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その中にあるもの

どうもMake Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

ついにEXITISの最終話を迎えることができました。

稚拙な部分が多いですが、最後の最後までおつきあいお願いします。

流星群が襲来して少し経ち、地下都市が機能し始めたころ。

一人、人口の光に照らされ、セラミックの床を歩く少年がいた。

少年は行く当てもなくたださまよっていた。

もう何日も何も食べていない。

地下都市は“戸籍があり”、孤児を除くすべての就業者に対して食料を配給する制度がある。

だが、少年には戸籍がなかった。

ふと、少年の耳にキンという甲高い音が聞こえてきた。

少年はその音がした方へと進んでいった。

音はだんだんと大きくなっていく。

ようやく音の正体にたどり着き、少年は音の正体を目にした。

それは刀の音だった。

虹色に光る刀。

もうだいぶ高齢だろう男が刀を振って鉄板を切り裂いていた。

「……? 誰じゃ?」

「……!」

少年は驚いた。

なぜならその男は振り向かずにそういったからだ。

「子供じゃな。」

男は振り向き、少年の方へと近づいていった。

少年は逃げようとする。

だが、空腹で思うように体が動かないようだった。

「逃げなくてもいいぞ。」

男は優しい口調でそういった。

はたから見ても男に苛立ちや警戒心がないのは明らかだった。

だが、少年にはその口調が信じられなかった。

少年は目の前で、父親を殺されているから。

人間が信じられなくなっていた。

「……。」

男は少年に何もせず、来た方へ戻り、奥の扉の中に入っていった。

少年はほっとした。

だが、少年の体が思うように動かない。

これで終わるのだろうか。

少年はそう思った。

そのまま少年は意識を失った。

次に少年が目を覚ましたのは孤児院のベッドの上だった。

そこで少年は何日ぶりという食事にありついた。

あの後、あの男が少年を孤児院に運んだらしい。

一緒に、日本刀を一振り少年に託した。

それは男が振っていた虹色の光を放つモルテ鋼の刀だった。


 * * * * * 


「見えてきたぞ。あれがゼウスの雷だ……。」

「なんて大きさだ……!」

「この中に怜一がいる。」

「そうだ。だが、どうやって中に入る……。」

そんなことを考えていると、俺たちのちょうど目の前の壁が動いた。

どうやらここから入れということらしい。

「あそこに向かってくれ。」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。あいつが何かしてくるとは思えない。」

「……わかった。」

斎藤はそのポートに向かって宇宙船を動かす。

宇宙船は無事にゼウスの雷に到着した。

「ここからさきは俺一人で行く。」

「待って。」

扉を開けて、外に出ようとしたとき、由紀が俺を呼び止めた。

「どうしたんだ?」

「怜二、帰ってくるよね?」

「……もちろんだ。必ずかえってくるさ。」

「約束だよ、怜二。」

「ああ、約束だ。」

「それじゃあ、これを使って。」

由紀は奥から刀を持ってきた。

それは由紀が使っているモルテ鋼の刀だった。

「いいのか?」

「貸すだけだよ。必ず返してね。」

「わかったよ。それじゃあ遠慮なく。」

俺は刀を受け取る。

「それじゃあ行ってくる。」

「行って来い! 怜二!!」

「あなたのことを待っている人がいるのですから。」

「必ず帰ってきてくださいよ!」

「ああ!」

俺は勢いよく宇宙船から飛び出した。


 * * * * * 


「これは……!」

目の前に広がる血が乾いた跡、無残に切り刻まれた死体。

怜一がやったものだとすぐに分かった。

「もしかして、全員殺したのか……?」

そうしていてもおかしくはない。

念のため、慎重に進んでいくが、やはり、ゼウスの雷には怜一と俺以外いないようだ。

「制御室……。」

俺はその扉に手をかけ、開く。

目の前の大きな椅子に座る男がいた。

「遅かったな。」

「ずいぶんと余裕だな。お前の目的は一体、何だ?」

「言っただろ、コロニーを破壊すると。」

「あいつの復讐を考えているのか?」

「それは怜二がやっただろ。」

「それを知っていて、お前はまだコロニーを破壊するつもりか!」

「人は死について何も感じなくなってきた。それどころか、コロニーにいる人間は地下にいる人間を見下すようになってきた。統合政府ができて、戦争がなくなり、交通事故も起きなくなってきた。死について距離が開きすぎたんだよ。だから俺はコロニーを壊す。人間は死についてもう一度、再認識しなければならない。」

