした計画が昔行われていたぐらいだ。
燃料、エンジンなどの様々な問題をクリアすればできるのだろう。
「運転手は俺とメイアが務める。」
「メイアが?」
正直、驚いた。
メイアがそういうことに参加するようなやつに見えなかったからだ。
「ああ。メイアはすこし特別だからな。今回は連れていく。」
「いつもは参加しているわけじゃないんだな。」
「ああ。」
その返事を聞いて妙に安心した自分がいることに驚いた。
斎藤の後ろに目をやると、整備が終わり始めているのか、落ち着きが出ていた。
少し経った後、作業員が一人、こっちに来た。
「技術部長、整備が終わりました。」
「ああ、ごくろう。発射準備に取り掛かってくれ。」
わかりましたと返事をすると作業員はすぐさま作業に戻っていった。
「それじゃあ、中に入ってくれ。」
俺と由紀は飛行機の方へとすすむ。
ジェット機と呼ばれるタイプの飛行機で両翼にはエンジンがついていた。
移動式の階段を上り、飛行機の中へ。
操縦席にはすでにメイアがいた。
「いつも早いな。」
「そうできるようにしていますから。」
「そうか。……よろしく頼む。」
「了解です。」
俺はそういうと、席に着く。
「よろしく。」
由紀もそういうと俺の隣に座った。
「他には誰か来るのか?」
俺は由紀にそうたずねる。
「いや、第三班はこのメンバーだけ。」
「少なすぎやしないか?」
「大丈夫、第三班の目的は連絡鉄道の封鎖だから。」
由紀は淡々と答える。
「といってもな……。」
「大丈夫、私が守るから。」
「……それは心強い。」
由紀が気遣ってくれているのがわかった。
赤き閃光と呼ばれている少女のやさしさがわかった気がする。
彼女は兵士に向いていない人間なのかもしれない。
「それなら俺は後ろからサポートするよ。後ろは任せろ。」
「お願い。」
約束したからにはちゃんとしないとな。
俺はシートベルトを出しながらそんなことを思っていた。
窓の外では作業員が最終確認をしているところのようで、見える作業員の数は少ない。
全項目チェックし終えたのか作業員はすぐに離れていった。
そのあと、すぐに斎藤が中へ入ってきた。
「それじゃあ出発するぞ。シートベルトはしたな?」
「ああ、大丈夫だ。」
「しっかりつかまっててくれよ。」
そういうと、斎藤は操縦席についた。
ここからではあまり確認できないが、いろいろなスイッチをいじっているようだった。
ゆっくりと開くシャッター。
太陽の光が薄暗い建物中に入り込んできた。
完全に開くと斎藤がゆっくりと操縦桿を動かす。
すると、飛行機は前に進んでいった。
すぐ横からブオンという音がする。
本部がある方と反対、建物の裏側に向かって進んでいく。
そこには滑走路らしき道があった。
「飛ぶぞ。」
斎藤の声が聞こえた。
その直後、強烈なGが体にかかった。
ゆっくり、けれど確実に浮いていく飛行機。
気が付いた時にはすでに空を飛んでいた。
「それじゃあ、竹島まで向かうぞ。」
ゆっくりと竹島方面に進路を変える。
作戦場所にゆっくりと近づいていった。
* * * * *
時は怜二たちが竹島に向かう前。
暗い部屋に浮かぶ数人の人間。
そこにいないのにそこにいるかのような雰囲気を持っていた。
「それで、例の件はどうなっている。」
円形に作られたテーブルのその中心に位置する男が言った。
「抜かりなく。新型オートマトンも開発が終了し、地下都市に配備されています。」
男の右側に座っている男がそう言った。
「地上のEXITISという反政府武装組織はどんな様子だ?」
男は反対側に座る男を見ていった。
その男は40代くらいだろうか、その場にいる誰よりも若く見えた。
「トウヨウニホン地区を拠点として活動しています。先日も地上の部隊に被害が出たとか。」
落ち着いた、しかし淡々とした声でそう話す。
まるで自分には関係ないような話をしているかのような声だった。
「イギナか。厄介な存在よ。」
中心に座った男は吐き捨てるように言った。
「それで、アンドリュー・ブルックリン殿。新型オートマトンの実験なのですが、EXITIS相手にしてみてもいいでしょうか。」
アンドリュー・ブルックリンと呼ばれたテーブルの中心に座る男は「いいだろう」と即答した。
「イギナ相手に有効ならばこれから先、こちらの被害を最小限にすることができるだろう。」
「ありがとうございます。」
「念のためにゼウスの雷を起動しておけ。……そろそろ退場願わねばな。」
アンドリュー・ブルックリンはすこし冗談交じりの笑みを浮かべた。
地下にいる人間のことなど何も考えていないようだった。
* * * * *
「竹島……か。」
断崖絶壁と呼べるほどの崖が立ち並ぶ島。
流星群が来る前はここが日本なのか韓国なのかと問題になったらしいが、いまはもう関係がなくなっていた。
この下には連絡鉄道が走っている。
崖のふもとにある大きな扉。
そこが地下都市へとつながるエレベーターだった。
その目の前に降りる。
着陸できるかどうか微妙な広さだったが、無事に着陸することができた。
小型だったからよかったものの、大きなサイズならば着陸することは不可能だっただろう。
「無事に帰って来いよ。」
斎藤は飛行機の入り口で俺と由紀を見送る。
その隣にはメイアもいた。
俺たちはそれを見ると、エレベーターの方を向く。
「行こう、怜二!」
「ああ、行くぞ!」
ゆっくりと、進んでいく。
扉が開くと、すこしほこりっぽいようなそんなにおいがいした。
エレベーターの中に入る。
飛行機の方を見ると、扉が完全に閉まるまで斎藤とメイアはずっとこちらを見ていた。
ゆっくりと、エレベーターが下がっていく。
地下まで時間がかかる。
すこし気を休めようにも地下から漂う異様な気配がそれを許さない。
由紀も感じ取っているのか、目の色が黒から深紅へと変わる。
目的の場所についたと知らせるベルが鳴ると、扉が開く。
地下には血のにおいが充満していた。