「御託はいい。結局は全人類を殺すつもりなんだろ。」

「さすが、察しがいいな。これも04の宿命なのかな。」

「そんな宿命はごめんだな。」

「つれないな。」

そういうと、怜一はようやく振り返った。

返り血を浴びて、そのままなのだろう。

軍服はどす黒く染まっていた。

「さて、やろうか。」

「ここで終わらせてやる!」

「終わるのはこの世界だ!」

言い終わると同時にキィィィィンと音が響く。

「ぐぅ!」

「っ! やるな、怜二! 前の時とは大違いだ!」

怜一は笑って答える。

「俺だっていつまでもあの時のままじゃないっ!」

剣閃が交差する。

キンという音を何度も何度も響かせる。

「はあっ!」

「はっ!」

パソコンが、机が、モニタが刀に斬られる。

盾になるなど考えていなかった。

むしろ、相手に届くのを邪魔する障害物としか考えていない。

それは怜一も同じだろう。

気が付けば、俺たちを中心として何もない広い場所になっていた。

「やるな、怜二。戦闘タイプの俺と互角とは。」

「本気を出していないくせによく言うぜ。」

「気づいていたのか。」

「時間稼ぎだろう?」

「はははっ! ばれていたか!! でも、決着をつけたかったのは本当だ。」

「コロニーを壊したところで、何も変わらない。いますぐゼウスの雷を止めろ。」

「止めたければ俺を倒せばいいだけだ。簡単な話だろう?」

「だったら、そうさせてもらうまでだ……!」

刀を構え、向かい合う。

制御室に張りつめた空気が漂い始めていた。

目の相手を殺す。

ただそれだけの気持ちが、この部屋には充満していた。

それは純粋で単純な殺意と、大切なものを守るための覚悟がせめぎあっている証拠だった。

「はあっ!」

「はっ!」

どちらも互いに斬りあう。

キンという甲高い音だけが聞こえ、普通の人間には見えないスピードで斬りあっていた。

「っ!」

足払い。

正拳突き。

斬撃。

いくつもの攻撃が繰り出され、防ぎ、また繰り出すという繰り返しだった。

俺と怜一の力は確かに“ほぼ”互角だった。

そのわずかな差がだんだんと大きくなっていく。

「くっ!」

「どうした? 初めの威勢はもうないのか?」

「図に乗るな!!」

俺は横一線に刀を振るが、避けられてしまう。

それどころか、怜一はタイミングを合わせ、俺の腹に蹴りを入れた。

「がっ……!」

「お前の力はその程度か?」

こいつを倒さなければ世界が終わるんだ。

いや、世界じゃない。

由紀が、メイアが、みんなが。

死ぬんだ。

守らないと。

俺の手で……!

「守るんだ……!」

「なにっ!?」

「俺の手で守って見せる!!」

「なんだ、これは……! EXの力がフルで解放されているのか!?」

「行くぞ、怜一!!」

先ほどよりも、深い集中ができている気がする。

ああ、あの時と同じようになっているのか。

だとすれば、俺にも時間はない。

「っ!」

怜一はとっさに防御の構えをとる。

「はあっ!」

刀を振り下ろすと、キィィィンと長く甲高い音が響いた。

「ぐぅっ!」

「このまま、押し切る! 終わりだ、怜一!!」

すばやい連撃を繰り出す。

怜一はそのスピードについてきているようだったが、腕や足にすこしづつ切り傷が増えていく。

「はあっ!」

「がっ!」

怜一の腹に思い切り蹴りを入れる。

怜一がひるんでいる間に俺はもう一発蹴りを入れて、怜一を蹴り飛ばした。

弧を描いて飛んでいく、怜一。

地面にたたきつけられたときには大きな音がした。

「ここまで、やるとは想像していなかったぞ……。」

「守るものができたんだ。ただ殺すだけのお前とは違う。」

「如月 由紀か。」

「朝比奈も、斎藤も、メイアも……俺にとっては大切な仲間だ。」

「他人なんて、すぐに裏切る。そんなものを信じていても得られるものはない。」

「信じなければ得られないものもある。」

「やはり、お前とは考え方が違うみたいだな。」

「お前と同じにはなりたくないな。」

「つれないな。」

怜一が刀を構える。

「……。」

俺も刀を構えた。

これが最後の交差になるかもしれない。

「行くぞ! 怜二!!」

その声でお互いに向かって跳ぶ。

「うぉぉぉぉ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

両者の距離が近づく。

そして、そのままお互いに斬りかかった。

着地。

「っ!」

俺の腕から血が流れる。

「……がはっ!」

そして、その後ろで倒れる怜一。

地面には血の海ができ始めていた。

「俺の勝ちだ……!」

「こんなところで……おわる……わ……」

怜一はガクッと力なく地面に突っ伏せる。

決着がついた。

「こちら、怜二。怜一を倒したぞ。」

『ご無事ですか?』

「ああ。それで……」

その直後。

ゾッとした感覚がした。

振り返り、後ろに跳ぶ。

「っ!」

首元すれすれで刀が振り下ろされていた。

刀は俺の体に当たらなかったが、通信機が破壊されてしまった。

その攻撃者の正体。

それは……

「怜一……!」

橙色の目と髪をした怜一が目の前に立っていた。

「こんなところで終わるわけには行かないんだ……!」

「なにがお前を突き動かす! そこまでして人類を滅ぼす理由はなんだ!!」

「人は自分の愚かさに気づかず、私欲のために人を殺す! そのために父さんは死んだんだ! こんな世界! あったって意味はない!!」

「結局は親父がいない世界が嫌なだけだろう! ガキの癇癪はいい加減にしろ!!」

刀と刀が激しくぶつかりあう。


 * * * * * 


「怜二様! 返事をしてください!!」

メイアさんがいくら呼びかけても通信機からは何も聞こえてこない。

先ほどまで聞こえていた、桔梗 怜一との戦闘の音でさえも、いまは聞こえない。

「通信機が壊されたのでしょうか?」

「だが、怜二は倒したって……。」

「もしかすると、倒しきれていなかったのかもしれないな。」

「……!」

「待てっ!」

「離してください!!」

メイアさんの大きな声を初めて聞いたかもしれない。

「メイア……」

由紀さんはなにかわかったような顔をしていた。

「離すものかよ! 第一、お前が行って何になる!!」

「それでも……!」

「もう、仲間を、家族を……失いたくないんだ……。」

「……!」

その弱々しい言葉にメイアさんもおとなしくなる。

斎藤さんが言った言葉にはどこか重く、心にのしかかるようなそんな言葉だった。

やはり、みんな気にしているのかもしれない。

それにここにいる全員が別れを経験してきた。

それが、目の前で靄がかかった状態であるのならば、不安にならないわけがない。

決めるのはメイアさんだ。

僕が答えを出しても、彼女の答えにはならない。

「斎藤さん、手を放しましょう。」

「だけど……!」

「斎藤さん。」

「っ!」

斎藤さんは手を離した。

だが、その顔は不服でしかなさそうだった。

「メイアさん、行くも行かないも決めるのは貴方です。だけど、これだけは約束をしてください。」

メイアさんが僕を見る。

行かせたくない。

だけど、それを押し付けるのはもっと良くない。

「僕や斎藤さん、それに由紀さんも待っています。だから、必ず帰ってきてくださいよ。」

「……わかりました。」

そういうと、メイアさんは扉を開けた。

「ごめんなさい……お父さん……。」

そういうと、メイアさんは勢いよく飛び出した。

「っ! メイア!!」

斎藤さんが手を伸ばすが、ぎりぎりで届かない。

それからメイアさんが振り返ることはなかった。

「これで、よかったんだ……。」

「朝比奈……。」

「僕じゃあ、メイアさんの心の中に入っていけないんですよ。」

「お前……まさか……。」

「たぶん、そうだと思います。」

気づいていた。

だけど、気づかないふりをしていた。

はたから見ているだけでよかった。

「必ず、帰ってきてくださいよ……二人とも……。」


 * * * * * 


「っ!」

「くっ!」

もう何度の刀が交差しただろうか。

ふたりとも斬られては治癒し、また斬っては……の繰り返しだった。

それでも斬りあいながら言い合いを続ける。

「ゼウスの雷を止めろ! 世界を滅ぼしたところで、親父は帰ってこないんだぞ!!」

「それでも! 父さんを奪ったこの世界はなくていい!!」

「そうやって固執するから!」

「お前に言われる筋合いはない!」

「すこしはっ……人の話を聞けっ!!」

ギィンという大きな音がすると、お互いの体が後ろに引き離される。

「もう一度言う。ゼウスの雷を止めろ、怜一。」

「止めるわけには行かない!」

タンと地面を強く蹴る怜一。

その時、ゴトッと何かが落ちた。

俺は戦慄を覚えた。

“左手が落ちた”のに、そのまま斬りかかってくる怜一の姿に。

「っ! お前……!」

「はあああああああああっ!!」

「がはっ!」

思い切り腹に蹴りを入れられた。

よく見ると、怜一の左足首から下がなくなっている。

そこで俺は理解した。

もう怜一は……。

「せめてこの手で……!」

俺は立ち上がり刀を構える。

そして一歩大きく踏み出そうとした。

「なっ!?」

だが、俺の体は、足は動かなかった。

ガクッと膝から崩れ落ちる。

先ほどの蹴りのダメージではないようだったが、一体、なぜ。

“単純計算で君はあと、1時間30分間あの状態で戦えば赤血球が0になるだろう。”

“もしかしたら君自身がイギナミラウイルスになるのかもしれないし、君の言う通り死ぬのかもしれない。”

栃井の言葉が思い返される。

まさか、タイムリミットが来たのか?

「っ! 動け! こんなところで……!」

どれだけ力を入れても体は動かなかった。

そんなことはお構いなしに怜一はとてつもない量の血を流しながら、目をうつろにしながら、ゆっくりと近づいてくる。

体勢を立て直さないと。

そう思っていても体は動かない。

それどころか、感覚がどんどん薄くなっていっている。

たぶん、髪の色は元に戻っているだろう。

その状態では怜一に勝てるわけがなかった。

「終わりだ、怜二。」

「くそっ……!」

怜一が目の前に立つ。

すこしは体が動くようにはなってきたが、この距離で避けるのは不可能だろう。

「これで、決着だ……」

怜一は刀を振り上げた。

その直後、鮮血が舞った。

「なっ……!」

怜一の血が、俺の体にかかる。

怜一は何も発さず、地面に倒れた。

「ご無事ですか?」

「メイアか!」

メイアの手を借りて立ち上がる。

いつもよりも体が重かった。

「怜一……。」

動かなくなった兄弟の姿を見る。

頭に銃弾を食らった穴があり、そこから血を流していた。

せめて目を閉じてやろうと、怜一の体に触れる。

「なっ!」

怜一の体は触れた部分からなくなっていった。

文字通り“消滅”したのだ。

「どういうことだ?」

俺が触ったことが起点となったのか、怜一の体はそのまま消えてなくなった。

「結局、あいつは……」

被害者だった。

アンドリュー・ブルックリンの、世界の、EXウイルスの被害者だった。

「せめて、安らかに眠れ。」

そういった直後だった。

『ゼウスの雷、80%チャージ完了。』

「くそっ! メイア!!」

「調べてみます!」

メイアは一番上にある怜一が座っていたパソコンを操作する。

「70%を超えると、発射軸の変更、及び発射の緊急停止ができないようになっています!」

「なに!? それじゃあ、ゼウスの雷を止められないのか!?」

「方法は一つだけあります。」

「本当か!?」

「はい。ですが、今は宇宙船に戻りましょう。先に戻っていてください。」

「お前はどうするんだ!?」

「ゼウスの雷のシステムを解析しています。大丈夫です。必ず戻りますから。」

「……わかった。」

俺は重い体に鞭打ちながら宇宙船を目指した。


 * * * * * 


足を引きずりながら、歩く青年の姿をメイアは見送っていた。

本当はシステムの解析をしても無駄だとわかっていた。

なぜなら、このシステムは本来のシステムではないから。

きっと、桔梗 怜一が改造したものだろう。

緊急停止コードがないところで、そう判断することができた。

「……嘘……ですか。」

それはメイアが初めてついた嘘だった。

だが、メイアはその嘘が本当になってほしいとも思っていた。

必ず帰る。

メイアはこの時点で無理だとわかっていた。

だが、そう言うしかなかった。

きっと、彼はおとなしく宇宙船に戻ろうとしなかっただろう。

「……行かないと、本当に間に合わなくなる。」

そういうと、メイアはライフルを持ち、宇宙船とは別の場所へと向かっていった。


 * * * * * 


「怜二!!」

宇宙船のドックにはいると、宇宙船から由紀が飛び出してきた。

そのまま俺に抱き付く。

「すまない。心配をかけたな。」

「うん、いいの。とにかくこっち。」

由紀が離れ、宇宙船の方を指す。

俺は歩こうと一歩踏み出した。

だが、またがくんと崩れ落ちる。

「怜二!!」

「くそっ……またか……」。

「怜二……」

由紀が心配そうな顔で覗き込んでくる。

そして、なにかを決意すると、由紀は俺をおぶった。

「お、おい!」

「大丈夫。」

そのまま由紀は宇宙船へと、戻った。

「怜二さん!」

「桔梗! 無事か!?」

「ああ……。」

「それより、怜二。メイアは?」

「あいつならシステムの解析をしているって言っていた。ゼウスの雷を止める方法があるって……」

「ゼウスの雷を止める方法? ……まさかっ!」

斎藤がそう言った直後、激しい揺れが襲った。

「うわっ!」

「この揺れは一体……!」

『みなさん、大丈夫ですか?』

通信機から声が聞こえる。

「メイア!」

その声の主は先ほどまで一緒にいたメイアだった。

『ゼウスの雷に人工衛星をぶつけています。危険ですので、ゼウスの雷から離脱してください。』

「待て! それじゃあお前はどうなる!!」

『ゼウスの雷を破壊します。……無事な確率は万に一つあればいい方でしょうか。』

「やっぱり、その方法しかないのか……?」

斎藤は悲痛な顔をしていた。

『ゼウスの雷そのものが彼に掌握されていました。もう外部、内部の操作関係なくゼウスの雷は発射されます。』

「……っ!」

斎藤が急いで、操縦席につく。

それを見た朝比奈がその補佐をし始めた。

「おい! メイア!!」

『怜二様、あなたにあえてよかったです。由紀“さん”、怜二様をお願いします。』

「メイア……!」

「待て! まだ終わってないだろ!! おい! メイア!!」

そう呼びかけても、通信機からはなにも返ってこなかった。


 * * * * * 


通信を無理やり遮断すると、メイアは非常階段を上っていく。

扉の電子ロックを解除して進むと、そこは作業員が使う通路だった。

「……。」

そのまままっすぐ駆け出す。

“Danger”と書かれた扉の前に立つ。

この奥はゼウスの雷のエネルギー貯蔵タンクだ。

メイアがふぅっと息をつく。

その様はまさに人間そのものだった。

目をつぶる。

次の目を開けたときには覚悟を決めたようだった。

扉の電子ロックを解除する。

扉を開けるとものすごい音が聞こえてきた。

機関部と、エネルギーのタンクがここは密接につながっている。

つまり、このエネルギーを爆破なりなんなりすればゼウスの雷全体に広がる。

地球に大穴を開けるほどの威力をもつレーザを放つエネルギーを蓄えているタンクだ。

この至近距離で爆破したらどうなるか容易に想像がつく。

『90%チャージ完了』

無機質な声のアナウンスが聞こえる。

メイアはライフルを構えた。

「……さようならです。……私の愛しい人。」

そういうとメイアはトリガーを引いた。


 * * * * * 


「まだか……!」

ゼウスの雷周辺。

メイアが戻ってくる可能性を信じて、俺たちはずっと待っていた。

「……! アラート!?」

突如鳴り響くアラート。

それは警告を示していた。

「っ! 衝撃に備えて!!」

朝比奈が大きな声でそう言った。

その直後、ゼウスの雷から大きな光と共に激しい振動が襲う。

「うわあああああああああああああああ!!」

そのまま白い光に包まれた俺たちは意識を失った。


 * * * * * 


気が付くと、白い光の中にいた。

夢と思うような真っ白だった。

「みんな、無事か!?」

そう問いかけても返答はない。

あたりを見回す。

ある一点。

白い世界の中で白じゃないものがそこにいた。

「メイア!」

俺はメイアのもとに進もうとする。

だが、足が思うように動かない。

「っ! メイア!」

そう問いかけてもメイアはただ微笑んでいるだけだった。

こちらに近づいて来ようともしなかった。

どれだけメイアの方へ進もうとしても、全く進まない。

もどかしさが募っていく。

「メイア!」

何度、問いかけただろう。

ようやくメイアが反応を示した。

『大丈夫。みんな無事。』

「お前は……! お前はどうなったんだ……!」

『すみません……』

メイアは申し訳なさそうな顔をした。

『もう時間みたいです。』

「待て! 行くな!!」

だけど、メイアは振りむき歩いていく。

どれだけ手を伸ばしても、どれだけ進もうとあがいてもメイアに近づくことができなかった。

「メイア! お前とまだ一緒にやりたいことも、由紀と朝比奈と一緒に出掛けたりもしていないだろ! メイア!!」

その問いかけにメイアは足を止めた。

そしてこちらに振り返る。

『一緒にいけなくて、ごめんなさい。私もあなたと一緒にいたかった。』

「メイア!」

『ごめんなさい。そして、ありがとう。』

メイアの目から涙がこぼれる。

『愛しています、怜二さん。』

「メイア!!」

世界がかすむ。

おれはこの時のメイアの顔を忘れることはないだろう。


 * * * * * 


「い……いじ……怜二!」

「はっ!」

「やっと、気が付いた……。大丈夫?」

「ああ……」

「でも、怜二泣いてるよ。」

由紀は俺の手を握る。

その時、俺は夢を思い出した。

「……っ! くっ! 俺は……!!」

「……」

由紀が俺を抱きしめる。

今はそれに甘えていたかった。

「それで、今どこなんだ?」

落ち着いたあと、そうたずねた。

「ここはコロニーのドックです。」

「コロニー?」

「ああ。俺たちが気を失っている間に、誰かがコロニーまで宇宙船を操縦したんだ。」

「……メイアか……。」

「ああ、たぶん。そうだろうな。」

「すまない。俺がもっとはやく決着をつけていれば……」

「仕方がないさ。それにあいつが選んだことだ。俺はなにも言えない。」

「……すまない。」

「だから、謝るなって。」

「そういえば、怜二さん。体の具合は大丈夫ですか?」

「わからないな。今は何ともないみたいだが……」

「そうですか。念のため、検査はしておいた方がいいでしょう。」

そのあと、朝比奈に連れられコロニーの病院に行った。

地球のイギナのカルテもあるらしく、俺は普通に検査を受けることができた。

血液検査の結果は衝撃だった。

「マテリアがなくなっている?」

「ああ、ほかにも視力や筋力、その他もろもろの体の機能が常人と一緒といっても過言ではないだろう。」

「イギナの力がなくなった……?」

「そういうことになるね。」

一体、どういうことなのだろう。

栃井の話では赤血球がマテリアに変換されているという話だったが、今は正常な人間そのものらしい。

これもEXウイルスの不思議な部分なのか。

そんなことを考えながら、外に出る。

病院の外で全員が待っていた

「どうでした?」

「ああ、それが……」

俺は事の顛末を話す。

全員が耳を疑うような顔をしていた。

「それじゃあ、イギナじゃなくなったってこと?」

「そういうことになるな。」

「いいのか、わるいのか、微妙だな。」

「まぁ、こうして無事に生きているんだ。良しとしよう。」

「……そうだな。」

「それで、これからどうするんですか?」

「地球にもどるさ。ここは俺たちが住むような場所じゃない。」

「……そうですか。寂しくなりますね。」

「連絡は取れるんだ。また、会う機会くらいできるさ。」

「今度は地球で会いましょう。」

「ああ。」

そして、俺たちは変えるべき場所へと帰っていった。


地球に帰った斎藤は、地下都市の環境改善を実行していった。

イギナミラウイルスがインフルエンザウイルスをベースにしていることもあり、湿度を調節し、一定に保つ機械を開発した。

長い時間をかければイギナミラ症候群は撲滅できるだろう。

朝比奈はコロニー評議会の臨時本部の代表に就任し、忙しい日々を送っているらしい。もともと、日本支部の秘書兼大学講師だったこともあり、いろいろとプライベートな時間を割くことができなくて嘆いているとも聞いた。

俺と、由紀はどうしているかというと……。


「ここが旧・ヨーロッパ領か。」

「レンガ造りの町並み……きれいだね。」

地球に帰ったあと、俺たちは旅に出た。

栃井曰く、イギナミラ症候群と放射線への耐性は残っているらしく、力が常人というなんとも微妙な状態ではあるが、こうして由紀と旅に出られてよかったと思う。

俺は手帳を取り出す。

そこには一枚の写真が入っていた。


 * * * * * 


「行く前に写真を撮りましょう。」

「記念写真か? そういうのは終わってからじゃないのか?」

「終わってからだと、とる時間がなさそうなので。」

「いいじゃないか。」

「じゃあ、行きますよ~」

朝比奈がボタンを押し、走ってこちらに来る。

朝比奈が位置について、ポーズをとった直後、パシャッと写真が一枚とられた。


 * * * * * 


「その写真、また見てるんだ。」

「ああ。大切な仲間たちだからな。」

そこには斎藤、朝比奈、メイア、俺、由紀が写っていた。

その写真の中には確かに笑顔が写っていた。

「みんな元気かな。」

「今度会いに行こう。朝比奈が地球に来るらしい。」

「本当に!?」

「ああ。」

「それじゃあ、早く行こう! 怜二!!」

「引っ張るなって。」

由紀に手を引っ張られ、俺はバランスを崩しながらもそれについていく。

その少女の横顔には満面の笑みが浮かんでいた。

こうして平和な日々が流れていくだろう。

その日々の中にあるものをこれから大切にしていこうと思う。

他の何物にも変えられないこの大切な日々を、そして、いままで過ごしてきた日々の思い出を胸に、今日も俺達は歩いていく。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

再度紹介となりますが、Make Only Innocent Fantasy代表の三条 海斗です。

このお話は僕が好きなように書いたお話です。

ものすごく楽しく書かせていただきました。

さて、それではここまで読んでくださっている皆さんに一つ種明かしを。

といってもすでに気づかれている方、多いんじゃないでしょうか。

EXITISというのは”存在するもの”という意味のEXISTをもじったものです。

ここで思い出していただきたいのはサブタイトル。

「EX、それは……」と「出口は……。」

この二つ、英語にすると"Ex it is"と"Exit is"になりましてそのままEXITISになるようになっています。

つまり、タイトルの中には二つの意味があるということです。

それが~その中にあるもの~ということです。

名前にはちゃんと意味があります。

それが04チャイルドのやつであったりもします。

ちなみに如月 由紀はアイドルマスターの如月 千早とAKB48の柏木 由紀さんをくっつけただけです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

また、こうして読んでいただけたら嬉しいです。

それではこの辺で。

Make Only Innocent Fantasyでした!

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